おにぎりの具
夢の中で気がつくと、予定どおりローラースケートを履いていて、1mくらいずつだけど、移動できるようになった。
「練習の成果だわ!」
今日の情景は、間に合わない人らしい。
まずは寝坊から始まり、マンションのエレベーターは目前で閉まり、次のエレベーターはなかなか来ず、階段で下り、バスに乗り遅れ、電車に乗り遅れ、始業に間に合わずに怒られる。そんな繰り返しだった。
私はローラースケートでスイスイだ。1mずつだけど。間に合わない人は気の毒だけど、私はあの幼児を探すべく、キョロキョロウロウロしていた。
白い鳥のような小型の乗り物に乗って、いつもの幼児が現れた。
「なんでおまるに乗っているの?」
「おまるってなんだよ!」
なんだか話が噛み合わない。
「その白鳥のような乗り物は、なあに?」
「スワン君だよ!」
なんだか怒らせてしまったみたいで、そのまま行ってしまい、世界が暗転した。
目が覚めた私は、速攻ネットでおまるを検索してみた。私の中にあったおまる像は、もはや昭和の幻影で、今時はもっとおしゃれなデザインだったり、かわいいキャラクターだったりで、白鳥型の物は存在していないようだった。私ってば、お下がりのお下がりのお下がりを使っていたのかしら?
「おはよう夢ちゃん。休みなのに、もう起きてるの?」
「蘭さん、おはよう。夢の中で叱られちゃったから、ちょっと調べものをね」
夫の蘭が妻のスマートフォンを覗くと、おまる画像を検索した一覧が表示されていた。夢で何が起こると、朝起きて一番に、おまるを検索するのだろう? 蘭は聞くに聞けないのだった。
「夢ちゃん、ローラースケートは乗れたのかい?」
「1mくらいずつだけど、移動できるようになったわ」
「そうなんだ。良かったね」
「うん!」
今日は夫がお休みなので、ゆっくり起きてブランチを食べ、午後からアイススケートに行く予定だ。でも2人とも早く起きてしまったので、軽めの朝食を取ることになった。
10時過ぎ、インターフォンが鳴って宅配便が届いたので外に出ると、ザルいっぱいの大葉を持って、配達員の後ろに義母が立っていた。
先に荷物を受けとり、配達員にお礼を言ったあと、義母に声をかける。
「お義母さん、どうされたんですか?」
「家庭菜園をしているお友達から貰ったんだけど、夢ちゃん、紫蘇使わない?」
「あ、え、こんなにたくさん、何に使えば良いですか?」
売っている紫蘇の葉10枚入りでも、薬味に使って残るのに、何に使えば良いのかなぁ?
「薄切り肉に細目のチーズと一緒に巻くとか、春巻の皮にチーズと一緒に巻いて揚げるとか、大葉ドレッシングを作るとか、味噌巻きを作るとか、紫蘇味噌を作るとか、色々有るわよ?」
何と魅惑的なメニューの数々。
「紫蘇味噌って何ですか?」
「あれ? 食べたこと無いの? 蕗の薹で作る蕗味噌は判る?」
「はい」
「それの紫蘇版よ。蕗より苦味がないから子供でも食べやすいのよ。おにぎりの具にしても良いのよ」
「おにぎりの具!! ちょうど、お握りのバラエティーを増やしたかったんです!」
義母も突っ込まないが、恐らくバリエーションのことだと思われる。
「あら、おにぎりの具なら、新生姜の佃煮と、葉唐辛子の佃煮を後で分けてあげるわ」
「ありがとうございます!」
「おでかけから帰ってきたら、紫蘇味噌の作り方教えるわよ」
「お願いします!」
義母は、そのまま紫蘇を持ち帰った。
「夢ちゃん、母さんと何か作るの?」
「紫蘇味噌というのを教えて貰う約束をしたの」
「紫蘇味噌かぁ。あれ旨いよな」
「あと、新生姜の佃煮と、葉唐辛子の佃煮もくださるって」
「へえ。そんな季節かあ。毎年大量に作って、配っていたなぁ」
学生の頃を思い出したらしい。
「新生姜の佃煮って、生姜味?」
名前からすると辛そうだなぁって思ったのだ。
「夢ちゃんが想像しているより、甘くて美味しいよ」
生姜糖みたいな感じなのかな?と理解した。
「それは楽しみだわ」
おでかけから帰ってきてからする予定だった家事を二人で片付け、外でランチをするつもりで、早めに家を出た。
外に出ると、義父母が庭で何かしているのが見えた。
「お義母さん、お義父さん、行ってきます」
「親父、お袋、出掛けてくるよ」
「あら、楽しんできてね」
「おう。行ってらっしゃい」
少し歩いてバス停に向かった。
「お二人、何をなさっていたのかなぁ」
「大きなザルが見えたから、梅干しでも干すんじゃないか?」
「あ!去年漬けたという真っ赤な梅干しを、年末に分けていただいて、お正月のお菓子に加工したのよ! 梅干しって今ごろ干すのね」
今は7月の中旬だ。
「ああ、梅求肥か。あれ美味しかったね。何か作って配りまくるのは、お袋の趣味みたいなもんだから、梅干しも毎年大量に作ってるよ」
「来年は、私も教えて貰いたいな」
「聞けば喜ぶんじゃないか?」
「そうなの? ご迷惑にならない?」
「妹は作り方には興味ないみたいでさ、お袋は教えたがってたからね。むしろ喜ぶと思うよ」
「わあ。帰ったら伺ってみよう」
考えれば分かることだが、アイススケート場はとても寒かった。夏の服のままでは長居できず、1時間もしないうちに帰るのだった。
梅求肥
白玉粉 150g
砂糖 300g
水 200ml~
水あめ 20g
梅ペースト 20~30g
片栗粉 適量
作り方
鍋に白玉粉と水をいれ溶かします。
梅干しを裏ごして、梅ペーストを作ります。
容器に網で、片栗粉を均一に振り入れます。
鍋の白玉粉がしっかり溶けたのを確認し、上白糖を加え良く混ぜます。
鍋を火にかけ、ヘラで混ぜながら加熱します。
心配なときは一旦火から下ろし良く混ぜ、透明感が出るまで練り混ぜます。
かなり力が要ります。
透明感が出たら梅ペーストを加え良く混ぜ、片栗粉を振り入れた型に流し入れます。
上側に片栗粉を振りかけ、4時間以上冷やし、サイドに切り込みを入れ切り離し、切り分けたら、余分な粉を刷毛で払いできあがりです。