転生コーディネーター
※話だけですが性犯罪注意。
※「ざまあ」は臭わせだけ。
いらっしゃいませ、どうぞお掛けください。
わたくし、転生コーディネーターの小野と申します。よろしくお願いいたします。
こちらにいらしたということは、ご自分の状況を理解されているということでよろしいですね。
はい、あなたはお亡くなりになりました。まだお若いのにお気の毒なことです。
改めて説明しますと、ここは、死後の世界を管理する役所のようなものです。昔なら「閻魔の庁」なんて呼ばれていたところですね。
まあ、実際には、閻魔様の裁きを受けて、悪人だと地獄に落とされる、なんてことはありません。「地獄」も実在しませんしね。
で、なぜ今回お呼びしたかと申しますと、「異世界転生」をなさいませんか、という提案のためです。
ご承知の通り、亡くなった方の魂は、新しい身体に入って輪廻転生いたします。わたくしも本来の仕事は、そちらの采配をすることなのですが、昨今、ちょっとまずい事態が起こっているのです。
輪廻転生というのものは、本来、次に生まれる国や生き物を問わないものなんですが、日本の方は同じ日本人に生まれたいと希望する方が多いんです。
ところが、ご存じの通り、少子高齢化とやらで、こちらに来る魂の数に比べて生まれる赤ん坊の数が少なくて、転生までに順番待ちの時間がかなり掛かってしまっています。
人口が増加している――途上国と呼ばれる国の人間や、人間以外の生き物に生まれ変わるのなら待ち時間は短くて済むのですが……、あ、やはり気が進みませんか。
そこで、神と言いますか、死後の世界を管理する存在が目を付けたのが「異世界転生」です。
死後の世界に付属する形で「異世界」を創造し、順番が来るまでの間、そちらで暇つぶしの人生を送ってもらう、ということにしたのです。
で、あなた様もいかがでしょう、というのが、今回のお話の内容です。
――――――――――――――――――――――――――
では、転生先の世界についてご説明します。
ご用意している世界は、中世だか近世だかのヨーロッパ風の、いわゆる剣と魔法の世界です。他の種類の世界も予定はあるのですが、創るにはそれなりにリソースが必要ですのでまだ出来ておりません。
生き物は、魔物を除けば地球と同じです。魔物はドラゴンとかゴブリンとか、いわゆる西洋ファンタジーものに出てくるものですね。
気温などの気象条件は、特にリクエストがなければ、日本の太平洋側に近いものです。
次に、転生先となる人間についてご説明します。
赤ん坊からスタートするのではなく、ある一定の年齢から始めることになります。赤ん坊からだと社会に出るまでに時間が掛かりすぎますからね。初期設定では15歳、あちらの世界で一人前とみなされる年齢となります。
転生者は、あちらの世界に創った身体に魂が入り込む形になります。元からいた人間の魂を追い出すようなことにはなりませんのでご安心ください。突然、その世界に出現する形ですね。
ですが、周りの人には今までその人がいた、という記憶が植え付けられます。また転生者本人には、それまでの"人生"の記憶が入力されます。それにより、その世界の、言語を含めた常識が備わることになります。ただし、その知識には年齢や身分・地位により限界があります。たとえば、通常の平民なら宮中での作法を知るはずがありませんし、奴隷だと文字の読み書きもできない、といったことですね。
転生者ではないあちらの世界の住民は、擬似的な魂を持った存在ですが、生前のあなた様と同じように、笑ったり泣いたり怒ったり、感情を持ち、人生を送っている人達であることにご留意ください。
能力の設定については、ポイントを割り振る形だと思ってください。
システムを簡略化して説明しますと、たとえば、素早さとか器用さとか10の要素があって、標準が10ポイントだとすると、設定の際、100ポイントをそれぞれの要素に割り振ります。仮にある要素に12ポイントを割り振って能力を高くしたいのなら、他の要素1つを8ポイントにするか、2つの要素を9ポイントにして、能力を低くしなければなりません。
ただし、転生者には、ボーナスがついて、使えるポイントが多くなります。
もちろん、実際はこんなに簡単ではありません。
要素には、能力だけではなく、身分や外見といったものも含まれますので10では済みません。また、必要とされるポイント数も要素により異なります。しかし、良いものを得たい――能力を高くしたり王族になりたいというのなら多くのポイントが必要だし、逆に、能力を低くしたり、10歳から、あるいは奴隷からのスタートだとか、顔に大きな傷がある、などというハンディをつければ他に回せるポイントが増える、という点は先に説明したとおりです。
この辺はややこしいので、コーディネーターたるわたくしが、ご要望に応じて適切な設定をしてまいります。
――――――――――――――――――――――――――
では、設定を開始しましょう。
まず、どのような能力・要素を重視なさいますか? ――外見を魅力的なものにしたい? それは「モテたい」ということでしょうか。いえいえ、悪いことではございません。ご自分のお好きな人生を生きて頂ければ良いのですから。
でしたら……そうですね、モテる人は同性からの嫉妬も買いやすいですから、同性にも異性にも好感を持たれる外見にしておきましょう。
ああ、美醜の感覚は現代日本と同じだと思ってください。身体の構造もこちらと同じです。性的な倫理観は……身分が高い人はそれなりに堅いですが、庶民はそうでもありません。公的に認められた娼館もありますし――ごほん。
では、どのような職業や暮らし方をお望みでしょうか。
生活に追われるのではなく、あくせくしなくともそれなりに暮らせることですか。
そうなると、裕福な商人かそれなりに豊かな下級貴族、というところでしょうか。上級貴族だと国政のあれこれや派閥がどうしたこうしたということに関わらなければなりませんし――。
――――――――――――――――――――――――――
では、まとめましょう。
15歳の、そこそこ裕福な商人の子。同性にも異性にも好感を持たれる外見。
身体的な能力は標準的なもの。魔力も標準。使える魔法は生活魔法と、2メートル立方程度の収納魔法。
父親が亡くなって、商会は兄が継ぎ、自分はそれなりの遺産をもらって他の街で商売をすることにした。
現在は、一人、馬車で移動中。
あちらへ行った時点では、目的の街まであと2日程度で着く野宿ポイントで目覚める、と。
間違いございませんね。
では、行ってらっしゃい。
――――――――――――――――――――――――――
これは遠間様、わざわざのお運び恐れ入ります。
ええ、いま、あの者を送り出したところです。様子を見てみましょうか。
目が覚めたようですね。……自分の体を確認しているようだ。……おや、私にむかって罵りだしましたね。
何を怒っているんでしょう。せっかく「同性にも異性にも好感を持たれる」美少女になったというのに……。
まあ、なにやら思惑違いがあったんでしょう。
え、あの地域ですか?
最近、タチの悪い盗賊団が跋扈していまして、男は皆殺し、若い女は……言うまでもありませんね。
ええ、あの者は、生前、20人以上の女性を毒牙に掛けた常習レイプ犯です。隙を見て逃げ出した被害者を追い掛けて車に跳ねられたという……。気の毒ですね、その運転手は。
おっと、早くも盗賊団の斥候が近づいているようですねえ。
(ここに「地獄」という場所はありません。だけど、その世界はあなたにとっては……)
ネットにあった「異世界転生は、現代版死後の世界なのでは」という投稿が元ネタです。
ちなみに小野さんは、1000年以上前の京都の人らしい。