071.澪
「うひゃぁああ!なにここ!美形ばっかじゃん!お兄浮いてない?!」
「おまっ、言ってはならん事を……!」
黒の森の拠点に到着した澪の第一声はこれでした。
「あっははは!大丈夫よ妹ちゃん、ちゃーんとルイ君もかっこいいからさ。私はシンシアよ、よろしくね」
「いやいやー、この中でもトップクラスな美人さんがそれを言っちゃいますかねー。あ、私の事は澪でいいですよ、よろしくお願いします!」
「そーお?じゃあ澪ちゃん。よろしくね」
「……私、クルル。ルイの妹とは思えない美少女」
「ボクはテッド、よろしくね澪ちゃん。それにしても……はっはっは、ルイ君と違って社交的じゃないか!」
「モーガンじゃ。しかしそうじゃの、あまり似とらんわい」
「にゃははは、よく言われますー」
「おいそこやかましいぞ」
「ふふふ、感動の再会とはならないあたりは似てますよ〜。あ、ラベンダーといいます、よろしくね〜」
「セリーヌだ、よろしく。しかし異世界人が妹とはな」
「うぉおお……え、二人ともこのおっぱい詰め物じゃなくて?お兄に襲われたりしてません?」
「してないから。マジやめてそういう風評被害受けそうなの」
「アタシはカーラね。よろしくしてあげてもいいわよ澪」
「お、おおお兄!ツッ、ツンデレだぁああ?!」
「アンタ達兄妹のそれ何なの?!」
「はは、賑やかだな。私はクレア、よろしくね澪」
「……お兄、私このイケメン女子と結婚していい?」
「落ち着け澪。実は割と脳筋だぞその人」
やんややんやと会話しながら自己紹介をしていく澪とグランメンバー。
それを少し離れたところからたまに口を挟みつつ見守る。
「良かったの、ルイ坊。頑張ってきた甲斐があったの」
「だなぁ。まぁ意外と感慨深いとかないんだよなぁ。まるで昨日も会ってた気分だよ、不思議と」
珍しく優しげに微笑むシヴァ様に苦笑いしてると、澪がこちらに来た。
「うわー……なにこの人間離れした美少女…さては人間じゃないな?」
「ほう、ルイ坊より洞察力がありそうじゃの。我はシヴァという。お主の兄の世話をしとる」
「ん?えっ、えっ?ホントに人間じゃないの?てかお兄の世話?え、ちょ、えっろ」
「えろかったらまだ良かったけどな……血塗れの5年半だったわ…」
まぁいい、と澪の脇を掴んで持ち上げ、プラーンと揺れる澪をもって皆んなの前に立つ位置に移動する。
「こほん、では改めて。初めて言う人も多いかと思うけど、妹が来るまでは隠したくて内緒にしてました。俺も異世界からの転生者で、妹は異世界人です。どうぞよろしく」
「ほほー、お兄が自分の事を自分から話すなんてねー……うん!私は五十嵐澪といいます!お兄がいつもお世話になってます。これからは私もお世話になります!よろしくお願いしますっ」
2人で頭を下げる。
一拍の沈黙の後、室内に音が爆発した。
聞いてないぞとか説明しなさいとかわいわい詰め寄られ、助けをシヴァ様に求めるもカカカと笑われるばかり。
結局きちんと説明するからと落ち着かせるのに5分くらいかかった。
「それでお兄、ちゃーんと説明して!」
「あれ?クランメンバーに説明する流れだと思ったのに」
「それも含めて!一から!全部!お兄が転生したとこから!」
「いやぁ、長くなるぞーそれ。なんせ9年間だからなぁ」
「ぶぶー、めんどくさがるの禁止っ!」
そうは言うけどねぇ。
ほら後ろの人達、シヴァ様とクルル以外のメンバーが説明しろオーラがさぁ。
「んー。それじゃ澪ちゃん、長い話を聞くにあたって予備知識をつけるがてら、他の人がまず気になる点を1人1、2個質問するのを聞いてみましょ?それが終わったら一から説明ねルイ君」
「むむ、なるほどぉ。確かにその方が話が頭に入りやすいかも?よし、分かりましたシンシアさん!」
「良い子ねー、ルイ君とは大違いねぇ。よしよし」
「ぬふふっ、美人が撫でてくれてるぅ!」
何やってんだあの2人……。
「じゃあまずアタシからよ!どうせ他のメンバーも気になってるでしょうけど、アンタ異世界人なの?!」
「まぁそこからだよね。えっと……魂?意識は異世界人で、身体はこっちみたいな。転生して記憶がある感じ」
「そうなんですかルイお兄様……?いえ、9年前という事は9歳頃から?」
ローズマリーが堪らずといった感じで質問するので、首肯しておく。
「そ。ほらマリーに魔術の質問した事があったろ?あの時くらいからだよ」
「あぁ……いきなり優しくなったのはそういう…」
理解しつつも飲み込めない様子のローズマリーに対して、フラムリリーはニコニコしている。
「ルイ兄様はルイ兄様です。優しくなってもルイ兄様です、変わらず大好きですぅ」
「おーよしよし、リリーも優しいぞ。相変わらずそういう所ホント大物だよお前は」
いや本当に。一瞬で受け止めて飲み込むんだもんな。すげぇよこいつ。
「あ、そっか。お兄ってこっちでも家族がいるんだよね、どんな家族なの?」
「いわゆる貴族だな。侯爵家のダハーカ家ってとこ」
これにまたもや何人かのメンバーから驚愕の声が上がったが、まぁほとんどの人は察していたらしくやっぱりかという顔をしている。
「ほほー、それじゃルイ・ダハーカになるんだ!かっちょいい名前になって!」
「ミドルネームもあったけどな。ま、もう籍を抜いたから単なるルイだけど」
「いつでも帰ってきていいですよルイ兄様ぁ!」
「ですね。大歓迎ですよルイお兄様」
ニコニコと笑うフラムリリーと澄ましたローズマリーにそんな事を言われるが、そのつもりはないのよ。
「まぁ気持ちだけはもらっとくよ、ありがとな」
「じゃあお兄。一番気になってた事聞くけどさ、多分私に巻き込まれたんだよね?なんで別々な上に先にお兄がこっちにいるの?」
「あー……シヴァ様、これって言っても大丈夫?」
一応超越者仲間だと思われるシヴァ様に確認すると、彼女は手をひらひらと雑に振る。
「構わぬ。どうせカイロスの奴も気にすまい」
「そっか。じゃあ答えるけど、本当は俺って時空の狭間に落ちて死んだらしいんだよ。それを神様のオッサンに助けてもらって、時間を巻き戻した状態で転生してもらった」
「えぇぇーー……色々気になる点はあったけど、とりあえず何で時間戻してもらったのさ?」
「そりゃお前、普通に転生したら今この時点で俺0歳だぞ?嫌だわそんなもん。だから今この時点で18歳になるよう調整してもらったんだよ」
これはオッサンも面倒くさそうにしてたもんな。めちゃくちゃお願いし倒したわ。
「うぇえええ?!神様すっごー!てか待ってよお兄、それじゃ今実質27歳?」
「あ、そうなるか?ただ肉体年齢のせいか、感覚的には歳を重ねるってより繰り返した感じかな。だからもう一回18歳になったって感覚なんだよな」
「ほえー。確かにあんまり大人になった感じしないもんね!」
やかましいわ。まぁその通りだけどさ。
「それにしても神様は太っ腹だねー。私なんか一言もらっただけだよ?」
「え、誰かに会ったの?」
それは初耳。マジか、意外と転生者に対して神様って会いに行くもんなんだ。
「うん、すっっごい美人で、長い薄ピンクの髪の人、いや神様?超優しそうだったよ。それで『ごめんね』ってだけ言われた」
「……シヴァ様?」
「アモーリアじゃの。ヤツがこの世界の管理の代表みたいなものじゃし、澪の一言声をかけただけじゃろ。気にする必要はない」
じゃあ俺みたいに対価的なのはないのか。良かったぁ。
「……ルイ、妹に会う対価にベヒモウス倒すって言ってた。もしかして取引相手は神様?」
クルルの質問に、シヴァ様以外が目を剥いて俺を見た。
「お、正解!実はそうなんだよね、空間魔法と18年前に巻き戻した転生が前払い。で、後払いに澪の情報。これらを対価がベヒモウス討伐って訳」
「ちょ、ホントに?!神様鬼畜すぎない?!」
「あの神獣を討ちにこの世界に来たのか……地獄のような試練だね」
「それで本当に倒してるからすごいわねぇ……」
色々反応が返ってきたけど、まぁすでに終わった話だしね。もはや笑い話よ。
「? ベヒモウス?何そのちょっとかっこいい名前のやつ」
「こっちの長生きしてる魔物ね。もう察してると思うけど、バリバリ剣と魔法の世界だからなこっち。魔王より強い魔物もいるし」
「ほえー、魔王が一番強くないのは意外。てかお兄、聞いた感じだとまぁ〜た無茶したの?」
無茶?いや無茶という程ではないと思う。
「そうでもないって。ちゃんと計画立てて安全マージンとりながらやってたよ」
「嘘つけバカルイ!」
「二つ名が『血濡れの狂獣』のくせによく言えたね」
「無茶と無謀をあの手この手で潜り抜けて生き延びてるようにしか見えないよね」
ここぞとばかりに言うメンバー達。
「………お兄?」
あれ、そんな印象なの?まぁ確かに何度か危ない事はあったけどさ。
「もう、もうっ!もーうッ!お兄のバカ!ちゃんと自分を大切にしなさいっていつも言ってるでしょ!何回言えば分かるかなーこのおバカ兄は!」
「いてっ、ちょ、ごめんって。ほらもう澪に会えたから無茶しないって」
「この流れで言われても全然信用できないよ!もう!そんな無茶したなら寿命減ってるんじゃないの?!あたしが死ぬまで生きてもらわないと困るの!」
怒る澪に、シヴァ様が口を挟む。
「ふむ、それなら心配いらんぞ。もうこやつの寿命は人の倍以上あるしの」
「「「は?」」」
え、サラッと何言ってんの?何それ初耳すぎる。
ちょいちょい、シヴァ様それマジすか?
「って何でお兄もビックリしてんのさ?!」
「いや俺も初耳なんだもぉおん!ちょいシヴァ様それ本気で言ってる?!」
「やかましい兄妹よの……お主、もはや人の枠を越える一歩手前まで来とるのじゃぞ?寿命くらい多少は伸びるわ」
「倍以上が多少?!これだから超越者はッ!」
「うえええっ?!お、お兄が人間辞めかけてる?!」
驚く俺達に構わず、シヴァ様は淡々とした様子でふむと頷く。
「ふむ……澪よ、親類のお主には一応伝えておこう。お主の兄はあと一柱『王』を倒せば不老となり、寿命から解き放たれるぞ。つまりだ、魔王を倒せばこやつは不老の超越者という存在になる」
「「「えぇえええ?!」」」
これには俺以外の全員が驚愕した。うん、そういや言ってなかったね……。
そんなメンバー達に、シヴァ様はにこやかに笑う。
「かかかっ、まぁお主らが心配しがちな不老故の孤独は心配いらぬよ」
そう言って、何人かのメンバーを挑発するように見てから悠然と、超然とした気配を滲ませて微笑む。
「そうなれば、我がこやつの隣にいてやるからの。何、生に飽きさせなどせぬ。我が可愛がってやろう」
「うっはぁ〜……なんかえっろ」
いや反応おかしいだろ澪ちゃんや。この話の感想がそれかよ。
「……ふむ、嘆かぬのか?お主とは生きる時間軸がズレたとも言えるのじゃぞ?」
「え、別に。全然ですよ。だってお兄が生きたいなら生きて、死にたいなら死ねばいいですし?まぁあたしが生きてる間は死なせませんけど」
「ほう。死ねる事に気付いたのかの」
「そこは消去法ですね〜。もし不死ならそう言うでしょーし、そうだとしたらお兄は絶対その超越者にはなりませんよ。だってお兄ですよお兄」
周りを見れば、この言葉に納得したのはシンシアだけだ。まぁシンシアは俺を理解してるからな、分かるわな。
「それに、お兄と生きたいならあたしも超越者になればいいだけですし」
「クハッ、かっかっか!これは一本とられたの!澪、お主は確かにルイ坊の妹じゃよ!」
機嫌良さそうに笑うシヴァ様に、澪はにんまりと猫のように笑う。
「当然!それにあたし一人じゃ無理でもお兄が手伝ってくれますしねー。ね、お兄?」
「まぁ澪がなりたいならな。今んとこそんなに長生きするつもりないんだけどさ」
「くふふ、甘いよお兄!それは地球にいた頃の話でしよ?環境次第で性格は変わるんだよ?だったらお兄だってこんなに環境が変われば、もしかしたら長生きしたいって変わるかもじゃん!いつまでも自分の命を軽く見れると思わない事!」
これには誰もが、俺やシヴァ様ですら目を丸くして言葉を失った。
あぁ、懐かしい。
これが澪だ。
一分の隙もないくらい前向きで、空っぽの俺ですら生きようと思わせる程に明るく眩い存在。
「……そうだな、澪。そうなるかもな」
「くふふふ、そうそう!今だってお兄もちょっとは根っこの隠してた部分から明るくなってるしね!これからだよ、これから!」
いやぁ、やっぱすごいわ澪は。
9年余分に生きたってのに勝てる気がしない。
見れば、シンシアも眩しいものを見るように目を細めている。
「よし、じゃあお兄!そろそろいいでしょ?1からきっちり説明よろしく!」
今やっと実感できた。
俺はやっと、妹である五十嵐澪に再会出来たのだと。




