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064.討伐と適合

 アジ・ダハーカは王級だ。

 それなのにあまりにもベヒモウスと差がありすぎる。

 もちろんそこらの魔物とは比べ物にならないし、先日のオーガ種の四天王とは比べ物にならない程に強いが。


 確かに俺だって『天盾』という、対魔法ならチートレベルの防御性能を誇る魔法がなければ、初手でやられていただろう。

 そういう意味では俺にとって一撃の重さのない、数による攻めは防御する上では都合が良い。

 ベヒモウスの強すぎる攻撃なら、数発もあれば『天盾』は破壊されるだろうし。

 一撃が軽い攻撃ならいくら受けても問題ない天盾はアジ・ダハーカと相性が良い。


 話は逸れたが、何が言いたいかといえば――おそらくまだヤツには隠し球があるはず。


「……まぁいい、今のうちに削るだけ削ってやる」


 ゲームのボスみたいに、第二形態になると体力も傷もリセット?

 そんな都合の良い事あり得てたまるかっての。


 無から有は生まれない。

 つまり、削られたリソースはきちんと削られているのだ。


 あるとすれば、そのリソースをどこかに保管していた場合だ。

 だがそうだとしても、結局今削った分の補填にそのリソースも減る。つまり、削れる時に削るのは無意味ではないはずだ。


「首3本飛ぶと第二形態になるとかか?先に内蔵あたり狙ってみるか」


 もしそれがキーとなるなら、胴体がほぼ無傷なのはもったいない。

 本領発揮前な上に首二本が落ちて確実に戦力が落ちてる内に、削れるだけ削る。


「おりゃああッ!『空衝咆』ォ!」


 腹のど真ん中に放つ空間圧縮を指向性を持たせて解放した、いわば水の代わりに空間そのものを使うウォーターカッター。

 それは真っ直ぐにアジ・ダハーカの体に走り、衝突し、1秒に満たない拮抗の末に貫いて――そのまま貫通した。


「っしゃア!こんなもんだろ、次はその首ィ!」


 火の玉攻撃の直後の硬直を狙った『空衝咆』が直撃し、悲鳴をあげて膝をつくアジ・ダハーカに『天盾』を足場にして駆ける。


 どてっぱらに大穴あけたし、これ以上は俺のリソースが厳しくなる……サクッと第二形態といくか!

 そう覚悟して、六つある魔力蓄積ブレスレットから二つを使って魔力を大量に込めた『流喰』を発動。


「どあっしゃあッ!」


 そして、一閃。

 振り抜いたノクテムは、あっさりとアジ・ダハーカの最後の首を千切り飛ばした。


「ふっ!」


 それを確認して、即座に地面へと下りて弾くように地面を蹴り、後方に跳んで距離をとる。

 どう変化するかは知らんが、予想外の動きをされてまた焼かれたらたまらない。


 そうして睨みつける先で、ぐらりとゆっくりその巨体を倒れさせていき、地響きをたててに地面に伏せた。

 止まる気配のない血が地面に広がっていく様を視界の片隅におさめながらも、集中力が切れないように維持する。


「…………」


 長えな、また焦らしプレイか。こいつマジで好きだな焦らすの。


「…………」


 っざけんな、構わず追撃入れてやろうか。いや、その隙をついた不意打ちされる可能性もあるか。

 今は我慢だ。集中を切らしたらまた手痛いダメージをおいかねない。

 集中、集中……!


「…………」


 よし、決めた。あと10秒待っても焦らすような撃つ。


「…………。10秒ッ!うぉおおおこの焦らし野朗がァ『空衝ーー」


「……ルイ坊、お主1人で何をやっとるんじゃ?」


 咆、を撃つ直前にシヴァ様が呆れたように俺の横に現れた。

 唐突すぎてびくぅっと体を跳ねさせて魔法が霧散する。


「ちょ、いきなり出てくんなってシヴァ様!あーもう魔力一発分無駄にしたぁ!」


「いや止めてやった我に感謝するとこなんじゃが……」


「いやアイツ遅えんだもん!第二形態出すなら早くしろよってずっと言ってんのにさぁ!」


「一応遠くから観察しておったが、お主一言もそんな事言っとらん。というか何を勘違いしとるか、こやつはもう死んでおるぞ」


 おっとおっとぉ?


「だはははっ!シヴァ様も騙されてやんの!いくらなんでも『王』級がこんなに弱い訳ないじゃんか!」


「やかましいわい」


 あだっ!と頭に落とされた衝撃に視界がブレた。

 あれだね、頭押さえてしゃがむあのポーズって、意外と咄嗟に出るもんなんだね。


「あのな……お主、自分に対する鈍さはどうにかならんのか。その内大きなミスをするぞ、早く治せ馬鹿者」


「いづぅぅう……え、なんて?」


「……はぁ。お主、肩に一撃もらったじゃろ」

 

「え、うん」


「その時、随分と深く集中したじゃろ?」


「あぁ、確かしたな。くだらんミスしたし、油断と平和ボケを吹き飛ばしたくてさ」


 とにかく集中。そんで思い切り力を振るうよう意識したね。対ベヒモウス戦ばりに気合い入れたよ。

 下手に腑抜けた力振るってたら殺されると思ったし。


「その時だの。意識が魂に追いついたのじゃろ、きちんとお主の力を十全に引き出せるようになったのじゃ」


「ふむ?なるほど?」


「分かっておらぬの。つまりお主はベヒモウスを討伐して以降、ずっと意識が討伐前と変わらぬままだったのじゃ。いくら体が100の速度を出せようと、意識が50しか出さぬようなら当然50しか出せぬ」


 え、ええ?いや意味は理解したけど、俺そんな状態だったの?


「ズレた意識と肉体のせいで魔力操作も甘くなるし、魔法の威力も当然発揮されぬ。それが、ベヒモウス討伐後から先程までのルイ坊よ」


「うっそん」


「我がそんなくだらぬ嘘をつくか。だから自覚がないと言っておる。言うておくがな、お主がアジ・ダハーカの攻撃を受けたのは油断でもなんでもない。ベヒモウス討伐前なら肩の一部どころか腕ごと焼失しとるし、そもそも一撃で首を飛ばす威力もなかったわ」


 あー、つまりアレか?

 最初の炎はごく普通に攻撃を受けて、それ以降楽勝だったのは本来の実力だと。

 

「マジすか……え、そんなに変わるもんなの?」


「何度も言ったであろう、『王』を倒すことは特別なのだと……生半可な成長とは隔絶した、進化と言ってもいい程の変化。それが壁を越えるというものよ」


 覇気すら感じる威厳のある姿と言葉に、否応なくシヴァ様の言葉を理解させられる。


「しかもそれが最古の王の一柱ベヒモウスじゃぞ?まぁアジ・ダハーカが封印されてから長く、勘が鈍っておったのは確かなようじゃがの。それでも『王』の格は備えておる」


「あぁ……はい。なんかもうごめんなさい…」


 そうか、こんな力を持ってたのか……いや俺のバカ!これ自覚してたらもっと楽に秘密基地作れたじゃんかよ!


「さて、反省したのならまずアジ・ダハーカの素材をバッグに詰めよ」


「うっす……」


 割と本気で落ち込みつつも、指示通り収納。

 割と痛んだ素材だけど、まぁ十分使えるだろ。こいつも大概でかいしね。


「では次。我とこのまま手合わせじゃ。構えよ」


「うっす……ん?え、なんで?」


 いや戦った直後なんすけど?魔力も半分切ってるし。


「我もルイ坊への理解が進んだのでの。どうやら大きな戦いを前にしたら意識が強制的に引き上げられるようじゃ。普段からのんびりした男じゃし、それも仇になっとるのじゃろ」


 うん、はい。いや言いたい事は読めたよ?ただし聞きたいとは言ってない。


「なので、今この場でアジ・ダハーカによって高まった性能を引き出せるように我が導いてやろう。感謝せえよ」


「しねぇよ!嫌だ!疲れた!おうち帰るぅ!」


「さぁ来い!来ないなら我から行くぞ!」


「お願い聞いて!せめて明日!明日で!」


「なんじゃ、先手は我に寄越すつもりか。生意気になったのう。では行くぞ!」


「俺の声聞こえてる?!僕の気持ちは君に届いとるかな?!届け僕の想い!」


「気色悪いこと抜かすな小童が!『空衝咆』!」


「ごめんそれは俺も思っうおおおおおおおお?!マジ、ちょマジで撃ったァ?!」


「余裕じゃの?ほれ次、次、次次次次」


「嘘だろこれ連打できる魔法なの?!うわ、ちょ、あがッ!ぐぎィッ、俺の左腕ぇえあああ!んっのやろぉおお!」



 ベヒモウス戦より死闘でした。


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