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037.開幕

 16歳の誕生日を迎えてから半年。

 

「お、ベヒモウスのヤツ寝とるぞ」


 千載一遇のチャンスが訪れました。


「マジか!いや聞いてはいたけどマジで全然寝ないのなアイツ」


「人の基準で考えたら信じられんかもの。まぁ一度寝たら数日は寝とるよ」


「むしろ何年も寝ないくせに数日で起きるのかよ。冬の熊さん見習えや」


 とまぁそんな感じのクソみたいな仕様の生態のせいで正面衝突しかないかと諦めかけてたが、やっと転がり込んだチャンスだ。

 もう少し鍛えて勝率を上げたかったが、この機を逃すなんて勿体ない事が出来るはずもない。


「っしゃ、準備して行ってくる!」


「うむ、せいぜい食われんようにの。言っとくが気配がバレたら起きるぞ」


「分かってるって!」


 触っても起きないのんびりさんだなんて思っちゃいないっての。最近じゃ戦闘なしで食材調達も出来るようになった俺の隠密性能なめんなよ。


 ノクテムーーシヴァ様特製メイスに名前をつけてもらった。意味は教えてくれなかったけどーーを背中に背負い、シヴァ様特製レッグポーチと俺作レッグポーチを両脚に装備。

 魔力貯蓄ブレスレットーーあれから魔法具レベルに改良したーーを両腕に3つずつつけて、十指全てに指輪をつけていく。ちなみに内一つが去年の誕プレであるこのログハウス転移のヤツね。

 腰にハリスト道具店で買って今も頑張ってくれてるナイフを下げて、黒いローブーー当然こいつも改良済ーーに袖を通す。


「っし。ヤツのいる場所は……」


 『超感覚』発動。

 以前なら脳が悲鳴をあげる情報量も脳自体に身体強化を施して耐えられるように引き上げる。

 ちなみに繊細な魔力操作を身につけたから出来るようになった。俺だって伊達に『疾風迅雷』で痛みに転がりまわってきた訳じゃないんだよ。


 ……見つけた。


「ふぅ……『気配制御』っと」


 もはや呼吸感覚で使えるようになった『気配制御』で隠密モードになり、無音で駆け出す。

 魔物がいる森の中をバレないように駆け抜け、植物の天然トラップ達もひょいひょいと回避していく。


 鬱蒼とした森の奥、珍しく木々がまばらになって日が差すエリアがあるんだが、そこにベヒモウスがいる。

 俺がよく調味料用の薬草を拾いに行く所なのだが、それは今はいいか。

 

 そしてある程度近付いてきた所で、そっと魔力を込めて魔法を使う。


「『空間魔法・天盾(てんじゅん)』」


 空間を盾型に固定した、破格の防御性能を誇る魔法。対魔術としては最硬クラスよ。

 それを最小規模、機能も最低限にして寝かせるように複数展開していく。


「よっと」


 それを足場に空へと跳んで登るようにして上がっていく。

 これぞ俺の編み出した空中足場よ!接近戦主体といえば行き着く先は立体機動でしょうよ!

 必要魔力も最低限にしてるから防御性能なんかは本来の『天盾』には遠く及ばない脆いものだが、俺がとび跳ねるくらいなら問題ない。


 そうして遥か上空から『天盾』に立って下を見るとーー黒い獣が、伏せるようにして眠っていた。


「久々に見たな……相変わらず見るだけで震えそうだわ」


 『古代獣王』ベヒモウス。

 神獣とも称される永い時を生きた原初の獣の一柱。


「さて、うまくいってくれよ……」


 さて、この時の為に色々と物資を集めたと言ったな?


 その一つは言うまでもなくマジックバッグ。

 そしてもう一つ……というか三つか。松っぽい木の炭と、硝酸と硫黄っぽいのがとれる鉱石二種だ。


 そう、それらを組み合わせて作ったーー〝異世界版なんちゃって黒色火薬〟だ。

 どの鉱石に目当ての材料があるか分からなかったから手探りに錬金しまくったな……。マジで時間かかった。

 まぁその甲斐あって完成したし、早速お披露目といきますか!


「っしゃいけぇえ!打ち下ろし花火じゃあ!」


 俺作マジックバッグの方に容量限界まで詰め込んでいた黒色火薬を球状に固めたそれを、上空からベヒモウスに向けてバッグをひっくり返してドバドバと落としていく。

 

 クォン、と小さく鳴き声が聞こえたが、寝起きで反応が遅れたのと、見た目だけならなんの脅威でもない黒い球に危機感を覚えなかったのだろう。

 結果として俺作なんちゃって火薬は問題なくベヒモウスを包囲した。


「点火ァ!」


 初級魔法の火球を放ち、火薬へと当てる。

 直後、全ての火薬が連鎖的に爆発してベヒモウスを襲った。


「がーっはっはっは!どうだベヒモウス!魔力を介さない爆発はよォ!」


 上空で高笑いする俺、地面から聞こえる獣の悲鳴。

 側から見てどっちが悪役なのかは気にしない。

 これぞ魔術の効きにくいベヒモウス用兵器だ!


「っし、追撃!」


 余波も落ち着いたタイミングで一気に上空から飛び降りる。

 重力に引かれて加速するままに、一直線にベヒモウスの頭目がけて飛ぶ。


「『身体強化』『集中強化』『疾風迅雷』!」


 身体強化の重ね掛け。

 これがこの5年で編み出した俺の近距離戦における切り札だ。

 使用魔力は当然跳ね上がるが、性能は逸品だと自負している。


「くだばれェッ!!」


 そして無事ベヒモウスのもとに辿り着き、そのままノクテムを叩き込む。

 我ながら冗談みたいな炸裂音が響き、弾かれたようにベヒモウスの頭が地面へと突き刺さった。

 感触からして無事ダメージを与えられている。骨にヒビ、皮膚は裂けたな。血も流している。


「下手なS級なら今ので砕けるんだけどな!こんのタフヤローめ!」


 つい漏れた不満を言いながら顔の半分が埋まったベヒモウスの頭に乗ってひたすら滅多撃ちにする。

 ノクテムにも魔力を込めまくってるだけあって、一撃一撃に衝撃波みたいなのが出てたりする。

 すげぇんだよこのメイス。武器どころか小型兵器と呼べる代物だよこれ。


 そして百を超える打撃を叩き込み、だいぶ毛皮もボロボロになって血が流れ出した頃……といっても時間にして10秒も経っていないが。

 ベヒモウスが、ずるりと顔を引き抜いて起き上がった。


 ……反応が鈍いな。もしかしたら爆発と最初の一撃で気絶していたのかもしれない。

 なんにせよこのまま畳み掛ける。というか初手で押し切れなかったら確実に負けるからな。

 暗殺にも似た奇襲と弱ったところを執拗にゴリ押しで仕留めるスタイル以外、俺がこの化け物に勝つ方法はない。

 こいつとまともにやり合ったら確実に負ける。


「おはよう!そして寝てくれ!『空間魔法・空衝咆(くうしょうほう)』ォ!」


 タコ殴りにしながら用意していた空間魔法を発動。


 圧縮した空間を指向性を持たせて炸裂させる魔法で、半ば物理攻撃にも似た攻撃方法でもある。

 少なくとも『捻天渦』よりはベヒモウスに効果的だろうと思って習得した魔法だ。


 クァァアアアアアン、と高音と低音が混じる独特の悲鳴をあげるベヒモウスから、ベキベキと小気味の良い音が聞こえてくる。

 少なくとも骨にまでダメージが届いてる証拠だ。


「もういっちょお!」


 即座にブレスレットの片手分を使って再装填、即座に発動。

 俺個人の魔力で放った一撃目よりも強烈な『空衝咆』がベヒモウスの脳天を貫く。


「頼む、これでくたばってくれ!」


 まだ生きてるベヒモウスに泣きの入った叫びとともに、最後のもう片手側のブレスレットの魔力も全て使って3度目の『空衝咆』を放った。


 仮にブレスレットをもっと用意していたとしても、俺の脳が限界なので扱えない。

 なんせすでに頭が痛い。

 これで空間魔法は撃ち納めだ。

 

「どうだァ!頼むからくたばれベヒモウスッ!」


 更に焦りや恐怖に押されるように飛び出して、残る魔力全てを振り絞って身体強化の重ね掛けとノクテムに魔力を込めて殴り続ける。


 これで準備していた火薬戦法、俺の扱える範囲の限界まで溜めた魔力による空間魔法、そして5年間鍛え続けた近接戦闘の全てをぶつけた。


 

 しかし。


 グォオオオオオン、と低音の唸り声にも似た咆哮が森に木霊する。

 頭は割れ、顔は血塗れになり、四肢は痺れているかのように震えているが、しかしベヒモウスは立ち上がったのだ。



「おわた」



 俺の5年間では、仕留めきれなかったのだ。


 


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