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040.戦いが終わって

「お、お久しぶりでーす……」


 無事に『古代獣王』ベヒモウスを討伐した俺は、今9人の冒険者に囲まれて睨まれていた。


「……説明次第では、許さない」


 その先頭に立つのは、クルルさんでした。






 ベヒモウスを討伐して、よっしゃよっしゃと1人で騒ぎ、なんならシヴァ様の手をとって踊ったりして喜びを噛み締めた。

 「む、むぅ」とかちょっと照れるレアなシヴァ様を見て更にテンションを上げていると、目の前がクラクラしだした。

 いよいよ体が限界か、と俺は意識がなくなる前にとベヒモウスの骸をシヴァ様特製マジックバッグに収納して、切り飛ばしていた尻尾は俺作マジックバッグに入れた。


 丁度その瞬間、声がかかった。


「……ルイ、なの?」


 振り返ると、眩い金の髪と瞳を持つ少女が立っていた。

 幼い少女から、幼さを残しつつも大人へと変わった少女は、シヴァ様に見慣れた俺ですら驚く程の美少女だ。


「あ、もしかしてクルルか?うわ久しぶり!元気してた?」


 それが俺のパーティメンバーだと気付き、自ずと口元が緩む。ぼちぼち疲労やダメージで視界がぼやけてきたが、それでも嬉しいものは嬉しい。


「良かった、生きてたんだな。はは、大きくなったな」


 懐かしさと嬉しさに背中を押されるように一歩近づくと、


「……それ全部、私のセリフッ!!」


 俺の知るクルル史上、一番大きな声をあげたクルルの手のひらが頬を打ち抜いた。

 当然気絶した。






 そして起きて早々、人に囲まれて今に至る。

 ベッドがあり、ざっと6畳くらいありそうなシンプルな部屋にいた。生活感があまりないし、どっかの宿かな?


 ちなみにシヴァ様の姿は見えない。

 まぁ十中八九、人に関わる気はないとかいって黒の森のログハウスに戻ったのだろう。


「……聞いてる?説明」


 懐かしい端的な話し方に頬が緩みそうになるが、今笑ったらもっと怒られそうなので我慢。


「そうよー、必死に言い訳しなさい?みーんな怒ってるんだからねー?」


 記憶にある少しからかうような喋り方はそのままに、記憶より随分低い声音のシンシアさんをはじめとした、『魔剣の乙女』のメンバー4人。


「そうよこのバカ!特にクルルなんて見れたもんじゃなかったのよ?!」

「だね。生きていたなら知らせくらい寄越しなよ」


 呆れたような、怒ってるようなカーラさんとクレアさんを含む、『魔撃の射手』のメンバー4人。


「いやはや、えっと、ご心配をお掛けしたようで大変申し訳ございません。紆余曲折、壮大な困難の末にどうにか生き延びたことをここに報告させていただきまイテッ」


「んふふふ、見ない内に言い訳が下手になってないかなールイ君?」


 つらつらと謝罪文を読み上げていくと、シンシアさんのデコピンが刺さった。

 ついでにクルルのペチペチも発動。昔より若干痛い。


「あー……じゃあ簡潔に。黒の森にいました」


「く、黒の森?!」

「よりによってあの魔境か……」

「…………余程苦労した事じゃろう」

「よくぞ……よくぞ生きて帰ったな」


 あ、あれ?なんか打って変わってすごく心配そうな顔をする面々。

 簡潔すぎたかな。いやでもこのままいけば許してもらえるかとも?


「………その顔」

「……。妙に充実した装備」


 そんな空気を切り裂くように、ポツリと二つの声が響いた。


「……なんか、ホッとしてる」

「血と汗はともかく、清潔感のある衣服」


 え、なに?といった他のメンバーさんを置き去りに、2人は呟くように言葉を続けていく。


「……これ、見た事ある顔」

「あの時現場にいて、すぐに消えた白い少女」


 その二人とは言うまでもなく、クルルとシンシアさんな訳で。


「「……まだ言ってない事、あるよね?」」


 俺の誤魔化そうなんて考えは、筒抜けだったらしい。


「あ、あはは……はい。すみません」


「……説明」


「ほら、ちゃーんと話しなさい?全部きちんと聞いてあげるわよ?」


 微笑んでるのに怖い2人に、俺は一から全て……いや一部は隠したけど、話したのだった。






「……信じられない話ね」


「っすよね。俺も最初はびっくりしましたよ。でも見たんすよね?転移して帰ったの」


 一通り話し終えると、シンシアさんが顎に手を当ててつぶやいた。

 まぁ超越者なんて言われても信じられないわな。


「いやそっちじゃないわよ。いやそっちもだけど、ルイ君がそこまで強くなってる事の方よ」


「……一緒にベヒモウス狩るって言ったのに、1人でやった」


 呆れるシンシアさんと、むくれるクルルに睨まれてそっと目を逸らす。


「しかしその話が本当なら、下手したら君は我々全員よりも強いかも知れないね」


「そうねぇ……悔しいけどその可能性はあるわね」


 興味深そうに呟くクレアさんと、話す内容と違って微笑みながら言うカーラさんに首を横に振る。


「いやいや、ありえないっすよ。俺が成長してる間もみなさん強くなってるだろうし」


「いやいやぁ、その成長速度はちょっと異常だと思うよ?」


「そっすよ!というかベヒモウス倒した時点でそうじゃないすか!」


「そうねー。今回だってどうにか追い払えたら御の字くらいの決死の覚悟でしたしー」


 テッドさん、ダリアさん、ラベンダーさんもそう言ってきた。

 待て待て、妙に持ち上げるのは勘弁だわ。居心地悪くなるって。


「ちょ、マジでやめてくださいってば。ベヒモウスだって奇襲と5年かけた爆撃作戦があったから勝てたようなもんすよ。向かい合ってよーいどんだったら絶対勝てませんって」


「いや、今のお前なら分からんじゃろうよ。ベヒモウスを倒した事でかなり成長したじゃろう?」


「ふむ、そのようだな。遠目だったが、ベヒモウスと戦う前より今の方が威圧感にも似た力を感じる」


 全然聞いてくれないどころか反論までしてくるのはモーガンさんとエリーゼさん。

 やだもうクルルさん何か言ってやって!


「……パーティメンバーなのに、差がついた」


「だぁあああっ!なんすかこの感じ!俺C級っすよ?!A級メンバーの人達によってたかってこんな事言われる居た堪れなさを想像して?!」


 いやだってねぇ、みたいな反応された。


「んー、まぁ今はいいわ。ところでルイくん、ベヒモウスの死体が消えたように見えたけど、あれどうなったの?」


「え、あ、あー……大地に還ったんじゃないかなーと」


「ふぅん?じゃあルイ君の脚あたりにある黒いバッグに吸い込まれたように見えたのは気のせいなんだー?」


「はい、すんません。いやでもこれ俺のトップシークレットなんすよ、勘弁してくれません?」


 にっこり笑うシンシアさんに頭を下げると、数秒の沈黙の末にポツリと呟いた。


「ここにいるあなた達、国王から聞かれても絶対に口を割らない覚悟がある者以外は出ていきなさい」


 その威厳のある声音は、5年前よりも格段に迫力があった。

 『王気咆哮』並じゃない?という威圧に、しかし誰も部屋を後にしようとはしない。


「……興味本位とかなら、あとで私が〝責任〟をとるわ。それでもいいのね?」


 加えて物騒な事を言い始めるシンシアさんに、しかし他のメンバー達は肩をすくめるだけだ。


「バカにしないでほしいっす!ベヒモウスを倒してデリンジャを守ってくれたルイ君を売ったりしないっすよ!」


「そうね。というより、この子を裏切るより国を相手にする方がまだ勝てそうなくらいよ」


「……そもそも、私は知ってるし」


 おお、そんなに?いやなんかもう言葉がないというか、なんというか。

 まぁクルルは知ってるわな。お互いのギフトを公開しあってるし。


「……ここまでしても話してくれないかな?ルイ君。それともやっぱり信用できない?」


 俺の性格をおそらく澪を除いて誰よりも理解しているシンシアさんは、眉を八の字にして問いかける。

 一切の弱みを隠す印象の彼女らしからぬ、弱々しい声音に……俺は白旗を振った。


「いえ、こちらこそすみませんでした。話しますよ。確かにここにいる人は俺なりにですが信用してますし」


「……ふふ、そっか。ありがとう」


 柔らかく、ただただ透き通るように綺麗な微笑みを見せるシンシアさんに言葉が詰まる。

 あー……やめてくんないかな、そういう無自覚美人ムーブ。ただでさえ6年近く経ってすげぇ美人になってるってのに。


「……いえ。えと、ベヒモウスでしたね」


 なんかクルルの視線が痛い気がするけどスルー。たまに突表紙もない事言う時あるし、危険には近付かない。君子大先生の言う通りだよ。


「『魔撃の射手』の皆さんにはチラッと話したと思うんですけど、マジックバッグを作ったんすよ」


 この一言に、クルル以外の目が見開かれた。


「それってもしかして……」


「はい、俺のギフトは『空間魔法』と『超感覚』の2つです」


 驚愕に固まるように、沈黙する部屋。

 唯一クルルだけがマイペースに続きを促すように見てくる。


「で、さっきの説明では隠してたんすけど、錬金術と付与術も鍛えてて、俺が身につけてるマジックバッグやブレスレット、指輪の全てが魔法具……あー、国で言う神器なんすよね」


 あはは、と笑ってみせると、全員の目がぎゅるんと俺の指に向かった。


「は、ちょっ、錬金術じゃ神器は作れないはずでしょ?!」


「お、慌ててるシンシアさんとか珍しー。へへ、良いもん見れたぜ」


「ふざけてる場合じゃないわよ?!あの錬金卿セレウスだって作れないって話なのに!」


「あー、普通の魔法陣じゃなくて立体魔法陣を使うんすよ。だから平面魔法陣をいかに改良しても魔法具、じゃなくて神器にはならないというか」


「り、立体……?あぁもう訳分からないわ………それ、あの白い子が教えてくれたのよね?」


 白い子……シヴァ様か。


「です。あの人知らない事あんのってくらい色々知ってるし、何でも出来ますよ。何回俺つえーされたか」


「俺つえーは知らないけど、今まさに君がやってる事の事じゃないわよね?」


「………えっ、あ、マジだ。おー!とうとう俺も俺つえー出来た!」


「なーに呑気に喜んでるのよ」


「……ルイ、ばか?バレたら王国どころか世界から狙われる」


 呆れたようなシンシアさんと、補足してくれるクルルにハッとする。


「た、確かに言われてみれば……いや待て、そもそもベヒモウスを倒した時点で面倒に巻き込まれる可能性があるんじゃ……?その上ベヒモウスの素材とか空間魔法とか魔法具作成とか、国が囲いたいモノだらけだよな……」


 シヴァ様とかいう規格外とばかり一緒に居て、新米の弟子感覚だったから実感が全然追いついてなかった。

 考えてみたらそうだよ。絶対目ぇつけられるよこれ。

 

 しかも昨今の勇者なんかは魔王倒した後殺されるしね。俺もそうなる可能性は残念ながら十分ある。


「あ、マジじゃん。俺やばいなこれ」


 これ……俺の立ち回り次第では、最悪国が敵になるかも知れない。


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