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075.

 ベヒモウス。

 アジ・ダハーカ。


 二柱の『王』と戦って感じた圧を、目の前の男からも感じる。

 細かい強さの察知が苦手な俺でも、さすがに『王』級となれば感じ取る事は出来るのだ。


「ハッ、やっぱ分かるか」


「いや圧出してくれたから、そこでやっとね」


 恐らく、アジ・ダハーカより強いくらい。

 ベヒモウスまではいかないとは思うが、相手は人間だ。

 戦術や武術、卑怯な手だって使う。多少の実力差をひっくり返す奥の手だって用意していてもおかしくない。


 正直に言おう。

 シヴァ様とベヒモウスを除き、過去会った中で最も強く、勝てるか分からない相手が目の前の『悪食』だ。


「あぁ、あと『悪食』は名前じゃねぇよ」


「だって知らんし。『悪食』しか名前出回ってないらしいじゃん」


「まぁな。面倒だろ、俺らみたいに長く生きるのに名前が割れてるとよ」


 あー、そういや寿命が伸びるんだっけ?

 一瞬超越者かと思ったけど、そこまでの強さはないし、まぁ俺と同じ状態なんだろう。


「いや俺なりたてホヤホヤだから考えてなかったよ。そっか、そこらへんも考えないといけないのか……」


 実に面倒くさい。マジで引きこもり生活あるなこれ。


「俺も100年以上生きてるしなァ。見た目も老けにくくなってるからいまだにこんなナリだぜ?」


 マジか。見た目だけなら20後半くらいなのにね。

 あれか、若い時代が長いってヤツか!エルフとかサイヤ◯のヤツじゃん。


「うへぇ、知りたくなかったぁ……」


「がははは!残念だったなァ。さてさて、俺の名前はイザークってんだ、覚えときな」


「お、これはご丁寧に。知ってるっぽいけど、俺はルイね。元ダハーカ家です、よろしく」


「うげ、元貴族かよてめぇ。なんで冒険者やってんだ」


「いやベヒモウス討伐しなくちゃいけないからさ、色々理由つけて家出てきた」


「がははは!バカだなてめぇ!変な貴族だなぁおい!」


 ゲラゲラ笑うイザークに、うっせぇと悪態をついておく。


「はー、まぁいいや。とりあえずてめぇがバムバードに手ぇ出さないならそれでいい」


「さっきも聞いてたけどさ。何、友達?」


「お、正解だぜ。なかなか話が合ってなァ。良いヤツなんだぜ?」


「え、会話出来んの?!マジで?!」


 ベヒモウスなんてクオンとしか鳴かなかったのに!


「そりゃお前、アイツらが何年生きてると思ってんだ。話くらいすんだろ」


「いやベヒモウスは喋らなかったしさ。あーでもシヴァ様は昔は仲良くしてたとか言ってたっけ?」


 最近は会ってないけど昔は、みたいな話をチラッと聞いたような。え、じゃあ昔はベヒモウスも話してた可能性があるのか。

 じゃあ何であんな理性ゼロの怪物に……いや、神のオッサンも眠らせてあげて欲しいとか言ってたし、きっと色々あったんだろうな……。


「なッ、シ、シヴァだと……?あ、あのバケモノと知り合いなのかよてめぇ?」


「お、知ってるの?俺とか弟子兼料理人扱いでさ。新しいレシピ作れって今もせっつかれてるわ」


 マジでそろそろ新作考えないと機嫌悪くなるかもなぁ。どうしよ、思いつかない。


「マジかよ……昔チラッと会ったが、ズタボロにされて追い返されたぜ?」


「うわっ、シヴァ様にケンカ売ったの?度胸あるなぁ……てかよく生きてるな」


「いやケンカって程でもねぇんだよ。会ってすぐに『気配が気に食わぬ』とか言ってきたからしばこうとしたんだよ。で、次気付いたら森の外で死にかけてたぜ」


 シヴァ様、気に食わないとかあるんだ。いやありそう。毎回チェックしてくるし、今のメンバーはどうにか許してもらってる感じだし。


「……今度謝りに行く?俺仲介するけど」


「いやァいらん。もう関わりたくねぇ」


 嫌そうに顔をしかめるイザークに苦笑いを浮かべる。

 まぁそれだけ苦い思い出なんだろう。


「さてと、聞かたい事言いたい事はもういいか。じゃあそろそろ仕事するか」


「うげ、結局やるの?こんなに話し込んどいてさ」


 イザークの言葉に黙っていたシンシアとクレアの緊張感が増したのが分かる。

 イザークも分かりやすい臨戦体制ではないが、ゆっくりと気力が満ちていく感じがする。


「いや形だけでもやっとかねぇとな?目の前に依頼人がいるのにそのまま帰るってのもどうかと思わねぇ?」


「形だけでもとか言ってる時点で手遅れじゃんか。えーやだなぁー」


「そう言うなよ。実はちょっと楽しみにしてたんだぜ?話をしたのは、手合わせにするか殺し合いになるかを決めたかったんだよ」


「あー………あれか。長く生きると刺激が欲しくなるアレか」


 シヴァ様でいう料理に目がないように、イザークは戦闘も楽しめるんだろう。


「なりたてのくせに分かってんじゃねぇか。あ、お前の飯もアリだぜ?今度食いに行くからご馳走してくれよ」


「えー……あ、じゃあなんか珍しい調味料か食材教えてくれたら良いよ!」


「がははは!お前もう料理人やれよ!」


 ゲラゲラ笑いながら立ち上がり、腰に2本さしてる剣を両方抜くイザーク。

 見るからに斬れそうな剣は、かなりの業物なのだろう。


「場所は決めさせてやるよ」


「じゃあ、丁度良いとこあるわ。『王』級が封印されてた山に囲まれた平地。そこでいい?」


 アジ・ダハーカのいたとこね。もう封印はないから単なる平地になってるけど。


「いいけど、遠いんじゃねぇのかソレ?」


「俺空間魔法使えるから。じゃあちょっと行ってくるねシンシア、クレア。あとシルビアさん、謁見には間に合うと思いますけど遅れたらすみません。その時は第一王子のせいにしてください」


 そう言って返事を待たずに準備していた『空間転移』発動。

 わずかな浮遊感とともに景色が切り替わり、周りに山に囲まれた草原に着いた。


「おぉっ?便利だなァコレ!」


「だろ!めっちゃ苦労して覚えたからな!」


 そう返しながら指輪から黒ローブとノクテムを取り出す。

 それを構えて、目でオッケーだと伝えた。


「くく、嫌がってた割に話が分かるなァ!いくぜ!」


「ふぅ……」


 ――集中。


 初手、真っ直ぐ突っ込んできて剣による切り上げ。

 それを後ろに短く跳んで回避。予想通り即座に追撃で迫る二本目の剣をノクテムで弾こうとして。


「っぐお?!」


「ハッハァ!斬られなかっただけ上等だぜ?!」


 その凄まじい衝撃にいなしきれずに吹き飛ばされた。

 空中で体勢を整えて、地面へ着地するのを待たずに『天盾』で空中を蹴って上に飛ぶ。

 着地のタイミングを狙っていたイザークは足を止めて顔を上げた。


「ほぉ、器用な真似しやがる!」


「なんつー馬鹿力だよ……それにその剣、なんかおかしくない?」


 パワーもそうだが、剣から感じた鋭い圧力のようなもの。もしノクテムで受けなければ身体硬化してる身体ですらあっさり切り裂きそうな鋭さだ。


「まぁてめぇも色々教えてくれたしな。俺のギフトは『剣聖』っつってな。『斬撃魔法』と『身体魔法』が組み込まれてる、らしいぜ?」


 らしい、というのはどうせバムバードあたりが教えたとかいうオチだろう。

 それより『剣聖』のギフト、そしてイザークの戦力が問題だ。


 めっちゃくちゃ強いぞおい。


「くっそー、俺の魔法って手合わせに向いてないのになぁ」


 なんせ威力が威力だ。

 未熟なのも含めて調整も簡単じゃないし、少し調整をミスるだけで人の耐久力なんてあっさり超えてしまう。


「がははは!んなモン気にすんな、俺の斬撃魔法は魔法も斬れるからな!」


「え、マジ?じゃ遠慮なく」


 ――『空間魔法・捻天渦』。

 範囲攻撃であり、イザークを中心に数メートルの空間を捻るように握りつぶしにかかる。


「ぐおぉお?!いきなりかァ?!てめ、意外と容赦ねぇな?!」


 そう言いながら、イザークは体を捻るように回転させて剣を振るい、その剣の通り道が魔法の影響を切断しているのが伝わってくる。

 そして回転する勢いのままに影響範囲を飛び出したイザークは、口が裂けたように好戦的に笑って俺を見上げた。


「人越えしてすぐにしちゃやるじゃねぇか!遊んでやるつもりだったが、楽しめそうだ!」


「うへぇ、リアル戦闘狂とか初めて見た……」


 これが長寿の影響なのか性格なのかは分からないけど、いざ戦闘狂と対面するとヒくし怖いわ。

 しかもそういう人って気に入ったとか言ってまた戦わされたりするんだろ?嫌すぎる。

 

「あーくっそぉ、こうなったらボコボコにして再戦したくないと思わせる!」


「がははは!来いよルイィ!」


 『疾風迅雷』を施して、空から突撃。

 真っ向から受ける気満々のイザークに、衝突する瞬間に集中強化で威力を押し上げる。


「どらっしゃあい!」

「づぇあああっ!」


 交差させた2本の剣による剣撃と、メイスであるノクテムの衝突。

 衝突による余波だけでなく、ノクテムの持つ衝撃波を放つ効果も相まって、爆発にも似た衝撃が発生した。


「っく、マジかよ!フルパワーで殴って弾かれたのは初めてなんだけど!」


 衝突後、吹き飛ばされてから地面に着地と同時に即座に地面を抉るようにしてイザークへと振り、石や土を巻き上げるように放つ。


「オレのセリフだ!なんで斬れてねぇんだそのメイス!」


 土の牽制の向こうから声がしたと思えば、土の壁がスパンと斬られてその隙間からイザークが飛び出してきた。


「俺からしたらその剣が折れてない方がおかしいけどな?!何製ですか教えてください!今度錬金術の素材にするから!」


 その勢いのまま振り下ろされる剣を半身になって回避し、そのまま一回転してノクテムを横薙ぎに振る。


「俺が倒した獅子型の『王』の牙を加工したもんだよ!残念だったな、もう残ってねぇよ!」


 しかしイザークは後ろに倒れるように体を逸らしてノクテムを回避し、起き上がる反動で剣を切り上げる。

 なんてめちゃくちゃな動きだ、マリオネットみないな動きしやがって!人間離れしすぎだろこいつ!


「くっそぉ、それがあったら良い釣り竿作れると思ったのにぃ!」


 剣を体を捻って躱して、ついでに蹴りを繰り出す。それはあっさりと肩で受け止められたが、その間にノクテムを構え直して振り下ろす。


「どんな釣り竿だよバカかてめぇは!リヴァイアスでも釣る気かよ?!」


 それを迎え撃つように振り上げられたもう一本の剣に、こうなりゃフルパワーだと俺も魔力を込めまくったノクテムと衝突。


 そして、キィンという音が響いて。


「「えっ?」」


 イザークの剣が折れた。


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