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068.一年間

「あー……暇だなぁ」


「……全然釣れない」


 シンシアさんと色々話をしてから数日。

 釣り竿を2本完成したところ、休みで暇そうにしてたクルルがいたので誘って釣りをしている。

 息抜きと趣味をかねた休息というヤツですよ。サボりではない。


「……場所が悪い」


「いや俺の勘ではここに大物がいるんだよ」


「……そう言ってもう2時間釣れてない。次は私の勘で選ぶ」


「ほほー?言うじゃんか。じゃあ俺はここに残って大物を釣るからな。クルルは自分の選んだ場所で釣って勝負だ!」


「……負けたら罰ゲーム」


「上等だ!後で泣いて謝っても知らんからな!」



 2時間後、箱いっぱいの魚を持ってきたクルルに惨敗した。






「ほう、豪勢じゃの。よく釣れたようで何より」


「……全部私の。あのザコ介はボウズ」


「ぐぅう……人生トップスリーに入る悔しさ…」


 はい、只今持ち帰った魚の下処理中です。

 ハリスト道具店で売ってた包丁でザクザクスパーンと頭を落として三枚おろしにしていき、せっせと刺身や焼き魚にしていく。


「わさびってどこかに落ちてないかなぁ……」


 なんちゃって醤油も作り、お酢は普通に売ってるから合わせてなんちゃってポン酢だって作ってる。

 けどやっぱり刺身にはわさびが欲しい。どっかにあるとは思うけど見つからないんだよな。


「……ぼやいてないで、早くやる」


「へいっ」


 ふふん、とドヤ顔するクルルの言うがままに手を動かす。今度勝ったら絶対にクルルにやらせようと決心しながら。


「ふむ。刺身のう……昔に一時期流行ったが、貴族で腹を壊す者が出てから寂れていった食べ方じゃの」


「あ、やっぱありはしたんだ。んー、寄生虫でも入ってたのかもな。そこらへんチェックしながら刺身ひかないと危ないし」


 特に青魚はね。アニサキスのヤツはマジで油断ならないからな。こっちの世界にもいるのかは知らないけど。

 まぁ大丈夫だろ。最悪クルルの治癒魔法もあるし。


「……ところでルイ坊よ、昔は添え物に緑の辛い薬味があったぞ?それはないのか」


「おぉお?!やっぱわざびあるのか!でもシヴァ様、それまだ見つけれてないんだよ」


「ふむ、我も自生しとる場所は知らんな」


「あーシヴァ様もかぁ。まぁしゃーないか」


 そのうち見つかるだろ。多分。


「……クランメンバーも呼んでる。急がないと間に合わない。手を動かせぃ」


「へいっ!」


 んのやろー。俺が遅いみたいに言いやがって。伊達に飲食店で働いてないってとこを見せてやるわい。


「おっ、なかなか良い手際じゃの。やるではないか」


「ふははは!じいちゃんに散々やらされたからなァ!なめんなよオラオラいっづぁ!」


「……ぷぷ、だっさ」


「うっせぇええ自己治癒ゥ!」


 とか騒ぎながら調理して、無事12人前の刺身と焼き魚を仕上げましたとも。

 さすがにこの人数だと一人当たりの量も少ないし、追加でアジ・ダハーカ肉も焼いとくか。


 

 結果、肉の方が人気でしたね。やっぱ皆んな肉が良いのかッ!






「さーて。お腹もいっぱいになった事だし、少しお話がありまーす」


 食後に切り出したのは当然というべきかシンシアさんで、全員が食事の余韻が残る顔で彼女に視線を向ける。


 しかしあれだね。

 あれ以来初めて会うけど、少し気恥ずかしいな……シンシアさんは余裕、どころか意味ありげにウインクなんかしてるけど。やっぱこの辺が勝てないところなのかね。

 ほら、いいから話を始めちゃってください、と目で訴えておく。


「……コホン。勇者君のことだけどさ。王国の有望な若い女の子達3人を加えた4人パーティの『聖なる光』ってパーティを正式に結成したみたい」


「せ、『聖なる光』……ぶはっ」

「……ふっ、ネーミングセンスやば」


「アンタ達には言われたくないと思うわよ?」


 俺とクルルが笑うと、カーラさんにじとりと睨まれた。まぁはい、図星すぎる。言い返せずにしゅんとする俺とクルル。


「今のところはB級だけど、すぐにA級になるだろうし……恐らく一年程度でS級になると思うわ」


「へー、S級かぁ。なんか手頃な功績でもあるんすか?」


 S級に国家が認めるには分かりやすい功績が必要だしね。俺でいうベヒモウス討伐みたいな。


「んーん、そんなものいらないわよ。『勇者』がリーダーってだけでS級になると思うわ」


 あーなるほどね。コネとか見栄とかの話か。


「あ、もしかして俺達の顔を潰したい貴族とかがバックについたりとか?」


「おっ、ルイ君鋭いじゃなーい。多分こちらの評判を下げる工作とかもあるでしょうねー」


「えぇ、適当に言った冗談だったのに……」


「ちょ、貴族汚くないっすか?!」


「あのねダリア、貴族なんてそんなものよー?」


 ケラケラ笑うシンシアさんにダリアさんは納得いってなさそうな顔でぐぬぬしてる。

 他のメンバーもそれぞれ反応は違うが、全員良い顔はしていない。


「まぁ1、2年程度で実力的に抜かれる事はまずないしねー。その『聖なる光』が勝てずに失敗した仕事を私達がこなせば分かりやすく格上の印象がつくわよ」


「……流石シンシア、お腹真っ黒」


「クルルちゃあん?今度二人でデートしましょ?」


 ごめんなさい、と即謝罪を決めるクルル。

 ったく、なんて無謀な真似を……無茶しやがって…。


「あと魔王軍は現在完全に沈黙状態ね。まぁ次の四天王を決めて軍の再編でもしてるんでしょ」


「ほう。ではこちらから追撃に出るのかな?」


 いや出ねぇよ。クレアさんって爽やかな女子と見せかけて結構好戦的だよな。


「それも面白そうだけどねー。しばらくは実力を上げたいのよねぇ」


「ふむ……先日の我々の強さについてか」


 そう呟いたシンシアさんとクレアさんは、チラリとシヴァ様を見る。

 そういえばこの前実力を伝えてたっけね。


「……ふむ。お主らもよく鍛えとるがの、ルイ坊を除く全員で挑む前提でも、魔王には勝てぬの。幹部どもなら1人を除いてギリギリ勝てるとは思うがの」


「全員でも勝てない幹部がいるのか……」


「……シヴァ様よ、ルイならどこまでやれるんじゃろうか?」


 モーガンさんの問いに、シヴァ様は鼻を鳴らすようにして笑う。


「どこまでも何も、今のルイ坊なら魔王にも一対一で勝てるの」


 その言葉に、シンと沈黙がおりた。

 それを破るのは、まぁやはりシンシアさんな訳で。


「はいはーい!そういう訳で、数年前まで可愛い後輩だったルイ君におんぶに抱っこってゆーのも腹立つじゃない?だから少し実力をあげようって話になるのよ」


 まるで会話の流れを把握しているように切り出すと、先程同じ言葉を言った時よりも明らかにメンバー達が燃えていた。


「でも、私達はS級クランなの。指名依頼もあるし、ずっと修行してる訳にもいかないわよね?」


 まぁそれはそう。

 俺は散々自由に動き回って、たまーにメンバーにお邪魔する程度しか依頼をこなしてないけどね。特にここ最近は別荘建築に忙しくて……はい、本当すみません。


「で、も〜。私達が必死に依頼をこなしてる間、割と自由に遊び回ってた人がいると思わない?」


 そうシンシアさんが言った瞬間、バッと勢いよく全員が俺を見た。


「あ、あはは……その節はすみませぇん…」


「んふふふ、いーわよ別にぃ。おかげで別荘なんて作ってたんだって?今度皆をお誘いしてくれるわよね?」


「も、もちろんですっ!へへへ、海辺の別荘、是非いつでもお声掛けくださいっ!」


 ここでふざけたらヤられる!と、必死に媚を売る俺。果たしてリーダーとは何なのか。


「まぁそれは当然として〜……そろそろ交代するのも良いかなーって思うの。ねぇクルルちゃん?」


「……ん。ルイ、ここで申し渡す。釣りに負けた罰ゲームは――半年間、クランへの依頼をこなす事」


「は?え、ええ?……ちょ、まさか俺1人で?釣りに負けただけで?!」


「討伐系と採取系はいけるでしょ?護衛で人数が必要だったら誰か呼んでいいわよ?あ、交渉ごとなんかは私に相談してね?」


 あ、ガチだこれ。もう話を固めに来てる。


「ちょ、ちょーっと待ってくださいませんかね?!その、俺も色々と準備しておきたい事があったりなかったり……」


「じゃあその都度内容を教えてね?その内容が本当に必要なのか皆んなで確認して、許可されたらその間は準備でも何でもしていいわよ?」


「え、あー……はい。…………詰んだ」


 んふふ、と笑うシンシアさん。いや、よく考えてみたら俺がシンシアさんに口論で勝てる訳がなかったんだ。


「……分かりましたぁ。やりますぅ」


「まぁまぁ、そう拗ねるんじゃないよ〜ルイ君!たった半年さ!」


「いやテッドさん。たった、なんすかね半年って」


 はっはー、と陽気に笑うテッドさんを恨みがましく睨むが、小揺るぎもしない。この人ある種無敵の人だよな。


「それと、呼び方ね。ルイ君、仮にもリーダーなんだからさん付けと敬語はそろそろ辞めなさい?」


「え、マジすか?先輩達にタメ語はちょっときついっすよ」


 まぁ崩れ敬語だけど。


「却下。うちうちの会話ならいいけど、外でそんな風に話してると舐められるわよ」


「だね。私のパーティもモーガンやテッドは年上だけど、リーダーとして敬語は使ってないさ」


「まぁアタシはリーダーじゃなくても敬語なんて使ってないけど」


 2パーティのリーダーから言われた。まぁカーラさんについてはね。ツンデレだしね。


「そっすよ!リーダーなんすからドンと構えてればいいっすよ!」


 いやダリアさんはある意味でずっと敬語じゃん。単なる口癖なんだろうけどさ。

 とか葛藤していると、シンシアさんが珍しく眉尻を下げて困ったように微笑む。


「それに、リーダーとか抜きにしても仲間じゃないの。距離があるみたいで寂しいわよ」


 ……ぐぅ、これは卑怯だ。

 こんなもん、理屈でも気持ちでも反論出来なくなる。


「はぁ……降参です。いや、降参。でも言っとくけど、距離とるとかじゃなくて尊敬の意味だったんだからね?」


「んふふ、わかってるわよそんな事ー」


 表情一転、ニコニコ笑うシンシアさんに苦笑いしか浮かばない。


「よーし、やっと頑固なリーダーが心を開いた事だし、酒でも飲んで色々話をするわよ!酒持ってきなさい!」


「一番心を素直に開けないツンデレカーラさんが何言ってんだか」


「ちょっと?!アンタ敬語と一緒に尊敬も捨ててない?!」


 それからふざけたり変な暴露大会みたいになったりと、酒を片手に色々話をした。


 翌日、毎度の如く痛む頭を抱えることになるのだが、まぁもう諦めた。俺はどうせ酒が弱いんだよ。

 しかし辛いのは依頼がその日から入ってきた事だ。痛む頭で討伐しに出かけるのは本当にきつかった。







 それから半年間、クランメンバーはシヴァ様の元でアドバイスをもらいながら黒の森の奥地を目指して実戦を繰り返して実力を磨いていく。

 そして半年後に合流。

 ついに俺は依頼地獄から抜け出せる……とはならず、ズルズルと伸びて結局1年近く依頼をこなす日々となってしまった。許すまじ。


 その間に魔王軍の斥候らしき魔物も来たが、溜まったストレス発散も兼ねてボコボコにしてからルーク卿にプレゼントしたりした。

 あとスカイドラゴンが王都に来たりもしたな。緊急依頼という形で通常より儲けたし、お肉もゲットしてウハウハだったね。





 とまぁ、そんな日々を過ごしていると、ついに澪がこの世界に来たのだった。

 

 

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