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062.新勇者

 それからしばらくして、王国中にとある噂が広まった。


「もう一人の勇者ぁ?」


 なんと、黒髪黒目の勇者が現れたそうだ。

 まだ未熟ながらも光魔法を扱い、驚異的な速度で成長して既にC級冒険者くらいの実力があるとかなんとか。


 うん、知ってた。召喚者ですねはい。


「そうみたいよ。で、ここからは学園内の噂程度なんだけど、第一王子殿下がマリーちゃんの活躍を面白く思ってなくて、独断で『勇者召喚』した……って話なの」


 ん?勇者召喚?異世界召喚じゃなくて?

 ……いや、そういやジヴァ様があくまで複合魔法だって言ってたな。となるの魔法陣に対象を指定すればそういうピンポイントな召喚も出来る可能性はある、のか?


「つまり第一王子を亡き者にすればいいと」


「手取り早いけど、手っ取り早すぎるわよ。落ち着きなさい」


 いや冗談すけど。なんでそんなガチな顔で止める?


「まずはその勇者がどんな子か知りたいところよねぇ。絵に描いたような正義の勇者なら、こっちの手間が省けるからラッキーとも言えるわ」


 まぁ確かに。

 別に英雄になりたい訳でもないし、魔王を倒してくれたら迷う事なく『アジ・ダハーカ』に挑む決心がつく。

 やっぱ極上の素材とまで言われたら気になっちゃうんだよなぁ。澪の為にも立派な別荘にしたいし。


「まぁそのあたりは今後勇者くんが戦場に投入されたらある程度探れるはずよ。それまで特に問題がなければ放置でいいと思うわ。決して先走らないように……」


 ――ね?と若干圧を込めたシンシアさんにカクカクと頷く。だから何で俺ぇ?


「よし。じゃあ報告は以上よ」


 こうして『ラクサス・イクリプス』の定例会議は終わった。

 たまーにやるんだよねこれ。

 会議って聞くと形だけで薄っぺらいイメージどけど、そこはシンシアさんだけあって今のところ毎回ありがたい話ばかりだ。


「あ、ちょっと待ちなさいルイ。物理の前衛が欲しい依頼があるのよ、手を貸してくれない?」


「いいっすよカーラさん。どんな依頼です?」


 と、たまにこうしてクランメンバーにお誘いしてもらって依頼に出たりしてる。

 基本はやはり元『魔撃の射手』『魔剣の乙女』がそれぞれ動くのだが、元『イクリプス』からも主に硬い敵には俺、数が多い敵にはクルルがお呼ばれしがちだ。

 結成前は寄せ集めクランは仲違いして解散しやすいって言ったんだけどね。


「よくぞ聞いてくれたわ!アンタも好きなアースドラゴンよ!狩ったら今晩はドラゴン肉のバーベキューよ!」


「っしゃあ行くぜええ!!」


「……ん!私も行く!」


 うちのクランメンバーは仲良くやれてます。






「こいつに『頑強』を付与して、この魔石には『火球』の威力を調整して……三段階に分けて重複付与にするか」


「おお、やっとるの。……ん?待てい、我の家のコンロより出来が良くないかの?」


「そりゃ錬金術の腕が上がれば良い物になってくって。シヴァ様のコンロも作り替えよっか?」


「……まぁいつかの。それより、召喚されたのは勇者だったようじゃの」


「みたいね。ちなみにクランとしてはどんなヤツか分かるまで放置の予定」


 今日は家作り。

 覗きに来てるシヴァ様と世間話をしつつ、錬金付与術で納得のいく家電――という名の魔法具――を作っていく。


「ほう、珍しく無難な対応じゃの。シンシアの指示か?」


「そ。なんか妙に強く注意されたわ。何でだろ」


「お主がこないだ王城に行ったからじゃろ。ローズマリー経由で広まったんだろうの」


 あー、うん、それだわ。


「……まぁそれはいいや。で、シヴァ様的にはどう?その勇者様は」


「まだ詳しくは分からぬがの。少なくとも『守護星』とやら共に並ぶのは今のペースでは10年では足りぬな」


「それはどう捉えたらいいんだろうなぁ」


 『守護星』がすごいのか、勇者が弱いのか。それとも今のペース……つまり教育が悪いのか。


「全てだの。今の勇者は割と……まぁ昔ながらの英雄気質、といった性格のようでの、女に強い関心を示しておるわ」


「おお、久しぶりに心読まれた気分。やめてくんない?……てかそれ英雄気質と言っていいのか?」


 よく聞く言葉ではあるけどさ。英雄色を好むみたいな言葉。


「ちなみにじゃが、お主の妹達もかなり好まれておるの。特にマリーの方は同じ勇者だからと言ってよく話しかけておる」


「ちょっと出掛けてくるね。すぐ戻るからさ」


「何爽やかに暗殺しようとしておる。待てい」


 ガシッと肩を掴まれて、転移のための魔力が散らされた。


「え、何さらっと未知の技術を……今のどうやったの?」


「相手の術を構成する魔力を上回る魔力をぶつけて無理やり散らしただけじゃ。そんな事より、面倒じゃがお主を止めるよう言われておる。我にこれ以上手間をかけさせてくれるな」


 心底面倒そうに言うシヴァ様に、仮定が繋がっていく。


「もしかしてシンシアさん?」


 俺を止めれるシヴァ様から面倒な報告をさせて、落ち着かせるまで止めさせようって訳か。


「そうじゃ。ちなみにシンシア経由じゃが、スタートはマリーじゃよ。お主、妹に行動を読まれとるの」


 くつくつ笑うシヴァ様に溜息をついて肩をすくめる。

 それを見て大丈夫と思ってくれたのか、シヴァ様も手を離してくれた。


「分かりましたよ。勢いで行きかけたけど、冷静に考えて仕留めるメリットないしな……てかさ、勇者ともなると人格者に発現するとかじゃないの?結構厳選するギフトだって言ってたよね」


 勇者と聖女は余程素質が合わないと発現しないとか言ってたよね。


「ふむ。以前に魂は肉体、精神、魔力などの源泉といったじゃろ。つまりの、性格はそう大きな要素ではない」


「へ?そうなの?精神の部分とか性格なんじゃないのか?」


「まぁ結果的に含まれる事はあるが、あくまで精神力が主じゃの。例えば、性格は優しいが戦闘には不向きでは困るじゃろ?」


 あーなるほどね。言われてみたら納得だ。


「つまりあれか、勇者としての戦闘に耐えられる精神性が求められると」


「うむ、そうなるな。ほれ、そんな事よりお主は今のうちにアジ・ダハーカでも討ってこい。そろそろこの家も完成じゃろう?」


「うぐ……ぶっちゃけ心惹かれるぅ…さすが超越者、誘惑もお手のものか…」


「ふ、人聞きの悪い。お主が単純なだけじゃろ」


 うるせぇやい。

 それにしても女好きの勇者ねぇ。どうなる事やら。






「で、大丈夫なのか?」


「……ルイお兄様、来るの早すぎですよ」


 まぁ勇者に突撃はせずとも妹の様子は見にいくよそりゃ。かくいうローズマリーもちょっと嬉しそうだし。


「まぁいいからさ。悪いヤツではないのか?」


「そうですね。多少軽薄な印象はありますが、根は悪くはない……というより、そこまで悪辣な世界を知らない印象でしょうか?優しいと言うより甘いと言う印象の……まぁ、ごく普通の人という印象です」


 まぁ一般的な日本人なら大半の人はそうなるのかもなぁ。

 俺も似たようなもんだろうだしね。


「ルイお兄様のようなキレのある悪意と、それを見事に隠す朗らかさなどはありませんね。見る者からすれば色々と矮小な欲が垂れ流しの小物です」


「え、嘘。俺ってそんな評価なの?今年一びっくりなんだけど」


「ちなみに私はたまに話しかけられるくらいで大丈夫ですぅ。というか、キリヤ様はマリー姉様に夢中ですねぇ」


 あ、フラムリリーにまでスルーされたよ。もういいよ。

 てか名前キリヤって言うのね。


「ふーむ、一応まだ生かしておくつもりだけど、それで問題なさそう?」


「むしろ仕留める気だったんですか……一応シヴァ様にお願いしていて良かったです」


「ルイお兄様ぁ、それは本当にまずいですよぅ!」


 分かってるって。もちろん冗談だよ。


「とにかく、マリーは何かあったら呼んでくれよ。これ渡しとくからさ」


 こないだまた見つかった双魔石で作った通信魔法具を手渡す。

 これで『魔剣の乙女』に1セット、『魔撃の射手』に1セット。各リーダー間に1セット。と、これ。

 これだけ魔物を討伐する日々なのに4セットしかないとか希少すぎるだろ。


「これは……ありがとうございます、ルイお兄様。あの、たまに緊急でなくともお話してもよろしいですか……?」


 不安そうに上目遣いで見てくるローズマリー。いやそんな不安そうにせんでも。


「別に全然オーケーよ。まぁ魔力は使うから無理のない範囲にしとけよ?」


「ありがとうございます……!」


 そんな喜んでくれるならもっと早く作れば良かったな。でも各パーティに配る分も必要だったし……まぁ済んだ話か。


「襲われそうになったらすぐ呼べよ。転移して流喰のコンボ決めるから」


「最凶の奇襲コンボですねそれ……というかルイお兄様、私の方がキリヤ様より強いです」


「でも油断はすんなよ?俺だって実力で劣るのにベヒモウス討伐してる訳だしな。やり方次第でどうにでもなる。警戒はするように」


 早い話が薬盛るとかね。……そうなると治癒魔法のクルルとすぐ連絡とれるようにしておきたい。あー早く次の双魔石見つからないかな。知り合い全員に持たせたい。


「ふふ、ありがとうございます。心配してくれて嬉しいです」


「そりゃするだろ、妹だしな。リリーも今のところ大丈夫みたいだけど、一応気をつけろよ?」


「はい、ルイ兄様!いざとなればこれもありますしねぇ」


 そう言ってフラムリリーは左手中指にある指輪を見る。

 それね、非力なフラムリリーの為に作った魔術具な。


「ちゃんと相手の顔に目掛けて発動な?」


「えへへ、任せてくださ〜い」


 こうも不安な返事があるのか。逆にすごいよ。


「……なんと恐ろしい」


「女性を無理やり襲う奴の方が恐ろしいだろ」


 ローズマリーの呟きに笑って返す。

 まぁ指輪に刻んでるのはお馴染みの『空間収納』で、その中にはアシッドスライムの死体を元に錬金して作った溶解液だ。といっても強力な酸性の液体って程度だけど。

 まぁ人間相手に不意をつけば十分な威力に調整してる。殺すと色々まずいし、その調整には本当に骨が折れた。


「顔爛れるくらいならポーションかけときゃ治るしね」


「いえ、ポーションも市販のものではそこまで効きませんけどね」


 あぁ、特製ポーション基準になってるな。俺作のは名前をつけるならハイポーションとかになるのかね。練習不足だ。

 そこらへんはレシピを教えてくれたシヴァ様サマサマだよね。本当頭がまだ上がらない。


「とりあえずこんなとこか。家出した身であんまり父上達に会うのもどうかと思うし、そろそろ帰るわ」


「むしろ喜ぶとは思いますが……はい。また来てくださいね」


「またね〜ルイ兄様!」


 まぁ可愛い妹も今のところ問題なさそうだし、ぼちぼち勇者のイメージも固まってきた。

 

 これはアレだ、多分放っといたら勝手に自滅するタイプの勇者だ。

 


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