061.異世界召喚
「バレてるんじゃないですかぁ〜!!もぉおおお!!」
「はぁ、ルイお兄様……」
一通り報告したら、怒るフラムリリーと呆れるローズマリーの視線が突き刺さった。
「いやぁ、やっぱ『守護星』は一味違うね。結構距離あったのにバレてすぐ見つかっちゃった」
てへ、と笑うといよいよ二人の好感度が削り切れそうなので、コホンと姿勢を正す。
「こほん。そういう訳なので恐らく好きに泳がせておいても、最終的に王様がどうにかする。だからやり方次第ではこっちの望む形に収まると思うぞ」
ルーク卿が嘘をつく理由は……まぁたくさんあるけど、多分嘘じゃないと思う。
それに王様って俺がS級に任命された時、割とあっさり引いてくれた印象なんだよね。
もちろん損益やら色々考えた上での判断なんだろうけど、おそらくそう悪い人ではないと思う。少なくとも、創作での偉い人あるあるな、プライドで損益を誤る人ではなさそう。
「でも、もしそうならずに私が婚約させられちゃったらぁ……」
暗い顔で溜息をつくフラムリリーに、指を2本立てて突き出す。
「その時はもう最終段階……最悪の二択だな。まずひとつはそのまま王妃になる」
「うぅ……胃が痛いですぅ」
「もうひとつは、俺がこっそり攫って安全地帯まで逃げる事だな」
まぁどっちも最悪だろうから、と言おうとしたらガタッとローズマリーが立ち上がった。
へ?と俺とフラムリリーが目を点にしてローズマリーを見ると、力がこもった目で俺を見ていた。
「つまり、私も危なくなったらルイお兄様に連れ去られるのですか?」
「お、おう。元々そのプランは用意してたからな。ほら『勇者』として連れ去られる可能性もあったし……まぁシンシアさんのおかげで今のとこ大丈夫だけど」
現状は国に確保されるどころか、普通に学校通えてるくらいだしね。多分シンシアさんと……恐らくダハーカ家も何か手を回してるんだと思う。
あとは今のところ魔王軍の被害が少ないことが大きな理由だろう。劣勢になったら意地でも取り込もうとするだろうし。
「そうだったのですか……何事も良し悪しですね」
ふ、と妙に達観した微笑みを浮かべて遠くを眺め、席に座り直すローズマリー。
王妃教育の賜物か、無駄に洗練された表情と仕草だった。発言の意味不明さには触れないでおいてあげよう。
「話を戻すけど、俺としてはタイミングを見てリリーも拒否してしまえばいい、って意見になるかな」
「そうですね。特にアクシンデントがなければそれで良いかと。きっとその後殿下は暴走するでしょうが、そこは陛下におさめて頂きましょう」
そうなるよね。何事も適材適所。つまりは丸投げ。
「おっけ。じゃあアクシンデントがないように祈っておこっか」
「……何故でしょう。今ふと何か起こる気が…」
「やめて?クルルじゃないんだからそういうの勘弁してくれ」
そして毎回大なり小なりトラブル起きるんだよ。もういらねぇってそういうの。
しかしなかなか世界は俺の胃に対して優しくなかった。
俺の聞いてた予定よりも早く、異世界召喚が発動されたのだ。
「はぁ?ちょ、ジヴァ様今なんて?」
「今の大きな魔力の震えは、異世界召喚じゃろうと言った」
「一言一句綺麗に繰り返すじゃん……てかマジで?あと一年近くあるはずじゃなかったっけ」
俺が18の時に召喚するって言ってだじゃんか。あのオッサン騙したのか?それとも何かしらの要因で改変されてる?
「……お主、妹が来ると言っておったの」
「うん、妹。16歳」
「………この気配、恐らく男だの」
はい?
「え、ちょ、TS?!はぁ?ふざけんな誰だ転生の担当神は首引きちぎるぞコラ」
「落ち着かんか、話を聞け。恐らく別人じゃろ。また来年にお主の妹が召喚されると考えたらお主の言う誤差もない」
「あー……なるほど?え、そんなに連発出来るもんなの?」
「そんな訳ないじゃろ。むしろこの連発のせいでお主がここにおると考えるのが妥当だの。全く頭の痛い話よ……」
「え、初耳。詳しく頼みます」
笑えない新情報じゃん。
「うむ……ふぅ、まぁ良かろ。まず異世界召喚なんじゃがの、『空間』と『次元』と干渉に加えて『召喚』という、極めて大規模かつ高難度の複合魔法じゃ」
いわく、それを行使する事はいくら魔法陣や補助具などを用いても術者に多大な負担があるとの事。
そして。
「術の性質上、どうしても空間や次元に穴を開ける工程が含まれる。そのケアは世界自体が行う事がほとんどじゃが、あまり小さいと漏れが出たり、逆に連発すれば穴が広がる可能性もある」
ここからは本気で笑えない話だった。
「つまり、本来の指定した対象以外も、そういった時空の穴に落ちて迷い込む可能性があっての。お主はそこに落ちたのを超越者……カイロスに助けられたのじゃろ。まぁ目をつけられたとも言うか」
「マジかよ……俺間接的に殺されかけてんじゃん」
「というより、事実死んどるのじゃろ。故に転移ではなく転生と考えれば自然じゃ」
マジで?俺死んでたのかよ……。
うわーい、もう頭がいっぱいいっぱーい!
「もっとも、これらはまだ可愛い方じゃ。なにより最悪のケースとしては、世界が中途半端に繋がる事じゃの。そうすればお互いの世界に影響が出る」
「え……?た、たとえば?」
「あちらに魔物が出たり、こちらに向こうの概念が流れたりじゃの。お主らのとこには魔物はおらずとも神話という形で怪物の概念があるのじゃろ?それが流れてこちらの魔力と結合し、それが魔物となって現れる可能性はある」
えぇー……ざっくりまとめると神話の存在がこっちに誕生するの?
てかもしかしてチラッと聞いた『王』級の八頭の蛇王とか真相の吸血鬼とかってソレのせい?
「まぁそこは世界の修復速度次第じゃの。向こうの世界で言うなら、失敗すれば魔物は出るし、中途半端だと星の中に抑え込む形で魔物を地下の穴の中にでも閉じ込められる可能性もある」
へー。…………いや待って?それ、ダンジョンじゃね?地球にダンジョン出来るヤツじゃね?
「え、やばすぎるだろそれ。今から王族殺しに行っていいかな?」
「我は止めぬしなんなら推奨するが……妹は存在の齟齬が生まれて世界に消される可能性があるぞ」
「あ、ならいいや」
世界が危険になる『可能性』よりもなァ!妹が『確実に』生きる方をとるッ!
「お主……我が言うのもなんじゃが、正義の味方や『勇者』に本ッ当に向いとらんの」
「こちとら小市民なんでね。世界なんてのはそういうすげぇ人たちにお任せよ」
まぁローズマリーだけは俺も手伝うけどね?
と、そこでふとやべぇ事を思い出した。
「というか、俺に初めて会った時に『世界の崩壊を招くから空間魔法で世界を渡るなら殺す』って言ってたよね?もしかして王族も殺しに行ったり?」
そうなったら澪は消えるし、だからといって俺じゃシヴァ様は止められない。やべぇ、どうしよ。
「そんな顔をするでない、ルイ坊よ。安心せえ、今回は見逃してやる」
「よ、良かったぁ………でもどうして?いや助かるけどさ」
ふん、と機嫌が悪そうに鼻を鳴らしたシヴァ様は、溜息まじりに説明する。
「お主が散々その為だけに努力しておるのを見てきたのじゃぞ。今更それをこんな形で摘み取ろうとは思わぬわ。それにカイロスが関わっておるならそう大きな事態にはならんじゃろうしの」
「おぉおお……シヴァ様優しい!大好き!」
「ッぐぬ……お主、よく恥ずかしげもなく……」
へっへっへ、恥の多い人生なもんでね。人間失格だっけか、さすがにこっちじゃ伝わらないだろうなぁ。
「あ、待てよ。だったら今回の召喚は失敗って事かな?でないと来年また繰り返したりはしないだろうし」
「さえどうかの。召喚した者が実力はあれど、制御に失敗したから繰り返した可能性もある」
「あーなるほど。……つまり見に行くしかないか」
「ルイ坊……お主あっさり捕まっておったろ。下手くそめ、辞めとけ」
あれ、バレてる。話してないのに何で?いやもうさすジヴァって事でいいか。
「それに……この召喚者、お主と相性悪そうじゃしの」
「ええ、何それ不穏すぎィ……まさか無自覚系が来るのか?俺をしばきに来ちゃうのか?」
「まだ言っておるのかそれ。……ん?いや待て……よしルイ坊!心配ならもう一柱『王』を倒して壁を越えておくか?さすれば仮に召喚者が『勇者』だろうと負ける事はないぞ?」
あれ、なんか急にテンション高くなってません?
「えぇ、そうなると寿命解除にリーチじゃん。まだ人間ルートは確保しときたいし、そうなると魔王に残しておくべきじゃない?」
確かあと二体『王』級を倒せば寿命解除されるんだよね?
「ふん、つまらぬの。海辺の別荘に良い場所を見つけたし、相応しい素材となる『王』級を紹介しようと思ったのにの」
「うわぁ……俺のツボ的確におさえられてるって実感したわ。すげぇ興味湧いちゃったよどうしてくれんだ」
「くかかかっ、可愛いヤツよの。ほれ、いつでも言うがいい、特別に我が連れていってやるぞ?当然、お主と相性の良い相手を選んどるしの」
くぅう……どうせなら良い別荘建てたいしなぁ…!実際、最悪魔王は別の誰かに任せたら良い訳だしぃ……。
「ち、ちなみにどんな魔物なの?」
念の為ね。念の為聞いただけよ?
「くふ、そうじゃの。気になるよの」
そう楽しそうに笑ってから、ジヴァ様は地面に水を走らせて落書きするように絵を描いていく。
「三つの頭を持つドラゴン種での。塩害含め外部からの影響を受けにくい良い素材となるはずじゃ。そやつの名前は、アジ・ダハーカと言っておった。ほれ、お主の家名に似ておろう?」
ケラケラと楽しげに笑うジヴァ様を他所に俺は天を仰いだ。
……いやもう確実に過去に地球の概念がこっちに流れてるじなないすか。




