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003.ローズマリーの授業

「魔法は、まず魔力を体から取り出します。その魔力に魔法陣や詠唱、または確固たる意志とイメージの付与などを行う事でそれらが世界に影響する為の鍵代わりになり、この世界に魔法として発現されます。その発現した魔法を自らの魔力で紐付けさせる事で操作する……というのが魔法、ひいては魔術の基本的な発動工程です」


「いやちょ、ごめん。え、マリー今7歳だよね?」


「……どう見ても7歳ですよね」


 どう聞いても7歳の発言じゃないんですが。


「マジかこいつ……天才か?」


「てっ……もう…」


 乏しい表情ながらもほんのり頬を染めてじとっと睨むマリーは、実にかわいらしい。澪ほどじゃないけどな!

 けど、先程の発言をふまえて見ると、末恐ろしすぎてシンプルに怖いまである。これ早熟って言葉に収めていいものなのか?


「……よしマリーちゃんや。もうちょい噛み砕いた説明を頼むよ。いや理解してない訳じゃないけどね?マリーちゃんの理解度の確認をしたくてね、うん」


「ルイお兄様………」


「あ、やめてその目」


 すっごく残念なものを見る目だな。

 これに興奮できるほど俺の紳士レベルは高くない。よって純粋に辛さしかない。


「……ルイお兄様、やはり人が変わってませんか?口調もたまに崩れてますし、あれほど私達を、特に私を避けていたのに…」


「あー、そこはね。つい意地になってたけど、魔法が使える気がした時に、そんなのどうでも良くなってさ」


「あっ、ご、ごめんなさい!出過ぎた発言を……」


 ん?あぁ、口に出して言うつもりはなかったのか。バッと口元抑えてるマリーに気にするなと微笑んでおく。

 マリーらしくない凡ミスだけど、それだけ俺がらしくない行動をしてるからなのかね。


 まぁ記憶復元前のただの9歳の子供に、後妻やら知らぬ間に出来てた弟妹やらは重たいってば。

 そんな背景もあってマリー達を突っぱねて生きてきたのは事実だ。

 

 前妻ローザンヌ、つまり俺の産みの母親は2年前に亡くなっている。

 それから1年もせずに連れてこられたのが後妻であるリーリエ。

 そして現在では次男にあたる数ヶ月遅れの同い年、腹違いの弟レオンハルト。

 同じく腹違いの妹で、二つ下の双子の姉ローズマリーと、妹のフラムリリー。


 つまり俺以外の家族5人の内、父親以外の残り4人は1年前まで顔も知らなかった。肩身が狭いのよ。

 今でこそ18年程度とはいえ生きてきた経験もあって客観的に見れるけどさ。ついさっきまでは父以外、いや父にさえ反抗的というか、距離があった。


「気にしないでいいよ。というか、気にするべきなのはいきなり連れてきた父上だしね。少なくともマリーが気にする必要はない」


「……。あり、がとうございます…」


「うん、何より今この場ではマリーが先生だしね。堂々としてればいいんだよ」


「そ、そんな……。私は所詮……ッ」


 バッと口に手を当てて自らの言葉を遮るマリーに、首を傾げる。

 が、マリーは素早くいつもの無表情の仮面を取り付けた。


「すみません、話が逸れました。えっと、噛み砕いての説明でしたね……」


 誤魔化すように早口で言葉を重ねようとするマリー。

 まぁ追求するのも可哀想だし、ここはとりあえず置いておくとしよう。……あくまで後回しにするだけだけど。


「まず魔力を必要な分出します。

次に詠唱、魔法陣、意志とイメージの付与、そのどれかを魔力に乗せます。

そうすれば魔法が発動します。それを魔力操作の要領である程度操作できます。……どうでしょう?」

 

「うん、分かりやすい。ありがとねマリー」


「いえ、良かったです。では、まず始めに魔力を取り出す所ですが……私も苦労したのですが、まず魔力を感じて、操作できるようにならなければいけません」


 ほうほう。ぶっちゃけ小説で見かけるような話だなこれ。となるとだ。


「マリーが俺の魔力を遠隔で動かして、それを俺に認識させるとか出来るもんなの?」


 よくある手っ取り早い方法も適用したりしないかな?と思う訳で。しかしマリーの答えは。


「え?いやそんな技法は聞いた事もないですが………他人の魔力は原則その人の意思の下にありますので、もし実行できるならそれは限定的な他人の乗っ取りです。私が知る限りでは存在しない技法ですし、もし存在しても禁忌とされる可能性が高いかと……」


「え、そうなんだ」


 マジか、そんな危ない感じなの?

 まぁ言われた内容としては違和感もないし、納得できるものではあるけど。


「じゃあ自分で確かめないダメとか。……ちなみにコツとかないかな?」


「コツ……と言っていいかは分かりませんが、魔力の中心となるのは心臓ですので、それを意識してみる、とかでしょうか……」


 いわく。魔力を生成、循環させているのが心臓で、脳や下腹部に魔力が多く留まる部位はあれど、あくまで大元は心臓なんだとか。

 血液みたいなもんくらいに認識しとくか。


 どうせそこまで掘り下げなくても、マリーいわく一度認識してしまえば心臓やら脳やら意識するまでもなく魔力操作はできるって言うし。

 それなら学術的知識はぶっちゃけどうでもいい。

 使えりゃいいんだよ!

 


 そうして俺の魔力を感じるまでの長い戦いが始まるーー事はなかった。



「あ、これか」


「え?」


 めっさサクッと分かってもーた。


「うわぁ、何これ。むしろよく今まで気付かなかったな俺……」


「え?え?」


 心臓からぶわりぶわりと太陽のフレアを思わせるように緩やかに蠢き躍動する何か。

 強くイメージすると、粘性を帯びた水のようにゆったりと動かせる。


 そしてそれを取り出す、だったっけ。

 のっぺりと動くそれを手のひらへと動かしていき、そこから放出するイメージ。


「う、うそ……」


 先程から動揺するマリーというレアシーンが連発されてるのを横目に楽しみながら、手のひらがぶわりと溢れる目に見えない何かを感じる。


「ル、ルイお兄様、すごいわ……」


「だぁーっはっはっは!ありがとなマリー!」


 うん、これはテンション上がる。それはもうひどいドヤ顔をしてるだろう。


 てゆーかこれはアレだ。前世との差のせいだ。


 前世では魔力なんてなかった。

 それがいきなり魔力なんて身についたもんだから、その差異で感じ取りやすくなってるんだろう。


 考えてみれば、この世界の人達は生まれた時から魔力があるのが当たり前だからね。

 この世界の人にとって魔力を感じるのは、前世でいう血の流れを感じろ、みたいなものなのかも。


 うーむ、ある意味これも転生の特典にあたるのかも知れないな。


「で、ではお兄様。それを必要な量を取り出して留めます。そしてその魔力に……今は手っ取り早く魔法陣にしますか。魔法陣に魔力を行き渡らせてください」


 そう言いながら、これまた珍しく興奮気味に早口のマリーが地面に簡単な魔法陣を描いていく。

 

「魔法陣とかそんなサッと描けるもんなのか……」


「これは基礎的な魔術の魔法陣ですのでシンプルなんです。上位の魔術や魔法は無理ですよ」


 あー、明確に難易度や複雑さが違う訳ね。それにしたってカンペも下書きもなしの一発描きはすごいと思うけど。

 まぁ今は練習だし、とりあえず言われた通りにやってみよう。


「ルイお兄様、留めるのもお上手ですね。すごいです……!」


「はっはっは!任せんしゃい!」


「あ、でももっと勢いよく出してみては?あまりゆっくりだとかえって維持し続けてるのが大変ですよ」


「え?……お、おう」


「……………あの、変わってませんけど…」


「あー、ちょい待って」


「…………」


「…………」


 やっべ、全然勢いが増していかない。

 なにこれ、捻り出そうとしてもすげぇ固いというか、詰まるというか……。


「……お兄様、もしかして魔力孔が少ない…?」


「え、何それ?」


 愕然とするマリーと首を傾げる俺。

 その横でようやく取り出した魔力が魔法陣に満ちて、ポッと音を立てて小さな火が灯った。


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