073.
「ふぉおおっ!すごーい!私魔法使いになってる!」
「いや間違ってはないけど『聖女』な」
澪の訓練にて、澪はあっさりと魔力を感じて発動するところまでいった。
まぁそこはやっぱ俺と一緒か。体内に今までなかったもの(魔力)が急に出来たら分かりやすいしね。
その様子をじっと見ていたシヴァ様は、ふむと頷いて意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ふむ、かなり魔力孔が多いの。ルイ坊の苦労を嘲笑うような体質じゃの」
「言い方ね?しかしマジかぁ、まぁ澪がこんな苦労しなくていいなら良かったかな」
魔力孔?と首を傾げる澪に色々説明していく。
こうして話してると、だいぶこの世界の知識も身についたんだと実感するな。
「なるほどねー。じゃあバンバン魔法撃てちゃうんだ!」
「そうだぞ!しかも発動に必要な魔力を取り出すのも速いから、発動も速い!」
「おおっ!じゃあ『ふっ、遅いわ!』みたいなセリフも言えるんだね!」
あーそれ俺も思ったなぁ。ここらへんは兄妹だなぁと実感する。俺はされる側だってへこんだっけか。
「言える!しかも防御型だから『そんなもの私には効かない』みたいな強者感も出せる!」
「おぉおおっ!いいねいいね!盛り上がってきたー!」
「お主ら元気よのう……ほれ、光魔法は発動できたし、次は結界魔法じゃ」
そうして説明と実践を繰り返していき、その性能を確かめていく。
「ほうほう、結界って色々設定できるんだねー。半透明なのはなんかイメージ通りって感じ」
「魔法陣に性質や範囲、場所を組み込んで発動。発動後の移動は難しいけど出来なくはない、か。かなり汎用性が高いな」
鍛えればモーガンさんの高速移動の防御戦法に近いものがあるな。
まぁこの結界は物理より魔術や魔法の方が効果を発揮するみたいだから、そこは違ってくるけど。
「ふむ。じゃあ澪、結界をドーム型とかに出来るか?」
「えっと……むむ、難しい…………けど、はい出来た!」
「おおー!やるなぁ澪!よーしよしよし!」
きゃっきゃとじゃれあってから、目の前に作られたドームに小さな穴を開けてもらう。
「よいしょ。はい、これでいい?」
「ん、おっけ。じゃあそのまま維持しててなー」
そう言ってレッグポーチからいくつかの黒い球を取り出してポイ。
中に入った後に火球を放り込むと――爆音をあげて爆発した。
「うわっ?!え、爆弾?!お兄そんなものまで作ったの?!」
「便利だぞー?空から落として奇襲すんの」
「うっはー!空爆じゃん!てかお兄空飛べるの?!」
「あ、それが次の実験な。澪、結界を足場にして空中に立てるか確認してみて」
あーなるほどね、と澪は理解したように頷き、実践。
もともと壁としての性質がある結界魔法だけあって、俺の『天盾』よりも簡単そうにやってのけた。
「にゃはー、便利だねこれ!ホントこう言う小細工や小技が好きだよねーお兄は」
「そりゃなぁ。必要以上の大技なんかなくても相手を仕留める威力があればいいしね。過剰攻撃なんか無駄遣いでしかないだろ。それより手札を増やした方が余程勝率が上がるっての」
まぁベヒモウスはどうしても威力も必要だったけどね。
硬さ、スタミナ、威力を持ち合わせた化け物だし、かなり対策したなぁ。理性がなかったが、少しでも知性があればまず間違いなく勝てなかったよ。
「あとは結界の性質か。これを反射や粘着とか変質させれるなら色々出来るんだけどな」
「それは難しかろうの。そこまでいくと超越者の領域じゃよ。せいぜい硬さの調整くらいじゃろ」
「うーん、そっか。まぁ場所や形状がある程度自由に組めるだけでも充分でしょ」
正直俺の下手な魔法より余程汎用性が高い。
しかも光魔法まであるしね。
「ちなみに半透明だし光は透過してるよね?光魔法は通るとかないのかな?」
「それはない。結界はいわば自らの魔力と空中にある魔素を混ぜ合わせて押し固めた壁じゃ。魔的要素のあるものを遮るからの、光だろうと空間だろうと魔法であればぶつかるの」
ほーん。だから対魔法や魔術の方が物理より力を発揮する訳か。まぁ爆弾数個くらいは難なく受け止める物理防御性能はあるみたいだけど。
「ふーむ……今んとこ、俺なら基本戦術は空中に立っとくのが基本で、光魔法で安全圏の上空から遠距離攻撃。素早くて当たらない敵は結界で包んで拘束して光魔法。……あとは硬くて通らない敵用の技は開発しないとか」
「おお、防御だけじゃなくて有利なフィールド作りと拘束用に結界を使うんだね!あ、後衛とかの守りがいる人全員空中に連れてったら良さそうじゃない?」
「確かにな。まぁそこらへんは澪の魔力量と相談だな」
冒険者たるもの自分の身を守る術は持ってるし、別に澪におんぶに抱っことなるようなかわいい冒険者はウチにいない。
その観点で見れば、澪は自分の身を最優先に守る必要性があるし、まずは自分だけに注力すればいい。
加えて、もし空中に後衛を持ち上げておいて魔力が途中で切れたら、落下ダメージで一気に壊滅する可能性だってある。
うん、やはりまずは自分にのみ魔力を分配して継戦能力を優先すべきだろう。
そんなことを説明すると、納得したように澪は頷いた。
「あとはまぁ、結界の移動や変形が素早く出来るようになれば、ドーム型で敵を包んで圧縮するとか、天井みたいに壁を上空に出して上から潰すとかも出来るけどな」
「おお!悪役の技だ!苦しむ様子を余裕な顔で眺めるアレじゃん!」
「フッ、苦しいか?とか聞いちゃうやつな!」
ケラケラ笑ってると、澪がふらりと体勢を崩した。
「あ、あれれ……?」
「魔力切れじゃの」
俺が慌てる前に説明を差し込み、澪を支えるシヴァ様。あらやだかっこいい。
「そっか、今日はここまでだな」
「うむ。澪の魔力は平均よりは多いがルイ坊には遠く及ばぬ。なまじ取り出しやすい分尽きるのも早い。魔力の使い方は考えて組み立てるべきじゃの」
まぁそうかなとは思った。思ったより早く魔力切れになっちゃったし。
「うぅー、そこは異世界人のチートとかさぁ」
「俺も同じ事思ったなぁ……ギフトがレアなのを除いて、成長補正とか抜群のポテンシャルとかはくれないんだよ」
だから散々魔力操作に苦労したし、魔力孔が少ない分魔力の取り出しに魔法具作成なんて回り道までしたし。
「うぇええん、こんなんじゃ他の異世界人で無自覚系の人がいたらボコボコにされちゃうよぉ〜!」
「それな。俺もマジで怖いんだよなぁ。いや澪だけは必ず守るけどさぁ」
「お、お兄ぃいいい〜〜!!」
「それルイ坊も言っておったの。お主らの中で無自覚系とは何なんじゃ……」
だって自覚がないからね。無自覚で必要以上に威力出すんだよ?デコピン感覚で銃弾を放つ相手が怖くない訳ないじゃんか。
「澪、まずはとにかく結界の硬さを上げる訓練だ!ヤツが現れた時にまず初撃を凌げば会話に持ってける可能性がある!」
「う、うん!そうだね!なんかやっちゃった?って聞かれてうんって言えば止まるかも!」
「お主ら、よく分からぬが絶対偏見じゃろそれ」
そんなこんな言いつつ拠点に帰り、晩御飯にはドラゴン肉を用意した。
澪は見ては大興奮、食べてはご満悦と大喜びだった。だいぶ減ってきて肉を大盤振る舞いした甲斐があったというものだ。
てゆーかドラゴン肉出すとメンバー全員どこからか集まるのすごいよね。なにこの連携力。
★ ★ ★
薄暗い酒場の個室にて、気怠げに座る青年にケースに入った金貨を手渡す清潔感のある妙齢の女性がいた。
「こちらでどうか引き受けてくれませんか?」
「報酬としては及第点だが……いいのかよ、お前らは人類を守る側だろ?それなのに重要戦力を暗殺なんてよ」
「……それが主の望みでございます。他に勇者や聖女がいるから問題ないと仰っておりました」
「……アンタも苦労するね、バカの下につくとよ」
「…………」
「まぁいい。報酬はあるし、俺を探し出したアンタの顔を立ててやる」
「……ありがとうございます」
「ハッ、見つけれねぇ方が良かったってツラだな。まぁ同情するよ……アンタの為に失敗した時の話もしておいてやる。その報酬は成功報酬、失敗したら前金や中間金も一切いらねぇ」
「……お心遣い頂きありがたく思います」
「ハッ、まぁまずは俺が普通に話してみたいってのもあるけどな。気に入らなければきっちり殺すよーー」
ーーベヒモウス討伐者だろうと、勇者の女だろうとな。




