058.名声
『古代獣王』ベヒモウスの討伐を成し遂げた英雄ルイが結成したとされるS級クラン『ラクサス・イクリプス』の噂は瞬く間に王国中に広がった。
注目の新進気鋭である『イクリプス』を中心に、若手世代最強の一角とされていたA級パーティ『魔撃の射手』と『魔剣の乙女』が集まったクランというのだから、注目を集めるのは当然ともいえる。
それは冒険者の中だけではなく民にも広がり、そして貴族や王族の耳にも入るようになる。
そんな最中で再び魔王軍の侵攻があった。
前回を上回る規模の侵略に、これは『守護星』の投入もやむなしかとされていたがーー結局はその機会は訪れないまま侵攻は退けられた。
そしてそれを成したのは、やはりというべきか『ラクサス・イクリプス』だ。
しかしそれを実際に見た人達が最も注目したのは、意外にも英雄ルイではなく銀の髪を持つ白金の光を纏う少女だった。
その目撃者達によってその少女の存在は『ラクサス・イクリプス』の話題に便乗するように広まる事となる。
そう。かのS級クランには、『勇者』がいるのだと。
「いやー、すっごい反響だねぇ。どうマリーちゃん?学校で人気者になったりしてるー?」
「いや、それどころじゃないですよ……第一王子ほったらかしの勢いで人が押し寄せるから大変です…」
「あっはは、そりゃそうよー。魔王軍幹部を勇者の特徴を持ってる可愛い女の子がトドメを刺しただなんて話題に事欠かないわ」
今日も今日とてお姉様方に可愛がられているローズマリーだが、学園の疲労のせいかぐったり気味である。
クラン結成をして一週間もしないタイミングで現れた悪魔みたいな見た目を持つ魔物の群勢。
それを聞いてまた指名依頼かなーと考えてると、シンシアさんがニヤリと笑って言い放った。
『良いお披露目の機会ね、私達で追い返すわよ』
え?と固まるメンバー達を他所に、シンシアさんはテキパキと準備や手配をしていく。
そして結局言われるがままに軍勢の侵攻線上に移動して(シンシアさんに言われて作った俺作の馬車で猛ダッシュ。ギリギリ近くの村に辿り着く前に到着した)、休憩もなく敵軍へと突撃した。
そして改めて思う、このメンバー達の強さ。
クレアさんとカーラさん、テッドさんは中遠距離から魔法や魔術、弓矢を降らせるし、その更に少し後方からシンシアさんは指示を出しつつ風の刃を放つ。
そんな後衛達を盾職とは思えない速度で動き回る高速移動要塞ことモーガンさんが守る。
例え多少の撃ち漏らしがあろうとラベンダーさんの防御魔法があるし、怪我をしてもクルルが治す。
そして攻撃力抜群の魔法剣(ローズマリーと違って付与術で武器に付与してる)を扱うエリーゼさんと、猫のような素早く柔軟な動きで翻弄しながらサクサクと短剣で首を刈るダリアさん。
最後に、俺が近くでフォローについていたとはいえ、初戦場で怯えるどころか果敢に暴れるローズマリー。
敵の数はざっと2000は超えるとはシンシアさんの言だが、だいたい3割くらい削ったところでボスが出てきた。
なんかいかにも悪魔っぽい黒い肌でコウモリの羽根やら角やら生えてる自称幹部だったが、光魔法が特攻だったのかローズマリー1人でも割と戦えてた。
後でシヴァ様に聞いた話、子爵級はあったと言うのだから、マリーが有利に戦えたのは光魔法が弱点だったからの可能性は高い。
ともあれ、少し手伝ってやるだけでローズマリーは魔王軍幹部を討ってみせたのだ。
そしてシンシアさんが即座に魔王軍に幹部を討った事と、退けば追わない事を大声で宣言した事で敵軍は大慌てで撤退していった。
この辺の判断の速さと行動速度はやはりさすがのシンシアさんだ。
こうして、無事勝利をおさめた訳だ。
「まぁこれで王国も『勇者は私達にはもったいない』とか『勇者の力を活かせないならウチに寄越せ』とかは言えないわよねー。なんせ王国が会議室でチンタラしてる内に私達のクランが単独で撃退ですもの。むしろこっちから『王国じゃ勇者を正しく扱えない』って言えるレベルの成果よねぇ」
そうくつくつと微笑むシンシアさんは、ただひたすらに味方で良かったと思える程末恐ろしかった。
「あ、そうそう。魔王軍なんだけどさ、四天王がいるみたいよ。コッテコテなの来たわよねぇ」
ふと思い出したように報告するシンシアさんに、クランハウス――といっても『魔撃』のパーティハウスだけど――に集まってるメンバーが反応を示す。
「ふむ、いかにもな感じだね。嫌いじゃないさ」
「名前はともかくバカじゃないかしら。前回も四天王だとか言って負けたんでしょ?普通増やすところじゃないの?」
「……きっと四天王は魔物の子供が憧れる職業ナンバーワン。だから名前を変えたらがっかりされる」
「それはなんだか微笑ましい……と言っていいんですかね。ふふ、人類の『守護星』みたいな感じなんでしょうか」
それぞれ感想を告げるが、誰一人シンシアさんの発言を疑わないというね。彼女の情報力を信頼してる証だろう。
てかクルルとローズマリーは微妙にズレた感想だな。
「つまり四天王を闇討ちしたらしばらく大人しくなるって事っすよね」
そろそろ本格的に秘密基地の2階部分を作りたいし1人くらい狩ります? と続けると、一拍の沈黙の後にわっと声が返ってきた。
「あっははは、いーわねそれ。やばくなったらそうしましょ」
「ふふ、頼もしいな」
「そんな晩飯買ってくるみたいなノリで何言ってるのよ。それより待って?秘密基地って何かしら?聞いてないわよ!」
カーラさんめっちゃ秘密基地食いつくじゃん。
「いや秘密基地は秘密だから秘密基地なんすよ?」
「じゃあ言うんじゃないわよ!中途半端に聞くと余計に気になるじゃないの!」
「……黒の森に建ててる拠点」
「あ、クルル言っちゃたよ」
「どうせルイお兄様の事だから言うつもりだったんでしょう?そうでなければ最初から口にしないでしょうし」
「まぁな。でもほら、カーラさんってすごいリアクションいいからつい」
「アンタ子供の頃からだけどたまに生意気になるの何なのよ?!」
そりゃ急に揶揄いたくなるからに決まってるじゃないすか。いやこれでもすごい人なんだけどね、カーラさんは。
「……それを今言うって事は、招待するの?」
「まぁお隣さん次第だけどなぁ」
核心をつくクルルにやんわりと肯定すると、「黒の森にお隣さんがいるの?!」とカーラさんは目を丸くしてた。
「はは、もしお隣さんが良ければ是非行ってみたいな。危害は絶対加えないから許可してもらえると嬉しいんだけどね」
「いやぁ、言い辛いんすけど危害は加えたくても加えられないっすよクレアさん。俺が108匹いてもかすり傷つけれないと思います」
そう言うと、は?と固まる面々。あとなぜ108匹?と聞くクルル。
すると、ふわりと室内に風が吹いた。
「――お主がもう1人のサブリーダーじゃったの。ふむ、人間にしてはなかなかさっぱりした性質をしとるようじゃの」
その風の中心に現れたのは、髪から服まで真っ白な人間離れした美貌の少女。
言うまでもなく、シヴァ様その人だ。
「ルイ坊が仲間だし見に来いとうるさかったから来たものの、期待はしとらんかったが……ふむ、良かろう。ルイ坊の頼みじゃ、好きに来るといい」
「ありがとシヴァ様!いやー良かった」
ふぅと肩の力を抜いていると、目を丸くしているクレアさんと目が合う。
「ルイ君……この人はまさかベヒモウスの時にいた…」
「あ、はい。シヴァ様っていって、以前言った通り超越者です」
「……お隣さんってこの人なのね。超越者ね……そうじゃないと説明つかないわよ、この馬鹿げた魔力量…」
あぁ、カーラさんって大体の魔力量分かるんだっけ?前にちらっと聞いた事あったような。
冷や汗を流すカーラさん、どんまいです。魔力が分かるならさぞ化け物に見える事だろう。
「ただし、お主の仲間ならお主の家に住まわせるのじゃな。我の家にはお主しか入れるつもりはない」
「ん、そりゃ泊めてとは言わないって。早く2階部分も作らないとなぁ」
「今から作りに行くかの?そのうち魔王も四天王の1人あたりを寄越すじゃろうが、それを討てばしばし暇になるだろうしの」
「あ、シヴァ様もそう思うんだー。じゃあ間違いなさそうね。ルイ君が行っちゃう前に伝えるけど、私の予想では1ヶ月以内に四天王の軍が来るわよ」
おー、この2人の予想ならそうなるんだろうな。
いよいよ主戦力か。どうすんのかね。
「ルイ坊よ、今代の四天王とやらは公爵、侯爵級が1人ずつ、伯爵級が2人じゃの」
「うげ、強そうなのが2人いるな」
特に公爵とかほぼ『王』級じゃん。
まぁその間には大きな壁があって力の差は大きいとは言ってたけど、言い換えれば壁を越えない範囲で最強ともとれる。
「ふむ。集団の連携や相性もあるから目安程度じゃが、単体ならば……シンシアとローズマリーは男爵級といったところじゃの。クルル、それからクレアとカーラといったか、お主らは男爵級に一歩届かぬと言ったところか。まぁ目安にするが良い」
「おぉ、ジヴァ様優しいじゃん。どしたの?機嫌良い?」
「やかましいわ。こやつらが先日の勝利で調子づいて死んではお主が1年くらい引きこもりそうだから、仕方なくじゃ。そうなれば我の飯を作る者がいなくなるからの」
「おっとおっとぉ?!カーラさんばりのツンデレじゃん!」
「誰がツンデレよ!」
「勝手に変なカテゴリに括るでないわ!」
とお約束の会話をしてから、俺は黒の森に一緒に転移した。
ちなみにてっきりついてきてると思ったジヴァ様はその場に残っており。
「……ちなみに言うとくがの。あの坊主は全力を出せるようになれば『王』級じゃ。足手纏いにならんよう気をつけるが良い」
そう言い残していったのは、俺のまかり知らぬ事であり。
「……上等。絶対目にもの見せてやるわよ!」
「ふふ、また追える立場になるとは嬉しいね。私も気合いを入れないとな」
とやる気を見せている事もまた、知らない事だった。




