047.フラムリリーと
「ル、ルイ兄様?!あぁっ、ルイ兄様ぁ〜〜っ!」
まさか会って一発目に泣いて叫びながら飛びついてくるとは思わなかったよ。
感情のまま動くよなぁこの子。
「ルイ兄様ぁ、ひどいですよぅ〜!ひぐっ、ずっと大変で、心配してたんですからね!えぐっ、私もうどうしたらいいか、でもお兄様大変そうだじぃ〜!」
「……驚いた、すごい妹。感情豊かで、そのまま口にしてる」
「あぁうん、ギフトなしでも分かるわ」
横のクルルが冷静に告げるが、こんな状態の妹に真逆の事言われてたらそれこそ人間不信になるわ。
「ほら落ち着けリリー。まずは挨拶だろ?久しぶりだな。ただいまリリー」
「うぇえっ、ル、ルイ兄様、おがえりなざい〜!」
びえーっと泣くリリーにこれは長期戦になりそうだなぁと豪華な天井を見上げた。
それから再びクルルを置いて、とはせずに、今度は同席してもらう事にした。
「落ち着いたか?とりあえずリリー、紹介する。冒険者のパーティメンバーであるクルルだ」
「……よろしく、お願いします」
「ふわぁ……え、ルイ兄様の彼女ですか?すっごく可愛い人だ〜」
人の話聞いてリリーちゃん?クルルもドヤ顔してるし……これマリーが帰るまでに収集つけれるのか俺?
「……さて!聞いてるとは思うけど、無事ローゼンヌお母様の仇は討ってきた」
「はいっ、ルイ兄様おめでとうございます!もう、本当に心配しましたよ!」
ぷくっと頬を膨らませる貴族令嬢に、俺は呆れながら頬をつつく。
「ぷふっ……もう、ルイ兄様!」
「いやお前がまだそんな真似するからだろ?もう良い歳なだから治してかないとな」
「ルイ兄様相手だから良いんです!他の人にはしません!」
「お、それは一本とられたな。その通りだわ、すまんすまん」
「えへへ、ルイ兄様変わってないなぁ〜。良かったぁ」
へにゃりと笑うフラムリリーに、肩をすくめてみせる。
「いや結構変わったろ?背も伸びたしな」
「中身の話ですぅ〜!優しいルイ兄様のまんま!」
「……うん、ルイは昔から優しい」
クルル、何その謎の援護。やめて、逆に居づらくなるから。
「ですよね〜!えへへ、嬉しいなぁ〜!これからはここに住むんですよね?」
「いや、籍抜いて出てくけど」
丁度良いタイミングだから報告すると、フラムリリーは目をまんまるにして固まり、それから大きな目をうるうると潤ませていく。
「うええええっ、嫌ですぅ〜〜!!」
「え、ええ……いや聞けよ。これからも戸籍は違えど兄として頼ってくれていいからさ」
「だったら籍も抜かなくていいじゃないですかぁ〜!」
「いやそうするとレオンが大変だろ?これが一番皆んな幸せ。オーケー?」
「ノットオーケー、ノォ〜〜!!」
なんかだんだん面白くなってきたなこいつ。
「まぁ落ち着けリリー。それより聞きたい事があるんだけどさ、お前第一王子殿下の事好きなの?」
そう聞くと、ビタァッとリリーが硬直した。
涙だけが余韻でポロポロ溢れてるが、コロコロ変わる表情が固まっている。
「す、好きですぅ」
チラとクルルを見れば、首を横に振った。
「王族の妻になりたいと?」
「は、はいぃ」
「マリーをさしおいて?」
「そ……そうですぅ」
その全てに、クルルは首を横に振った。
「……リリー。実は俺な、先読みの魔術を開発したんだ」
「えっ、ルイ兄様すごい!」
「だろー。で、先読みをしたんだけどな、お前マリーの為に嫌々第一王子に近付いてるだろ」
またもやリリーはピタリと固まり、それから目を泳がせて、俯き、その体勢でポツリと呟く。
「………はい。さすがルイ兄様です。隠し事は出来ませんね」
「おう、無駄な真似はやめとけ。それに隠されてると力になれないだろ?」
「う、ぅううぅぅ〜!だってルイ兄様はいないしぃ、レオン兄様は大変そうだしぃ、私が頑張らないとってぇ」
「んー、そうだなぁ。よく頑張ったぞ、えらいえらい」
「ルイ兄様ぁあ〜〜!」
しがみつくリリーを撫でて落ち着くまで待つ。
いやだってこの後はがっつり説教だしね?
まずは泣き止まないと始まらない。
「う、うぅ……泣きすぎて目が痛いですぅ」
「あーあー、仕方ない。痛くなくなるおまじないをするから目ぇつむれ」
「えっ、は、はいぃ」
目を閉じたリリーを確認して、クルルにすまんと手を合わせる。
クルルは親指を持ち上げてサムズアップして、治癒魔法を発動してくれた。
「……もういいぞー」
「はい……うわぁすごぉい、痛くないですぅ」
「おー良かったな。さて、お次は俺からお説教だ」
「えっ……?」
目を丸くして固まるリリーに、にっこり笑いながら言う。
「リリー、お前の気持ちは間違ってない。マリーのために頑張ろうとしたんだもんな」
「は、はいぃ……」
「ただし、やり方は間違えたな。一人で頑張る必要はなかったんだ。周りが忙しくても、一声かけるべきだった」
「そ、そうなんですかぁ?」
この子は優しいしまっすぐだ。
その分遠慮してしまえばどこまで遠慮してしまうし、1人で背負うと決めたらどこまでも背負ってしまう。
「そうだ。それでお前が不幸になって、家族が喜ぶのか?」
「で、でもマリー姉様が……」
「そうだな。じゃあ逆にマリーがリリーの為に全てを背負って不幸になろうとしてくれたとして、お前は喜ぶのか?」
「えぇっ?!そんなのちっとも嬉しくないですぅ!………あ」
目を丸くして口をポカンと開けるフラムリリーに苦笑する。顔立ちはかなりの美少女になってるけど、こういうとこ全然変わってないのな。
「ん、まぁそういう事だ。だからこそ、お互いを不幸にしない為にも相談するべきだったんだ。……もう分かるよな?」
「……はいぃ…」
しょんぼりするリリーの頭を撫でて、できる限り優しく言う。
「それにな、リリーちゃん。君はおバカなところがあるから自覚してね?」
「うわぁああん、ルイ兄様ひどいぃ〜!」
クルルのマジかこいつみたいな視線をスルーしながら続ける。
「でも、マリーは賢いだろ?レオンだって色々学んでる。父上も義母上も経験豊富な上に頭も良い」
「う、うぅ、私だけぇ……」
「そうだな、今はそうだ。でも、だったら教えてもらえばいいんだよ。逆に考えるんだ、皆んなから教えてもらえば、賢い人4人の力を身につけられるんだぞ?」
「お、おぉ……っ!」
うっはー単純だなぁこの子。
まぁ走る方向さえ正してやれば、この単純さは強力な武器なんだけどね。馬鹿の力ってバカにならないんだよ。シャレじゃなくてね。
「そうすれば秀才天才の4人の力を身につけたスーパーガールリリーの誕生だ!」
「おおお〜!」
「でもお前はそんな環境があるのに、誰にも教えてもらわず一人でやろうとして、マリーや家族を悲しませようとしている……」
「う、うぅ〜〜……」
「だがまだ間に合う!これからだって教えてもらい、力を身につけられば皆んなを幸せにできるラッキーガールリリーになれる!」
「おおお〜〜!!」
この子単純すぎて楽しくなってきちゃったよ。
いい加減話進めるか。あ、ごめんってクルルその目やめて?確かにふざけすぎたけどさ。
「だから、家族会議だ。皆んなで大相談会をしよう」
「だ、大相談会っ!」
「あぁ、しかもつまみは俺が用意しよう。そうだな、ドラゴン肉なんてどうだ?」
「ド、ドラゴン肉っ?!」
「美味い飯食べて、家族皆んなでお話するんだ。どうよ、楽しそうじゃない?」
「楽しみですぅ〜!」
清々しいくらいの笑顔だな。ついつられてしまう力があるよ、この子の笑顔は。この笑顔に王子もやられたのかね。
「よしよし。んじゃ俺が声かけるから、それまではいつも通り過ごしててくれ」
「はいっ!えへへ、さすがルイ兄様です、大好きです!」
「おー、俺も大好きだぞリリー。それじゃまた後でな」
はーい、という声を背中で受けて部屋を後にする。
それからクルルに軽く頭を下げた。
「ありがとう、助かったよ。……いや『感情察知』なしでも分かっただろうけど」
「……あの子、今のままだと社交界では生きにくい」
「まぁな。ただそこは本人次第だ。やる気があるなら頑張ればいいし、なんなら別の道に行ってもいい。逃げたくなれば逃げ場になってやればいいしな」
「……ん」
頷くクルルに笑い、『超感覚』にてマリーを探す。
「……近くまで帰ってきてるな。迎えにいってくる」
「……手伝う?」
「いや、いい。確かにマリーが一番の強敵だけどな。あいつの場合はギフト頼りだと失敗すると思うんだよ」
ローズマリーは賢すぎるし、きっと感情を読んだだけで分かった気になるのは危険だと思うんだよな。
いっそ素直に話す方がいい気がする。
「……そか。なら頑張れ」
「おう、ありがとな」
「……早く帰ってきてね?待ってる」
「お、おお?まぁ頑張るわ。なんか照れるな……」
「……ドラゴン肉を」
「倒置法!!またかよお前!それやめろ!」




