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035.訓練

「うはははははははは!すっげぇこれ!」


 シヴァ様特製マジックバッグ超すげぇえええ!!


「やっかましいのう……喜んでくれるのは良いが、ちと静かにせんか」


「はーい!」


 いやもう楽しくて仕方ない。

 デカい物を入れてもぐにゃんと歪曲してバッグに入っていくし、意識したら中に入ってる物の情報が浮かぶ。

 しかも時間を止めてる訳じゃないけど物体の状態は保存処理されるらしいから実質時間がとまってようなもの。

 さすがに火なんかは消えたけどね。保存対象は物質らしく、流動するエネルギーなんかは保存される際に停止するから消えるみたいだ。


「返事だけはいいの……まぁそれで食材調達もはかどるじゃろ。ちゃんと美味い飯を作るのじゃぞ」


「はーい!」


「本当に聞いとるのかお主?」


 くっくっく、これなら対ベヒモウスの作戦の幅が増える!現代知識なめんなよ獣風情がよぉ!

 あとは訓練がてら錬金術のレベルアップと、物質調達だな!大量に用意してやるぜ!


「あ、その前に」


 さっき教えてもらった3つの魔術を覚えないとね。シヴァ様推薦の魔術だし、きっと役立つだろう。


「さて、1つ目は『体内浄化』か」


 焼き刻まれている魔法陣をそのまま使わせてもらい、発動してみる。

 すると自分の魔力が凄まじく細く体中に広がるのが分かった。


「うわ、なんだこれ……!」


「お、やっておるの。ほれ、その細い魔力で体内の異物を絡めとって喉に集めよ。あとはペッと吐き出せば終いじゃ」


「簡単に言うなよ……!」


 蜘蛛の糸を同時に何百何千と操るようなもんだぞこれ!処理しきれるか!人間なんて右手と左手で違う事するだけで頭こんがらがるんだぞ!


「ぐっ、くっ、よっ……いや無理だろこんなの!」


「まぁ本来は発動前に対象の異物を魔法陣に組み込んで行うからの。発動後に手動でとなると人間には難しいかも知れぬの」


「あぁ、本来は魔法っつってたなこれ」


 はいはい無理無理解除解除。

 人間に扱える魔術じゃねぇよこんなの。


「はい次ー!えー、『王気咆哮』だっけ?」


 発動っと。

 お?体内で魔力がギチギチと圧縮されてる感じがする。


「魔力が肺に集まっとるじゃろ。そこに意思……は本来魔法陣に組み込むから……そうじゃの、魔力に直接意思を込めよ。そしてそれを一気に口から呼吸とともに出すイメージじゃ」


「意思っつってもな……あ、いいのあったわ」


 さっきの『体内浄化』への感想でいいや。

 圧縮されてる魔力に苛立ちを込めるイメージ……。


「そんなもん出来るかバカヤローーーッ!!」


 それを叫びと共に吐き出すと、前方の草や木が突風に煽られるよう揺れた。


「お、成功じゃな。やはり繊細な操作を必要とせん魔術なら扱えるようじゃの」


「おぉ?成功したのか?てかこれで繊細じゃないのかよ、結構難しかったのに」


 簡単に言ってくれるけど、これ『集中強化』よりも難しかったからね?


「ぶっちゃけるとこれはストレス発散用魔法としてよく使われるものじゃしの。あとは聞き分けのない相手への脅し用の魔法でもある」


「えぇ……なんか一気にしょぼく感じるな」


「本来は違うのじゃ、そう言うな。格下相手には有用ぞ?どれ、我が一度やってみてやるから体感してみよ」


 カカカと笑った少女は、こほんと喉を整えてから俺を見てポツリと呟く。


「ーーそこに座れ」


 ーー………気付けば、その場に座り込んでいた。


「……お、おぉ………うわ、鳥肌やばい、背中がゾワゾワするぅ…」


「かっかっか!ほれ、生意気なお主でも簡単に言う事を聞かせられたじゃろ。まぁ行動まで強制するのは余程実力差がないと無理じゃが、威圧して硬直させるくらいなら同格だろうと出来るじゃろ」


 あぁアレか?よくある威圧や殺気で相手が固まるアレなのか?

 まぁ実感したから分かるけど、確かに使い道はありそうだな。もう本能というか魂そのものに命令された気分だったもん。


「ちなみに魔法ならば言葉に乗せる感情や命令内容を事前に組み込むのじゃが、魔術となると後乗せになる。お主の言葉に乗せる感情の大きさ次第で効果は変動するじゃろうの」


「あい、了解っす……はっ、まさかシヴァ様がその気になったら俺エッチな事されちゃうのか?!」


「こ、このうつけが!お主みたいな坊主なぞ興味もないわ馬鹿者!」


「じゃあ俺が成長したら?!いやーんこの光源氏ぃ!」


「光源氏はわからぬが、なんとなく我と光源氏に謝れ小童!」


「成長するまでに強くなきゃダメだ強くならなきゃダメだ……!」


「追い出されたいかのお主は?!」


 とかちょっとふざけちゃいましたが、当然冗談なのでお礼を言う。てか意外とノリ良いねシヴァ様。


「便利そうだなこれ。ありがとう」


「気にするでない。ほれ、最後のも試してみい」


 あ、そだった。シヴァ様の『王気咆哮』でうっかり忘れてたわ。


「えっと、『疾風迅雷』だっけ?名前かっちょいーね」


「名前だけではないぞ?その魔法、じゃなくて魔術は剣舞などでも使われておるからの。つい目を惹かれる程の価値はある」


「え?見せ物用の魔術なの?……まぁいいか、試してみるよ」


 さて、またしても魔法陣をお借りしてっと。


「発動……ぉ、お?おおぉおおがぁアああっ?!」


「ぬ?おいお主、もっと繊細に扱わぬか」


「ぎゃあああいでででストップぅうう!」


 いったぁああ?!何これ全身が痛い!まさかこれ自爆魔術とかか?!


「操作が雑じゃのう……それでは体を痛めつけるに決まっておろう」


「い、いや待って何これ……?魔力が全身に広がったと思ったら体の隅から隅まで焼き尽くされた気分なんだけど」


「繊細に扱わぬから魔力で肉体を傷つけただけじゃ下手くそ。本来なら全身、細胞のひとつひとつを活性化とコーティングして、凄まじい膂力や強度、頑丈さを身に宿す魔法じゃ」


 あ、これ身体強化の部類なんだ。てっきり自爆技かと思ったよ。

 

「ふむ、一度見せてやろうかの……いや、お主は魔力察知は下手そうじゃの。ほれ、手を握れ」


「え、あ、おう」


「触れておればいくらか分かりやすいじゃろ。いくぞ……発動」


 ……お、おぉ。すげぇ。

 普通の身体強化だと体の中心から伸びる魔力でざっくり筋肉やらに魔力を絡ませて込めるのに対して、この『疾風迅雷』は身体強化よりも多い魔力を全身隈なく丁寧に染み込ませてる感じだ。

 この量をこんなに繊細に扱うとか……凄まじいなシヴァ様。


「ちなみに動くとこうなる」


 するりと手を離されてから、シヴァ様が消えた。

 周囲から遅れて風切り音や足音だけが聞こえてくる。


「……ふぅ。どうじゃ、本格的ではないがそこそこ見れる剣舞じゃったろ?」


「見えねぇよ!!」


 なーにが剣舞用だ目で追えねぇよ超越者どもがァ!

 なにドヤ顔してんだよアホなの?!


「む、そ、そうか。まぁ人間には過ぎた舞だったかの。……まぁ感覚は分かったじゃろ?このイメージでやるといい」


「あぁ、それは、はい。ありがとうございます。いやなんだかんだすごいの一言だわ……今なら形だけじゃなく心底敬語で話せますよ?」


 いや本当に。

 今なら神を敬う人の気持ちも分かる。


 まるで大自然を前にしたかのような、自分の想像をはるかに超える圧倒的な存在って自ずと敬意が湧くもんなんだと理解したわ。


 しかしシヴァ様は嫌そうに顔をしかめた。


「今更良いわ。言っとくが超越者の多くは敬われるのに飽き飽きしておる。そうでなければ地上で王族にでもなっとるわ。我は違う理由じゃが、それでも今更坊主に傅かれたいとは思わぬ」


「あー……なんか色々あるんだな。まぁそれなら普通に話させてもらうよ」


「うむ。我が欲しいのは敬意ではない、美味い飯じゃ。早くこんな森を庭のように歩き回れるようになれ」


 そして美味い飯を開発せよ、と続ける半神様に思わず苦笑いがこぼれる。

 まぁ飯なんかじゃ返しきれないくらいの恩があるしね、きっちり仕上げてレシピまで用意してやろうじゃないの。


「っし、それじゃ練習しないとな」


「うむ。あぁ、やるならまずは『疾風迅雷』からにせよ。お主の魔力操作はまだまだ荒いからの。繊細な操作を身につけるのが最初じゃ。それから『体内浄化』、錬金術と進むが良い」


 よりによって一番痛い奴からかい。


 

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