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009.ベヒモウスの住処

 グレイの部屋から戻り、魔術の練習をして、晩飯を済ませて、部屋に戻る。

 その間、頭の片隅にずっとヤツの名前がチラついていた。


「ここで来るかぁ……ベヒモウス」


 なんかオッサンの依頼が、個人的な敵討ちと繋がってしまったな。

 

 やる気は、まぁ増したな。

 ただ、出来たらもっとビジネスライクにあたりたかったという思いもある。


 でないと、いざという時の引き際を見誤りそうで。

 まだ大丈夫だが、こういうのが続くと……最後の最後に、命より敵討ちを優先してしまいそうで。


 俺には9年後に澪を迎えに行く使命がある。

 大切な妹で、前世の唯一残った肉親だ。

 言ってしまえば俺が異世界にいるのも全て澪の為でもある。


 だが、ルイ・ノブル・ダハーカとしての記憶もしっかりあるし、これも今となっては俺そのものだ。

 つまり、ローザンヌと暮らした記憶も俺そのものの記憶であり、もう1人の母親なのだ。


 その母上が亡くなった間接的要因となると……まぁ控えめに言ってもこの手で八つ裂きにして葬りたい。


 あーくそ、これもオッサンの意図じゃないだろうな。

 だとしたらとんだ腹黒超越者だよ、くそったれ。


「……まぁいい」


 どうせ討伐する事には変わりないんだ。

 割り切ってやる気の燃料が増えたと捉えよう。でないと苛立ちでどうにかなりそうだ。


 こうなったらさっさと家を出る計画を立てて、鍛えながらベヒモウスのいる場所を探さないとな。


「……いや、その前に」


 ローズマリーの事はどうにかしないといけないか。

 

 あの遠慮がちな態度からして、ローズマリーは事実を知ってる。またはそれに近い情報を持ってるんだろう。

 そしてリーリエのことを解決せずに俺が家を出れば、残ったローズマリーに集中する事になる。

 それに、フラムリリーとローズマリーもたまに微妙な距離感を感じるんだよなぁ。


 下手をすると、最後にはローズマリーの孤立してしまう。


 それはあまりに酷だ。

 血が繋がらなくとも妹だ。

 そんな彼女に全てを押し付けて出ていく訳にはいかない。


「……いっそ俺に怒りを集中させるか?」


 うん、アリだ。

 それが手っ取り早く、確実だと思う。

 腹割って理路整然と諭したところで、この件の出所は感情面に由来している。

 感情の話を理性的に話したところで効果は薄い。


 であれば、むしろ感情を強く煽り、それを誘導して俺のみに向けた方が上手くいくはずだ。

 ついでに家を出る理由にしてしまえば尚よし。


「うん、これでいこう」


 あとはその方法だ。

 ローズマリーに向ける怒りを剥がして、俺へと向ける方法。

 ……こういう感情面の話なんかは澪の方が得意なんだけどなぁ。くそ、会いたいなぁ。


 




 その翌月の10歳の誕生日。

 お披露目もかねて王都にあるダハーカ家のタウンハウスへ向かい、同じ派閥を中心に多くの貴族家が参加してくれた。

 

 いや派閥とかあったんすね。興味なさすぎて気にした事もなかったです。

 聞いたところ、大まかに分けて過激派と保守派の二派閥。

 過激派は人類生存圏を積極的に増やしたい好戦的な派閥で、保守派は現在の人類生存圏の防衛に力を割いて被害を減らしたい防衛的な派閥。

 ちなみにダハーカ家は保守派であり、この会にも集まってる貴族も大半がそうだ。


 ではその人類生存圏って何?と聞いたら酷く呆れられた。だって知らないんだもん。


 この世界は魔物が多く、人より強い。

 特に伝説の魔王とやらが出てきたらその傾向が増すらしい。


 そして現在。

 大陸の半分以上は、魔物が跋扈する非人類生存圏なのだという。


 ちなみにだが。

 その中でも特に強力な魔物が生息しており、いくつかある魔境とも称されるの場所のひとつが『黒の森』と呼ばれている。

 そしてその『黒の森』からそう遠くない領地がロットランド伯爵領だ。


 これは少し気になる。


 ベヒモウスが出現したロットランド伯爵領。

 その近くにある魔境『黒の森』。

 となれば、そこにベヒモウスがいる可能性もあるんじゃないか?


 どうせ手探りの旅になるだろうし、仮説であれ目的地があった方がいい。

 という訳で、家を出た後の行き先は決まった。


 そんな調べ物をしている内に、今日の誕生日を迎えたという訳だ。


「この度はおめでとうございます、ルイ殿」


「ありがとうございます」


 この会話を何度も繰り返しながら、営業スマイルを気合いで維持する。

 昔の俺ならとっくにひきつった笑顔になるか、真顔にでもなっていただろう。

 だがしかァし!身体強化を手に入れた俺ならば余裕よ!表情筋を強化してるからな!


「ダハーカ侯爵子息、おめでとうございますわ」


「ありがとうございます」


 時には他家の令嬢にも声をかけられるが、にこやかに笑って返す。

 出ていくとはいえ家の評判を安易に下げるつもりもないしね。最低限の事はこなすとも。


「誕生日おめでとう、ルイ君。なんだか体つきが変わったな」


「ありがとうございます、ブルーリッジ閣下。最近木刀振り回してるからですかね」


「がっはっは!それは良い心掛けだ!」


 そんな中で俺が話してみたかった人物がこの豪快なおっさん、ブライアン・ノブル・ブルーリッジ侯爵だ。

 軍閥の幹部であり、戦場に立って時に先陣を切り、時に的確な指示で軍を操る王国の武の象徴。

 彼はリンデガルド王国騎士団長である。


 もう見るからに強そう。ゴツいしデカい。

 首とかさっき挨拶した令嬢の腰くらいあるんじゃないか?普通せめて比較対象は腕周りだろうに首て。

 そんな彼は、国内での対犯罪に動く事もあれば、時に魔物との戦いに国境まで赴く事もある。


 だから、黒の森の話を聞けるのではないかと思った訳だ。


「ところで閣下。興味本意の質問で恐縮なのですが、かの魔境である黒の森にも出向かれた事があるのですか?」


「んん?あぁ、あるぞ。二度と行きたくないがな」


「か、閣下をもってしてもですか……?」


「あぁ、あそこは単純な戦闘能力だけじゃ生きていけん。気配察知や気配遮断、魔物や有害植物への知識……早い話が、優れたサバイバル能力も必要になる」


 聞いていくと、流石は魔境なんて呼ばれるだけはあった。

 立ち止まっていると気付けば足元を覆い、逃げようにも絡みついて拘束してくる植物。

 水場には水中だと見えない透けてる体の食人魚である魔物が潜み、地中を音もなく掘り進んで真下から大口を開けて飛び出してくるワームの魔物、空にはなんと最強種ドラゴンが飛んでる事もあるとか。

 そして当然、生息してる魔物の強さも桁違いらしい。


「よく無事に帰ってこれましたね……」


「がっはっは!まぁ間引き目的での進軍だったからな!深追いせねば我らが騎士団でもどうにかなるわい。けど、一度だけ死を覚悟したな」


「えっ、そんなヤバい魔物も住んでるんですか?」


「というよりアレは恐らく、『古代獣王』だろうな。姿を見る前に即撤退したが、ロットランドでの戦いの時に感じた威圧感とそっくりだったわ」


 来た!そう、これが聞きたかった。

 しかしビンゴだな。やっぱ黒の森にいる可能性が高そうだぞ。


「ロットランド……」


「あぁ……その」


 しまった、という顔をする厳ついおっさんに、俺は首を振ってみせる、

 

「いえ、大丈夫です、いつまでも後ろを向いていては母上に叱られそうなので」


「そ、そうか。その、すまぬ。だがローザンヌ殿は素晴らしく、尊敬できる魔術師だった」


「え、そうなんですか?」


 なんか記憶だとおっとりしてたイメージが強すぎて、あまり戦う人というイメージがないんだけどな。


「うむ、ローザンヌ殿がいなければ間違いなく全滅しておったな。かの御仁の魔術は宮廷魔術師よりも威力だけ見れば上だった」


 母上強っ!あんなど天然な感じなのに。


「まぁコントロールは甘かったがな。おかげで何人か巻き込まれて大怪我しておったわ!がっはっは!」


「ここ笑っていいんですかね…?」


 笑い辛えよおっさん。


 とまぁ余談も混えつつ、欲しい情報を集めていった。


 結果、真っ直ぐ黒の森に直行は無理だと判断した。

 いやマジでダイナミックな自殺でしかないって。ゲームでいえば最終ダンジョン並のヤバさだわ。


 今更ながらかなりハードな依頼だなぁこれ。



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