066.心残りへ、恩返しを
2日半かけて別荘を作った俺は、その後泥のように眠って、それ以降はのんびり家具やらを作り上げていった。シヴァ様は余裕そうだったけど。
机や椅子は毎度お馴染みのハリスト道具店で買おうと店に向かうと、見慣れた薄緑の髪を揺らす女性がいた。
「あ、シンシアさん。なんか久しぶりっすね」
「おールイ君じゃん。久しぶりも何も君がフラフラしてるからでしょー?今日は何してるのよ?」
むっとして俺の額を指でぐりぐりするシンシアさんに、苦笑いで誤魔化しながら両手をあげて降参の意を示す。
「すみません、色々作ってて。あ、シンシアさんも買い物ですか?プレゼントしますよ?」
だから許して?と訴えると、シンシアさんは仕方なさそうに肩をすくめる。
「全くもう、調子良いわねー。近いうちにまとめて借りは返してもらうから覚悟しておいてね?」
「は、はい……」
やだなぁーこわいなぁー。
借りが多すぎるんだよなぁ……。
「あ、それより今日は君についてこっかなー。今日明日は私休みにしてるのよねぇ」
「あの、俺についてきても何も面白いもんなんてないすよ?多分ほぼ作業してるし」
「いいわよ?作業しながらでも会話に付き合ってくれたら。君そういうマルチタスク得意だし無視なんてしないでしょ?」
ニンマリと笑うシンシアさんに、俺の拒否権なんてあるはずもなく。
「……うっす、仰せのままに。じゃあまずここで買い物しますけど、シンシアさんも何か欲しいのあります?」
「んふふ、本当に買ってくれるの?……ちなみにルイ君は何を買いに来たのかなー?」
あー……まぁいつかバレるし、言っちゃうか。
「実は……まだシヴァ様しか知らないんすけど、人の来ない場所に別荘建てたんすよ。そこの家具にと机とか椅子を買いに来ました」
「……まさかここ数日どこかに行ってたのって」
「はい……不眠不休で別荘建ててました」
バカじゃないの、という視線が痛いっすシンシアさん。
「バカじゃないの?まぁいいや、それならその別荘に置く私用の椅子をプレゼントして欲しいな」
「うっす。んじゃ女帝が座るようなかっこいいのを……」
「あっははは…………怒るよ?」
「サーセンッ!」
そんな感じで駄弁りながら、実は華美さより実質剛健の彼女に合う、座り心地の良いシンプルな椅子を見繕って購入した。
他にも家具達を購入してレッグポーチに入れて、転移で別荘へと移動する。
「おー、なかなか立派だねー。全体的に黒っぽいのは趣味?」
「や、素材が真っ黒でしたからね。少しは白くしたかったんすけど、結局黒寄りの灰色になりましたね」
真っ黒は流石にどうかと思って頑張ったけどね、シヴァ様みたいに上手くやれませんでした。
ちなみにシヴァ様は外壁の付与をしてくれたんだよね。多分この家城より頑丈だよ。
「ふーん。まぁかっこいいし良いんじゃない?それよりお邪魔してもいいのかな?」
「どぞどぞ。初のお客さんだし緊張しますけどね」
「あ、そーなんだ?シヴァ様は?」
「外装作ってる途中で飽きて黒の森に帰りましたね。元からあまりあそこから離れられないみたいですし……なので中には入ってません」
それからシヴァ様に報告するより先に寝たしね。あとはチマチマ家具は作ったけど、黒の森には寄ってないし。
「ふーん……ふふっ、じゃあ初めてをもらっちゃおうかな…?」
いやなんでそんな色気を出す?やめて、ちゃんと効くから。
「勘弁してください……」
「あっはははは!ごめんごめん、ふざけちゃったね」
ケラケラ笑って別荘に入っていくシンシアさんは、やはり力がついた今も勝てる気がしない。
なんだろうね、なんというか人として負けを認めてしまってるこの感じ。
「おおー、なかなか立派じゃない。意外とそういうセンスもあるのかしらねー」
「シンシアさんに言ってもらえると安心しますね。頑張った甲斐があったっすよ」
実はダハーカ家の内装をイメージしてるしね。技術的に再現できてない箇所も多々あるけど、ぱっと見の雰囲気的には似せれたと思う。
「ふーん。あ、出たよルイ君特製キッチン。これ良いよねー、元『魔剣の乙女』のパーティハウスにも欲しいなぁ……ちらちら」
「あー、はいはい、分かりましたってば。作りに行きますよ」
「んふふ、ありがとね。いやぁルイ君がサボってる間も依頼頑張った甲斐があるなぁー」
「うぐ……」
うん、いつになったら俺はこの人に頭が上がるんだろうか。本当に助けてもらってばかりなんだよなぁ。
「あ、良かったら最近下処理が終わった肉食べます?クセはあるから好みかは分からないんすけど」
「ん?なにそれ、何の肉?」
「ベヒモウスっすね」
ベヒモウスのやつ、肉が硬すぎてなかなか処理が終わらなかったんだよな。酒やらはちみつやら色々使って、やっと食えるようになったんだよね。
「ベ、ベべベヒモウス?!……いえ、そう言えば不思議なくらいその話題が出なかったわねぇ」
「俺の素材としてノータッチでいてくれましたもんね。実は保存の魔法で肉は保管してたんですけど、最近合間合間に下処理してたんすよ」
「へー。それを私に出してくれるんだ?んふふ、ルイ君も罪悪感は感じるんだねー?」
ニマニマ笑うシンシアさんに苦笑いが浮かぶ。
「まぁそれもありますけど、大半は感謝の気持ちっすよ。もうどれだけ世話になってるんだか……」
「ありゃ、そんなの気にしないでいいのに。意外と真面目なところは可愛いけどね?」
ふふん、と悪戯っぽく笑うシンシアさん。
その揺るがぬ強者らしい彼女に、他に人がいないからかつい口が滑る。
「気にしますって。やれる事が多いからって1人で背負いすぎですし………おまけに隠し事も上手ですしね、シンシアさんは」
まぁ背負ってもらってる俺がどの口で言ってんだって話なんだけどね。
本当に情けない話だ。
だから勝てる気がしないって思ってるのかも知れないな。
「……へ?な、なぁに急に」
「いや急にもなにも、ずっと思ってましたよ?まぁ人前でこんな事言ったら絶対笑顔で誤魔化すと思うから言わないでいましたけど」
『なに言ってるのルイ君ー。さては私をからかう気かー?』とでも言いそうだしさ。
「貴族は辞めたのに、誰よりも貴族らしいですよね。弱みを見せる気はない。でも、隠し方は実に庶民的で、明るい笑顔やふざけるような言葉を使って隠す」
「ちょ、ちょっとルイ君……?」
初対面の時、底知れないと感じた彼女。
それなりに付き合いがあって、段々と見えてきた彼女の奥底にある心。
「シンシアさんは、多分俺の性質を誰よりも早く、そして正確に理解してると思います」
「…………」
それは多分、単純な洞察力だけではなく、彼女と俺が似てるところがあるから。
そしてそれは反対に、俺が彼女のことも理解しやすいという意味でもある。
「尊敬しますよ、本当に。誰にも理解や助けを求めず、頼られるリーダーの顔のみを見せ続ける。俺なんて昔は諦めて妹以外は切り捨てちゃいましたからね」
誰にも理解されず、助けてもらえない。
まるで世界に存在を否定されている気持ちになる。
俺は妹がいたからどうにか生きてきたが、果たして彼女にそんな存在がいたのだろうか。
「……何の話?」
こんな話をするつもりはなかったけど……良い機会だ。
ずっと気になってたし、このまま放置するには心残りだったからな。
「もう誤魔化さなくていいでしょ。そもそもベヒモウス戦で1人最前線に立ってた時には確信しましたよ」
お互い普段は割と好き勝手やってるけど、いざという時は自分の命を最初にコスト扱いで犠牲に勘定して動いたのは……一度目は俺、二度目はシンシアさん。その二人だけだ。
二度目の時、俺も万全じゃなかったし、シンシアさんは正直実力で見れば半ば自殺の域だったしな。
それでもあそこに居た。それが答えだ。
ただしそれも、俺の場合は澪一人の為。でもシンシアさんは頼ってくる人全ての為にだ。
そんな姿は尊敬するけど、見てて辛くもある。
「………そっか。あの時にも君はそんな事言ってたっけ。流石に動転してあんまり覚えてないけどさ」
そうだっけ?実は俺も何言ったかあんまり覚えないんだよね。お互いベヒモウスを前にして余裕なかったね。
「俺の場合は不出来の極みでしたからシンシアさんとは正反対ですけど……優秀すぎるというのも考えものとは言ったもんですね。
これは予想ですけど――きっと期待に応えすぎたんじゃないですか?」
「……そっか、バレてたんだ。まぁバレるとしたらルイ君かなぁとは思ったけどさ」
俺は前世で不出来だから捨て置かれた。
でも反対に、優秀すぎても孤独を感じるのだろう。
時に妬まれて敵対される。
ましてやシンシアさん程となると、さぞ公爵家の中で妬まれただろう。
貴族だから後継問題もあるし、疎まれたり命を狙われる事すらあったのかも知れない。
それでもシンシアさんは俺みたいに、周りに拒絶されたからと関係を諦めず、仲間を率いた。
その上周りから頼られ、重圧や責任を一人背負って、それでも常に笑顔と余裕を絶やさない。
それこそまるで機械のように、仮面でもしてるかのように、ずっと笑ってる。
「なんとなくですけどね。それで、その普段の笑顔は誰の真似なんですか?」
「…………ふふ、怖いなぁ……今ね、とても君が怖いよ、ルイ君」
まぁそこはお互い様でしょうよ。
「俺もそうですから。妹に教えてもらった話し方を、そのまま繰り返してるだけです」
別にこんな話を今日するつもりはなかったけど、ここまで話した以上は中途半端に止めると禍根になりかねない。
だから、途中で止める訳にもいかない。
それにいつかは話したいと思っていたし、それが今日になっただけの話だ。
腹をくくろう。
「そうなんだ。やっぱり変なとこ似てるね、私達」
「スペックが真逆でも似る事があるんだと驚きましたけどね」
「ふふ、そうね。それは私も驚いた。君みたいな不器用な子と、こうも似てるとこがあるなんてね。お互い自分を大事にしないし、最後は自分の欲求より周りを優先しちゃうんだもんね」
ホントそれね。
だって、どうにも自分の価値を見出せなくて。
「私の笑顔はね、専属侍女にもらったの」
「そうですか。仲良かったんですね」
「うん。唯一心から信じれる人だったなぁ」
『だった』、か……。
つまり、きっとこの世にはもういなくて。
そしてその原因は多分……。
「不躾ですが、家族への復讐はしないんですか?」
「ふふ、話早すぎ……ま、興味ないかな。それをするなら跡継ぎ争いでコテンパンにしてやったわよ」
……まぁシンシアさんならそう言うか。根が優しすぎるんだよなぁ。
「でしょうね。まだマグノリアが存続してるのが証拠ですし」
「ふふ、いくらなんでも私1人で公爵家を崩壊させるのは無理だよ」
「1人ならそうでしょうね。でも貴女がその気になれば人を集めて、勝ち筋と報酬を示し、ひとつひとつ確実に相手を追い詰める方法なら思いついたのでは?」
そう軽口を挟むけど、実際少し気になった事ではある。
やると決めたら目的のために手段は選ばない人だし、怒りに任せて復讐に走らなかったのは何故なのかと。
「ふふ、どうかな。でもさ、それが終わっても彼女は……アリアは帰ってこないしね」
「………すみません」
……そうか、復讐しても何も返ってこないと、そう思う人だよな。良くも悪くも感情より実利を優先するか。
せめて気持ちを晴らす為にも、とか考える人じゃなかったな。
謝ると、シンシアさんは淡い微笑みで気にしないでと言い、天井を見上げてから俺を見る。
そして、泣きそうな顔でポツリと呟いた。
「ねぇ、なんでこんな話をしたの?……怖いよ、なんで笑顔の下を覗いちゃったの、ルイ君。誰にも見られたくなかったのに…………ひどいよ」
弱々しい、震える声。
「本当の顔を見られたら、またきっと恐れられちゃう。傅かれ、敬われ、仰がれ、利用するくせに、裏では恐れて敵対するの」
きっとこれが、「魔剣の乙女』のリーダーや『ラクサス・イクリプス』のサブリーダーにして司令塔という、誰からも頼られてきた彼女の、心の奥底に隠していた本音。
優秀すぎた彼女は、しかし心までは強くなかった。
孤独に傷つく心を曝け出す勇気もなく、ただ奥底に隠して、見つからないように笑顔で蓋をした。
「ねぇ、ルイ君……最後に教えてよ、どうしてこんな事言ったの……?」
俺はかつて澪以外の周りを諦めた。
しかし彼女は、きっと自分を諦めたのだ。
本当の、奥底に隠した自分に周りと馴染む未来を期待できず、それを隠す事でしか他人に期待出来ない。
だから俺は、この話を途中で止めることはできなかったのだ。
なぜならきっと彼女は、話が終わったら俺のいない場所に去ってしまうから。
「それはまぁ……シンシアさんと、友達になる為ですかね」
だから、そうさせる訳にはいかない。
実利の為じゃないとは言わない。
しかし。
同類でありながら俺とは全く違う尊敬すべき彼女を――ずっと助けになってくれた彼女を見捨てるなんて、損得以前の話だからだ。
これほどまで努力し、耐えてきた彼女が報われずに、逃げ続けないといけない。
そんな世界に価値なんてあるのか?
俺に言わせれば、世界の方が間違っている。
「……ともだち?」
「そうです。まぁお互い縁のない存在だとは思いますけど、だからこそ俺達なら友達になれるんじゃないかと思った訳です」
出来るだけ優しく、なんて考える必要もない。考えるべきではない。
ただ思うがままに、誤魔化さず伝えないと彼女には届かない。
「とうですかね?仲間はともかく友達となると、こんな面倒な人同士じゃないとまず理解の土台にすら立てないでしょ」
仮に優しい誰かが立とうとしてくれても、俺たちはきっと怖くて認められない。その優しい誰かへの期待より、自分への諦めが勝るから。
だから隠してる。
貴女もそうでしょう、と視線で訴える。
「……そうかもね。君のその生への異常な無気力さも、それこそギフト持ちでもない限り、私くらいしか気付けそうになさそうだもんね」
「ええ」
だから。
「だから……友達?」
「ですです。こんなチャンスそうないと思いませんか?逃げる前に試した方がお得ですよ」
「…………ふふ、あははっ……ぐすっ、そうかもね……」
「でしょ?似た者同士、仲良くなれると思うんですよ」
一筋の涙が音もなく頬に落ちる。
数秒の沈黙の後、彼女は少し震える唇を開く。
「うん……うん。それは、間違ってないと思う」
シンシアさんはくすりと、元気良くでも悪戯っぽくもない、柔らかで綺麗な微笑みを浮かべて。
「でも、ごめんね。それは厳しいかな」
そう、告げた。
「………そう、ですか。じゃあ、俺はクランを抜けます。安心してください、絶対に他言はしないですし、なんならシヴァ様に頼んで強制してくれて構いません。きっとシヴァ様ならそういう魔法も使えると思います」
……ダメだった、か。
それなら……賭けに失敗したなら、賭けに出た俺がリスクを担うのは当然だ。
彼女にとって懸念であり、今となっては恐怖でしかないであろう俺が去れば彼女の世界は元通りになる。
「はぁ……情けない。いつも助けてくれた貴女に恩返ししたかったんですがね」
ずっと大勢の中にいながらも孤独に耐える貴女の支えになれると思い上がった。
またしても俺は自分を見誤った。
子供の頃と何も変わらない。
「ごめんなさい、シンシアさん。辛い話をさせてしまいました」
結局、俺はこの程度だったんだろう。
何を期待したのか。ベヒモウスに勝ったからと何か為せると勘違いしたか。
人を本当の意味で救うのは、結局力ではなく心だというのに。
それを俺は、間違えてしまった。
「……ふふ、それが急にこんな話をした理由だったんだね」
「ええ、まぁ……本当に恥ずかしい限りですけど」
「んーん、嬉しいよ。ありがとう、ルイ君」
こんな時でも優しいシンシアさんに、謝ることしか出来ない自分の不甲斐なさに、涙が出そうだ。冗談や比喩ではなく、本当に。
「だからさ、親友以上恋人以下くらいで手を打とうよ」
「はい……………………………はい?」
涙は、引っ込んだ。
「今更さ、友達なんて薄っぺらい関係なんて勿体ないと思うの」
「……ん?あれ、えっと?」
やばい、マジで混乱して話についていけないんですが。
「だからさ、今更友達はちょっと嫌かなって。どうせ君も友達なんてものに大して期待してないでしょ?」
「そ、それはまぁ……はい」
だからこそ、シンシアさんとなら本当の友達になれるかもと思った訳だし。
「だからこそ、という君の気持ちもわかるけどね。でもどうせならって私は思うの。ふふ、ごめんね、ちょっと意地悪な言い回ししちゃった」
「………………はぁああ……ほんと、意地悪すぎませんかね?」
「んふふ、君が最初にふっかけてきたんだから、少しはやり返さないとね」
見慣れた悪戯っぽい笑顔……いや、いつもよりどこか柔らかい笑顔に、ようやく俺の肩から力が抜けた。
「ありゃりゃ、なんだかお疲れだねぇ」
「そりゃもう、ある意味ベヒモウス戦より疲れましたよ」
いや誇張抜きで。死ぬほど緊張したよ、今になって心臓バクバクいってるもん。
「うん、私もね、心臓がすごくドキドキしてるの。……君のせいなんだからね?」
「分かってますよ、だから責任とって友達……じゃなくて親友以上恋人以下でしたっけ?それになるって話で勘弁してくれません?」
「お、責任とってくれるんだ。じゃあ言質もとれちゃった事だし……君が生きたいと思う理由になれるように頑張るね。よろしく」
「はい、こちらこそ……笑顔に隠す貴女の嘘に気付いて、1人にさせないように頑張ります。よろしく」
手を差し出す彼女に、俺も同じように手を差し出す。
握手をかわす彼女の笑顔は、この緊張と不安でいっぱいだった会話がうまくいった事を示してくれてるようだった。
「しっかし、シンシアさんらしからぬ曖昧な表現っすね、親友以上恋人以下っての」
「んふふふ、分からないかぁ。緊張してたんだねぇ、ルイ君も」
「? いやまぁ、緊張はしてましたけど…」
「んーん、何でもないよ。それよりほら、ベヒモウスのお肉食べさせて欲しいなー?」
「あ、そういえば。すぐ用意しますね」
「ありがとー!あ、もう時間も遅いし今日は泊めてね?どうせ客間も作ってるんでしょ?」
見れば、どれだけ話し込んだのかすでに外は暗かった。
うわぁ、全然気付かなかったわ……。
「いいっすけど……いや、あれっすね、野営なら大丈夫なのに同じ家だと緊張するのもおかしな話っすね」
「あっははは、ルイ君でも緊張するんだ!」
「あーはいはい、情けないのは分かってますから笑わないでくださいよ」
「そんなことないよー?……私もしないとは言ってないし」
ん?なんか言ったような。気疲れしすぎて『超感覚』なんて使ってないって。
「すみません、何か言いました?」
「んーん、何にも。ほらほら、それよりお肉!あとお酒があると嬉しいなー?」
「あー、この前シンシアさんにもらったワインなら。……まさかこの展開を読んで持たせてました?」
「違うって、さすがの私もこれは予想外すぎたよ」
などと話しながら、買ったばかりの机に料理と酒を並べていく。グラスや皿も一緒に買っといて良かったよ。
「それじゃあ乾杯でもしますか」
「んふふ、そうだね。じゃあ私とルイ君の親友以上恋人以下になった記念に、乾杯」
乾杯、とグラスを合わせる。
ご機嫌な様子で微笑むシンシアさんは、ベヒモウスの肉を齧ってつまみとしては優秀と評してくれた。
それからいつものように揶揄われたり他愛もない話をしてる内に、いつもの如く眠気が襲う。アルコール耐性低いなぁ俺……。
「ありゃ、もうお眠かぁ」
「ぐ……すぃません…二階の部屋、どこでも使って……」
「謝らないでいいよ?……もともとこうするつもりだったし」
んぁ…?なんて?いや本当、家主が案内もせず先に寝てすみません、もう無理です……おやすみなさい…。
「んふふ、可愛いなぁ……〝以下〟と〝未満〟が違うって事はいつか教えてあげるよ。騙し討ちみたいなものだし、今はこの関係で我慢してあげるね?」
そうして意識が落ちる寸前、彼女が席を立つような音が聞こえて。
「おやすみルイ君。本当に嬉しかったよ、ありがとう。……大好き」
頬に何か触れた気がした。




