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019.同盟

 今この子ベヒモウスっつった?

 声ちっさいから聞き間違いとかじゃなくて?


「ベヒモウスを千切りたいんですか?あの『古代獣王』を?」


「……うん。粉々になるまで」


 殺意たっかぁ。


「あー……それなら安心してください。俺が家出したってのもベヒモウスを討つ為なんで」


「…………マジ?」


 金色の瞳を丸くするクルルさん。


「マジ。今は修行兼準備期間だけどな」


 だから今すぐとから言われても無理よ?


 それから黙り込んだクルルさんに、俺も特に口を開かない。

 なんとなしに魔力操作の練習をしながら待っていると、やっとクルルさんがゆっくりと口を開いた。


「……仲間になれぃ」


「急に命令するじゃん」


「……お願い。この世の半分をあげてもいい」


「魔王様かよ……てかそれ、もしかしてお前…」


「……ルイは、転生者」


 っ、おいおいマジか。

 やっぱりコイツも……


「……違う。友達が転生者だった」


「マジ、かよ……」


 驚きで口が回らない。

 まさかこんな形で他人にバレるとは……最悪だ。


 この世界で転生者というのは非常に珍しくはあるが、実は存在は認識されている。

 でないと異世界召喚とかしようがないしね。


 ただ、その希少性と有用性から野良でいる事はない。

 ほとんどの場合が王家の管理の下で、保護という名の拘束を受ける。

 だから澪が来るまで隠してるつもりだったし、ベヒモウスを討伐したら隠れ家なんかを作るつもりだ。

 実際、空間魔法とベヒモウスの亡骸があれば作れる見込みだし。


 その計画が、こんな所で大幅に狂うのは看過できない。

 ……やりたかないが、この場で始末するしかないか?


「……待って。私は味方」


「信用できねぇな。根拠がない」


「……根拠はない。けど、ホント」


「話にならねぇよ。悪いが今ここで…」


「……えい」


「ぶはっ?!は、ちょ、何してんだアホ!!」


 何急に脱いでんのこの子?!

 うわちょ、その歳で意外とデカ……じゃなくて!


「……落ち着いた?」


「落ち着けるかアホォ!」


「……つまり興奮してるの?エッチ」


「ウソだろ俺も何もしてないのに。通り魔じゃんこんなの」


 いそいそと服を戻してる音がする部屋で、俺は両手を目に当てて天井を仰いで嘆いた。


「……私は味方。ベヒモウスを千切る同志」


「だから秘密は守るってか?」


「……うん。国に捕まえられたら困る」


 ……話の筋は通ってる。


 利害関係の一致。

 それはある意味では無根拠な信頼云々よりも分かりやすく、そして信じれる。

 となると、あとはコイツの目的か。


「何でベヒモウスを討ちたい?」


「……友達が、ベヒモウスに殺されたから」


「それは……転生者のか」


「……うん」


 くしゃりと顔を歪めるクルルさんに、溜息をつきたくなる気持ちを堪える。

 ……やっぱ命が軽い世界なんだなぁ、クソ。

 いや地球だって日本以外ではそういう国もあるのかも知れないが、やっぱどうしても腹立たしく思ってしまう。

 これが甘ったれなのか、『五十嵐類』のエゴなのかは自分でも分からないけどな。


「……あと、『異世界観測日記』って小説、知ってる?」


「は?何だいきなり。こっちで小説読む暇なんてなかったよ」


「……違う。異世界の方で」


「なん……あ、いや、知ってるわ」


 そういえば澪と一緒に読んだわ。


 スマホの無料小説で、ダラダラと異世界の各地の話を載せてる小説な。

 ページ飛ぶ度に色んな国の話になって、また何ページか前の国の話の続きが出てきて、と繋げて読もうとすると頭の整理で疲れる変な小説。

 ただし短編集、そしてちょいちょい短編の続編が続く。みたいな捉え方で読めばそこそこ楽しかった話ではある。異様なまでにリアリティがあったし。


「……あの小説、この世界の事を書いてるらしい」


「はぁっ?!」


「……作者はおっさんぽい超越者」


「はぁああああ?!」


 ってもしかしてあのオッサンかよ!

 いやなんで超越者が小説の投稿なんてしてんの?!暇かよ!

 

「いや待て何でそんなの知ってんだよ?!」


「……友達が転生前に超越者から説明を聞くうちに、その小説と似てるって言ったら、そうだって認めたらしい」


 マジかぁ……うわぁ、もっとちゃんと読んどけばよかった…!!

 ほとんど覚えてないぞあんな小説!

 くっそ……いや落ち着け。少しでも覚えてる事を書き出さないと!


「マジで悪いけど、今日は帰ってくれないか?明日以降必ず時間は作るから」


「……はい、これ。その子が言ってた発言集」


「どしたのここに来てファインプレーじゃん。後でお菓子買ったげる」


 クルルさんから本を受け取る。

 俺の備忘録の本に似てるあたり、考える事は皆んな似通ってるのかも知れないな。


 ペラペラとめくっていくと、やはり発言集というだけあって整理されたものではない。

 しかし確かに地球を思わせる内容があり、クルルさんの言葉が嘘ではない事が分かる。

 ちょくちょく『くっころ』って書いてあるし。こいつやべぇヤツだな。


「……すごく自由な子で、優しかった。色々話してくれて、あまり分からなかったけど、分かりたくてメモしてた」


 なるほど。まんま俺の備忘録と似たような目的だった訳ね。

 ただ日本に関する内容は理解できないから、整理しようもなく殴り書きのままだった訳か。


「……………は?」


 そしてとある一文にシャレにならない内容があった。


『でね!ローズマリーはリーリエに虐げられててさ。なのに第一王子の婚約者になって逆転!と思いきやフラムリリーに奪われちゃうんだよ!?ひどくない?!』


『ローズマリーは実家を追放されて、黒の森に捨てられるの。それで、忘我の神獣ベヒモウスに殺されてちゃうんだ』


『それで死ぬ瞬間にギフトが発現するの!『勇者』って魔王とか魔物に特攻持ちのギフト!』


『それで結局、王国は復活した魔王に侵略されて滅ぼされるって話。ローズマリーが生きてたら皆んな無事だったのに、ざまぁーみたいなお話でした!』


 おいおいおい………マジかよ。


「……んん?」


「いやちょ、ちっか。離れてくれませんかね?」


 集中してて気付かなかったけど、だからってほっぺたくっつくくらい顔寄せて見る必要あります?

 

「……ぷぷ。童貞くさい反応」


「んだとコラ……ってこれかァ!おいお前の友達ちょっと教育に悪いぞ!」


 ケンカ買ってやんよと思ったら、本に『女に近づかれて慌てる男に言うべき言葉!』とかふざけた内容が書いてあった。


「……もしかしてルイ、ローズマリーの知り合い?」


「あ、そのまま話進めるのね。は、な、れ、ろ!」


「……貴族だもんね。顔見知りでもおかしくない」


「そうだねゴリラちゃん。いつまで顔くっつけてんだ邪魔だアホ」


「……あ、ローズマリーで思い出した。友達が死んじゃった時、ベヒモウスを追っ払ってくれたのがフラムリリーの義母にあたる人」


「ッ!」


 ………あぁ、なるほど。すごい偶然……でもないのか。

 ここもロットランド領ではあるし、クルルがいるならその友達もここにいた方が自然なくらいだわな。

 そうか。母上が追い返すまでに出た犠牲者に転生者が居たのか。


「……知ってるんだ。世間、狭いね」


「あーくそ、看破系ギフトか。今までの感じからすると、思考というより感情を察知されてる気がするな」


 細かい情報というより、俺が動揺したりする事を察知して判断している気がする。


「……ビックリ。賢い」


「あっさり吐くんだな」


「……私は味方だもん」


 味方、ねぇ。

 まぁここまできて疑う気も起きないけどさ。


「……ギフトは?」


「……『治癒魔法』と『感情察知』」


「わーお……確かに俺と変わらないくらいヤバいスキルだな」


 特に治癒魔法だ。

 治癒魔法は現在ほとんど魔術へと落とし込めていない。

 せいぜいちょっとした傷を治す『ヒール』と、致死性でもない軽い毒なら治せる『アンチドート』くらいのもの。

 しかもそれさえも魔術の中ではかなりの高等技術になる。


 つまり、治癒に関する事のほぼ全ては魔術ではなく『治癒魔法』に依存してしまう。

 それが一端ではなく大元の『治癒魔法』を丸ごと持ってると知られれば、どこの国や組織も欲しがるに決まってる。


「……ルイは?」


 あー、まぁそうなるよな。

 どうするか……いや、ここで誤魔化すのはさすがにダサすぎるな。

 こんな秘密を打ち明けてくれたんだ。仲間になるならない別としても、ここはきちんと伝えるべきだろ。


「『超感覚』と『空間魔法』だ」


「……むぅ」


「え、何?」


 ちゃんと伝えたのに怒ってるんだけど。


「……『感覚強化』じゃない。ウソつき」


「あー、言ったねそんな事。似たようなもんじゃん」


「……全然違う。アホ?」


「うるせぇよ。てかそんなに違うものなん?」


 いわく、『感覚強化』は五感強化のみ。『超感覚』は全ての感覚を感覚強化よりも広い範囲で調整できるらしい。

 まぁだからこそ強化幅が広すぎて、俺の体の限界を超えてしまい、鼻がイカれかけたんだけど。

 ただ有用な情報もあった。


「……『超感覚』は調整が効く。だから、逆に弱める事も出来る」


「なるほど……それは思いもしなかったな。確かに使い所は選びそうだが、有効な手段になるかも」


 例えばスタングレネードみたいな現象が起きた時、目と耳の感覚を弱めていればダメージを受けずに済むかも知れない。なんせ閃光は見えず、爆音も聞こえないんだから。


「……それより、『空間魔法』丸ごとなの?やば」


「だろ。だから練習期間が必要なんだよ。悪いけどあと8年ちょいを目処に見てる長期計画だ。すぐには動かないぞ」


「……え?早い」


「あれ、早いの?」


「……何千年も生き延びてる相手に、8年。早いに決まってる」


 あー、まぁそう言われると確かにそうか。

 実際俺の超個人的都合によるリミットな訳だが。


「……仲間。ね?」


「ね?じゃなくてな。まぁここまで来たらクルルさんを拒むつもりはない。ただ悪いが『魔撃の射手』に入るのは厳しい」


 有名なパーティだと色々柵があり、それはすなわち行動制限だ。

 当然メリットも多くあるんだろうが、それなら侯爵家を抜けてきた意味もない。

 計画の大詰め段階ならともかく、今は自由に動いて、準備を進める事を優先する時期だ。


「……大丈夫。『魔撃の射手』は抜ける」


「はぁあっ?!……おい、ふざけんなよ?そうポンポン抜けるような奴を、俺が信用すると思ってるのか?」


「……違う。私、臨時加入」


「……え、そうなん?」


「……ん。条件付きで入ってた。今、条件が揃った」


「あ、マジすか。なんか、怒鳴ってすみません……で、その条件は?」


 まぁここまでの流れからして、聞くまでもないんだけどね。


「……ベヒモウス討伐をする人がいたら、ついてく」


「ま、そうだろうな」


 諦められた依頼、人では手を出せない災害の化身『古代獣王』ベヒモウスの討伐。

 それはいくら有名なA級パーティでも手を出せない依頼であり、『魔撃の射手』もそうだってだけの話だ。


「……パーティ、組もう。仲間になろ」


「はぁ………分かった。ただし、お互いほぼ初対面だ。ありもしない信頼を虚飾して、それを押し付けあうように表面上だけで笑い合うのは好きじゃない。……だからまずは手を組む、利用し合うってのはどうだ?」


「……だね。ルイは話が早い。お互いの力を利用して、ベヒモウスを千切る」


「おう、それでいい。よろしくなクルルさん」


「……クルルでいい。よろしく、ルイ」


 こうして、諦めていた仲間ーーもとい同盟相手が手に入ったのだった。



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