074.
澪と再開して一週間もたってない今日。
「急に来たにも関わず丁寧な対応ありがとうございます」
「あ、いえいえ。来るかなーとは話してましたし」
王国からの使者が来た。
「……良い物を食べてますね」
「気に入りませんかね?」
出したのはドラゴン肉の燻製肉だ。
シヴァ様のご要望で作った、おやつ感覚で食えるスティック肉である。
「いえ、購入ではなくご自分で討伐されたのでしょう?聞き及んでますよ、『ラクサス・イクリプス』は討伐した魔物の肉はほとんど換金せずに持ち帰ると」
うん……そうなんだよね。
冒険者は普通なら肉なんて腐らせる前にさっさと換金する。
けどほら、ウチにはシヴァ様特製レッグポーチと、忘れがちだけどノクテムをラッピングしてた空間収納付きプレゼントボックスがある。
どちらも物体保存が付与されてるから長持ちするし、そもそもその前に大喰らいが多い。
だから俺に調理しろと肉を持ち込むメンバーが多いのだ。
「まぁ高級志向の飲食店では仕入れに回して欲しいと訴えているとも聞いておりますが……」
「あー……すんません。定期的に換金して納めます」
なんか怒られる図になってる……。
いや使者さんが来た時に、すぐ城とかに連れていかれると思ったら話が長くなるとか言うからさぁ。
応接室に招いたらこれですよ。
水色の髪と青い瞳のピシッとした印象を持つ美人さんの使者さんは、丁寧な所作でドラゴン肉を飲み込んでから口を開く。
「ご馳走様です。それで本題なのですが、まず一つは国王陛下への謁見に応じて頂きたく存じます」
まぁそうなるか。シンシアさんの予想通りだね。
「分かりました。本日ですかね?」
「急ぎとなり恐縮ですが、本日夜にお願いしたく」
ちなみに今は朝だ。
出来る限り時間をくれようとする配慮はあるように見えるが……実際のところ普通当日とかはあり得ない。何かしら裏があるんだろうなぁ。
「承知しました。それで、他にもお話があるんですよね?」
「はい。実は私、陛下の命令によってジェラール殿下の下に配属されまして。そこ殿下からとある任を受けて、先日完了しました」
「………? はぁ、お疲れ様です」
何の話?と思ったが、使者さんは非常に言いにくそうにしている。
「その内容はーー」
「私達の誰か、多分ルイ君とマリーちゃん、最悪澪ちゃんあたりの暗殺依頼でしょ?」
そこで口を挟んだのは我らがシンシア。
その言葉に、ここに来てから微動だにしなかった使者さんの表情が動いた。
「……これはこれは。〝マグノリアの神童〟様ですか。聞き及んではいましたが、本当に恐ろしい方ですね」
「古い呼び方ねぇ。今は『ラクサス・イクリプス』サブリーダーよ。覚えておいてねー?」
なんともピリピリした空気になってる二人に、俺は苦笑いで話を促す。
「で、それを俺に教えたのは何でですかね?」
「あら、聞くまでもないわよルイ君。そこのシルビアさんはあくまで国王陛下の部下なのよ、ジェラール殿下の下には内情を知る為のスパイとして配属されてるんでしょうね。
で、ジェラール殿下はルイ君達を殺したいけど、国王陛下はそうではない。でもまだジェラール殿下はまだ処罰せずに泳がせておきたい。となると、ルイ君達に撃退してもらうのがベストって訳」
「……『ラクサス・イクリプス』に謀略で挑まないよう主に報告しておきます」
シンシアの推測に使者さんーーシンシアさんいわくシルビアさんだっけ。何で名前知ってるかはもう聞かないーーは遠回しの肯定と、おまけに降参の言葉を吐き出した。
そんな表情は変わらずとも消沈した雰囲気のシルビアさんにシンシアは畳み掛ける。
「全くもう。仕事に忠実な性格で優秀とは聞いてたけど情報以上ねぇ。まさか本当に『悪食』に依頼まで漕ぎ着けるとか何考えてるのよ」
「……あの、何故そこまで正確に…」
「あら残念、今のはカマをかけただけよ。というよりは安全確認かなぁ?『守護星』を除けば『悪食』以外なら敵じゃないし、『悪食』が来るなら警戒しなきゃいけないもの」
つまり危険の有無のラインを定める意味も含めたカマかけか。
うっひゃーおっかねぇー。シルビアさんもうダウン寸前じゃん。無表情なのに明らかにどんよりしてるって。
「てか『悪食』って誰?」
「なんと、まさか知らないのか?有名だぞ」
シンシアはお話中だし、もう一人ここにいるサブリーダーのクレアにこそっと質問。
「フリーの殺し屋で、報酬さえ納得したら誰でも殺す危険な男だ。聞いた限りでは失敗ゼロ、成功率100%の凄腕でな、その中には他国だが『守護星』も含まれてるんだ」
え、マジ?『守護星』より強いのかよ。
「人だけでなく魔物も対象で、ドラゴンなんかも殺してみせたと聞く。異名は非常に有名なのに、人相や本当の名前は誰も知らないから、まず依頼する事自体が難しいのだが……」
「シルビアさんは出来ちゃったと。はー、すげぇ厄介だなそれ」
なんか普通に負けそう。どうしよ、やばいじゃんそれ。
正面衝突なら話は分からないが、暗殺スタイルでしかも相手は誰か分かってない。
圧倒的に不利な条件。やばいね、そんな凄腕に寝込みを襲われたらマジで殺されるって。
「それは……怖すぎない?」
「そうだな……『悪食』は怖いな…」
なんか俺とクレアでお通夜みたいな空気になってしまった。まぁシルビアさんも似た空気になってるけど。
「それにしても『悪食』はホントにまずいわね。どうしようかしらね……」
シンシアですら悩んでるし。
これは最終手段の隠れ家引きこもり作戦しかないか?
「まぁまぁ、そうビビるなよ。オレぁまず話がしてぇんだって」
「あ、マジ?良かったぁ。いきなり暴れられたらどうしようかと思ってたんだよ」
「「っ!」」
だってこんな狭いクランハウスで暴れられたら吹き飛ぶのは分かりきってるし……。
一応転移だけは用意しといたけどさ。
「気付いてたもんなァ。よく分かったな」
「いや実は幽霊かと思ったけどね。気配ないのになんかいるしさ」
当たり前のようにシルビアさんの後ろの壁に寄りかかってる青年に、俺以外の全員が警戒を露わにして立ち上がる。
「あ、ストップストップ!ここで暴れられたらクランハウスが!」
ここは元『イクリプス』のパーティハウスの方だしね。頑張ってクルルが買ってくれたのに壊す訳にはいかないでしょ。
「しかしルイ、こいつは……」
「いや話をしたいって言ってくれてるしさ」
「……信じちゃうの、それ?」
まぁ疑う気持ちも分かるけどね。だったらとっくに襲いかかってきてると思うし。
「信じるってより、状況的にね。それにここ壊したらクルルがキレそう」
「……はぁ。分かったわよ、任せたわ」
あいよ。シンシアに任されたとなったら頑張ってお話しないとな。
「さぁて、もういいか?」
「あ、どぞどぞ。席は空いてるとこにね。ドラゴン肉も余ってるし」
「おう、それ美味そうだから食いたかったんだよ」
椅子にドカリと座り、青年は品もなく肉にかじりつく。
錆色の緩く逆立つ髪と瞳を持つ、がっしりした体躯で長身の男だ。なかなかのワイルドイケメンである。
「で?わざわざターゲットとお話するくらいだし、何か聞きたい事とかあるんでしょ?」
「まぁな。お前……ルイっつったっけ?ベヒモウスを倒したっては本当か?」
「本当。まぁセコ技ハメ技上等の6年計画でどうにかだけどさ」
「いィや、上等だろ、大したモンだ。じゃあ本題だが……バムバードを狩る気はあるのか?」
バムバード?……あぁ、ベヒモウスと並ぶ最古の『王』の一柱だったっけ?確かドラゴンの王でもある……。
「いや、全く。てか『王』級はお腹いっぱいなんだよね」
次倒したら超越者になっちゃうし。
「そーかぁ……じゃあいいか。あ、これは興味本位だけどよ、魔王は狩るのか?」
「その予定もないなぁ。勇者や聖女に任せるつもり」
「ふーん。ベヒモウスを狩ったっつぅからどんな暴れ者かと思えば、案外大人しいじゃねぇか」
「ベヒモウスだって交換条件で仕方なくだったしなぁ。で、もう目的は軒並み達成したし、あとは平和に暮らしたいんだよ」
なるほどねぇ、と頷き。
「けどよ、『王』を狩っといて平和にとはいかねぇのは分かるだろ?」
そう目を細めて吐き捨てた。
それと同時に、青年からピリピリとした威圧を感じる。
まだ様子見なのだろう。その威圧にはどこか甘さがある。
しかしそれでもシルビアさんはガタガタ震えてるし、クレアもシンシアも顔色は良くない。
そして何より気になったのが。
「……びっくりだな。『悪食』さんも『王』を討伐してたんだな」
目の前の男は、明らかに『王』級の実力があった。




