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072.

「はぁ〜〜、大変だったねーお兄」


「割となぁ。まぁ周りに恵まれたからどうにかなったな」


「それなー。みなさん全員そうだけど、特にシンシアさんとクルルさん、何よりシヴァ様とか超必須だったじゃん。いなかったら死んでたよ?ちゃんと感謝しなきゃだね」


 それだよなぁ。頭上がる気しねぇよ。あ、いやクルルは不思議と頭上がるな。


「……そう、ルイはもっと私を崇めるべき」


「はいはい感謝感謝」


「……む、雑すぎ。具体的にはドラゴン肉を献上しろぃ」


「ドラゴン狩る度に満腹まで食わせてるだろ……その度に人の何倍も食ってるくせによ」


 クルルは憎まれ口や軽口を叩き合う関係になってるしな。今更改めてお礼を言う感じじゃないんだよね。


「あ、でも私はベヒモウスの肉食べさせてもらったもんねー。あれもクセはあるけど美味しかったなー」


「む……イクリプスの誓い、肉は隠さず分かち合う事を忘れたか」


「え、知らん知らん知らん。何だそのクルルのクルルによるクルルの為の誓いは」


 結局あげるんだけどね。

 てかシンシアさんや、あんた煽る為にそれ言ったろ。

 ほら睨んだらてへ、みたいな顔してるし。そんな顔も可愛いからタチ悪い。


「ほうほう!意外と人間関係頑張ってたんだねぇお兄も。ううっ、あたしは嬉しいよ……」


「おかんか?2個下の母は俺のキャパ超えるからやめてねそれ」


「……てかそれで思ったんだけどさ、今のあたしとお兄って血が繋がってない?」


 ……………あ。


「シ、シヴァ様ッ?!」


「おぉう、なんつう顔しとるんじゃルイ坊……落ち着け、というか気付いておらんかったのかの?普通にそうじゃろ、血縁上他人じゃよお主らは」


「「なん……だと……」」


 そこハモるのか、仲良い兄妹だな、とか聞こえるけどそれどころじゃない。

 いやむしろ何故気付かなかった?言われてみたらその通り過ぎるじゃんか。


「う、うぇええんお兄ぃいい!」

「だ、大丈夫だ澪っ!血が繋がらなくても兄妹にだってなれる!ほら盃交わしたりとかあるだろ?!よし盃と酒持ってくる!」


「落ち着かぬか……ルイ坊、ベヒモウスが現れた時より動揺しとるではないか」


 それから盃をその場で速攻で錬金して用意し、酒は手近にあったワインを代用したりして盃を交わした。


「……ホントにやるんだ」

「似てないようで似てる兄妹だねー」


 それからやっと落ち着き、何してんだ俺達と笑い合ってる内に、ふと澪が気付いたように呟く。


「あ、それならお兄と結婚できるんだ」


 この発言に数秒室内が静まり返った。


「お、それなー。よーし結婚するかぁ、そしたら兄妹じゃなくても家族だな」

「あははっ、確かにー。んじゃ結婚してみよー」


 ケラケラ笑ってると、カーラさんとテッドさんがそろりと手を挙げた。


「? どしたのカーラ?」


「ちょ、ちょっとアンタ達、本気で言ってる?」


「え、ダメかな?」


 カーラに首を傾げるとテッドが苦笑しつつ言う。


「いやぁーダメとかじゃないんだけどさ。ルイ君がいきなり結婚するのはちょ、ちょっとね〜。ほら……ネ?」


「いや、ネ?とか言われても分からんけど……」


 何か爆発物を脇に抱えた犯人を説得する刑事みたいな様相の2人に、俺と澪は目を合わせて首を傾げ合う。


「普通に冗談だよなぁ」

「うん。いくらなんでもさっきまで兄妹でしかなかったし、今すぐはねー」


 ……なんか微妙に澪の解答がズレてた気もするけど、まぁこの子頭自体は弱いしね。というか賢いけど勉強出来ないタイプ。


「び、び、びっくりさせないでよね!ホントどうなるかと思ったわよ!」

「ははは……私も久しぶりに冷や汗かいたね…」

「ウチもっすよぅ……あー四人が怖くて鳥肌がぁ…」


 何故そうなる?と俺と澪はまたも首を傾げ合った。





「さぁーて、それじゃ色々話をしてこっか」


 それから澪歓迎パーティの食事会を終えたところで、シンシアがいつものように切り出した。

 ちなみにみんな酒は抜きね。色々話すだろうし。


「あのー?なんであたしはシンシアさんの腕の中にいるのでしょーか?」


「いいから。それとも嫌かなー?」


「いえ!おっぱいが良い感じに後頭部に当たって幸せです!」


 おっさんより酷い発言だよ。


「……早くも馬を射ようとしておる。さすがシンシア、やりおる」


「なんだ、次は馬刺しでも食いたいのか?馬の解体とかやった事ねぇよ俺」


「……馬刺しはいらない。代わりにルイが後で慌てる様を肴にする」


 何言ってんだこいつ。首を傾げると、クルルは哀れなものを見る目で微笑んだ。


「……大丈夫、私はずっと仲間で味方。いざとなったら頼れぃ」


「ん?おう、まぁクランはともかく唯一のパーティの仲間だしな。とっくに頼りにしてるよ」


 そこは俺も信用してる。

 これまで信用に応えてくれたからな、今更疑おうとは流石に思わない。


「……。……そゆとこ、気をつけぃ」


「どゆとこだよ。てか話聞こうか、シンシアが睨んでるから」


 私語禁止ですよね、すみません先生。


「全くもう……じゃ、まずは問題点をまとめてくわよー。といっても、やっぱり一番は『聖女』の澪ちゃんと『勇者』のマリーちゃんを抱えた事による王国との不和よねぇ」


 まぁそうだよね。

 なんでこうも知り合いにばかり発現しちゃうかなぁ。関係ないところで発現して勝手に囲われてくれりゃ楽なのに。


「シヴァ様、ギフトを誰かにプレゼントとか出来ないの?」

「真っさらの魂相手に極一部の超越者のみができる秘法じゃの。諦めい」


 いや冗談で言ったらできる人いるって返事でこっちが驚いたわ。……いや、そういやアモーリア様や神のオッサンがしてる事か。


「いよいよ本腰入れて王国が動くと思うわ。だからそれにどう対処するか、それを考えておかないとね」


「……第一王子を人質に不干渉にさせる?」

「人質の価値が釣り合ってないから無理ねぇ」


「あっ、他国に逃げるとかどーでしょ?」

「あら、澪ちゃんはルイ君と似た思考ねぇ。良い案だけど、逃げた先でも同じことが起きる可能性が高いのよね」


「一度戻ってもらって、王国に従うフリをするのはどうだい?」

「クレア、それは悪手よ。国が相手なのよ、そう簡単じゃないし、最悪命令を強制する魔術具なんかがあってもおかしくないわ」


「……じゃ、やっぱ王国と対等に交渉できるようにするか」


 これは秘密基地作戦を使わない時を想定して考えてたプランだ。

 逃げも隠れもしないなら、残るは敵対か同盟になると考えていたし。


「そうねぇ、それが無難ね。そうなると対等になる為にどうするかってとこが問題かなー」


「あんまりやりたくはなかったけど……手っ取り早いのは、魔王の首を持ってく事じゃない?」


 そもそも『勇者』と『聖女』を必要とする主目的をなくしてしまえばいい。

 以前父上に家族会議でも言ったが、問題は問題の原因が消えれば問題ではなくなるのだ。


「くく、我はその案を勧めるぞ?」


「シヴァ様は寿命のない料理人が欲しいだけだろうに……」


 この人の食への好奇心は何なんだ……長く生きるとそれくらいしか楽しみがなくなるんだろうか。


「現状、今すぐそれが出来るのはルイ君だけなのがねぇ。そうなると超越者になっちゃうんでしょ?で、まだなる覚悟は決まってないのよね?」


 まぁそうだな、まだ俺は寿命で死にたいと思ってる。


「じゃあ却下ね。ただ作戦の方向としてはアリよ」


「というと?」


 シンシアは不敵な笑みを浮かべて、ぐるりとクランメンバーを見渡した。


「ルイ君を除くここにいるメンバーで魔王を倒せばいいのよ。そうすれば結果は同じだものね」


 いやそりゃそうだけど……それが難しいって話なんじゃなかったっけ?

 シヴァ様を見て視線で問えば、彼女は全員をさらっと見渡して頷く。


「……ふむ、今のままでは到底無理じゃの。四天王とやらにおる公爵級に勝てるかも五分五分といったところかの」


 おっ、以前は勝てないと言い切ってたのに五分五分になってる。この一年弱の訓練は効果が出てるんだな。


「てかこのメンバーでも勝てるか分からんヤツがいるのか……『王』級でもないのに強すぎない?」


「どうやら長く生きたリッチのようでの。不死者の軍勢を率いておる。本人の実力に加えて厄介な軍もついてくるとなると、こやつらの殲滅力と突破力では厳しいの」


「あー、そりゃ面倒くさそうだな」


 なんで知ってるかなんて今更聞かない。さすシヴァ。

 

 俺もこの一年で依頼を受けて回った中にリッチがいた。まだ生まれてすぐの時に依頼で討伐しに行ったけど、それでもかなり厄介だったもんな。

 元から軍勢がいるのと違って、どこからでも湧いてくるから距離を詰めるのに苦労したんだよ。

 だから軍勢もリッチも丸ごと薙ぎ倒す『空衝咆』をメインに攻めたけど、骨のくせに粘るから意外と守りが硬かったし。


「まぁ澪が『聖女』を使いこなせたら勝率は高くなるがの。リッチのみならず魔王相手でもじゃ」


「おぉっ!やっぱりピカ〜っと光ってアンデットを成仏したり出来るんですかー?!」


 テンションの上がる澪に、シヴァ様は首を横に振る。


「いや、それは神の力だの。命の残滓を無条件に奪うのじゃから、突き詰めればそれは即死魔法よ。人の身には余る」


「ありゃ、なんか神聖なぱわーが宿ってるかと思ったのにぃ」


「その代わり、『聖女』には『結界魔法』が組み込まれておる。非常に強力な守りの魔法じゃぞ」


「「おぉ、なんかかっこいい」」


 聞けば、敵を討つ『勇者』と対照的に、『聖女』とは敵から味方を守る力なのだという。

 組み込まれているのは『結界魔法』と『光魔法』。そこは治癒じゃないんだと首を傾げると。


「『治癒』は魔力消費の多さでは群を抜くからの。魔力をそちらに割いてはすぐに守る力を無くす。これは身も蓋もない話じゃが、個人ではなく大勢を守る為に組まれたギフトだからの」


 なるほどねぇ。治癒は一人一人救えるが、魔力消費がえぐいから数が限られる。

 それより多くの人を救う為に守りの結界と、最低限追い返せるよう光魔法が組み込んである訳か。


「むむむぅ、別にあたしはたくさんの人を救いたい訳じゃないんだけどねー」


「……この兄妹、表面は似てないのに方向性はそっくりだわ」


 カーラの感想はとりあえず聞き流して、シヴァ様の説明の続きを促す。


「『結界魔法』は基本守りの力じゃが、使いようによっては面白い攻撃方法にもなる。まぁそういう小賢しいのはルイ坊の本領じゃろ」


「あ、シヴァ様分かってますねー。お兄はそこまで賢くないけどすっごく小賢しいんですよね」


 あー……という声が室内に満ちた。

 俺は胸を張る。


「ってそこドヤ顔なんだ?」


「褒め言葉でしょ。シンシアさんが賢い、俺は小賢しい、役割分担できる訳だしな。親友」


「っむぐ……そ、そうね。確かにそう考えたら丁度いいわよね……ふふ」


「ほえー……お兄がいっちょまえにたらし込んでる…」

「しっ!ダメっすよ澪ちゃん。リーダーの初恋なんすからね、余計な事しないで見守るんす!」

「うっはぁ!うんうん、分かりました!いやぁ嬉しいなぁ、しかもシンシアさんってお兄の事理解してるっぽいし」


「……あのね、いくらなんでも抱き抱えてるこの距離なら私に聞こえてるんだけど?」


 何やら小声で会議してるけど、まぁ澪の隠し事を暴くほどデリカシーがない訳じゃない。

 それだけ打ち解けた証拠だしね。ホント数時間で仲良くなりすぎだろ……さすがコミュ力の鬼。


「こほん。だったらルイ君は澪ちゃんの訓練にくっついてアドバイス係に任命ね。基礎は……宜しければシヴァ様にお願いしたく存じます」


「シヴァ様、この通り!」


 俺とシンシアで頭を下げると、シヴァ様はふむと頷く。


「まぁマリーも見てやったしの、構わぬよ。ただしルイ坊、分かっておるの?」


「へい、美味い料理ね。けどもうネタ尽きてるし、なんか食材見つけてこないとなぁ」


 毎度よろしく対価は美味しい料理。

 現在用意できる調味料と食材から作れる料理は出し尽くしたし、新料理開発か新たな調味料か食材の開拓からだなぁ。


「おぉ、お兄のご飯こっちでも作ってるんだ?またお店出したの?」


「いや仲間内に振る舞う程度だな。向こうにない食材もあるけど、逆に向こうにある調味料も探せばあると思うんだよなぁ」


「そっかそっか。まぁお兄なら美味しく作るでしょ。楽しみにしてるよ!」


 可愛い妹だねぇ。じゃあ明日の夜はドラゴン肉だな。魚と肉が好きだし、喜ぶだろう。


「さてと、じゃあ戦力向上に向けて澪ちゃんの集中強化で話はまとまったわねー。

 じゃあ次、魔王を倒すまで王国をどうするかね。このまま隠れておくか、それとも衝突覚悟で普通に暮らすか」


「ちなみに衝突はどんな感じになると思う?」


「そうねぇ。最初は二人の引き渡し勧告や、王宮に呼ばれて色々命令されるくらいかなー。それを突っぱねたら誘拐や暗殺、最悪は『守護星』がお出まし……ってとこかしら」


「うへぇ、しんどいなそれ」


 特に『守護星』はなぁ。

 この一年で確認したけど、ルーク卿が伯爵級、残る2人はギリ侯爵級に乗っかるくらい。で、おそらくグレゴリー護国卿は公爵級だろう。

 

 つまり俺個人ならともかく、他のメンバーでは勝てない。

 余談だが、守護星と護国卿の四人が組めば、魔王は知らんけど四天王のリッチにはまず負けないだろうな。


「もう『守護星』が魔王軍に攻め込めば良いのに」


「王侯貴族が最強の守りを手放すはずがないわねぇ。自身の安全の為に近くに置きたくて仕方ないのよ」


 めんど。攻撃こそ最大の防御っていうじゃんかね。


「それに魔王には敵わぬじゃろうよ。それほど『王』とそれ以外には差があるんじゃよ」


 シヴァ様が付け加える。

 そう思うとよくベヒモウス勝てたなぁ。

 奇襲や道具の準備、シヴァ様の助け。そのどれかひとつでも欠けてたら負けてたよな。


「そうなると、最初にうってくるであろう謁見で交渉してみるか」


「あれ?でもお兄、交渉する為に魔王の首がいるんじゃなかったの?」


 こてんとシンシアに抱っこされたまま首を傾げる可愛い澪と、マリーを見る。


「その前に確認。マリーと澪には悪いけど、一度国民の前で見せ物になって欲しいんだよね。ほら、聖女と勇者のお披露目、みたいな。……大丈夫?」


「え、うん。必要なら別にいいけど」

「私も、まぁ、ルイお兄様が言うなら」


「そっか、ありがとな。じゃああとは国王様にちょっと全員で〝国外旅行〟に行くか、二人…いや俺含めて3人のお披露目をする代わりに対魔王軍の遊撃部隊として〝自由戦力〟を認めるか。

 そのどっちがいいのかを聞くだけだ。この条件ならとりあえず表面上だけでも良い返事がもらえるはずだ」


 と、にっこり笑ったら澪とシンシアはケラケラ笑い、他のメンバーにはヒかれてしまった。


「魔王軍が迫る中でそれは……」

 

「……それ交渉ちゃう、脅迫や」


「いい加減クルルのお友達発言集が気になってきたわ。どこまでネタを網羅してんだ、今度また見せて」


 古いネタまで引っ張り出してきたな。澪とか伝わるのかこれ。


「あっははは!いいわね、そうしましょっか」


「くふふ、お兄は変わらないなぁ。どうせなら私国民に『王家の為じゃなくてみなさんの為に頑張るから冒険者になる!』って宣言しちゃおっかな」


「なるほど、アリだなそれ。ついでにシンシアに澪が第一王子に無理やり手籠にされかけたって噂を流してもらうか。そうすりゃみんな国より澪の味方するだろ」


「おお、なんか面白そう!じゃああたし第一王子がいたら怯えたフリとかするよ!」


「うわぁ、この兄妹タチ悪いっすよぉ……」


 こうして会議はまとまり、謁見に呼ばれるだろう時までは澪の訓練を中心に過ごす事が決まった。


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