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022.魔剣の乙女

「で、出来ちゃった……」


「……おぉ、やりおる」


 依頼を受けた翌日、護衛依頼出発の前日にあたる今日。


 午前中にさくっと準備を済ませた俺達は、日課だからと魔物の領域にある魔除けの石と魔石を使った錬金術の練習をしに行った。


 で……成功した。


「お、おいおい。これから錬金術の上級者に教えてもらおうと思ってたのに、もう出来ちゃったよ」


「……無駄にはならない。更なる向上をすればいい」


「あぁ、まぁそうだな。……しっかしちょっと前に全然出来る気がしなかったのにな。あの魔力操作の訓練すごいわ」


「……すごいのはそこだけじゃない」


「ん?なんか言った?」


 聞き取れずにクルルを見ると、首を横に振った。

 どうせくだらない事でも言ったんだろうと気にせず、出来上がった魔除けの石を握る。


「いやー、なんだろ。うん、やっぱ嬉しいな初成功は!やっほぉい!」


「……いぇーい」


「いぇーい!」


 クルルが両手を出してくれたのでハイタッチ。

 利用し合う関係だとは言ってるが、意外と仲良くやれてる気はする。


「っしゃ、これで錬金術の本の先も読めるな」


「……ここからは熟練度上げになる」


「あ、読んだのか。そういやクルルの魔力操作なら錬金術もすぐ出来るようになるんじゃ?」


 なんせいまだに操作能力じゃ届く気がしないし。


「……んーん。簡単なのならともかく、使える物を作るなら魔力量が足りない」


「あぁ、そういう壁もあるのか。今の所足りてるから気にしてなかったわ」


 まぁ足りなくなってから考えるか。

 物語なんかじゃ魔力をすっからかんにしたら増えるとかいうけど、この世界で有効なのかね。


「ちなみに魔力量を増やす訓練とかあるの?」


「……ない。……この会話友達ともしたから先に言う。……昔の偉い人が魔力を使い切ることで増やすと言ったらしいけど、危険度に対して増加量も低いし、何度も繰り返すと体が慣れて増えなくなるから、危ないだけって行為とされた」


「お、おう……。あれだな、クルルだから言うけど、その言い始めたヤツは多分異世界人だわ」


「……それ友達も言ってた。ちなみに今は、魔物を倒すのが一番早いとされてる」


「あー、それって魂を取り込むとかいうヤツ?」


「……ん。これは賛否両論ある説。でも『魔撃の射手』が大物を倒す度に魔力が増えたって言ってた」


 それならかなり信用度は高い情報だな。

 じゃあマジで経験値システムと似たような性質があるのか。

 ……これはめちゃくちゃ有用な情報だろ。


「クルル、護衛の依頼が終わったらちょっと遠出で魔物倒しに行くか」


「……ん。言うと思った。賛成」


「おう、決まりだ」


 雑魚狩りばっかで実感がなかったけど、それでも『もしかしたら』程度には違和感があった。

 だったら、大物を借りまくればより早く強くなれるはず。


「くっくっく、いいねいいねぇ!楽しくなってきたぜェ!」


「……たまに出る悪い笑い、似合いすぎて反応に困る」


 やかましい。

 とりあえず初成功記念の魔除けの石はギルド受付のおばちゃんにあげた。





「……ここか」


 翌日、デリンジャの町の南側ーー王都側に、馬車が3台と10人近い人が集まっていた。


「やべ、遅れたかな」


「……まだ10分前」


 眠そうにぼやくクルルは言い訳がましい口調だが、事実ではある。

 日本人的感覚で10分前に来たんだけどな。今度はもう少し早く来るか。


「お、君か!はは、何かと縁があるな」


「ん?おぉ、久しぶり。確かに妙な縁があるわな」


 いつぞやの臨時パーティだ。

 名前も知らないのに何度も会うし、縁があるというのも頷ける。


「今更だけど、いい加減に自己紹介するか?俺はルイね。パーティ名は『イクリプス』」


「……クルル」


「ははは、確かにな。といっても名前は最初に組んだ時紹介し合ったんだけどな……。まぁいい、俺はポールだ」


「結局僕達そのままパーティ組んだんだけどね。僕はフィロ、もう忘れないでよ?」

「あはは……なんかまた忘れちゃいそうな気がするよ。わたしはハンナ。よろしくね」

「だいじょぶだいじょぶ!今回の依頼の間にバッチリ思させてやろーよ!あたしはニコルだよ、よろしくー!」


 などと軽く挨拶を交わしながら思う。多分忘れるだろうと。いやせめてリーダーのポールだけは覚えよう……。

 まぁいいや、もう1組いるパーティに声をかけに行こっと。


「どうも、今回はお世話になります」


「あぁ、新人か。新人ばっかだな」


 おっとぉ、久々にこの見下された視線をもらった気がするな。

 いつもならさっさと無視して放っとくんだけど、今回は数日一緒にいるからあんまりぶつかりたくはないし。

 これは程よく距離を置いて接するべきかね。


「お、そっちの嬢ちゃんはかなりの上物だな。野営の時にうちに来てくれてもいいんだぜ?」


「……坊やには興味ないね。帰って母ちゃんのおっぱいで飲んでな」


 しーん、と擬音が聞こえるレベルで鎮まりかえっちゃったよ。

 ……やりやがったなこのおバカは。


「おい、それもお友達から教えてもらったワードか」


「……ん。男に絡まれた時の第一声シリーズ」


「二度と使うな……」


 とりあえず叱っておき、どうにか軌道修正できないか試みる。


「あー、すみません。この子ちょっと言葉選びがイカれてて」


「うるせぇ!ここまで言われて黙ってられっか!」


 あー、ダメかぁ。


「ほら、全然ダメだろその言葉。その友達半分以上ふざけてるから参考にしすぎるなよ?」


「……むぅ、そんな事はない。けど今回は負けを認める」


「無視してんじゃねぇぞガキどもがぁ!」


 いやだって叱る時はすぐに叱るのが教育には良いんだよ。後で溜めて言ったりすると逆効果だって聞くし。


「ちなみに今回の護衛に俺達が不参加だといえば溜飲下がります?」


「んなワケねぇだろ!何余裕かましてんだテメェもよ!」


「……あ、すみません。この人達と戦って、戦闘不能にしたらやっぱ怒られますかね?」


 問答していると後ろから現れた女性達ーー恐らく引率のB級パーティに確認してみる。


「あっはは、当たり前じゃーん。ただまぁ、このままだともっと面倒なことに繋がりそうではあるよねー」


「全く、依頼開始前になんて体たらくだ」


 ニコニコと、しかし微妙に胡散臭い笑顔の女性と、生真面目そうな女性な女性が反応してくれたが、やはりよろしくないようだ。


「……ごめん」


「いやまぁ向こうの方が悪いから良いけどな」


「おい聞こえてんぞクソガキが」


 と、ついに堪忍袋が切れたのか、男が腰のショートソードを右手で抜き打ちのように横薙ぎに払ってくる。

 それをサッと身体強化してソッと左手でキャッチ。ふっふっふ、一度はやってみたかった真剣白刃取りィ!


「なっ?!て、てめぇっ!」


 男は剣を引っ張りながら、その反動で右足を振り上げて蹴りを繰り出す。

 それを左手は剣をしっかり持って離さず、右手を出して蹴ってきた足首を受け止めて、そのまま握った。


「くっ?!こ、このっ!」


「そこまでだ。これ以上は無駄だ」


 先程の女性が険しい目で俺と男を睨む。

 剣と足首を離すと、男は舌打ちしながら背を向けて離れていった。


「……はぁ。それで何があった?」


「あー、向こうがこの子にセクハラ、こっちが反論、あちらがキレて……あとはご覧になった流れです」


「そうか、人に迷惑にならない場所なら好きなだけやればいいがな。護衛中はダメだ、気をつけろ」


「はい、仰る通りです」


 うむ、と頷いて離れていく女性を少しだけ見送ってから、ため息をつく。


「……幸先悪すぎない?いや責めてるとかじゃなくて」


「……悪すぎ。あんなザ・低俗冒険者にあたるとは運がない」


「これだからパーティや集団行動はとりたくないんだよ」


「……今は私がパーティ。ルイは運がいい」


「あの男を見た後だとマジでそう感じるな」


 などと言っていると、どうやら場を離れていたらしい依頼人が現れた。


「ごめんなさい、ちょっと忘れ物が。さ、お待たせしました、行きましょうか」


 恰幅の良いおじさまが音頭をとり、先頭の馬車の御者席へと乗り込んでいく。

 従業員なのかな、といったワングレード落ちる服装をまとうおじさま達が2人ずつに別れて2、3台目の馬車へと分かれていった。


「では護衛の者達は集合!」


 俺達にも集合がかかり、集まる。


「それじゃあ指示は私達が出させてもらうからねー。あ、私達はB級パーティの『魔剣の乙女』ね」


 どうやら男前な女性じゃなく、このニコニコ笑ってる方の女性がリーダーらしい。


 てか待って、この人達が『魔剣の乙女』?

 前にクレアさんが言ってた底知れないって人じゃん。


 内心狼狽する俺をよそに、少し緩い、悪く言えば空気を読む気のない話し方をするリーダーは、しかしテキパキと支持を出していった。


「揉めちゃったパーティがいるからねぇ。うん、そっちの『赤の剣』は最後尾、『イクリプス』が先頭。で、残る『夜明けの集い』が真ん中ねー。私とこの子が先頭、あとの2人は最後尾につくよ。私達が前後で索敵と指示をするから常に耳を傾けておくように。それじゃー配置についてこー!」


 ……なんか普通に適切な内容な気がする。パーティ名まで覚えてるみたいだし。

 もうちょい雑な事言いそうな感じの人なのに、酷く適切だ。

 ただやっぱり裏がありそうだな。『赤の剣』とかいうパーティの人達も名前を聞いて怯えてるように見える。


「ほらほら、いくよー」


「あ、はい。では今日からしばらくよろしくお願いします」


「うんうん、よろしくね。ルイ・ノブル・ダハーカ様?」


 にこりと目を細めて笑う彼女は……あぁうん、分かった。

 これは腹黒さんだな。

 本当に、なんで名前知ってるんだよ……。


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