021.カーラ式レッスン
さて、パーティが決まったとはいえ、やるべき事は変わらない。
「おやっさーん!金持ってきた!」
「おぉ、今回は時間かかったな」
「錬金術の練習しながらだからな。その分売る分の素材も使うし討伐の時間も減ったんだよ」
「なるほどなぁ。けど錬金術なんかそう簡単には出来ねぇだろぉよ」
「いやそれ。マジで難しいんだよ」
最近やっと2つの物質を分解するところまでいけた。
けどそれらを組み合わせて、そっと自分の魔力だけを抜いて再構築・物質化させるという最終工程の難易度が洒落になってない。
「がははっ!まぁ気長に頑張れや!ほい、取り置きしてた本」
「おう、そーする。はい、お代だよ、確認してくれ」
「……ん、確かに。そういや坊ちゃん、最近パーティ組んだんだって?」
「え、何で知ってんの?」
聞けば、どうやらずっとソロだった変わり者のガキが、とんでもない美少女と組むようになったという噂が出回ってるらしい。
「ソロの変わり者のガキといやぁ坊ちゃんかなと思ってな。で、すげぇ美少女なんだって?お?お?」
「ニヤニヤすんな。まぁ美少女なんだろうけどな……そんな色っぽい話が出る仲ではないなぁ」
「へー。まぁあんま突くのも野暮だろうからいいけどよ。そこらへんも気長にやるんだな」
うーん、下世話な揶揄いもなし。
ここらへんが同級生あたりとは違う対応だねぇ。なんかおやっさんがかっこよく見えるわ。
「そーだな。よし、それじゃまたなんか欲しくなったら相談しにくるわ!」
「おう、待ってるぞ」
手を振って本屋を出て、手に持つ『魔法陣と付与術の基礎』という本の表紙を見る。
(これで下準備に必要な本は揃った。あとはひたすら習得か)
言うまでもなく、ここからが大変だ。
身体強化なんかとは桁違いの難易度だし。
「魔力操作……」
がむしゃらに練習してばっかりだが、何かコツのようなものはないのだろうか。
魔法タイプの冒険者に話を聞くのもアリなのかも知れない。
(誰か丁度良い人はいるかな?……うん、いるな)
帰ったらクルルに相談してみるか。
「なぁ、魔力操作のコツとかあれば聞きたいと思ったんだけど、聞くならやっぱクレアさんかカーラさんかな?」
魔法タイプの上級冒険者の知り合いといえば、『魔撃の射手』所属の2人だろう。
実際、モウルアントを吹き飛ばした合わせ技を見事の一言だった。
「……聞くなら、カーラ。クレアは、天才型だから」
「あー、なんかそんな雰囲気はあるかもな」
カーラさんの方はともかく、クレアさんは超然としてるというか、ちょっと独特な雰囲気があるというか。
「……ただ、魔力操作の感覚は人それぞれ。カーラのが合うかは分からない」
「へぇ、そうなのか……まぁ聞くだけはタダだしな。まぁさすがにそろそろお礼くらい持ってくべきだろうけど」
「……カーラの好物は、甘い物」
という訳で、菓子を買って『魔撃の射手』のギルドハウスへ向かう。
「……また来たの。来すぎじゃない?」
「そう言わず。ささ、お菓子をお納めくださいませ」
「な、何その態度。逆に怖いわよ、普通にしてなさい」
「うっす。で、聞きたい事があるんすよ」
魔力操作のコツとか、効果的な練習方法がないか聞くと、カーラさんはしばらく考え込むように押し黙った。
「……アンタ、察知系のギフトよね。多分私の方法は合わないわ」
「? ギフトによって違うんすか?」
「これはアタシの個人的意見だけどね。魂に合ったギフトが発現するなら、そのギフトが似ていれば魂も似ていて、魂から生まれる魔力の扱いも似ている……と思うのよね」
それは考えもしない視点だった。
なるほど。話の筋は通ってるし、ありえそうな話ではある。面白い着眼点だ。
「アタシのは魔法系の操作向上系統。だからクレアとはイメージが合うんだけど、他のメンバーとは食い違うのよ」
「へぇ、なるほどっすね。それでいくと確かに俺とは合わないか」
「そうね。自分の中でやり方を見つけた上で試すならともかく、今の段階で変に合わない方法に引っ張られるのは良くないわ」
なるほどなぁ。そう言われたらどうしようもない。むしろ気遣ってくれて助かるって話だ。
まぁ収穫なしは辛いけど、仕方ない。
「だから、練習方法だけ教えてあげるわ」
「え、ダメ元で言ってみただけだったんすけど、そんなのあるんすか?」
そんなものがあるなら魔法基礎編とかに載せられていると思ったんだけど。
「我流よ。ただこれはイメージとかは関係ないから、きっとアンタでも出来ると思うわ」
「おお!さすがA級パーティの魔法担当!かっこいい!綺麗!素敵!良い匂い!」
「匂いの話はやめなさいよ!……はぁ、いい?よく聞きなさいよ」
と、教えてもらった方法に、俺は目を丸くした。
そして思った。A級冒険者なめてたなぁと。
「ぐ、ぐぐぐっ!」
「……下手くそ」
「う、うるせぇええ……」
今俺がやってる事は、当然カーラさん直伝の魔力操作の練習方法だ。
内容としては、自分の魔力攻撃を自分の魔力防御で防ぐというもの。
これで火魔法でもあれば火と火をぶつけ合うのだが、俺の場合は『空間魔法』なので無理。というかまだ使用できない。
なので、シンプルに魔力のみをぶつけるように言われた。
「むっずぅ!」
「……左手側が弱い」
「ぐっ」
「……右手側の密度が落ちた。集中が足りない」
魔力を押し留め、同じ密度、量、そして動かす方向と勢い。それらをピタリと合わせるという練習。
ちなみにアホほど魔力を使う。
「っはぁ、はぁ……疲れるなこれ…」
「……私も通った道。今ではこう」
クルルは手のひらからではなく、体からぶわりと魔力を取り出し、そのまま空中で4つの塊に分け、それら全てが四つ巴でぶつかりあい、均衡させている。
「す、すげぇ」
「……カーラとクレアは、数十個の球を操る」
「マジか、やっぱ上には上がいるのか」
まぁ頑張るしかないわな。
というか今の所まともな水準に届いてるのって魔力量の多さくらいじゃね?操作も放出量もまだまだだし。
「っくそ、もっかいだ」
なかなか悔しい。
特にクルルのドヤ顔がうざい。
それから毎日、この練習に取り組むようになった。
「C級の昇格も近いんだけどね。アンタがまだこなしてない護衛の依頼を成功させないと上がれないんだよ」
「ふーん、そういうのあるんだ」
「当たり前だよ!いくら荒くれ者だっていってもね、ランクが上がればそれなりの立場になるんだ。だから特化するのは悪くないけど、一切経験がないから出来ませんって仕事があると困るんだよ」
あー、A級パーティならどこに出しても恥ずかしくない。と思いきやあのA級は護衛ができない、あっちのA級は討伐ができない、みたいなのばっかじゃ確かに不恰好だし、依頼者側も扱いにくい。
上にいくなら、最低限はすべてこなせて、その上でスペシャリストな項目がある、という形にはしろって事かね。
「というワケで、護衛依頼だよ。クルルと決めるんだね」
「だとさ。どれがやりたいのある?」
「……非常に悩む」
見れば、隣町までの護衛から王都までの護衛まであるし、短期から長期の施設護衛の依頼なんてのもある。
色々見たくて旅がてら出歩くなら護送で、拠点から動きたくない場合は施設とかの定点護衛か。
「……王都、見てみたいかも」
「王都かぁ……」
ダハーカ家の人達に、顔合わせるの気まずいんだよなぁ。
「……王都には、すごい錬金術がいる」
「ん?」
「……ツテもある。きっと錬金術のコツ、教えてくれる」
「っしゃ行くか王都!」
「チョロいねぇアンタ……」
ま、変装なりすれば大丈夫でしょ。それより錬金術を早く習得する方が優先に決まってる。
「で、護送の依頼人は?」
「はいよ、ちゃんと確認しなよ?」
んー……王宮研究所宛?
「なんか偉い所を目指す護衛なんだけど、これ本当D級が受けていいの?」
「あぁ、問題ないよ。というより、アンタ達以外にもD級パーティが2組集まるし、統率としてB級パーティが1組いる」
「なるほど、雑用と威圧要員ってとこかね」
「あっはは、否めないねぇ。まぁアンタなんかはつい最近冒険者になっばかりなんだ。雑用の感覚も残ってるだろうさ。頑張んな」
「おう、次から俺なしじゃ旅が出来ないくらいの雑用っぷりを見せてくるわ」
そりゃ報告が楽しみだとケラケラ笑うおばちゃんに受領印を押した用紙を渡す。
ちなみに控えで渡された用紙は確認用と完了報告書を兼ねている。実はなくすと面倒くさい事になる用紙だ。
「出発は明後日かぁ。ねぇおばちゃん、何か用意しとくべきものとなあるかな?」
「そうだねぇ……アンタは最初に例の護衛のおっさんとかいう人に言われて買っただろう?それらと食糧と水があれば問題ないよ。あ、着替えは多めにね。濡れたりすると風邪をひくよ。風邪なんて、とかいきがってると痛い目に合うからね」
「うっす。てか飯かぁ。結構持っかないとダメかな」
「いやどうかねぇ。自信があるなら動物を狩って調理する冒険者も多いよ。水も水魔術があれば作れるしね」
なるほどなるほど。それならそこまで嵩張らずに済むかな。
「了解、ありがとうおばちゃん」
「はいよ、気をつけて行っといで」
護衛のおっさんいわく、頼れるギルド員の言葉をきちんと聞け、だったよな。
なんせ冒険者の管理側だ、一冒険者とは比べものにならない情報量を持ってる。
その中でも信用出来る人からの情報は、下手なこだわりよりを捨てるに足る役立つ情報だ、だったな。
うん、美人の姉ちゃんじゃないのは残念だけど、キャロル受付嬢……おばちゃんが担当で良かった。




