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063.アジ・ダハーカ討伐へ

 勇者が現れて一週間。

 朝起きた俺は、ふと決心した。


「よし、魔王は誰かに任せよっと」


 もう我慢の限界です。シヴァ様が推す素材、気になります。


「シヴァ様、ちょっとアジ・ダハーカ倒したいんだけど」


「ほう!そうかそうか、それは良い考えだの。どれ、いつ行くのか?」


「別に準備って準備もないし。朝飯食べたら行こっかなって」

 

 てゆーか道具や装備は全て収納の魔法具に入れてるし。


「うむうむ、分かった。では朝飯の後連れていってやろう。ほれ、そうと決まれば朝食を作れい」


「へいへい」


 この半神様本当に自分で作らねぇよな。一人の時は作るくせに。まぁうまそうに食ってくれるからいいけどね。





 25メートルプールからはみ出るんじゃないかってくらいの大きな胴体。

 そこから伸びる乗用車くらいはありそうな太さの強靭な四肢。

 大きな身体をすっぽり覆えそうな巨大な翼が一対。

 そして最も特徴的な、三本に分かれて伸びる5メートルはありそうな長い首と、その先にある凶悪そうな厳つい頭。


 全身が黒い鱗に覆われており、血のような赤黒い目と鋭い牙もあいまって、いかにも邪竜といった姿をしている。

 『王級』アジ・ダハーカ。

 サイズだけならベヒモウスよりもデカいドラゴンだ。


「という訳で、倒しに来たんだけどいいですか?」


 とりあえず一応聞いてみる。もしこれでダメだと言われたら素直に引き下がるつもりで。


 しかし返事は、無言の炎の塊3つだった。


「あ、そりゃこんな失礼なのが来たら怒りますよね。すみません」


 それを回避して言葉を重ねる。

 だって向こうからしたら完璧に侵略者なのは俺だしね。


「……いつまでやっておる。いい加減にせんか」


「あれ?来たのシヴァ様」


 手伝ってくれに……な訳ないか。


「そやつに知性はない。安心して討つが良い」


「あ、そうなの?」


「それなりの命を無意味に奪ったからここに封印しとったんじゃ。そも、魔物とはいえ無害な相手を我が勧めると思っておったのかの?」


 言われてみればそっか。

 まぁ封印してたってのは驚きだけど、その他は言われてみたら大体納得できる。


「なんか山に囲まれてるなーとは思ったけど、この壁みたいな山が封印の壁?」


 カルデラを思わせる、周囲が切り立った山、というか崖に囲われた空間。

 木はなく、ところどころに元気のない草が生えてるだけの荒野といった風景。

 その荒廃具合やアジ・ダハーカの魔力もあって、地獄を現世で再現したかのような雰囲気がある。


「そうじゃ。あまり狭いのも哀れに思うて広くしとる。その我の気まぐれが功を奏したの。存分に暴れるが良い、被害はこの中に留めるからの」


 それはありがたい。まぁシヴァ様目線の破壊範囲で語られても、俺はそこまで大規模な威力の技は持ってないけどね。


「んじゃまぁ、やりますか」


「はよ行けい」


 冷たくあしらわれ、シヴァ様の気配が消えたのを確認してから飛び出す。

 今回は初手爆撃がないからな……果たして勝てるかどうか。


 クァン、と短く吠えると、アジ・ダハーカは中空に数える気すら起きない程の数の火の玉を生み出していく。

 こいつ、火の魔法も使うのか……魔法タイプだとしたら面倒すぎて泣ける。


「『天盾』ぇ!からの円型!」


 技名は決めてなかった。今度かっこいいの考えよう。

 とりあえず『天盾』でぐるりと俺より周囲を覆って火の玉をガード。慣れない変則的魔法行使に少し頭が痛む。

 直後、視界一面が爆発に覆われた。火の中で火を眺める貴重な体験だ。二度とごめんである。


「………………」


 そして長い。いつまで炎撃つつもりだよ。とんでもないしつこさだな。


 それから体感とかじゃなくガチで10分近く経過して、ようやく炎の雨がやむ。


 ……こいつ、マジでふざけやがって。こんな戦いあるか普通?


「っだらァ!ボコボコにしてやらァ!」


 この10分間のストレスを込めて『王気咆哮』で威嚇。

 かなりストレスを込めた甲斐あってか、アジ・ダハーカの体がびくりと一瞬硬直する。


「『疾風迅雷』『集中強化』からの『天盾』!」


 その隙に俺の出せる最大速度で加速、からの足場を坂のようにヤツの顔面に向けて並べた上を走る。


「『流、喰』ッ!」


 そして硬直がとける瞬間にギリギリ間に合い、三つある頭の一つを打ち抜いた。

 ぶぢぢぃっという不快な音とともに、アジ・ダハーカの真ん中の太い首、その3分の2が引き千切れる。


 クァオオン!という悲鳴を聞き流しながら、追撃を加えて首を完全にさようならしてやろうとする。が、それよりも早く両サイドの首から炎を圧縮させたような熱線が放たれた。


「ぐあっちぃ!」


 完全に攻めの体勢だった事もあり防御が間に合わず、必死こいて回避してが左肩をかすめた。

 焼ける、なんてものではなく、完全に焼失している肩の一部は、傷口が炭化してるのか血も出ない。

 痛みと火傷に気が遠のきそうになるが――ベヒモウスの時よりはマシだ、と歯を食いしばって耐える。


「っくそ、『自己治癒』!」


 まさか首ひとつ千切れかけて怯みもせずに反撃するとは思わなかった……というのは言い訳で、油断だ。


 こんなくだらない失敗、ベヒモウス戦ではしなかった。してたら今こうして生きていない。

 集中が足りないのか、はたまた平和ボケしたか。


―――いずれによせ、ここからはより気合いを入れないとな。


「すぅ……はぁーーっ」



 目の前にいるのは『王』級の敵だ。力を全て引き出して、持てる手段全てをもって倒す。



「……ちっ」


 と、そこまで思考して気付く。肩の治りが異様に悪い。

 これはアレか?よくある再生持ちの敵なんかに効く、再生させない傷を焼くスタイルか?


 まさか敵がそれをやってくるとはね。まぁ敵も味方も立場の差でしかないけどさ。


「あー……くそ、やだなぁ!」


 葛藤は一瞬、ヤケクソの八つ当たり気味に叫びながら肩の炭化した部分を腰のナイフで削ぐ。

 めっっっちゃ痛い!あーもークソが!このドラゴンぼっこぼこにしてる!


 完全に八つ当たりで敵意を燃やし、改めて『自己治癒』しながら、次弾を今にも放とうとしてるクソドラゴンに『王気咆哮』。


「その首片っ端から千切ってやるから覚悟しろやァ!」


 再びピクリと硬直するアジ・ダハーカに、今度は駆け寄らずにその場で集中する。

 ブレスレットの力を借りて、本来の俺では到底出せない速度で魔力を取り出す。

 そしてそれを即座に魔法の燃料へ。


「吹き飛べッ!『空衝咆』ォ!」


 最大威力までは捻り出せなかったが、ヤツの硬直時間を逆算して間に合う範囲で出せる最大威力。

 それは狙いを違わず千切れかけの首に命中し、それなりの抵抗の後に吹き飛ばした。


 クォアアアァァアッ、と悲鳴をあげてもがくアジ・ダハーカに、今度は走りながら魔力を取り出していく。


 それに気付いたヤツは、初手ほどではないが大量の火の玉を再び生み出して俺へと撃ち込んできた。


 魔力は取り出してるし、『天盾』を組むか……と考えたところで、やっぱり却下。

 『超感覚』の影響だろうか――このまま突っ切れる気がする。


 降り注ぐ火の玉に身を踊り出し、その隙間を『疾風迅雷』によるしなやかな動きで回避しながら、じわじわと進んでいく。

 熱で汗が灼ける感覚を無視して進み――そして、ついに弾幕を潜り抜けた。


 近付いたからか、火の玉が打ち止めになる。

 その瞬間を逃さず、片方の頭全体を指定して最大威力の魔法を放つ。


「『捻天渦』ッ!」


 それは空間内部を空間ごと捻り潰す、今のところ唯一の範囲攻撃。


 メキメキベキリ、と嫌な音を立ててひしゃげていく頭に集中しながらも、もう一つの首に視線は向けておく。

 さっきの二の舞は嫌だしな。気をつけとかないと。


 魔法維持しながら動けたらいいんだけど、『捻天渦』発動中は動き回る余裕はない。

 かなり脳の処理能力を使う魔法だ。


『クォオオオオンッ!』


 痛みに吠えながら再び火の玉が降り始めたので、今回は『天盾』でガード。

 最初のように長ったらしく降りはせず、すぐに止んだ。恐らく距離をとりたいが為の牽制だったか。


 そして煙が晴れた先には、ひとつの首は中程から千切れ、向かって右の頭はぐしゃぐしゃになって血が流れている痛ましい姿だ。


 そして思う。


(まさか第二形態持ちとかか?……流石に弱すぎる)


 そのあまりのベヒモウスとの差に、逆に警戒心が湧いた。


 

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