059.束の間の
「お、あれが四天王か」
上空にて、『天盾』を足場にして眼下を眺める。
そこにはいつぞや倒したゴルドスとかいうバリバリ肉体派だった幹部……を、さらにパワータイプに磨き上げましたと言わんばかりのマッチョでデカいオーガ種。
俺の未熟な魔力洞察力でも分かる程に垂れ流しの魔力は濃く、確かに強そうである。
「でも今回はサポートか」
いつもならここで初手爆撃の先制攻撃、からの上空から飛び降りて奇襲の流れなんだけど、今回は違う。
今回はあくまで『守護星』ルークの出陣であり、『ラクサス・イクリプス』はサポートにつく依頼を承っているのだ。
「えー、こちらルイです。聞こえますかー?」
『聞こえてるわよールイくん。どう?四天王はいたー?」
シンシアさんへと双魔石で作った通信魔術を使って報告をする。というかシンシアさんも直接戦わないからか気楽な口調になってるなぁ。
「それっぽいのいましたよ、赤黒い肌でオーガ種です。他のオーガと見間違える事はないくらいでかくてゴツいっすね。獲物は金棒だし、多分パワータイプで間違いないかと」
『ふーん。普通のオーガ種みたいに魔術が通りやすいならルーク卿も楽できそうなんだけどね』
「そっすね。少なくともパワーで対抗はやめといた方が良さそうです」
どう見ても人間が力比べして勝てる相手じゃないし。
『ま、了解。位置は把握して戻ってきてねー。あとはその方角と距離を伝えたら、第一段階はひとまず完了よ」
「はーい」
そう、今回は斥候のお仕事です。
意外とやれるもんだわ。空中とか丸見えだろ、とか思ってたけど、予想以上に『気配制御』の精度が上がってるらしく、高度もあってかバレずに済んだ。
「まぁいかにも鈍そうな手合いだしね。魔術タイプならバレてたろうな」
そも魔力感知なんてチートみたいな察知魔法もあるし、そんな事されたら即バレて袋叩きにされてたわ。
そうぼやきながら、俺は陣地へと戻っていった。
「お、どうだったかなルイ君?」
ルーク卿が出迎えてくれたので報告をする。一応これで任務完了となる。
「ごりっごりのパワー系オーガの変異種、って感じに見えましたけど、一応他のパターンも警戒だけはしといてくださいね。あと上空にいてもバレなかったし察知能力は低いです」
「うん、了解だよ。ところで僕でも勝てそうだった?」
「ベヒモウスみたいに魔術がきかないとかじゃなければギリ勝てると思いますよ。俺の感覚でしかないですけど、多分ドラゴンのそこそこ育ったのよりいくらか強いくらいです」
感覚とはいえ、『超直感』もあるし多分合ってるとは思う。いつぞやのアースドラゴンの一回り強いくらいだろう。
「うげ、かなり強敵じゃないか。その割にルイ君はゆるい感じだけど、君なら楽勝なのかな?」
「いや苦戦はするでしょうね。ただ今回俺達はサポート役なんで」
ふっへっへ、楽な立場だぜ。
「あはは、そんな笑顔で言われると羨ましくなるな……次がいたら父上に頼もうかな」
「いいんじゃないですかね?多分今回のが侯爵級ってヤツでしょうし、まだ公爵級が一体控えてるらしいですよ。かのグレゴリー護国卿なら公爵級でもいけるんじゃないですかね?」
知らんけど。ルーク卿より強いならそれくらいじゃないかな。
「侯爵級に公爵級か……昔あったS級以上の強さの目安だったっけ?よく知ってるね」
いやそれ俺のセリフだわ。
今から説明しようと思ってたのに。
「ちょっと長生きな知り合いがいまして。むしろルーク卿もよくご存知で」
「まぁ王国の記述にそんな内容があってね。これ一応内緒だからよろしく」
そうなんだ。了解です、と答えながら考えてみるが、隠す理由が思い当たらないな。
あれか?S級より強いのがいると不安になるから黙っとこみたいな感じか?
「ちなみに僕は何級になると思う?」
「……素直に答えると、伯爵級の中で強い方、じゃないですかね」
「おっと、じゃあ今回のオーガには勝てないんじゃないかい?」
いや、そうは思わない。
「ぶっちゃけ俺がベヒモウスを倒した時、俺はアイツより断然弱かったです。ま、やりようですよ。ルーク卿は手札が多いですし、うまく立ち回れたら勝てると思いますよ」
なんせいかにも知恵を使わずゴリ押しそうな脳筋に見えたしね。それに仮に知恵があっても切る手札が少なければ結局は同じだ。
「個人的には距離を保って削り、チャンスを探ってヒットアンドアウェイを基本に戦術を組めばいいと思うんでけど……ま、ルーク卿にお任せしますよ」
「ふふ、そうか。ありがとう、参考にしてみるよ」
ここで怯えすら見せないあたりがさすが『守護星』だなぁと思う。
うん、やっぱ英雄は違う。さすがだな、かっけぇわ。
それから2日後。
多大なダメージはあったが、無事四天王は討たれた。
ルーク卿も大怪我を負い、王国兵も亡くなった者も少なくない。
俺達もそれなりの数を削ったと自負するが、全てを守ったり全てを殲滅したりなんか出来るはずもなかった。
それでも王国は今回の大規模侵攻を退けて敵の主戦力の一角を落とした。
これにて、しばしの平穏が王国に訪れることになる。
「クルルさん、本当にありがとう。君のおかげで僕はここにいる。だから僕は君の力になりたい」
ちなみにルーク卿は戦場の慌ただしさの中でこっそりクルルが治癒魔法で癒した。
でなければ恐らく死んでいただろう。
それを鋭い察知能力で気付いたルーク卿が、それ以降クルルに迫るようになった。
「……別にいい。私じゃなくルーク卿は国の力になるべき」
クルルはなかなかドライだった。
クランメンバーだから手伝えはしないけど、個人的に心の中で応援だけはしとくよルーク卿。
それからシヴァ様やシンシアさんの予想通り魔王軍との戦争は小康状態となり、一時的に平穏な日々となる。
俺は1月半ほどかけて秘密基地を完成させ、既製品だが一通りの家具も揃えた。
それを機にクランメンバー達も依頼の合間に訪れては、泊まり込みでシヴァ様に挑むように稽古をつけてもらってる。
……なんかえらくやる気満々なんだよね、どしたんだろ。
あとは澪を待つ間に途中だった魔本でも作ってよう。そんな事を考えていた頃だった。
「あールイ君?なんかジェラール第一王子がさ、マリーちゃんから妹のフラムリリーちゃんに乗り換えようとしてるって噂を聞いたんだけど」
相変わらずの情報力のシンシアさんから聞いた話に、思んず俺とクルルはばっと目を合わせた。
「そういえば……」
「……ん、あったねそんなの」
いやでもリーリエにいじめられてフラムリリーが優遇される展開はもうないはずだし、それなのに第一王子はフラムリリーを選ぶのか?まさか単に好みがフラムリリーだったりするのかね。
「これは……ちょっと王宮に潜入しないといけないかもなぁ」
「……面白そう」
だよね、分かってくれるか。
いやバレたら洒落にならない高難度ミッションではあるけど、詳しい情報を仕入れておきたい。やる価値はあると思う。
「そうねぇ、私が潜らせてる耳だと限度があるし、有効ではあると思うわよ」
耳?いや本当の耳じゃないだろうし、隠語か何かかな……スパイとか?
まぁいいや、深く聞いたら後悔しそうだし。
シンシアさんは怒らせない、これ大事。
「ならちょっと行ってきますね。なんかあったら連絡ください」
「……私も行きたい」
「いや隠密そこまで得意じゃないじゃん。無理無理」
「……面白そうなのに」
ごめんって。いや王宮忍び込むのにここまで純粋に楽しそうにする人おるもんなん?見つかったら多分死ぬんどけど。
「んじゃまぁ、土産話でも楽しみにしといて」
「……ん。切った貼ったの手に汗握る話、よろしく」
「それだと見つかってるから却下ね」
とんでもない相方に呆れながら、俺はダハーカ家に転移。
まずはローズマリーとフラムリリーに話を聞かないとな。




