069.お迎え準備
それはクランの依頼を終わらせてクランハウスに戻ってきた時の事だ。
「……ん?」
ふと空間に違和感を覚えて視線を向けると、そこがぐにゃりと歪み、そして見知った顔達が現れた。
「……ほう、転移を感じ取ったか。だいぶ力が馴染んでおるの、ルイ坊」
「おぉ、自分でもびっくりだ。なんか気付けちゃった」
最初に現れたのは、やはりシヴァ様だった。
そして続々と現れるクランメンバー達。
「……懐かしの我が家」
「っはー、疲れたぁー。ルイ君ご飯ちょーだーい」
「はは、いまだに転移は慣れないな……」
帰って早々自由に動き回ったり要望するメンバー達に、俺は苦笑いを浮かべる。
「それもいいんだけど、なんか報告があるんでしょ?わざわざ全員で来るなんてさ」
「そうじゃの。とはいえ、今のお主なら少しは勘付いておるのではないかの?」
ふんと鼻を鳴らすシヴァ様に、俺の疑念は当たっていたのだと気付き、口角が持ち上がる。
「……ついにかぁ。本当に待ち侘びたわ」
「ふ、じゃろうの。さて――待望の妹とやらが召喚されたぞ。準備はいいかの?」
そう、ついに澪がこの世界に来たのだ。
なーんとなく空間が揺れた気がしたんだよなぁ。
気のせいかとも思ったけど、妙に気になってたのはそのせいか。
「まぁ一応。といっても策が上手くいくいかないはどうでもいいけどね」
最悪失敗して穏便に済ませられなかろうと、国を敵に回そうと……澪は必ず連れ戻す。
これは確定事項だ。
「んふふふ、まぁルイ君の気持ちも分かるけどね。どうせならサクッと手間なく確実に取り返そうじゃないの。大丈夫よ、下準備はしてるから」
しかしやはり頼りになるクランメンバー、特にこの謀略の鬼であるシンシアさ……シンシア。
「さすがだわシンシア。……いややっぱ慣れないな呼び捨て」
「そう?私は慣れたわよ。呼び捨ての方が嬉しいしね?」
にこりと笑うシンシアに、俺は苦笑いを浮かべる。
どうせこうやって丸め込まれるんだよ俺は。
「それより下準備って?」
「皆んなに手伝ってもらったんだけどさ、第一王子殿下の噂を流してもらったの」
その噂とは、まぁぶっちゃけほぼ単なる事実だった。
内容は、『婚約者がいながらその妹ばかりに色目を使って浮気をしようとする浮気者』
『その妹は嫌がってるのに手籠にしようとする強欲な権力者』
『婚約者の姉は妹を庇おうとするが権力には勝てず、姉妹二人は毎日泣いている』等というもの。
3番目だけは盛ってるな。泣くどころか自由を謳歌して魔境で暴れ回ってるし。
「この噂が着実に浸透してるのは確認済みよ。あとはダハーカ侯爵令嬢姉妹にこっぴどくフラせれば哀れな王子の出来上がり」
「だっはっは!そりゃ楽しみだな」
散々気苦労かけてくれたからなぁ、第一王子サマには。それなりに痛い目を見てもらっても心は痛まない。
「で、肝心の妹ちゃんね。これ聞いても先走らないでよ?」
そう前置きして、シンシアは説明を続ける。
「ほぼ間違いなく第一王子殿下は妹ちゃんを取り込もうとするわ。その方法は婚姻とみて間違いないと思うの。だからその妹ちゃんもダハーカ侯爵令嬢姉妹と一緒に王子をフっちゃいましょ」
なるほど、全部まとめて片付けるのか。
シンシアさんらしい手間を最小限にした方法だな。
「でもその話の打ち合わせは事前に出来るもんなのかな?」
「方法はいくつか考えたんだけどね。ただその前にルイ君に質問。その妹ちゃんって、ほぼ初対面のイケメン金持ちに告白されて靡くようなタイプの子?」
んー……いや、ないな。
「まずあり得ないなぁ……なるほど、打ち合わせする必要もほぼない訳ね」
「妹ちゃんが大丈夫なら必要ないわね。まぁ例の婚約破棄パーティとやらに鉢合わせる為の根回しは必要だけど」
そっか、その場にいるとは限らないもんな。
うーむ……転移で連れて行こうかな。
「シヴァ様、澪の居場所を俺に教えたりとか出来たりする?」
「お主の考えは分かるが、難しいの。残念ながらルイ坊の魔力感知は鈍いからの」
ぬぐぐ、ダメかぁ。どうもそこらへんは苦手なんだよなぁ。
「大丈夫よ、安心しなさい。ちゃんと考えてるわよ」
「頼りになるぅシンシア先生!」
「……呼び捨ての不慣れを誤魔化しにきた」
「おっとクルル、今そういうのいらない」
勘の良いガキは嫌われるらしいよ?
「相変わらずねぇ、ルイ。別にアタシには敬語でもいいわよ?」
「あ、久しぶりカーラ!今日は香水弱めなのな」
「あっさりタメ口!てかアンタそんな懐かしいネタよく覚えてたわね?!」
そんな茶々を全員と挟みつつ、話は結論へと向かう。
「それじゃパーティで姉妹による王子への婚約破棄。そのパーティには俺がローズマリーの護衛という形で隠密潜入。そして――」
俺がカーラを見る。
「アタシは事前に魔術研究に用があるという建前で王宮に入り、付き添いとしてテッドを連れて行って」
カーラがテッドを見る。
「ボクが妹ちゃんに学園パーティの招待状を手渡すんだね!はっはっは、久しぶりの本気の斥候モードだねぇ」
テッドは朗らかさに少し鋭さのある笑みを浮かべた。
「最後にダハーカ侯爵閣下に頼んで、澪を学園まで送り届ける、って感じね」
そう、まさかの父上が協力してくれる事になったらしい。これを聞いた時はさすがに驚いたな。
どうやらシンシアがローズマリー経由でお願いしたらしく、色々報酬も考えていたらしいがほぼ無償で引き受けてくれたとの事。
父上には澪の事は何も言ってないはずなのにね。……多分俺やマリー達の為だろう。ありがたいやらむず痒いやらだなぁ。
父上から澪に手紙を渡してもらえば楽かと思ったけど、澪に付いているであろう王宮の護衛やらに俺達との繋がりを悟られない方がいいと判断したそうだ。
「パーティの招待状は私が手配してるわ。明後日には届くから、そこからはカーラとテッドの出番ね」
「任せなさい」
「ふふ、必ず成功させてみせるよ」
頼もしすぎて笑いが出るわ。かっけぇな相変わらず。
それじゃ俺も気合い入れてかないとね。
「最後に。作戦終了後はしばらく黒の森にあるルイ君の拠点に隠れるから、各自運んでおきたい荷物はそれまでに移動しておくようにねー」
はーい、とノリよく返事をするメンバー達。
それらを眺めていたシヴァ様は、ふむと頷いてからメンバーを見渡して、それから俺を見た。
「ルイ坊、使い捨てじゃがお主にプレゼントをやろう」
「え、おう。どしたの急に」
「いいから受け取れ。……ほれ、これをどう使おうとお主の勝手じゃ」
手渡されたのは、見慣れた魔法陣が刻まれた魔石が12個。
その魔法陣は、俺の左手薬指におさまる指輪――転移の指輪に刻まれているものと同じだ。
「……ツ、ツンデレ……!」
「それ辞めぬかの?意味は分からぬが妙に腹立つんじゃよな」
いやだってさ、明らかに俺以外のクランメンバーとフラムリリー、澪用じゃん。
黒の森に転移できる使い捨て魔法具とかもう優しさ隠しきれてねぇよツンデレさんめ。
「ありがとうシヴァ様!最高のプレゼントだ!」
「ふ、そうじゃろ。感謝せえ」
ははー!と崇めておき、その魔石を全員に配る。
全員興味深そうに魔石を眺めてから、各々懐にしまっていった。
「んじゃ仮にもお飾りとはいえクランリーダーをしてる俺からもみんなにプレゼントしまーす」
次は俺からね。
ちょいちょいS級の中でも強い魔物を狩る依頼もあったからね。それなりに良い魔石を仕入れたのよ。
それをもとに錬金付与術で作り上げた、俺の指輪と同じ魔法具。
「簡易空間収納の指輪型魔法具でっす。容量は少ない代わりに出し入れ簡単なんで、武器や不意打ち用の暗器とかの収納をオススメするよ」
おぉ、とほのかに湧くメンバー達に俺も気分が良い。
はーっはっは!さぁ感謝せぇい!
「ありがとルイ君!それじゃ大事に使わせてもらうね?」
そうとろけるような柔らかい笑顔で、シンシアさんはそっと撫でるように左手薬指にはめた。いやなんか無駄に色気出てるんだけど……。
「……私2個目。なんか新しく入れるもんも寄越せぃ」
既に同じ物を一つあげていた『イクリプス』からの仲間であるクルルは、感謝どころか更にたかりにくる。
まぁこいつはそういう奴だ。故にクラン指名の依頼書をくれてやる。
「はっはー、これは素晴らしいよルイ君!矢の収納用にもう一つくれないかな?」
「ウチも短剣2本持ちだから両手分にもう一つ欲しいっすよルイ君!」
いやクランメンバー大体こんな感じだったわ。
まぁいいけどね、別にそれくらいさぁ。
てかこれだけ渡してまともなお礼言ってくれる人半分くらいしかいないんどけど。
「はいはい、どぞどぞ」
俺が使っている指輪を外してテッドさんとダリアさんに渡す……が、先にシンシアがそれをとった。
「……シンシアももいっこ欲しかった?」
「んー……いや、一つで大丈夫だよ?はい、どうぞ」
何事もなかったようにその二つを二人に渡した。
何だったの?と思わなくもないが、ダリアさんも分からないとばかりに首を傾げてるし、俺も理解を放り投げる。
「……手渡しは嫌とか、すごい独占欲」
「ん?」
「……気にしないでいい」
なにかクルルも言ってるけど、まぁいいか。
さておき、これであとは澪を迎えに行くだけだな。
あー9年ぶりだ!楽しみだなー!




