057.クラン結成
「………は?オーケーが出た?え、マジすか?」
あのランク上はともかく経験豊富な大先輩にあたる『魔撃の射手』が?
「私達も構わん。まぁ条件はあるがな」
『魔剣の乙女』のメンバーであり副リーダー的ポジションのエリーゼさんまで構わないと言う。
「え、えぇ……?」
「ちょっと、なんで言い始めたアンタが嫌そうなのよ?」
「いやいやカーラさん、嫌とかじゃなくてっすね……普通驚きますってこんなの」
国内でも10とないA級パーティの二つが手を組んでくれるとかあるか?この人達も協調性はある方とはいえ基本マイペースなんだぞ?
「いやいやぁ、割と最近よく一緒に行動してるじゃないのよ。それが正式にひとつになるってだけの話さ。まぁさっきも言ったけど、条件は当然あるけどねぇ」
「いやその正式ってとこが重要でしょうよテッドさん」
何をへらへら笑ってんだアンタは。
いきなりベヒモウスが現れた時並みにびっくりしてるんだよこっちは。……いやまぁテッドさんはいつもこんな感じか。
「ちなみにその条件とは?」
「簡単さ。各リーダーにそれなりの裁量権があればいい」
「あー……ふむ?つまり形こそ1つのクランだけど、実質は各パーティの寄り合いみたいな形式にしたいって事すか?」
「話が早いね」
うむと頷く『魔撃の射手』リーダークレアさんはつらつらと説明していく。
話をまとめると、クランリーダーとは別にサブリーダーとしてそれぞれのリーダーが裁量権を持ち、クランリーダーから一方的に命令されるのではなくある程度の拒否権がある事。
また、重要な案件ではクランリーダーの独断ではなく、サブリーダーを交えた合議制を取り入れる等などを要求された。
「なるほどっすね……そうなれば間違いなく超有名で強力になるであろうクランの看板を使えつつ、実質パーティ単位で自由に動けると」
「そうさ。テッドも言ったが最近では割と合同だったり各々メンバーが混ざって依頼を受けたりもしている。それを事実上のクランという名前だけ冠してしまおうというだけの話さ」
「合同は聞いてましたけど、入れ替えとかまでしてたんすね……」
仲良しすぎんかこの人ら。
「何を言っとるんじゃい。きっかけは少年じゃろうが」
「えぇ……モーガンさん、俺なんかしましたっけ?元からクレアさんとシンシアさんとか仲良しだったじゃないすか」
だから色々世話になったお礼も兼ねて、例の双魔石の通信魔術具も一個ずつ渡したっけ。連絡取り合う事多そうだと思って。
「いやールイ君、それ違うっすよ!結構バチバチにライバル意識持ってたんすよ、クレアさんとうちのリーダー」
そう笑って言うダリアさんにクレアさんとシンシアさんの「言うな」と咎めるような視線が刺さる。
「え。そうなんすか?」
「……まぁ、な」
「ふふ、そうかもねぇ」
微妙に言いづらそうなクレアさんと、とぼけるようなシンシアさん。
そんな二人にふふふと笑うラベンダーさんがさらりと割って入る。
「年下で可愛がってる後輩のルイ君が仲良し仲良しって言うから、ルイ君の前では誤魔化してましたね〜。そしたらあれよあれよの内にルイ君が外堀固めるから引くに引けず、いつの間にか本当に仲良くなったのよ〜」
ふふふと実に楽しげに笑うラベンダーさんに目を丸くする。
いやマジで?なんかすんません、そんなつもりじゃ……。
「バカね、なに気まずそうな顔してんの。別に損はないし気に病む必要なんかないわよ」
そんな俺に呆れ半分に言うカーラさんは、相変わらず口調は強いけど優しい。
「じゃ、じゃあマジでいいんすか?てか『勇者』を入れるつもりなんすよ?絶対国が鬱陶しい感じに絡むようになりますよ?」
それでもいいのか?と聞くと、へっとバカにする感じで笑われた。心配したのに。解せぬ。
「国なんて好きに言わせときゃいいのよ、どうせ私達の出す利益目当てで何もしやしないわ。それに手出ししてきても『守護星』でもない限り負ける気はしないわね」
おぉ、さすがA級パーティメンバー。堂々と言い切る姿は素直にかっこいい。
「それにクランリーダーは泣く子も黙るS級冒険者っすからね!『守護星』にも負けないっすよ!」
楽観的にも聞こえるダリアさんだが、この明るさがきっと何度もパーティを救ってきたのだろう。
だがそんなダリアさんに言っておく事がある。
「いや、もしクラン組んでくれるとしても俺リーダーはしないっすよ?シンシアさんかクレアさんにお任せします」
「「「はあ?」」」
おぉ、一斉に睨まれた……いやでも考えてみ?
「だってどう考えても経験値不足っすよ。適切な運営や外部とのやりとりとか、絶対俺より二人の方が上手くやりますって」
例えば創作物で勇者が王様になったりするアレ。
もちろん各々意見はあるだろうけど……実は俺、反対派なんだよね。
組織を運営するには腕力じゃなくて、実際に運営する知識や手腕が必要だ。
もちろんカリスマは勇者ともなれば溢れてるだろうが、実務や知識、判断力が伴わなければ結局運営は成り立たない。
強力な戦力なんてのは軍事のトップとかにすればいいのだ。
簡単にいえば『エースとトップは別でいい派』な俺である。社長と営業トップは別でいい、みたいなね。
そして当然、俺に組織運営の知識や経験なんてない。
ただ魔物に強い俺がいきなりペンを握ったところで役になんて立たないだろう。
「……私も、賛成。二人パーティのリーダーが、クランリーダーになるのは無謀」
しかもこのフラフラしてばっかの自由人じゃ無理、とクララが俺の脇腹を指でつつく。くすぐったいでござる。
「いや、そうは言うけどね……」
「ん、分かったわ」
「っておいシンシア?」
困った様子のクレアさんに対して、シンシアさんはあっさりと頷いた。
「あのねクレア、この子がやりたがらないのは分かりきってたの」
そうクレアさんに笑ってから、俺を見る。
「でもルイ君、君はリーダーの看板を背負ってもらいます。そして副リーダーは私とクレアよ」
「えぇ?だから嫌なんすけど……」
「分かってるわよ。だから、運営や対外のやりとりなんかは私がメインでやってあげるわ。クレアもこんな見た目で細かい事は気にしない性分だしね」
「うっ……」
申し訳なさそうなクレアさん。俺まで申し訳ない気持ちになる。
「でもやっぱりS級の名前をトップに置くメリットは大きいの。だから名前だけでもリーダーはしてもらうわ。いいわね?」
「は、はーい……」
ん、良い子良い子、と頭を撫でるシンシアさん。
いやもう俺17だからね?いつまで10歳の頃と同じ扱いする気だこの人。
「よし決まり。手続きやらは明日済ませるとして、クランの名前は何か希望はあるかしら?」
その瞬間、俺とクルルは即口を閉じて俯いた。
その姿はまるで学級委員を決める時の生徒の如く。
いや名前決めるので散々苦労したしね俺達。しかも最後はカーラさんにお願いしたし。
「あっははは!ルイ君とクルルちゃんには期待してないから大丈夫よー?」
その言い方は酷くない?と思ったけど、あまりにその通りすぎて何も反論の言葉は出てこなかった。
「国内唯一のS級のパーティである『イクリプス』のクランだとすぐ分かる名前の方が広まるのは早いだろうね」
「じゃのう。そこに付け足すかもじった名前が良かろうよ」
「あっ、はいはい、じゃあ『イクリプスと魔剣と射手』とかどうっすか?!」
「「「却下」」」
「い、一斉に却下は辛いっすゥ!」
……マジか、こんなに討論ってテキパキ進むもんなん?俺らの時のあのぐだぐだは何だったの?
「「…………」」
思わず目を見合わる俺達は、ふと同時に頷いた。
「全てを任せよう。俺たちはお飾りのトップなんだ」
「……異論はない」
その後、役立たずの置物と化していたが、シンシアさんからローズマリーを連れてくるように言われて王都へと飛んだ。
それから経緯を説明して、魔王軍と戦ってもいいけど明日結成予定のクランに入る事と、そのメンバーが誰なのかを伝えると珍しく興奮気味だった。
いわく、戦う女性の憧れとして多くの女性から尊敬されているのがクレアさんやカーラさん、魔剣の乙女メンバーとの事。
「うわぁ……い、いいんですかね、私も入って。隠れファンの方達に刺されないようにしないと」
「マリーが入る為に結成したようなもんだし、入らないと作る意味なくなるんだけど。てかファンとかいるの?……俺も刺されないように気をつけよ」
なんせ名前だけとはいえ、その憧れの人達の上に立つ形になるんだ。何でこんなやつが、と恨まれる可能性はありそうだ。
ローズマリーは何か言いたげな視線を寄越していたが、まぁそれはいい。とりあえずデリンジャに戻ろう。
どうせまた宴会になるだろうし、明日の朝連れて帰る事をたまたま見かけたフラムリリーに伝えておく。
しかしリリーちゃん?なんで顔赤くして「朝帰り…」とか言ってるのかな?おい誰だこの子にそんな知識与えたのは。
「っしゃ、行くか」
「ルイ兄様、今度はゆっくりしてってくださいねぇ〜」
リリーの間延びした声に手を振って空間転移。やっと一日二回くらいなら体調にも影響なく使えるようになったよ。
それからローズマリーに群がるお姉様方をやんわり押し留めたり、ナンパしようとするテッドさんに釘刺したりと奮闘した。
ローズマリーは黒の森に行くメンバー以外は初対面だしね。
で、尊敬するお姉様方に気に入られて嬉しそうなローズマリーにほっこりしてるお姉様方は、予想通り酒場に言って宴会を始めた。
「……こういう時、ほんっと肩身狭いっす」
「あっはっは、気にしたら負けさルイ君。ほら、混ざりに行こうじゃないか。中身はともかく全員美人だしね!」
「ルイ、こやつの女性関係の話は半分くらい聞き流すんじゃぞ」
いや、今更気付いたけどクランメンバー11人中男子3人という事実よ。
ハーレムやっほい、とか実際になってみると全然思えないからね?みなさん逞しすぎるし、仮に手玉にとろうしたらあっさり返り討ちにあって敗北する気しかしない。
なのである意味テッドさんの明るさが羨ましい。
「まぁあちらは放っておいてワシ達で飲もう。一度ルイの本音を聞いてみたかったしのう」
「あーボクも気になってんだよねぇ。よし、飲ませて聞き出そう!」
「え、なんすか?ちょ、なんか怖いっすよテッドさんモーガンさん?」
それから警戒しつつ飲んだが、いつの間にか酔ってた。この二度目の飲酒で自覚したのは、俺思ったより酒弱いってこと。
「で、本命は誰なんだい?応援するから教えてくれたまえよ!」
「ルイはそういう年頃じゃろう?やはり歳の近いクルルなんじゃろうか?確か3つ上じゃったか?」
あとこの二人、思ったより下世話のデバガメだった。
そして翌日、気付けばまたギルドの酒場で寝てた俺を起こしてくれたモーガンさんの肩に抱えられ、頭痛に苦しみながらシンシアさんが中心に手続きをしていく。
こうしてリンデガルド最強と謳われることになるクランは、リーダーが二日酔いで抱えられたまま結成することとなった。




