044.謁見に向けて
「……バレたって」
「え、何が?」
数日ぶりに『イクリプス』の拠点に帰ってくると、開口一番でクルルが言った。
「……ベヒモウスを倒したのが、ルイだってバレた。王宮に招待されてる」
そう言ってぴらりと手紙を見せてきた。
見れば、王都にて勲章授与を行うから来いという内容だ。
「これ却下したらやばい?」
「……いんじゃない?」
「こらこらー。ちょっと、ダメに決まってるでしょー?何言ってるのよ2人とも」
俺がイクリプスパーティハウスに戻ると、高確率で現れるようになったのがシンシアさんだ。
今日も今日とて『魔剣の乙女』や『魔撃の射手』のパーティハウスとは比べものにならない程狭い部屋で優雅に座っている。
「えー、ダメすか?」
「当然じゃない。まだ隠したいものを隠してやりすごせる余地があるのに、わざわざこっちから喧嘩売って付け入る隙を与えるようなものよ?」
「まぁそう言われたら行くべきって気がしますね……」
相変わらずこの人に口で勝てる気がしない。
呆れたように肩を竦める彼女のことを、姉がいたらこんな感じなのかな、と思ったりもする今日この頃。
「そ。一応行く前にウチと『魔撃』のとことも情報は擦り合わせするわよ?設定考えとかないとね」
「あー、それは必要っすね。設定は出来たらシンシアさんにお願いしたいんすけどいいっすか?」
「いいわよー。こないだのお土産は助かってるしねー」
あぁ、あの双魔石で作った遠隔通信魔法具か。
上位魔物のごく一部の種族がたまーに落とす2個セットの魔石は、お互いに共鳴する機能がある。
そこに『転移』の効果を声だけに限定して設定する事で消費魔力を抑えた、いわゆる通信魔法具。
割と遠くでも使えるんだよね。ゆーてここから王都とかは無理だけど、魔物の領域に狩りに出るくらいならデリンジャに届く程度は可能だ。
「シンシアさんの指揮能力はピカイチっすからね。それを活かすのに丁度良さそうだと思ったんすけど、喜んでくれてるなら良かったっす」
離れていてもシンシアさんなら状況を聞くだけで適切な指示が出来る気がする。と、思って渡したものだ。
これで魔物の領域に狩りに出てる途中にデリンジャで何かあっても大丈夫!みたいなノリでね。
「うん、ありがとねー。あとはダリア用の丈夫な短剣があったら嬉しいかなー?」
ニコニコ笑って催促するシンシアさんにフッと笑って両手を顔の横に持ち上げる。
どうせ丸め込まれるし、初手降参です。
「了解っす。いっそ『流喰』付与したろっかな」
「……尻尾千切ったってやつ?」
「それそれ。付与さえしてしまえば俺の使う空間魔法の中じゃ難易度低いし、頑張れば使えると思うんだけど」
「んー、それはいいかな。『頑強』あたりでお願い。あの子あんまり魔力操作得意じゃないし、多分扱えないわよ」
『頑強』とは物体に強度を付与する付与術系魔術の一つだ。ちなみに俺も覚えており、マイ黒ローブにも付与している。
「それでいいんすか?割とそこらへんの付与術師でも扱うやつですけど」
「んふふ、狩ったんでしょ?アースドラゴン。その素材で作ってくれたらオッケーよ?」
「……何で知ってるんすかね?」
昨日の話なんすけどそれ。まだクルルにすら言ってないのに。
「そりゃギルドに報告したら私には伝わるわよ」
いやそうはならんだろ。
ほんとどういう情報網してんだか。
「……ほんと?じゃあお肉食べれる?」
「あー、サプライズのつもりだったんだけどな。……くはははっ、そうだ!今晩はドラゴン肉だ!食い放題だっ!」
「……ふおおっ!」
興奮する俺とクルルに、シンシアさんはニンマリと笑う。
「あ、もちろんシンシアさんも良ければ来れるメンバー連れてきてくださいよ。あとクレアさん達もいるならぜひ」
いるか分からないし、今日いないなら後日配ろうとは思ってるけど。
「あら、おねだりする前に誘われちゃった。んふふ、ありがと」
「うっす。また夜までに剣も用意しとくんで」
「あっはは、仕事早すぎでしょ!でもせっかくだから見ていこっかなー」
「良いっすけど、他の人達にドラゴン肉の事伝えなくていいんすか?」
伝えないと怒るんじゃないかな。あの人達もドラゴン肉好きそうだし。
「もう伝えたわよ?んふふ、便利ねこれ」
「あー……通信魔法具。さすが、活用するの早いっすね」
まぁそれなら気にしなくていいか。
シヴァ様特製マジックバッグから既に解体しているアースドラゴンの牙を取り出す。
「え?牙じゃなくていいわよ?爪とかで十分」
「いや牙の方がいいと思うんすよ。『空衝咆』で爪は何本か砕きましたけど、牙は折れなかったし」
「うそ、折っちゃったんだ、やるわねー……ありがと、そう言ってくれるならありがたいわ。お言葉に甘えるわね」
いえいえ、と呟きながら手元に集中する。
今回は錬金付与どころか単なる付与だし、失敗する事はほぼないかな。
……せっかくだし『魔纏』もつけるか?
「シンシアさん、最近覚えた付与術で『魔纏』ってのがあるんすけど、つけます?」
「あー、あの魔法とか切りやすくなるってゆーヤツ?でもそれよりは『頑強』かなぁ」
「や、両方っすけど」
あれ、2種統合で付与できるの言ってなかったっけ?
「え、2ついけるの?!」
「……報告にない。怠慢は説教」
「あれ、マジ?す、すんません」
結局、いくつかの統合付与の魔術具を用意する事で許してもらった。
「さーて、話が逸れまくったけど、そろそろ勲章授与に向けて話をしよっか」
結局バッチリ全員揃ってドラゴン肉を食べた。
まさか全員集まるとは思わなかったので、イクリプスパーティハウスでは狭いからと魔剣の乙女パーティハウスを借りている。
普通の木造一軒家といった感じのイクリプスパーティハウスと違い、こっちは金持ちの邸宅って感じ。白い外壁や内装がリッチな雰囲気出してるんだよなぁ。
各自の部屋は見てないけど、広間には調度品とかも置かれていて、偉いお客さんを招く事もできそう。
「ふむ、ベヒモウスの素材は必要なんだったな。それについてと、あとは何に注意すべきかな?」
「あれでしょ、妹さんに会う為に自由な身でいないとダメってやつ」
「そっすね。なんならそれが一番重要っす」
クレアさん、カーラさんの言葉に頷いておく。
最優先は俺の行動の自由、次点でベヒモウスの素材だ。
「それだけじゃないわよー?クルルちゃんだってエサとして狙われかねないんだからね?」
「あっ、ホントだ。それありそうっすね……」
「……かかってきやがれ」
無表情でファイティングポーズをするクルル。
「いやダメだろ。……いやでも国うぜぇなぁ、滅ぼせねぇかなぁ」
当然冗談だけど、うざいのは事実。
こういう権力が幅を効かせすぎてるのは異世界の嫌な所だよな。
「くく、今のお前ならやりかねんのう」
「いやいや笑い事じゃないからねぇ〜?」
「いやしないっすよモーガンさん、テッドさん。俺お肉パーティするような平和な人間っすよ」
でもクルルの対策も必須かぁ。……うん、シンシアさんに聞こう。
「うー……どうすりゃいいんっすかぁ?!」
「落ち着いてーダリアちゃん」
「そうだぞ、そういうのはシンシアに任せておけばいい」
「ですよね。シンシアさんお願いします!」
『魔剣』メンバーも俺と同じ考えらしく、それにすかさず乗ると、シンシアさんはふむと考える。
「……ルイ君、ベヒモウスの素材で重要じゃない部分だけでも国に渡せないかな?」
「え?まぁ少しならいいっすけど」
「うん、おっけ。それなら一度全体像を話すから、まずは聞いてくれない?質問や意見は後でお願いね」
そう前置きしたシンシアさんいわく。
まず勲章授与と同時に、俺とクルルは騎士に取り立てられる可能性が高いという。
授与の場で切り出されるから非常に断りにくい空気を出されるだろうってさ。
で。そこで『自分は冒険者だから騎士にはなれない。その代わり、認めてくれるなら僅かに残ったベヒモウスの素材を全て納めるし、寛大な措置をしてくれたこの国から離れる理由もなくなる』という旨を言え、という。
王国は俺が冒険者である事で今後も希少な素材を調達というメリット、そしてベヒモウスの素材を手に入れたという分かりやすい大義名分が手に入る。
そしてさらりと『嫌なら国を出る』と遠回しに脅す事になるので、十中八九話は通るだろうとの事。
「そうすると恐らくルイ君には代わりにS級冒険者の称号が与えられるわ。『守護星』も3人揃ってるしね」
S級冒険者は実質いないようなもの、という扱いをされている。
というのも、国が認める特大の功績が必要なので、実力だけではなれないからだ。
また、仮に認められるような冒険者がいても、騎士になったり、爵位を与えられて貴族になったり、特に優れている場合は『守護星』になる事もあるという。
だから結局S級冒険者は誕生せずに別の立場になる事も多く、だからこそほとんど存在しないのだ。
「一応聞くけど、ルイ君は『守護星』も『護国卿』も興味ないでしょ?」
「ないっすね。てかそれになるくらいなら大人しく実家継いでましたよ」
この『守護星』と『護国卿』だが、これはその国の最強の守り手を示す役職だ。
条件は非常にシンプルで、国に支えている事と、ひたすらに強い事だ。
『守護星』はリンデガルドでは最大3人まで任命され、主に王都の守りの要となる。
そして『護国卿』はその国の最も危険な場所を守る領地の領主を指す。こちらは『守護星』と同じく強い事に加えて、指揮能力も重視される。
ちなみにリンデガルドでは隣国にあたるガルガンド帝国に面している領地を守護するグランバルツ護国領がそれにあたる。
まぁひらたく言えば辺境伯に似た役職で、その中でも特にすごい人って感じだ。
「だよねー。まぁ話の流れとしてはそんな感じね。ちなみにクルルちゃんは恐らく一声かけられるだろうけど、S級の話まで持っていけたらもう大丈夫だと思うわよ」
「……さすがシンシアさん、ありがと」
「んふふ、どーいたしまして。あ、あと今後も定期的に素材を王家に納めよとか言うかも」
「ふーん。まぁそんくらいなら別に……」
どうせちょくちょく狩るだろうし、おまけでくれてやってもいいかな。
「おバカ、却下に決まってるでしょー?そこを起点にズルズル無茶言い出し始めてくるわよ。そうね……そう言われたらS級の資格は返納するって言いなさい。『やっぱり身に余るからいらない』みたいなことを言えばいいわよ」
「え、それでいいんすか?」
「まぁ問題ないでしょ。向こうからしたら国を出るのかーって思うでしょうし。ほら、別の国で受け取るからいらないって捉えるだろうしね」
「はー……いやぁ、シンシアさんすげっすわ」
まるで未来を一度見てきたように話すんだもんなぁ。
「てか思ったんすけど、A級冒険者だから上の繋がりもあるんすよね?貴族の坊ちゃん達から求婚されたりしないんすか?こんなに美人で賢いし」
「あ、あのね……ある訳ないじゃない。私もう20よ?貴族からしたら行き遅れにさしかかる年齢よ」
「マジすか?……いやいや嘘でしょ、そんな小さい理由で逃してくれます?もし俺が実家継ぐ立場のままなら絶対声かけてますよ」
「だ、だから、それはっ、君が変わり者だからよ!もう、いいから今は話の続き!」
「あ、はい、すんません話の腰折って」
確かにね。俺の為に話してくれてるのに俺が邪魔してどうすんだか。
あと何故か隣のクルルから刺さる視線が痛い気がするけど、まぁ気のせいでしょ。
「もうっ……ごほん。で、今の話で気になるとことか質問や懸念点があれば話してくれない?」
そう言って全員を見渡すシンシアさんだが、誰も声を上げる様子はない。
そりゃそうだ。もはや「ふーんそーなんだすげー」くらいの気持ちで聞いてたくらいだし。
「よし、ないならこれで終わるわね。大体問題ないとは思うけど、あとは現場で臨機応変に対応するのよ?」
「うっす。こんだけ話のベースを用意してもらってますしね、あとはどうにかなると思います」
「そうね。君はなんだかんだ頭の回転は早いし、私も問題ないとは思うわ」
お、そんな評価してくれてたんだ。シンシアさんに頭を褒められるとすげぇ嬉しいなこれ。
「……何故か、大事になる気がする」
「そーゆーフラグ立てるのやめてくんない?」
クルルって変に勘がいいから心配になるじゃんかよ。




