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052.超越者への距離

「おぉ、これは美味いの。貝は焼いてばかりだったか、煮ても美味いの」


 それは意外だな。酒蒸しとか簡単な料理なのに作る転生者いなかったんだろうか。

 って違う違う、何の話してんだ。


「それよりマリー強くなりすぎでしょ。何魔改造してくれんの」


「何を言う。元より魔力操作が優れておったからよ」


「……あ、そういや俺の最初の魔術の先生ってローズマリーだったわ」


 そっかそっか。基礎が出来てたから、ギフトという武器さえ手にしたらサクッと強くなったのか。


「懐かしいですね、ルイお兄様。今ではもう立場が変わってしまいましたが」


「いや見た感じすぐ追い抜かれそうな勢いだったけど……」


「……驚きの成長」


 それなクルル。なんかすげぇスピードで動いたり攻撃してたりしてたし。

 まさに俺の苦手なスピードタイプだ。


「『勇者』は光魔法と身体魔法の二つに適正のあるギフトだからの。重複授与と違って1つに組み合わせたギフトだから本人にも負担なく馴染みやすいのじゃ」


「はー、なるほど。だから光飛ばしたり光纏ったりやりたい放題してたのか」


「うむ。ここで強みなのが二つが組み合わさっておるという点じゃ。別々のギフトや魔術を無理やり組み合わせるのではなく、元から組み合わせてある技法として扱える」


 おー、つまり魔法剣的なやつか。

 付与なんかの後付けとかじゃなく、最初から剣、魔法、魔法剣が組み込まれてるって訳ね。うんうん。


「いやチートやん」


「ちーと?まぁともかく、それを理解せずに片方だけ、もしくは両方個別に鍛える勇者が過去に多くての。今回は特別に指導してやったのじゃ」


「ありがとうございます、シヴァ様。とても参考になりました」


「うむ。勇者や聖女は女神アモーリアが気合いを入れて作ったギフトだからの。余程適正がなければ発現しない分、適正さえあればすぐ馴染むし、大いなる力を発揮しよう」


 なんと一週間滞在予定だったが、もう自己鍛錬でも充分な域に達しているんだとか。

 それだけ基礎が出来ていたかららしい。きっと俺が出た後も訓練を欠かさなかったんだろうな、真面目だしね。


「……シヴァ様、治癒魔法もできます?」


「うむ。なんなら得意な方じゃの」


「……教えてほしい、です」


 おぉ?クルルが燃えてるぞ?

 まぁあれだけの成長を目にしたら否が応でもやる気出るよなぁ。


「いいわねぇ。私の『風刃』は風魔法の一端でしかないし掘り下げる余地があまりないのよね」


「あー、決闘で使ってましたね。えらい連発してたから魔術にしては練度高すぎると思ったっすけど、あれがギフトだったんですね」


「そ。試行錯誤して大小の調整とか飛ばさずに待機させてトラップにするとか、一斉掃射なんてのも考えたけど、それ以外がなかなかねぇ」


「は?いや十分でしょ。なんすかその鬼のような布陣は」


 遠くから刻まれ、近付こうとしても刻まれ、逃げ場もなく刻まれ。それが全て視認しにくい攻撃なのだ。

 いやそれ鬼畜すぎ。


「風刃か。であれば威力の軽さが悩みであろう?もしまだ試しておらぬなら、複数の風刃を重ねて一枚に圧縮してみよ。威力が増すぞ」


「あっ、なるほどねー。さっすが超越者様、ありがとうございます」


「うむ。風刃はシンプルだからこそ使い勝手の良い魔法じゃ。精進せえ」


 うわぁ、これ以上強くなんのシンシアさん。

 てかこの人って本来司令塔ポジションなんだけどね?後ろから指揮しつつ見えにくい攻撃してくるのか。戦いたくねー。


「さて、ルイ坊は苦戦しておったな。開く空間の認識までは良いが、繋がる先までの認識が甘いからうまく繋がらんのじゃ。まずは自分の近くに繋ぐ側の空間を出せばいくらかやりやすかろう。まずは感覚を掴め」


「うっす、ありがとうございます」


 こうしてシヴァ先生の授業は一週間続いたのだった。






「っだらっしゃぁあ!」


「くっ……?!『レイ』!『閃剣』!」


「っとォ!っぶな!だーくそ、速すぎぃ!」


 最終日には手合わせをしたのだが、最初は可愛い妹の成長を見てやろうくらいの気持ちだった。

 ふっ、とか強者感だして笑ったりね。


 けど途中からガチです。

 負けるのは流石に格好つかないし、空間魔法こそ使わなかったけど『疾風迅雷』まで使わされたよ。


「いやちょ、強くなりすぎでない?多分A級魔物もソロで狩れるよ」


「はぁ、はぁ……ありがとう、ございます。でも、体力が、全然、持たないです…」


 あー、そこは技術じゃなくて継続しないとどうしようもないしね。

 しかもスピードタイプだから運動量も多いし、そこがローズマリーのネックになる訳か。


「……はい、『身気活性』」


「……ありがとうございます、すごいですねこれ」


 クルルも手札を増やしてた。

 傷の回復と毒素の治癒くらいだったのが、体力回復、体力継続回復、眠気解消、精神活性、とまるで社畜戦士の尻を叩くようなラインナップで習得していた。

 一家に一台欲しい系女子になってる。


「……できたら魔力回復も覚えたい」


「や、あれやられた方は結構辛いぞ」


 聞けば、シヴァ様がベヒモウス戦で俺に魔力をくれたのは治癒魔法の一種だったらしい。

 

「そうだの。ましてや相手の魔力に波長を似せずに渡したらあんなものではないぞ」


「それもはや攻撃魔法じゃん……」


「かっかっか、受け入れる側の意思がなければ体内魔力が弾くので攻撃にはならんから安心せえ。まぁ魔力がすかすかの相手なら通る故、倒した相手への死体蹴りには使えるかの」


「怖えよ……」


 治癒魔法なんていかにも神聖な感じなのに。イメージ変わっちゃうって。


「さてと、ではそれぞれ送ってやろう。忘れ物はないかの?」


 それからローズマリーは王都へ、シンシアさんとクルルはデリンジャへ転移させられた。


 俺も送ってくれるかと思って待ち構えてたのに、俺だけ取り残されたけど。この気持ち、言葉にならない。


「ちょ、意地悪じゃね?アーンと見せかけて自分で食べるアレかよ」


「意味不明な例えはやめんか。お主は練習がてら自分で帰るが良い。……が、その前に少し聞きたくての」


 ニンマリと笑うシヴァ様は、見た目だけは絶世なのに何故か背後に近所のおばちゃんを幻視した。


「あの者達と結婚するのかの?全員か?」


「えー……最近この手の話多いなおい。いや俺は妹が結婚して俺の手を離れるまでする気はないって」


「妹?……あぁ、異世界の方のかの」


 俺が頷くと、シヴァ様は不思議そうに首を傾げた。


「お主、それは妹に頼まれたのかの?」


「いや、そうじゃないけどね?俺の意思だよ」


「では聞くが、妹も同じ事を考えていたとしよう。お主は嬉しいのかの?」


 同じ事ぉ?つまり俺が結婚するまで澪は結婚する気がないと思ってて……


「いやそれはダメでしょ。こら澪ちゃん、ちゃんと幸せになりなさい」


「そうじゃの。つまりお主もちゃんと幸せになるべきではないのか?」


 あー……くそ、なるほどね。

 てか最近この自覚が足りない事を指摘されて納得するパターン多いな。独りよがり、ってか。


「……ちょっと考えてみます」


「うむ。あとな、お主はベヒモウスを討った。それは大きな変化じゃぞ?お主からしたらベヒモウス討伐すら妹を迎える為の過程で、それは秘密基地とやらも含めて進行形で、目的への過程の一端なのだろう」


 はい、まさにその通り。やっぱ心読めるのかなこの半神様。


「だがの、事実お主は何千年も生きる『王』を討ったのだ。いい加減にその事実をきちんと認識せよ」


「……まさにさっき自分の客観視の至らなさに思い至りましたよ。ちょっと冷静に客観視するようにします」


「うむ、そうせえ。でないとお主が昔嫌いと言っておった無自覚系とやらになっておるぞ?」


「マジかぁ……いやそうだよな。あと大切な事言うけど嫌いじゃなくて苦手なの。もしくは怖い。そこ間違えたら怒られそうなんで気をつけてくださいよ」


 そこ大事なとこよ?フラグとかになったらヤバいし。


「はぁ……お主、まだつまらん心配しとるのか?」


「いやだって俺や妹も異世界きてるし、その内そういうヤツが来てもおかしくないじゃん。しかも無自覚系ってめっちゃくちゃ強いんだぞ?」


 そんなの目ぇつけられたくないわ。勝てる気しないもん。「やっちゃいました?」とか言ってボコられたくない。


「くだらぬのぉ。それにお主、あとひとつふたつ程度壁を超えたら超越者になるのだぞ?」


「………は?」


「全く……ベヒモウスを討つとはそういう事じゃよ。それだけ膨大な魂をその身に宿しておる」


 は?はぁ?


「先日『守護星』とやらと戦って勝てぬと思ったらしいの?」


 あ、あぁ、ここに滞在中にそんな話をしたな。


「お主は不器用だから力を十全に扱えておらぬだけだ。もはや人間でお主に並ぶ者はおらぬ程のポテンシャルにはなっておる」


 そう聞くと本当にセンスねぇよな俺。ウケる。あ、涙出てきた。


「その『守護星』とやらはこれから先じわじわと自力そのものを上げねばならんのに対して、お主はすでにある自分の力を使いこなせるようになるだけで飛躍的に伸びる」


 さて、どちらが一年後勝つか分かるじゃろ?

 そうシヴァ様は薄く笑った。


「うへぇ、それすらも実感してなかったわ。反省します……てか壁越えたら超越者ってどゆこと?」


「魂の限界の壁を超える事じゃの。『王』級を倒すと起こりやすい現象じゃ。お主なら『三王』であればあと一体で超える」


 ーーそうすれば我と同じ域に至る。


 そう告げるシヴァ様は、どこか幻想的で……この領域に至ると言われても実感が湧かない。


「ちなみにそこから更に神格を得れば神と呼ばれる存在に変質するの」


 へーそーなんだー。

 もはやスケールでかくて飲み込めねぇわ。


「『三王』ってバムバードとリヴァイアスだよな?……てか待って、その言い方だと他にも『王』級っているの?!」


「あのな、お主も言っておったろ?そろそろ魔王が復活すると。その魔王も『王』級じゃ。あと有名所だとヴァンパイアの真祖や八頭の蛇王らなんかも『王』級だの」


 えー……意外といるぅ。

 よく人類生きてたね。そんなんが徒党組んだら人類生存圏なんて吹き飛んでたろうに。


「遠い目をするでない。お主はその『王』級の頂点の一角を討ったのじゃぞ?」


「いやー……客観視するとは言ったけどね、これは呑み込むの大変だって…」


「早く慣れるが良い。なに、魔王が復活してお主が倒せば、あとは帝国の近くにある湖に引きこもっておるマザースライムでも倒せば超越者に至るだろうよ」


 マザースライムはお主向きじゃし簡単に倒せるだろうしの、とケラケラ笑うシヴァ様に痛む頭をおさえる。


「いやいやいや……え、待って?仮に超越者になったとしたら寿命消えるんだよな?俺普通に百年足らずで死ぬ人生計画だったのに」


「くだらぬ、人生は臨機応変に生きるものじゃぞ?しかしどうしても百年で死にたいなら死ねば良い。神格を得ていない超越者は不老であっても不死ではないのでの」


 いやそれ自殺しろってか。できたら眠るように逝きたいんですが。


「それに不老が他者に置いていかれる感覚になる事や、それ故の孤独を心配しておるんじゃろう?大丈夫じゃ、そこは心配いらぬよ」


「いやまぁ、まさにその通りだけどさ、心配しかないでしょ。嫌だよ全てを看取って孤独になるとか」


 じとっと睨んでやる。

 ここは人間として譲れないとこだしね、やっぱ長い孤独は辛いって。


 しかしシヴァ様は、いつもの全てを見透かすような超然とした微笑みではなく、まるで見た目相応の少女のようにクスリと楽しげに笑った。


「何を言うか、我がおろう。超越者になった時は、我が共に生きてやるぞ」


「……………くそぅ」


 これは……卑怯じゃない?

 さすがに照れてしまった俺の頭を撫でるシヴァ様に、俺は俯くしかできない。

 なんせその笑顔は、悔しい事にとても可愛かったのだから。


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