第14話 断罪の舞台②
「おい、こんなやり方に何の意味がある! カトレア、おまえも同罪だ……!」
「俺たちをここまで追い込んだのは公爵家も同じだろう!」
どこからか怒りの声が飛び、民衆の意識がレオネルからカトレアにも向けられた。台の下に集まっていた暴徒の一部が、「王族も公爵家もすべて滅びればいい」と叫びながら、彼女のもとへ殺到する。短い剣や棍棒を持ち、血走った瞳でカトレアを睨む者もいる。制御不能な殺意と破壊欲が、ついにカトレア自身をのみ込もうと迫り始めたのだ。
「ちっ……下がれ、カトレア様に手を出すな!」
彼女を守るための私兵が慌てて武器を構え、防衛線を張ろうとするが、すでに火のついた暴徒は簡単には止まらない。あちこちで鍔迫り合いが始まり、悲鳴と衝突音が再びこだまする。カトレアの私兵も手強いが、暴徒の数は多い。広場全体を巻き込んだ乱闘となり、血と罵声が渦を巻く。ただでさえ地獄のような状況が、さらに加速するかのようだ。
「カトレア、おまえも許さん……! この国を滅茶苦茶にしやがって……!」
「殿下を罰するなら、おまえら公爵家も同罪だろうが……!」
そうした怒声が四方八方から噴き出す。カトレアは台の上に立ったまま、それらの罵声を聞きながら小さく息をつき、やがて軽く肩を揺らして笑い始めた。
「いいわ。これが私の望む破滅。あの愚かな王子だけを糾弾するのも退屈だったけれど、皆揃って地獄へ堕ちるというなら、さらに素晴らしいじゃないの」
言葉に呼応するように、彼女の私兵が激昂し、さらに多くの人間が流れ込んできて、制御不能の大乱戦へ発展していく。殴り合い、刺し合い、倒れ込む死体に足を引っ掛ける者、狂喜に叫ぶ者。台の下には既に多くの死傷者が溢れ、血の溜まりの中を逃げ場なく踏み分ける形になっていた。
レオネルは混乱の渦中で台から放り出され、激しく地面に叩きつけられる。痛みも何も感じず、ただぼんやりと視線を彷徨わせるだけだ。もはや自分が生きているかどうかも曖昧だ。どこかで聞こえる命乞いや絶叫が霞んで聞こえ、意識は半ば失われかけている。
そんな彼の上をまた別の暴徒が踏みつけていくが、レオネルは抵抗をしようとすらしない。呼吸が途切れそうになりながら、かすれた声で誰の名とも知れない呼び掛けを繰り返すだけである。
やがて、混沌の中心でカトレアの姿が人々の視界に入る。彼女は民衆と私兵の衝突のあいだをすり抜け、まるで惨劇の女王のように笑いながら叫んだ。
「これでいいのよ。すべて壊れてしまえば……!」
狂気に満ちた声が、もはや怒声や悲鳴にかき消されることなく、確かな響きを伴って夜空へと消えていく。彼女の瞳はすべてを破壊し、焼き尽くす快楽に浸り、制御不能の暴徒化がさらなる炎を注ぐ。誰もが憎悪と恐怖に満たされ、剣を振り、火を放ち、命を摘んでいく。そこに理性の欠片など見当たらない。
こうして、レオネルをスケープゴートとして掲げたはずの断罪劇は、あっという間にカトレア自身のもとへと刃を向け始めた。すべてを糾弾し、すべてを壊そうとする人々の狂乱の標的は、王族だけでなく公爵家さえも例外とはしない。その暴力は歯止めを失って、その場にいる者すべてをのみ込むかのように荒れ狂う。
血と炎が交錯する夜の空気を裂くように、カトレアの笑い声がこだまする。破滅を望み、破滅を招き、それでもなお不満足なようにさらに先を願う。彼女が見つめる先には、一面の暴徒と絶命の山。レオネルはその群衆に押し潰されそうになりながら、瞳を閉ざして息も浅くなっている。
王子も、公爵家も、民衆も、すべてを飲み込む地獄の一夜がまだ終わらないまま、街のあちこちで火の柱が増え続ける。深い闇を背景に、カトレアはなおも笑いをやめようとせず、絶頂のように声を震わせながら、最後まで破滅への道を指し示す。
「ああ、なんて素晴らしいの……すべてが焼け落ちるこの瞬間こそが、私の胸を満たしてくれるわ……」
その狂笑はまるで死神の呼び声のように響き渡り、さらなる惨劇へと引き寄せていく。もう誰も止められない。地獄の扉は開き放たれ、怒りと悲しみが燃料となって、街は赤黒く彩られる。人々の運命は血にまみれ、カトレアの狂気が最後のブレーキを踏み砕いたまま暴走を続ける――まさに完全な破滅が目前に迫っているのだ。