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005.教会へ

 そそくさと晩飯を済ませて部屋に戻り、まず最初に行ったのはオッサンから教えてもらったいくつかの空間魔法の詠唱をメモする事だ。


 幸い、しっかりと覚えている。

 不思議な感覚だよなぁ。オッサンとの会話が9年前のような感覚とつい昨日のような感覚が混合してるというか。

 

 教えてもらったのは転移、固定、拡張、圧縮、分断、作成の6つ。

 まぁ言っちゃなんだが、100%今の俺では何一つ行使できない。


 まずもって空間魔法って『魔法級』しかないしね。

 

 オッサンいわく、現代での魔法や魔術については別らしい。

 ざっくり言えば、魔法がギフトで与えられた力で魔術が人力で使える力。


 で。ここからは細かいし俺的にはどうでもいいけど聞く?なんなら聞き流してくれ。

 えっと、厳密に言えば魔法が原初の『世界改変の技法』であり、人間の脳では困難なレベルの演算処理と緻密な魔力操作があって初めて行使できる激ムズ技法。

 対して魔術は魔法を解析する事で、一部分を抽出したり簡略化する事してより簡単かつシンプルにした汎用の技法。

 では何故ギフトであれば魔法が使えるのかというと、俺がオッサンにもらったように、ギフトとはそもそもが『超越者のスキルのコピー』を付与されたものだからだ。

 そしてその付与された中には、付与された者とギフトを紐付けて本人の意思である程度使えるようにする『補助機能』が組み込まれているらしい。

 その補助機能に魔力の効率的運用と消費軽減、そして複雑な発動を意思に即して動かせるーーという事実上魔法の発動が簡易化されるってトンデモな代物が含まれてる。

 

 とまぁ長いしややこしいから、俺としては魔法はギフトのみで、魔術は学習すれば技術として使える、と認識してる。


 強いて感想を述べるなら「超越者ってすげぇ」って事くらいだ。

 超越者とは(厳密にいえば違うらしが)いわゆる神様だな。

 よく神様を倒す物語なんてあるけど、人が敵わないからこその超越者であり神なんだとオッサンには笑われたよ。


 まぁそれなりに面白い話ではあったし、諸々が無事終わった後ならのんびり話を聞いてみたいとは思う。

 けど、今はそんな余裕はない。

 

「オッサン、マジで容赦ねぇな……」


 晩飯の後に家令に聞いたところ、本で調べるまでもなく普通に教えてくれた。

 そう、俺がオッサンから受けた依頼ーー倒して欲しい魔物の存在が判明したのだ。


 その名は『古代獣王』ベヒモウス。


 人類の歴史の前から存在する“神獣“とか呼ばれてる三柱の内の一柱。


ーーアイツも頑張ってたんだけど、もう限界なんだよ……もう見てられねぇ。頼む、眠らせてやってくれ。


 ベヒモウスとの間に何があったかは聞かなかった。聞いていいもんでもない気がしたしね。

 それにへらへらしてばっかのオッサンが、見てるこっちが泣きそうになるくらい悲しそうだったし……まぁ世話にもなったし、そのベヒモウスとやらはちゃんと眠らせてあげようと思う。


「それにしても、ベヒモウスねぇ」


 なんか聞いた話によると昔あった大国を1匹で滅ぼしたらしいんですけど、これって勝てるもんなんすかね?





 

 記憶が戻って数日後の今日。

 来月に控えた俺の誕生日の前に、俺と次男レオンハルトを連れて領内の教会へと向かう事に。


 ガラガラと進む馬車の中で、何の説明もしない父上とソワソワしているレオンハルトを尻目に外を眺める。

 末っ子のフラムリリーと同じ、濃い金髪と紫の瞳の次男レオンハルトは、遊びに行く途中の車に乗る子犬のように落ち着きがない。

 そんな空気に耐えられなくなったのか、レオンハルトが父上に向けて口を開いた。


「ち、父上。もしかしてこれから『鑑定』をしてもらいに行くのでしょうか?」


「……あぁ、すまない。言ってなかったか? その通りだよレオン。二人はそろそろギフトが発現してもおかしくない年齢だからね」


 会話に耳を傾けていると、どうやらギフトの鑑定ができるというギフト持ちが少数いるらしい。

 そんな人物が丁度今このダハーカ侯爵領に訪れているから、急遽年齢的に可能性がある俺とレオンハルトを連れて向かうことになったそうだ。


 ちなみにギフトは10歳前後で発現すると言われている。


 厳密にはオッサンいわく、魔力や肉体含めた全ての根源である〝魂〟が成長して、生まれた時から魂に付与されていたギフトを発現できるようになるのが人族だと10歳程って事らしい。

 だからギフトが容量を食わない小さなものだと早まったり、俺みたいな空間魔法なんて重いギフトだと遅くなったりする。そして当然、魂の成長速度によっても変わるんだとか。

 

 という事はだ。

 俺の場合、今鑑定されても発現してない可能性が高いんだよね。

 これはもしや発現しないなら侯爵家には相応しくないとか言って追放されるパターン?


(うーむ、いつかは追放とかされて自由にならないとベヒモウスを倒せに行けないけど……でもまだ早いんだよなぁ)


 さすがにあっさり追放とはならないと思いたいけど……物語なんかじゃギフトが不満ならポイポイ捨てるしなぁ。

 まだ色々準備したい段階だし、今捨てられると困る。


「珍しい機会だから視察がてら試してみるという話だ。気負わなくていい」


 もしかして表情に出てたのか、実にタイムリーな発言が父上から降ってきた。

 思わず視線だけ向けると、父上は俺を見ていた。

 いかにもイケメンが正しく歳を食ったという渋さが滲む丹精な顔立ちに、濃い金髪はサラッサラ。昔はモテたと言わず今もかなりモテそうだ。

 そんなイケおじな父上の紅の瞳が俺を見据えている。


「……安心しました、父上」


「そうか……言っておくが私もそうだが、別に戦闘に特化してなくてもいい。ダハーカ家は外交の家計だからな」


 父上のギフトは確か『万斛網羅』だっけか。

 なんかえらくかっこいい名前だが、凄まじい能力と言う程ではなく、単なる風魔法の一端だったりする。

 空気のある所の情報を極めて多く、かつ精密に把握できるという代物だ。


 このようにギフトは一言に魔法系や戦闘系などと言っても、その系統の一部だったり全てだったりと幅広い。

 父上なら『風魔法』全てではなく、その数多の風魔法の中の一つである『万斛網羅』という魔法をギフトとして授かった、という感じだ。


 ちなみに俺の『空間魔法』は一端ではなく全てを含む。

 こういったその魔法の系統を全て含むギフトはレアではあるが、当然扱う難易度もアホ程跳ね上がる。

 そしてこのデメリットが存外重たい。いやマジで。


 この前マリーに聞いたけど、『風刃付与』という風魔法の一端を授かった人が『風魔法』を授かった人に圧勝する……みたいな事例の方がむしろ多いのだとか。

 やっぱいくら補助機能があっても超越者御用達の技法を使いこなすのは人間には難しいらしい。


 となると当然、希少属性にして『空間魔法』丸ごとというギフトは途轍もなく重たい。

 ……もうちょい用途を絞って付与してもらうべきだったかなぁ…。


「着いたぞ」


 若干後悔の気持ちが湧いていると、父上の言葉でハッと外を見た。

 そこには思わず言葉を失うくらいには大きく荘厳な純白の建物があった。

 

 汚れひとつない純白の教会は、まるで発光してると思った程だ。

 太陽を背にしている事で、ステンドグラスを通して様々な色合いを複雑に、しかし雑多にはならない輝きを放っている。

 純白と鮮やかな輝きが絡み合い、幻想的な光景となっている。……写真撮ったら「いいね」がたくさんもらえそうな光景だな。


「すっげ……」


 思わず漏れた言葉に、レオンハルトが口調を諌めるように目を細め、父上がごく僅かに目を見張った。


「……失礼しました。父上、もう入ってもよろしいので?」


 なんとも言えない空気を押し流すように話を促すと、父上はあっさりと乗ってくれた。


「あぁ、すでに話は通してあるし時間も頃合いだ。行こうか」


 俺とレオンハルトは同時に返事をして、後を追うように馬車を降りる。

 改めて立派な教会をさっと見上げる。

 よくもまぁこれだけ綺麗に維持できてるなぁ……魔法なり魔術なり使ってるんだろうか。ピカピカの真っ白だわ。


 父上に続いて建物に入ると、やはり聖堂も鳥肌が立つくらい綺麗だった。

 余程緻密な設計をしたのか、中央の壇に向かう真ん中の通路は太陽の暖かな光に照らされ、両脇にある椅子が並ぶエリアにはステンドグラスから漏れる色彩鮮やかな光が降り注いでいる。


 そんな中、中央通路に朝から待ち構えてたぞとばかりに微動だにせず立つ、老紳士といった風貌の白髪の神父が立っていた。


「お待ちしておりました、ダハーカ侯爵様」


「本日は時間を頂き感謝する、セイレン司教殿」


 60すぎたくらいだろうか。こちらを見て顔の皺を深めて人好きのする笑顔でにこりと笑う。


「こちらのお二人がご子息ですか。ダハーカ侯爵様に似て利発そうですなぁ」


「ええ、まだまだそそっかしく幼いですがね」


「ほっほっ、若いうちの失敗は将来の知識知恵に繋がりましょう。そそっかしさも成長の踏み台ですよ、将来が楽しみですな」


 にこにこと微笑むおじいちゃん、といったセイレン司教。こうも良い人オーラが溢れてると、なんだか自分の性根の悪さが浮き彫りになるような気がしてしまう。


「お会いできて光栄です、セイレン司教様。ルイ・ノブル・ダハーカと申します。本日は忙しい中お時間を割いて頂きありがとうございます」


 まぁなんにせよ挨拶だ。

 なんか若干前世の接客風になった気もしないでもないが、子供だし多分大目に見てくれるだろ。


「あっ、ほ、本日は忙しいところありがとうございます!レオンハルト・ノブル・ダハーカです」


 一拍置いてレオンハルトが慌てたように挨拶をするが、どうやら俺に続かないとと慌てたのか、少し不恰好になっていた。

 俺は初々しくて良いと思うが、さて大人2人の反応は……


「ほっほっ、ご丁寧なご挨拶ありがとう。私はクレメンス・リア・セイレン。アモーリア教の司教をしております」


 よろしくお願いします、と兄弟で頭を下げる。

 バレないようにチラと横目に父上を見ても、特に咎めたり怒ったりする様子はなさそうだ。良かった良かった。


「さて、あまりし時間を頂きすぎるのも心苦しい。早速お願いしてもよろしいかな?」


「ええ勿論です。さぁ、どちらが先に鑑定しますかな?」


 


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