070.エピローグ
「ローズマリー・ノブル・ダハーカ!貴様との婚約を破棄する!」
煌びやかな広間の壇上にて高々と宣言された言葉に、会場から数拍ほど音が消え去り、そしてざわめきが溢れ返る。
「だが安心するがいい。ダハーカ侯爵家には迷惑になるまいて。なにしろ新たに婚約するのはフラムリリー・ノブル・ダハーカなのだからな!」
おーおー、あれが第一王子かぁ。
ジェラール・グラン・リンデガルド殿下だっけ。王族のグランを持つ正真正銘直系の嫡子、か。
なるほど、確かにシンシアが言うようにイケメンだわ。シンシアの好みってこんな感じなのかね……あれ、なぜか寒気が。
『なんか変な事考えてないかなールイ君?』
『え、なんか怖。いやシンシア好みの顔ってこんな感じかぁって思ってさ。別にサボってないよ?』
『私好み?まさか殿下の事?は??風評被害で怒っていいよねー?』
えぇー……いやイケメン言うてましたやん。
『ま、まぁまぁ。え、いやなんで怒られてるの?』
『んー……まぁ今回のはさすがに私が悪いか。ごめんごめん、お詫びに今度ご飯でもつれてってあげるね!』
『お、やった。シンシアの紹介の店毎回美味いもんな!楽しみにしとこ』
んふふふ、と悪戯が成功した猫のように笑うシンシアの声を通信魔法具越しに聞きながら、話が進む会場を眺める。
「……フラムリリーも、承諾しているのかしら?」
「お、お姉様……あの、その…」
「はぁ……大丈夫よ、リリー」
「あぅう……す、すみませぇんお姉様ぁ…」
今にも泣きそうな顔でうるうる瞳を潤ませるフラムリリーに、ローズマリーは何かを堪えるように顔をしかめた。
しかしフラムリリーは作戦遂行は厳しそうだなぁ……誤算だわ。王族とこの大勢の前で完全にカチカチに固まってる。
『あー、末の妹リリーがテンパって硬直中。王子をコテンパンにフるのは無理かも』
『ありゃ。まぁ仕方ないわねー。それじゃマリーちゃんだけはしっかり婚約破棄して、リリーちゃんは濁して撤収。処置は後回しで』
了解、と返してマリーにアイコンタクト。それを受け取ったローズマリーは再び視線を王子に戻した。
「ジェラール様……いえ、殿下の仰る内容は理解しました。破棄についても一切構わないのですが、その前に質問の許可を賜りたく」
「……なんだ」
「ありがとう存じます。先日召かーーいえ、王宮の賓客として参られたミオ様とも懇意になさってると耳にしましたが、今後どのような対応をなさるのでしょうか?」
おー、かましてやったなぁ。
まぁ澪が来るまでは好きにやっていいとは言ったけど、初手急所口撃とは流石だわ。
「何故貴様がそれを……」
「それについては野暮というものです。殿下、どうかご返答くださいませ」
まぁ『聖女』の希少性と地位ってただでさえ高いのに、魔王戦時下だと下手な傍系王族より上らしいしね。
流石の王子でも好き勝手言えないんだろうなぁ。
だからこそ急所だってシンシアがローズマリーにアドバイスしてたっけ。
「……彼女の意思さえあれば、側妃に迎えるつもりだ」
まぁそう言うわな。てか今のところ怖いくらいシンシアの言ってた流れだな……。
『……お、澪がもうそろそろ着く』
『はいはーい。こっちもテッドとカーラは合流したわよ』
そんな簡単な報告をしてると、広間の扉が音を立てて開かれた。
「待て、何者だ?!」
「あ、えっとー、五十嵐澪といいます」
「イガラシミオ……?ミ、『ミオ』?!」
小柄で可愛い顔立ちの、染めてない黒髪黒眼の小動物を思わせる容姿。
間違いない、澪だ。
……はははっ、良かった元気そうだ。
いやぁ9年ぶりなんだけど見た目が変わらないからか、案外そんな気分にならないな。
ただあの分かりやすい表情は変わらないな。つい口元が緩んでしまう。……あ、ローズマリーに睨まれた。すんません。
「あぁ、ミオ。よく来てくれた。丁度良い、皆にも紹介したかったのだ。………一生大切に愛すると誓う。どうか私とこの国の為に生きてはくれないか?」
…………はァ?
いやいや落ち着けよ俺。分かってる、ここで仕留めちゃダメだよな。
『シンシア、王子暗殺の許可を』
『却下よ、おバカ』
「ちょ、ルイおに、ごほん、ちょっと貴方……」
シンシアとローズマリーからダブルストップをもらってしまった。
そうだね、仕方ない。仕方ないから手が滑っちゃう事にしよっと。
「え、ごめんなさい」
おーし、さすが澪だ!あんなナンパな奴にお前は任せられん!しかも結果的に計画通り!ナイスだえらいぞ澪!
『澪が王子を面前でフった。頭撫でに行っていい?』
『あとで私の頭撫でていいから止まりなさーい。ほらステイステイ』
なんやかんやシンシアとじゃれてると、愕然とした王子が震える声で澪に言う。
「な、何故だい?私はこの王国の第一王子で、将来の王だ。君に不自由はさせないし、愛をもって接する事を約束するよ」
「えっしつこぉ……いやぁごめんなさい。あたしの彼氏は、まずお兄の許可がないとダメなんですよねー」
えへへ、と頬をかくミオに、ジェラールは完全に言葉に詰まった。
出たよ澪の謎ルール。一応言っとくけどこのルールは俺何も言ってないからね?本人の独自設定よあれ、信じられる?
「てゆーか、あれってローズマリーにフラムリリーじゃん……ここってやっぱりお兄と一緒に読んでた小説の……」
おぉ?さすが澪、俺と違ってちゃんと小説の内容覚えてるっぽい。
これは助かるな、後で色々聞いておかないと。
「よし分かった!ではその兄も召喚してみせよう!その代わり、ミオは私と婚約しろ!」
いやここにおりますがな。
てか召喚とか言っていいもんなん?シヴァ様的にはだいぶアウトのはずなんだけど。
「で、殿下?!このような場で!」
あ、やっぱダメなのね。何やってんだ王子は……。
「うるさいぞローズマリー!貴様が余計な質問さえしなければ……!ええい、貴様なんぞ国外追放だ!今すぐ出ていくがいい!!」
おー……ちゃんと小説の流れに繋がりはするんだ。
まぁ追放されたとしても死にはしないけど、いざ実際に立ち会うと従う理由がなさすぎるな。
「……本当にこうなるのね、驚いたわ」
「だから言っただろ。まぁ色々予想外な紆余曲折はあったねどな」
独り言を呟くマリーに答えつつ、頃合いだと判断して一人頷く。さて、そろそろオーケーだろ。
『マリーが婚約破棄を受け入れて、澪がフって、王子がやらかした。そろそろ澪の回収に入る』
『うん、おっけー。あ、ルイの自己紹介は名前だけにしとくといいよー。その方が混乱すると思うから』
そうなの……?
まぁいいや、シンシアが言うならそうなんでしょ。
さて、『気配制御』を解除してと。
……おー、ざわめいてるねぇ。会場中から視線が集まる集まる。照れはしないが、居心地は悪いなやっぱり。
まぁいい。さて、澪に挨拶でもするかね。
「お、お兄っ?!!」
「よぉ、澪。迎えに来たぞー」
「え、なんで?!お兄がここに?!え、えぇっ?!」
「だはははっ、サプラーイズ!」
ビックリしてるなぁ澪は。
まぁそりゃそうか。俺も逆の立場ならびっくりするだろうし。
さて、次は王子サマか。やる気出ねぇ……。
「き、貴様何者だ!いつの間にここに忍び込んだ!返答によってはこの場で捕えるぞ!」
「ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。本日はローズマリー・ノブル・ダハーカ侯爵令嬢の護衛として生徒に紛れさせて頂きました。名前はルイと申します」
「ルイ……ルイ?ルイだと?!まさかあの『狂獣』か?!」
おぉ、本当だ、びっくりしてる。
……あぁ、あえて確定しない方が推察が入り混じる分人の興味を引く訳な。周りが本当かどうかざわついてるわ。
「おおおおお兄?!何なの『狂獣』って?!中二はとっくに卒業したんじゃなかったの?!」
「ちょバカおま、それは言うなって!うぁーもう、恥ずかしいだろ?」
「需要のない照れ顔はいいから!え、よく見たら目も赤いしなんかがっしりしてない?あれ、お兄だよね?おバカで可愛いお兄の五十嵐類だよね??」
「容赦ないね相変わらず……ほらどう見ても澪の頼れるお兄ちゃんだろ。澪こそ相変わらず可愛くて何よりだ」
ブラコンの兄はシスコンか、と聞こえてきたがスルー。
さてと、澪も回収してしそろそろ帰ろっかね。
悪いがよろしく!とローズマリーにアイコンタクト。
「もうお話どころではなさそうですし、本日のところはフラムリリー共々下がらせて頂きます。よろしいですね?……それと殿下、念の為に忠告させてもらいますが、もし強硬な手段をとろうものならーー『血染めの狂獣』が黙っていない、とだけ申しておきますわね」
「その名前マジでやめて…」
「では私はこれにて。ごきげんよう。……ほら行くわよリリー。それとル、ルイと……ミオ様、でよろしいかしら?」
「え、あっはい!お兄が行くなら」
「おーよしよし、ついておいでー」
「うんついてくー!」
うんうん、可愛いな澪は。
さてと、それじゃ撤退するとしますかね。
「それじゃ澪、王都にいるとわんさか澪に男が群がるからな。しばらくは秘密基地に隠れてよっか」
「りょーかいでござる!でも人いっぱいいるけど逃げれる?」
「大丈夫大丈夫、ほれ捕まって」
「はーい!」
澪の手を掴み、指輪を起動。
視界の端でローズマリーも転移魔石を起動させてるのが分かったし、これでさよならだな。
あとはフラムリリーだけ父上に任せよ。父上なら上手くやるだろうし、もし何か問題があれば連絡をもらえばいいしね。
こうして俺はやっと妹と再会出来たのだった。
タイトル回収とプロローグに追いついた事もあり、ここで一応完結とさせて頂きます。
ここまでお読み頂いた方、誠にありがとうございました!




