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004.初魔術

 魔力孔。

 簡単にいえば魔力を体内から取り出す際の蛇口。


 人によって多少の誤差はあれど、種族ごとで大体同じ数であり、人間であれば人間の、エルフであればエルフの平均値から大きくズレる事はないらしい。


 しかし何事も例外はある。


 例えば魔術の開祖であるマリーン様って人はそれこそエルフにも迫る魔力孔を持っていたのではないかと言われている。

 そして反対に、


「俺みたいな少ない人もいる、と」


「は、はい……」


 ちょいちょいちょーい!あのオッサン!なんっでここに来て余計なデメリットくっつけてくれてんだよ!


 うわーマジかぁー。これはショックだ。

 なんせ体質だ。マリーいわく努力で多少魔力孔が増える事もあるそうだが、やはり限度があるとか。


 つまりだ。ポンポンと魔法を連射したり、大規模な魔法を一瞬で構築したりは……努力しても出来そうもないという事。

 うあーー……えぇ〜マジかぁ。ドヤ顔で「遅い」とか言えないって事じゃん。むしろドヤ顔される側じゃん。


「……で、ですがその、体外に取り出す必要のない魔術なら関係ありませんし…」


 おっとぉ。めっちゃ気を遣ってくれてるぅ。

 何この子めっちゃ良い子じゃん。昨日までの俺や使用人からは冷たい子扱いされてたけど、全然違うじゃん。


「そんなのあるの?」


「え、ええ。一番オーソドックスなのは身体強化です」


 だから元気出して?と言わんばかりの雰囲気丸出しのマリーに、つい笑みが溢れる。

 澪といいマリーといい、妹運だけはあるな俺。


「よっし、んじゃ身体強化をやってみよう」


「はい。身体強化は魔法陣を刻むとなると身体に刻むことになるので、詠唱にしましょう」


「お、おう」


 なるほど、そりゃそうか。

 ガリガリと体に魔法陣を刻むのは嫌だわ。いやさすがにペンで描くのでも大丈夫だろうけど。


 あーでも待てよ?刺青みたいに一度入れてしまえば詠唱いらずにはなるのか。

 貴族子息としてはアウトだが、そうでなければ割とアリかも知れない。


 しかし詠唱か……いや魔法とかには憧れがあるけど、詠唱はちょっと恥ずかしいっす…!

 いやこの世界の人からすれば普通なんだっ!赤信号、皆んなで渡れば怖くない精神!なんせこの世界の人全員で渡る訳だしな!てか赤信号は何人いても渡っちゃダメだよ!人間ドミノ倒しになるだけだってば!

 ……話が逸れたな。今は集中しないと。


「『力よ、我が身を動かす糧となれ』です。どうぞ」


「ち、ち、『力よ、我が身を動かす糧となれ』ぇ」


 いやごめん恥っず。いっそ噛まずに開き直った方がマシだったわこれ。

 とか思ってると。

 

 体内の魔力が勝手に動き出して体の中心に集まり、そこから再び広がるように身体中を巡っていく。

 そして筋肉やらに溶け込む感覚と同時に、その魔力が消えて、体から明らかに力強さが伝わってきた。


「お、おぉ……!?なんじゃこりゃ」


「ルイお兄様、また口調が……ですが、成功したみたいですね」


「おう!出来たっぽい!うはははっ、なんだこれすげぇ!」


 力が溢れてくるー、とかいうキャラのセリフが頭に過ぎる。こうも分かりやすく強化された感覚があるのか。


「……ん?あら?段々と弱まってる?」


「あ、はい。放射するタイプの魔術と違って、継続して発動する魔術は魔力を注ぎ続けないと消えていきます」


「あ、なるほど。おっけおっけ」


 体内の中心に集まって、そこから体に巡りきった魔力。

 その体内の中心が魔術の核だと直感的に分かるし、そこに魔力を継ぎ足していく。

 するとグングン強化用の魔力が増えていき、全身を強化していく。


「はー、なるほどなぁ。なんか透明の自前魔力を、魔術を通して色付き魔力にして体を満たす感じだな」


「変わった表現ですけど、分かります。私は色付きというより、自分の魔力より重い魔力、と感じますね」


「あー、なるほど。確かに動かしにくいし重たいって感覚も分かるかも」


「はい。説明した魔術の最後、『紐付けされた魔術を操作する』という部分ですね。一応魔術には元から一定の動きが組み込まれてますが、ある程度操作できるんです。ただ、その操作は自分の魔力よりも難しいんですよ」


 なるほどなー、それならさ……と初めての魔術トークをマリーとしている内に、だいぶ日が傾いてきた。

 そろそろ晩飯の時間だし、切り上げないとな。


「マリー、そろそろ戻ろうか。ごめんな、たくさん時間もらってしまって」


「あ、いえ!別にする事もなかったですし、私もその、楽しかった、です」


 照れ照れと口ごもるマリー、かっわいいなおい。

 うんうん、これは澪に紹介するのが楽しみだ。絶対澪も可愛がるぞ。


「ありがとう、そう言ってくれると助かる。えっと、魔術は魔力を継ぎ足さなかったら勝手に消える感じ?」


「あ、はい。もしくは意図的に供給を切るか魔術の核を……ってルイお兄様、まだ発動してたんですか?!」


「おおっ?!」


 ここ1年で初めて見る、目を見開いて詰め寄るマリーに驚いてると、魔術が途切れた。

 あー……はいはい、マリーが言いかけてた魔術の核ってのを解除したら消えるのか。

 集中しないと消えるみたいだな。やってみた感じ慣れたらそこまで集中しなくても維持出来そうかな。


「お、おう。今切った」


 というか切れた。お前にびびらされて。


「すごいです、ルイお兄様……もしかしたら魔力がとても多いのでは…?」


「おっ、マジ?」


 へいへいへーい!やっと便利そうな特典来たぜェ!

 魔力が多い。いやぁ良い響きだねー。


 ……いや、どれだけあってもろくに取り出せないのか。う、うーん、嬉しいけどやっぱ魔力孔のデメリットがでかすぎないか?

 魔力量も現状だと身体強化の継戦能力が高いってくらいにしか使えないし。


「こ、これで魔力孔さえあれば……」


 あ、やっぱマリーもそう思っちゃうんだ。

 

「まぁそこは気長に探ってくよ。マリーの時間がある時でいいから、また色々教えて欲しいんだけど良いかな?」

 

「あ、はい。私なんかでよければ。……ですが、私よりも私とリリーの家庭教師をしている魔術師にお願いした方が良いのでは…?」


 うん、まぁそうなるよね。

 ただ、それはちょっとなぁ。“前払い“でもらった『ギフト』がバレたら騒ぎになりそうだし。


「うーん……確かに質問とかはしたいけど、ペースを握られて指導されるのは避けたいんだよね」


「は、はぁ……」


 不思議そうに首を傾げるマリーに曖昧に笑ってみせて、ほらほらと背中を押して晩飯へと向かう。

 わっと慌ててからむっとした表情で肩越しに俺を見上げるマリーに笑いかけながら、オッサンーー自称神との会話を思い出す。



『ほっほー、“前払い“ねぇ。面白い条件だしてきたな』


『そりゃね。むしろ何もなしで勝てるような相手ならわざわざ俺に依頼しなくても現地の人でどうにかするでしょ』


『鋭いじゃねぇの。まぁそうだな、ただコレでいいのか?言っとくが自然属性の基本である四元や、その派生属性とは桁違いに難易度が高いぞ?極論、下手したら死ぬまで扱いきれずに終わる可能性だってある。しかも今じゃ人間で使えるヤツなんざおらんから教師もいない』


『いいって。俺の目的の為には必要だし。どうにか頑張る』


『その目的ってのが一番無理筋なんだけどなぁ。言っても実感が沸かんだろうが、ほぼ神の領域だぞそれ』


『まぁそこは色々考えてみる。なんかしら方法はあるでしょ』


『まぁそこまで言うなら……儂の得意属性だからギフトにしやすいし。ただ後悔すんなよ?あと依頼はしっかりこなせよ?』


『分かってるって。じゃないと赤ん坊で澪と会うんだろ?絶対イヤだわ』


『頑固だのぉ……まぁいい。向こうに着いたら確認してみろ。詠唱はさっき言った通りだから忘れんなよ』


『おう。記憶の復元とかいうのが終わったらすぐメモるよ。ありがとな、オッサン』


『名前を名乗れないからってオッサンはやめい……そいじゃあギフト付与『空間魔法』いっちょお待ちぃ』


『おー来た来た!』


 とまぁ空間魔法をビール感覚でもらっちゃったんだよね。

 使える人もいないらしいし、多分バレない方が良さそうなんだよなぁ。


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