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031.邂逅

 それから王都を出発する日が来て、馬車で3日かけてデリンジャに帰ってきた。

 道中でポーション錬金祭りをしたり、料理を作らされたり、珍しい魔物を狩って素材だとプレゼントされたりした。


 そして『魔撃の射手』のクランハウスに突撃して『魔剣の乙女』と俺達で昇格祝いの宴会する事になったり、さすがに作りすぎたポーションのお裾分けしたりした。


 あとは本屋のおやっさんにだいぶ上達した錬金術と付与術を見せて自慢してきた。ついでに魔除けの結晶(魔除けの石の上位版)をプレゼントしたな。

 受付のキャロルおばちゃんにポーションお裾分けして、ハリスト道具店で再入荷したというレッグポーチをもう一つ購入したりもした。


 そしてだいぶグレードダウンするとはいえ完成した初の付与術によるお手製魔術具の魔力蓄積ブレスレットをクルルにあげた。

 それと『鋼の蜘蛛』戦でそれなりに傷んできたなと思ったのでメイスは新調したよ。

 大きさはあまり変わらないが、重さと頑丈さとお値段がアップした。……小遣い貯めなきゃ。


 ここらへんでC級になったな。

 なんか周りから妙な目で見られるようになったけどーー王都の変な呼ばれ方がここまで届いたか、短期でC級にあがったからは分からないーー特に絡まれたりしないから気にしないでおく。


 あと錬金術の練習してたら失敗した残骸を漁る孤児っぽい子らがいたから、魔石と交換で練習がてら孤児院の住む古い教会みたいな建物を修繕したりもした。

 あんま興味なくて詳しくないけど、神様が明確に複数存在してるのが分かってる世界だけあって、それなりの数の信仰があるらしい。

 その中の親子愛を司る神様を信仰してる教会だとか。

 それでそれ以降ちょくちょくお邪魔しては錬金術の練習がてら修繕したり、剣の稽古したり、差し入れしに行ったね。

 途中からクルルも一緒に行くようになったな。男の子が大興奮してたわ。やっぱ美少女だけあってモテるんだねあいつ。



 そして王都から帰ってきて、そんな生活を半年くらい過ごしたかな。






「っくそ!早く避難しろォ!足を止めるなッ、急げ!」

「うわぁあああん!怖いよおぉぉ!」

「さ、先に行ってくれ……!後から必ず追いつくから…」

「ねぇお母さん、どこぉっ?!」

「いやぁああ!あなたぁああ!」



「ちっ、最悪ね!あんた達聞こえる?!総指揮は私がとるから!指示された奴らは随時動くように!

まずF級は一人につき一人でいいから少しでも多くの住民を連れて自分も避難!行き先は町の南側!ほら走りなさい!」



「E級はひとっ走りして馬や馬車を南側に集めなさい!D級は町の中で逃げおくれがないか確認しながら避難誘導!C級は戦線の後ろでバックアップ!」


「A、B級は戦闘!アイツは並の魔術なんか効かない!狙うなら本体じゃなくて足元を破壊して足場を崩すか、音や光で怯ませるように!弓持ちはとにかく両目を狙うこと!盾持ちは戦いの余波から後衛を守る!直接受け止めるなんて考えちゃダメ、死ぬわよ!剣士はスピードに自信がないなら盾持ちと同じ仕事!自信がある奴はヒットアンドアウェイ、ただし決して足を止めるな!」


「っはぁああっ!『密度操作』・エアクラッシュ!」


「ちっ、全然効かないじゃないのよ!」


「いやぁウソでしょー、ボクの矢でも貫けないとはねぇ」


「とんだ化け物じゃのぅ……」


「まさかこんな事になるなんてね、参ったな」


「ほんとですねー……何をしても効きませんよぉ」


「う、ウチの『集中強化』でもダメっす!ビクともしないっすよ!」


「あーサイッアクよ!とにかく攻めるより距離をとって牽制!下手に踏み込んでやられたら殴るわよ!」




「………出ちゃったね」


「それな。まだ時期じゃないってのに。まぁやらないと町潰れるし、やるだけやるしかねぇよ」




ーー『古代獣王』ベヒモウスが、デリンジャに現れた。



 どうにか戦線を保ってはいるが、魔力を振り絞ってどうにか保ってる状態だ。

 そう長くは保てないだろう。


 今しかない。

 不利な状態になってから切り札を切る程悠長ではないし、そもそもこんな化け物相手にタイミングなんて選んでられない。


「クルル、俺が出る時はとにかく気をひいてくれ!視界と聴覚を遮れたら最高!」


「……聴覚は微妙。視界は任せて」


「シンシアさん、俺がベヒモウスの下に辿り着けるようフォローお願いしていいすか?!」


「っ、仕方ないわね、潰されたら怒るわよ!」


 2人の言葉を背に返事もせず走り出す。


 シンシアさんが指示を出してくれたのだろう。

 俺が走るルートに気が向かないようにタイミングや角度を調整しつつ、普通の魔物ならオーバーキルな攻撃が後ろから流星群のように飛んでくる。

 そしてぼちぼち懐に潜れそうなタイミングで、ベヒモウスの眼前で大きな光と共に炎が爆ぜた。


 クォオオオオン、と重低音と高音が重なったような、独特で耳に残る咆哮をあげるベヒモウスに、俺は右手にあるブレスレット3つ全てから魔力を根こそぎ取り出した。

 実は魔力蓄積ブレスレットを素材が集まる度に作ってたんだよね。なんと合計6個持ってます。


「っぅぅううおおお!」


 オッサンにもらった空間魔法の詠唱を素早く唱える。

 ズンとのしかかる負荷と抵抗に体が震える。

 あー重ったぁ!けど、ちゃんと練習はしてきたし、発動は、できるッ!


「『空間魔法・捻天渦』ァ!」


 脳が焼き切れそうな負荷と、手が震えそうな程の膨大な魔力を押し留める魔力操作、どちらも今の俺には負担が大きい。

 しかし、それだけのリスクを冒すだけの威力はある。


 空間に存在する全ての生物、物体。

 その硬度など関係なく、空間にある存在を空間ごと作用して攻撃する事ができるのが空間魔法の強力たる所以。

 そしてベヒモウスの顔面にぶち込んだのは、俺が指定した球状の空間範囲を、捻りながら圧縮していくという魔法。


「っぐぐぐ!」


 指定した空間が内包している魔力密度が濃すぎるせいか、異様に固く感じる空間を必死に捻り潰しにかかる。

 クァアアアアアン!と先程よりもいくらか高い悲鳴混じりの咆哮を上げるベヒモウス。

 その顔面が、ビキビキと音を立てて歪み、血がバタバタと地面に落ちる……ことなく、空間の中心へと捻られながら集まっていく。


 さながらブラックホールの小型劣化版。


 しかし、やはりまだまだ準備期間は足りてなかったのだろう。

 再び咆哮をあげたベヒモウスはブチブチと音を立てて効果範囲から逃げ出し、ゴッソリと削げた肉や、捻られた跡を残している断面から血を滝のように流す。


 ここだとばかりにその傷口目掛けて後方から大量の魔法が殺到するが、


「……やっぱあるよなぁ、『自己治癒』は」


 メリメリと肉が盛り上がって、皮が覆い、体毛が揃っていく。

 そんな気はしてたが、いざ見るとマジで辛い。泣きそうだ、理不尽だろこんなの。


 グォオオオオン、と今までで一番低く腹の底まで揺れるような咆哮をあげたベヒモウスは、真っ直ぐに俺へと視線を向けてきた。


 その巨体を見上げる。

 漆黒の毛並みに、真紅の瞳。

 肉体は狼の形に似ているが、それにしては四肢が太く発達している。

 顔は狼とも獅子ともとれるが、口の端から長く伸びる2本の牙はどちらにも無い特徴か。

 尾はライオンのように細長いが、本数は10本と無駄に多い。


 そして大きさは、高さで5メートル、全長だと15メートル近いだろう。体重なんざ想像もしたくないが、ズンズンと比喩じゃなく鳴る足音からして踏まれたら簡単に潰れるだろうな。


 そんな視覚情報が瞬時に把握できる。

 ベヒモウスの威容があるからか、それとも俺の集中力が勝手に限界以上まで引き上げられているからか。


「ルイ君!戻ってッ!!」


 耳元で弾ける声。

 シンシアさんの『風鳴り』だ。


 とはいえ、これは頷く訳にはいかないだろう。

 今戻れば、間違いなくベヒモウスは俺ーーひいては近くにいるメンバー達に攻撃を仕掛けるのは目に見えている。


(………出来たら、使いたくなかったんだけどなぁ)


 ほんの、ほんの一瞬だけ振り向いてクルルを見る。

 確かに目が合った。きっと伝わっていると思う。信じる。……信じる、か。


 散々信用ならぐだぐだ言ってた俺が土壇場で信用に縋るとはなかなか皮肉だが、被害を抑えるにはこれしかない。


 クルルを……仲間を、信じよう。


「……今だやれッ!」


 俺の言葉の直後にパァン、と炸裂音と光が世界を照らす。

 これにはベヒモウスも怯んだらしく、動きがビクッと固まる。

 そして俺は当然タイミングに会わせて『超感覚』で視聴覚を下げていたのでダメージはなし。


 ……俺の自己中心的な信頼に、クルルは応えてくれたのだ。だったら。


(失敗は、許されない)


 ズキズキと痛む頭に鞭うって、今度は左手につけてるブレスレット三つ全てから魔力を根こそぎ取り出す。


「あぁぁあああああ!」


 あぁぁあああもぉおお頭いったぁああ!

 魔力もでかすぎて重たいぃいい!


「『空間魔法・空間転移』ぃ!頼むからどっか行けぇえ!」


 これぞ必殺強制エスケープ(相手)!!

 頼むから成功してくれ!


 これ以上は魔力が足りないし、仮にあったとしても俺が同時に扱える最大値の魔力量が片手分のブレスレット全部分だ。

 つまり文字通り俺の最大規模の魔法行使になる訳だが……


 クォオオオオン!ともがくベヒモウスは、吹き荒れる風や魔力の嵐の中に絡めとられるように暴れている。

 しかし空間ごと作用する魔法に対して、いかに強靭だろうとただの爪では届く事はない。


 このまま空間を完全に切り離し、マーキングしている場所の空間と入れ替える。

 マーキング?そりゃこの魔法を習得してすぐ何箇所かに配ったよ。

 ちなみに今回は魔物の領域の奥の奥まで届くように俺が全力全開の身体強化を駆使して放り投げた魔石を目印にしている。


「っくぁぁあっ!」


 重い重い重い重いッ!

 魔力密度がえぐい!硬い!干渉しにくいぃ!

 だが、しかし。

 どうにか、繋がった。


「発動ッ!」


 空間がぐにゃりと歪んで遠のいていく。

 ギリギリ発動にこぎつけれた。


 もう体への負荷が笑えないレベルになっており、魔力は体内もブレスレットも共にすっからかんだし、脳への負担のせいか目もかすむ。

 耳も耳鳴りがひどいし、手足もガクガクと震えていて立つのもしんどい。

 口の中に何か入ってきたと思ったら、どうやら鼻血が出てるらしい。


 だが、どうにか撤退(させる事)は成功した。

 と、油断したのがダメだったんだろう。

 いや、油断してなくてもかわす元気なんてなかったか。


 とにかく、発動完了のほんの一瞬前に、俺の体にベヒモウスの尻尾が巻きついて。


「っ、ルイーーーーっ!!」



 誰かの声を最後に、転移に巻き込まれた。


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