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002.転生

「あ゛ぁ゛ああーー………」


 天を仰ぐ。澄み渡る青空がなんともまぁ腹立つ。


「思い出した……」


 18年分の記憶が一斉にフラッシュバックしたのは1時間程前の事。

 その暴力的な情報量に頭が痛すぎてその場でのたうち回る事59分間。

 そして1分ほど天を仰いで、やっと現状の認識を脳が始めたところが、今現在だ。


「くっそ、もっと早い歳で記憶の復元してくれりゃいいものを……いや、復元に耐える脳が出来上がる歳までは封印とかなんとか言ってたっけか」


 確か生まれてすぐに18年分の記憶を詰め込んだら脳が耐えられず、破損なり不全を起こすとかなんとか。

 なら仕方ないかと1人で納得して、まだ頭痛の余韻が残る頭を両手でぐりぐりと揉みほぐす。


「あー……名前は被ってるのか。これもあのオッサンのサービスなのかね」


 えっと……前世の名前は、五十嵐類。

 今世の名前は、ルイ・ノブル・ダハーカ。


 そして侯爵家の第一子で長男か……ってマジかよ。

 いや、今世の記憶ベースに前世が復元した形だし自覚はしてるんだけど、前世の記憶のせいで認識そのものが変わってるらしい。


 だってつい1時間前までは跡継ぎに相応しくなろうと木刀振り回してた訳だしね。そんな最中の唐突なフラッシュバックよ。焦ったわ。


 でも記憶が戻った今となっては跡継ぎとかめんどくさ、の一言だな。


 え?無責任?いやだって考えみて欲しい。前世18歳のガキが、いきなり領主……そうだな、県知事とかになって全責任を持てるようになれって言われてるようなもんですよ?ましてや異世界だから命すら関わる。

 嫌だよ。重いって俺には。何千人の命を背負える男じゃないんだよ。

 俺は少し贅沢できる程度で、かつ忙殺されない程度の仕事に就きたい。


「……追放、か?」


 そこで思い浮かぶのは前世の趣味のひとつ……というより貧乏だから辿り着いた無料の暇つぶし方法であった携帯小説でのお約束のアレ。

 その一家に相応しくないと判断された嫡子が追放されて家名を剥奪されるアレだ。その後だいたいざまぁするアレだ。


「えーっと……今の俺は9歳か。となると、あと9年がタイムリミットね」


 それまでに俺を転生させたオッサンの依頼をこなさないといけない。というか、厳密に言えばその依頼の報酬が俺には絶対必要なのだ。


 その依頼とは、とある魔物を討伐。報酬は〝異世界に飛ばされた妹〟が異世界に来る出現場所や時期を教えてくれるというもの。


 日本で同時に飛ばされた妹が異世界にくるのが未来形なのは、俺がオッサンにお願いして妹との年齢差が前世と変わらないよう過去に転生させてもらったから。

 ややこしい?うん、そうだね、それは本当ごめん。

 でも想像して欲しいのですよ。そのままの時間で転生して0歳スタートすると、2個下の妹が16個年上の妹になる訳で。


 そんなもん兄としてのプライドが許さない。だからプライドを投げ捨ててオッサンに土下座して懇願した。

 「あ、うん……」と引いた様子のオッサンに許可をもらって妹が来る18年前に転生してもらったのだ。


「これで妹ーー澪を呼び出す国や人物も教えてもらえてたらなぁ」


 今すぐにでもブチ◯しに行くのになぁ。

 さすがにそれは頷いてくれなかった。頑なに教えてくれなかったし、思考読まれたのかも知れない。


「まぁ依頼をこなせばオールオッケーよ」


 そうすれば澪の情報は手に入るしね。


 さて、そうと決まればまずは情報収集と、必要な力を備えないといけない。


「オッサンが言ってた魔物が弱かったら、適当に依頼をかけて討伐してもらうのとアリだけど」


 別に俺自ら実行しろなんて言われてないし。貴族子息の立場だろうがなんだろうが、使えるならなんでも使うわ。

 しかしそんな簡単な依頼ならわざわざ手間かけて俺を転生させたりはしないだろうし、簡単に上手くいくとは思ってない。


「確か書庫があったっけ?」


 貴族の嫡子だけあって文字は読める。ちゃんと9年間の俺も別人ではなく俺なのだ。

 平民スタートなら記憶の復元まで何も身につかずにいただろうし、これもオッサンの配慮なのかも。

 正直、ありがたい。ありがたいけど、いざ行動に移すとなると身分が邪魔にはなるのだが。


 テクテクと小さくなったーーと感じる身体を動かして書庫に向かいながら、手をぐっぱしたり感覚を確かめる。

 ……うん、紛れもない小学生レベルの身体能力っぽい。

 これは苦労しそうだな、とげんなりしていると、窓に自分の顔が映った。


「子供の頃の俺にそっくりだな……いや、いくらか今の方がイケメンぽいか」


 ルイではなく、五十嵐類に似た顔立ち。美形一家に生まれたからか上方修正されているが、遠目だとよく似てる。

 髪も黒い。ただ、眼は赤い。顔立ちが似てる分、その違いが気になってしまうな。


「……まぁいっか。それより書庫は、っと」


 それから数分後、目的地へと到着した。広すぎるんだよこの家……。


「さてと……」


 目的の情報を探すか。……この視界を埋め尽くす大量の書物の中から。


「……まずは司書さんみたいな人がいないか聞いてみよ」


 こんなん絶対その方が早いって。一からひっくり返して読んでたらそれだけでタイムリミット来るわ。

 あーもー、やっぱ“前払い“は異世界でお約束の『鑑定』とかにすれば良かったかな……。


 それからちょっとした城レベルの大きな侯爵邸で人を捕まえる。

 その使用人さんに司書さんの存在を聞くと、専門ではないが2人程詳しい人がいるとの事。

 1人が家令ーー使用人のトップと、もう1人が父であるラスボーン・ノブル・ダハーカ侯爵だとさ。


 父上ねぇ。記憶の中のあの人は色々飛び回ってて忙しそうだし。

 今はたまたま領地に帰ってきてるけど、書庫の案内をさせるのは忍びない。

 ……あとぶっちゃけ腹黒さが垣間見えるから苦手ってのもある。


 となると家令の一択だが、彼も相当忙しい。

 ……よし、手が空くであろう夜まで待とう。それまでは他の確認事項を進めていくとする。


「まずは“前払い“がちゃんと受け取れてるのか……」


 ……を、確かめる為にも、色々情報が必要なんだよな。


 あー、ぐだぐだだよ。

 それでも運動能力の再確認くらいするか、と裏庭にあたる人があまり来ない屋外へ向かう。

 するとそこには1人の少女の姿があった。


「あれは……ローズマリーか」


 ダハーカ侯爵家の長女で第三子にあたる。

 ちなみに後妻の娘……というか、俺以外の3人の弟妹は全員後妻の子だな。


 そんな中でもいつも淡々として表情が動かないローズマリーは放置され気味なんだよなぁ。というより、ローズマリーの方から距離をとってる気もする。


 まぁそのあたりの事情は今は置いとこ。それより彼女に聞きたいことがある。

 裏庭だからか花などがあまりなく、石畳や緑で囲われたシンプルながらも丁寧に整えられた庭に佇むローズマリーに声をかける。


「こんにちは、マリー。ちょっといい?」


「……ええ、大丈夫ですよルイお兄様」


 呼びかけると上品な佇まいのままに振り返るこの妹は随分と大人びてる。

 振り向いた事でふわりと舞う癖のない銀髪は綺麗なもので、少し吊り目がちな大きな紫の瞳も宝石みたいだ。

 でもそれほどの美しさを持つのに、ローズマリーの目にはどこか卑屈さが見える。

 うーん、記憶が復元される前まであまり気にしなかったけど、これはあまりよろしくないかもな。


「ありがとう。ねぇ、マリーって魔法の練習してたよね?」


「はい。まだ鑑定はしてませんが、魔法系のギフトだと予想しております」


「そっか、なら頼みがあるんだ。俺も魔法系かも知れなくてさ、出来たら基礎の部分だけでも教えてくれないかな」


 ちなみにギフトはよくある『スキルを神様からもらった』みたいなアレね。


 1人ひとつが基本だが、稀に複数もらったりする。

 スキルにも種類や系統があって、十人十色のスキルがある。

 転生させた神様っぽいオッサンに聞いたからもうちょい細かい説明も出来るけど、それはいつか語る機会があればって事で。


「ルイお兄様が……?失礼ですが、今まで剣は熱心でしたが魔法や魔術はあまりお好きじゃなかったと思ってましたが…」


 うん、正解。

 記憶の復元をされるまで、俺は騎士に憧れてたからね。だから剣を振り回したりもしてたし。

 勿論この世界の騎士が魔法や魔術を使わない訳じゃないけど、記憶復元前の俺が持つ騎士のイメージが剣でバッタバッタと敵を切り捨てる武人、みたいな感じだったのは確かだ。

 だから魔法はスルーしてた訳だな。脳筋すぎねぇか俺頼むぞおい。


「まぁそこはアレだよ。魔法を使えないから反抗心の裏返しみたいな態度をとってただけ。使えるなら使いたかったんだ……これ、内緒ね?」


 しかしこの程度、18年間死に物狂いで生きて妹を養ってきた俺からすれば誤魔化すくらい余裕だわ。

 たかだか7歳のおチビちゃんくらい手のひらの上でコロコロ転がしてやんよ。


「……ルイお兄様?あの、少し様子がおかしい気が……まるで別人、いえ、急に知見が広がったような…?」


「ハハハハッ!マリーちゃんおもちろーい!ボクは一般的9歳児の少年だよ?」


「あの、もしや煽ってます?」


 やっべぇマリー(7歳)怖ぇえー。こいつ賢いのは知ってたけどこの歳で知見とか普通使う?

 可愛い顔に皺寄せてじーっと見てくるぅ。こんな表情動くのレアだよ。無表情じゃないのは嬉しいけど今じゃないのよマリーちゃん。


「……ルイお兄様、どうかご自愛を」


「いや疲れてるとかじゃなくてね。……うんやめてその目」


 本当にぃ?とばかりにじっとぉ〜とした目に前世から磨かれた接客スマイルもひくひくだわ。


「……はぁ。そこまで言うのでしたら私からは何も言いませんけど、ご無理はなさらないで下さいね?……では、魔法の基礎でよろしかったですか?」


「あ、うん、ありがとう」


 仕方ないなぁ、みたいな目で話を進めるローズマリー。

 こいつ実は人生2周目とかじゃないよね?中身18歳の俺よりしっかりしてない?


 ともあれ、どうにか“前払い“でもらった魔法の確認もかねた魔法の練習に漕ぎつけれそうだ。

 ……なんか既に疲れたけど。


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