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018.朝這い

「……ま、まさか『魔撃の射手』の…」


「おっとお兄さん、それ以上はあかん。飯の味がしなくなるぞ」


「そ、そうだな……」


 背中のペチペチを感じつつ、とりあえず口止めしておく。

 今日のMVPパーティの一員だからな。人がわちゃわちゃ集まられたらせっかくのご飯どころじゃなくなる。


「……で、クルルさん?なんでついてきたんですかね?」


「……話、したくて」


「なるほどなるほど。では明日にでも。じゃ……うぐぇ」


 そそくさと次のテーブルに行こうとしたらフードを掴まれた。

 くそ、さりげなくちょこっと身体強化したのに逃げれなかったか。


「……ねぇ、ルイのギフトって」

「『感覚強化』です」


 被せ気味に答える。

 実際、それしか使ってないからな。バレるはずがない。まぁ少し誤魔化してはいるが、現状そういう使い方しか出来てないから大丈夫だろ。


「……ウソじゃない」


「ええ」


「でもホントでもない」


「ははは、何を仰る」


 ……看破系のギフトか?

 だとしたら地味に面倒だな。マジでさっさと切り上げないと。


「あ、あっちでカーラさんが呼んでますよ?」


「……ウソ」


「いや、本当ですよ」


 看破系じゃなさそうだな。

 ちなみに本当に嘘じゃない。聴覚強化でカーラさんの声を拾ったからだ。


「ほら、ついてきてください」


 そそくさと歩き出すと、後ろをついてくる。ドラク◯かこいつは。


「あっ、クルル!良かったぁまた迷子かと思ったわよ!」


「ほら、探してたでしょ」


「……むぅ」


 はーはっは!勝利ィ!


「では俺はこれにて」


 何か言われる前にするりと逃げ出して人混みに紛れる。

 ついでにテッドさんに教えてもらった無音歩行術も使う。まぁまだ全然未熟だけど。


 それからいくつかの料理に舌鼓をうち、キャロルさんとポーションを返すだの良いから受け取っとけだの話して、またお礼はするからと告げてギルドを後にした。

 お腹いっぱい、大満足。

 おまけに思わぬ収入もあったしね。


 マジックバッグの魔法陣が最大の収穫だぜやっほぉい!

 あと地味ながらも無音歩行術もありがたい。いつか必ず役に立つヤツだよこれ。練習しないとな。


 あとは錬金術の練習して、あのおやっさんから『魔法陣と付与術』の本買って、空間魔法を使えるように鍛えて……って結構遠いな。


 そう、これが対ベヒモウスにも活用するつもりの俺の計画。

 アラクネの糸で組まれたレッグポーチ。実はあれをマジックバッグに仕立てるつもりだったのだ。


 単純に物量を手軽に持てる便利さはありがたいしね。

 だからどうにか仕上げてしまいたい。


 俺自身の強化と、必要な道具を揃える。

 これをあと8年半以内に完了して、ベヒモウスを討つ。


 ……こう考えると、おやっさんの本を買ったらとりあえず集めときたい物資だけは揃うのか。

 あとは練習してマジックバッグを仕上げてから、そこに必要なものを詰め込むだけだし、それらは特殊な物って訳でもない。


 そうなると本を買ったらもっと自己強化に力を入れないとだなぁ。


 今日のA級の戦いを見てもそう感じた。

 今の俺じゃどう足掻いても勝てない強さだったし。


 そしてそんなパーティですら勝てないのがベヒモウスだ。

 ヤツの討伐はS級オーバー。

 過去S級戦力ですら成し得なかった……人類では達成できないとされて諦められた依頼だ。塩漬けどころか永久凍土である。


 ほんっとアホみたいな難易度の依頼をしやがって、あのおっさんめ。

 まぁこの世界の人が諦めたからこそ俺に頼んだんだろうけどさ。


「あとは、仲間か……」


 これがマジでネックだ。

 出来るのだろうか、俺に仲間が。


 人間不信って訳じゃないけど、信用できない人の方が圧倒的に多いとは思ってる。

 ましてや俺みたいなのと信頼し、信頼されるような相手となると……ねぇ。

 おまけに目指す先はベヒモウスよ?普通の人は嫌がるよねそりゃ。


「……となると、ソロ討伐のつもりでいるか」


 うん、これが無難だね。

 もちろん棚ぼたで仲間が手に入れば嬉しいけど、あまりにも期待できない。

 ソロのつもりで討伐計画を練ろう。


 よし、決まった!寝よ!

 なんだかんだ疲れたのか、硬めのベッドでも即寝落ちした。






「……おはよ」

「おぁよ……?ん?」


 え?なんでおりますの?


「……ふ、不法侵入…!」


「……む、違う。怒るよ」


「怒りたいのは不法侵入された俺の方だよ!」


 なんか朝からすげぇの来ちゃったよ。何なのこの人。


「クレアさんに回収してもらわないと……」


「……人をモノみたいに…」


「よく不満そうな顔できますね。尊敬しますよ」


 ベッドから降りて、部屋から出ようとするが、


「……待てい」


「放してくだ……っておぉお?力つっよ?!」


「……人をゴリラみたいに…」


「似たようなもんだろ!なんで俺を持ち上げた?!ちょ、ぐえっ!」


 昔澪とやったドンキ◯コングよろしく両手で俺を持ち上げてベッドに投げるクルルさん。これで地面をリズムカルに叩き始めたらパーフェクトだよ。


「……逃げちゃダメ」


「いだっ!ちょ、押し倒すな!良い歳したお嬢さんがはしたない!」


「……むぅ、年上に説教とは生意気な」


「敬われる要素があった?胸に手を当てて思い出してみ?」


「……年上という事だけで、敬うべし」


「やかましいわ!てめぇみたいなのが老害って言われるんだよ!どけっ……くっそ動かねぇえええ!!」


 なんでなの?ゴリラの転生者とかなの?


「っ、身体強化ぁ!」


「あっ!」


 まさかこんな見たところ中学生程度の小娘相手に魔術を使うはめになるなんて……割とマジでショックです。過去イチ鍛えないとダメだと思ったわ。


「……なかなかの強化率。魔力、多い。やりおる」


「やりおるじゃねぇよナチュラルボーンゴリラめ。おっと冷静になったら初の『女子が部屋にきちゃった』がコレだという事に絶望したわしばらく落ち込む予定だから早く出てけ」


「……よく喋るね」


「よーし言ったなもう絶対話さんからな」


「……やだ」


「……」


「……ねぇ」


「……」


「……ごめん」


「……」


「……ごめんってば」


「……」


「……普通女子が謝ったら許すべき。冷血漢。チビ。貧弱ぅ」


「言わせておけばぁあ!」


 てか着替えるから出てってくんないかな?






「で、マジで何しに来たんです?くだらない用事なら不法侵入で兵士に突き出します」


「……今更敬語?手遅れ」


「すごい。初めて女子を殴りたいと思った」


 てか会話ビビる程進まないんだけどこいつ。

 

「……少し、聞きたい事がある」


「はいはい、何でしょ?」


 もう逃げるのもしんどいし、満足させて帰ってもらおう。あークレアさん来てくれたりしないかなぁ。


「……空間魔法の分断系統、ある?」


「いや『感覚強化』だっつったでしょ」


「……重複授与者」


 っ!……まさかそこを突かれるとはね。


 世界でもほとんど存在せず、存在しても亡くなったり欠陥によって活動できる状態とは限らないってのに。

 これだけ元気な俺を見て連想する人がいるとはな。


「……感情、揺れたね」


「あー……もしかして、クルルさんも?」


「……うん、2つある。おかげで口が回らない」


「んぁーそっかそっか。ごめん、デリカシーのない質問だったな」


 ふるふると首を横に振るクルルさんに、もう一度だけ頭を下げてから、椅子にのしかかるようにもたれて天井を見上げる。


「ぁー……内緒にしといてくれません?」


「……もちろん。私も、バレたらうるさいギフトだし」


「あ、そうなんすね。お互い面倒ですねぇ。……で、空間魔法の分断系統でしたっけ?何かぶっ壊して欲しいんですか?」


 空間魔法の分断系統とは、その空間をまるごと本来の空間から引きちぎるものだと思ってくれたらいい。

 例えば空間ごと消失させたり、空間ごと真っ二つにするような魔法がこれに当たる。


「……うん。ベヒモウス」


「ーーは?」


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