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017.後片付け

「ここっすね。ここの真下に空洞があるっぽくて、そこが今回の蟻共のスタート地点になってます」


 そろそろ嗅ぎ分けと聞き分けが難しくなったあたりで、目的地へと辿り着けた。

 パッと見だと何もないので、地面にメイスでゴリゴリと線をひいていく。


「へ〜、かなり便利なギフトだねぇ。冒険者なんて攻撃系のギフト持ちばっかだから、そこまで優秀な察知系はレアだよ」


「あ、そーなんすか?喜んでいい、のかね」


「含みはないってば。ちゃんと重宝されるよ」


 なら良かった。攻撃系じゃねぇのかよ的な嫌味じゃないんだね。

 とか言ってる内に、メイスでひいた線が一周して円になる。これが下にある空洞を型取った線だ。


「こんな感じで空洞がありますね」


「そうか。カーラ、テッド。どうする?」


「んー、開戦一発目で2人に任せたし、次はボクがやろうか?」


「お、珍しいな。では頼むよ」


 はいよ〜、と緩い返事をしてから、全員に下がるように伝える。

 そして肩に担いでいた大弓に一本の矢をつがえてーー


「『貫通付与』『冷気圧縮』」


 魔法陣が矢の先に一瞬煌めき、その直後勢いよく上空へと放たれた。

 そしてその矢が重力に引かれて再び舞い降りてきて……ゾッとするくらい音を立てず、地面へと消えていった。


「うっ……わ、貫通力えっぐ」


「あっはっは、見直したかい少年〜!」


「見直すというよりは改めて恐ろしく思うっすよ。……うわ、冷気だとか言ってましたよね。何したか知りませんが、活動してた音が全部消えました」


 多分凍りついたのかね。

 いくつか聞こえていた生物の音がパタリと止んだ。


「よっし、それじゃあ掘り返すか〜」


「え、マジすか?」


「当然だろう、ルイくん。今回のモンスターパレードの敵将だからね、ギルドに持ち帰らないと」


「そんな事も知らないのー?これだからガキは困るわね〜」


「うわくっさ」


「っちょ!とうとう言いやがったわねこのチビぃ!」


 ぎゃーぎゃー怒るカーラさんをひょいと持ち上げるモーガンさん。ぶら下げられているカーラにどうどうとあやすどう見ても最年少のクルルさん。


「仲良しっすね」


「そうだろう、自慢のパーティさ」


 本当に自慢げに、臆面もなく言い放つクレアさんについ笑みが溢れる。


「さすがデリンジャ最強のパーティですね」


「……む、最強か。どうだろうな」


 おっと?なんか変な事言ったか?

 でもデリンジャ唯一のA級パーティだし、トップなのは間違いないはずだけど。


「実はまだA級パーティがいるとかですか?」


「いやそうじゃないんだが……今回は依頼でいないみたいだが、B級パーティの『魔剣の乙女』というパーティがいてね。ずっと同じランクで競っていたが、今は私達が勝ってる状態なんだ」


「ほうほう」


「その『魔剣の乙女』とどちらが強いかと言われるとね……それに、あそこのリーダーは底知れないからな。こう、たまに同じ人間とは思えない時があるというか」


 うへぇ、そんなのがいるのかよ。

 なんか怖いな。一応気をつけとこ。


「や、でもマジで尊敬しますよ、皆さんのこと。俺とかパーティ組む気になれないっすもん」


「は?……ルイくん、ソロなのかい?」


「はい。どうにも人様に背中を預けようと思えなくてっすね」


「それは……」


 ……ん?なんだこの空気?

 いつの間に全員、カーラさんですら沈痛な感じで黙って俺を見ている。


「え、ちょ、なんすかこの空気。なんかまずい事言ったんなら謝りますよ」


「いや、そうじゃなくてね……その歳で人を信用できずソロで、しかもD級まで登り詰めるとは、余程辛い経験をしたのだろうか、と…」


 あー、なんか深読みしちゃった感じか。

 確かにこうして言葉を並べられると訳アリな感じはするかも。


「いや、個人的な趣向っす。なんか劇的な過去があった訳じゃないんでそんな顔された方が困るんすけど」


「そ、そうかい?」


 う、うーむ……仕方ないな。


「それにほら、仲間ともなると近くにいるんすよね?あんま匂いが強い人がいると俺もギフトが使い辛いし」


「ってなんでアタシだけを見て言うのよ!もー許さないんだから!」


「ちょ、近くに来ないで!」


「あーーまた言ったぁ!」


 あっさり釣れたカーラさんに、全員がキョトンとしてからケラケラ笑いだした。

 ふぅ、不恰好だったけど成功でいいかな?


「はぁ、カーラ、許してやれ」


「……今度、香水やめてみる?」


「ちょ、クルルそれどういう意味よ!」


 女性陣がわいわい言い始めたので、テッドさんとモーガンさんと目を合わせると、よくやったとばかりに頭を撫でられた。やっぱバレてたか……なんか恥ずいんだけど。

 それからヤロー3人でせっせと地面を掘り返していく。

 すると空洞に突き当たり、足元が崩れそうになったところをひょいとテッドさんに回収されて穴の淵まで跳んで戻ってくれた。


「おぉ〜!かっけーっすテッドさん」


「あっはっは!よく分かってるじゃないか少年〜!」


 陽気な人だなぁと思いつつおろしてもらって、穴の中を覗き見る。


「うわ、こんなんいるんすか」


「ここまで大きいのはワシも初めて見たわい。マザーモウルアントじゃのう」


 同じく覗き込んでたモーガンさんが補足してくれた。

 モウルアントが30センチ前後なのに対して、穴の中心で凍りついている蟻は2メートルはある。

 それこそモーガンさんに匹敵する大きさで、腹が膨らんでいる分余計に大きく見える。


「それにおまけの数匹もそこそこデカいっすね」


「あれはソルジャーアントだな。ほら、手の部分が鋭い剣型になってるだろう。……と言う事はモウルアントから変化したものがソルジャーアントなのか?」


「あー、あり得そうっすね。ゴブリンがメイジゴブリンになる事もあるくらいですし」


 メイジゴブリンは魔法を使うゴブリンね。まぁきっと聞いた事はあるだろう。


「ふむ、研究所の連中が喜びそうな光景ではあるな。よし、まとめて持ち帰るか」


「げ、これをですか」


 馬鹿でかいひとつの氷の塊となってる蟻数匹の氷像は、どう見ても直径4メートルはある。

 何キロあるんだこれ……いやトンまでいくんじゃないか。


「ふっふっふ、ルイくん。Aランクパーティをなめちゃダメだよ?」


「いやナメようもないもんばっか見てきましたけど……」


 珍しくドヤ顔で子供みたいな表情のクレアさんが、腰から巾着型の袋を取り出して掲げてみせた。


「これが何か分かるかな?」


「いや袋……え、ちょ、まさか」


「ふっふっふ、そう!超希少なマジックバッグだ!」


「うぉおおお!マジすか!ちょ、見せてください!」


「はっはははっ!良いとも良いとも!」


 子供が2人……という呟きが耳をかすめたがスルー。

 いやぁマジか!これを見れるだけでも今回のパレード戦に参加した甲斐があった!


「ちょ、ちょっと待ってくださいね!」


「うんうん、いいとも!気持ちは私も分かるからね!」


 なんか一気に可愛らしくなったクレアさんに構わず、受け取ったマジックバッグを丁寧に開く。

 そして内側を見ていくとーーあった!魔法陣!


「しゃおらキタぁ!」


 その魔法陣を常備している小型のメモに書き写していく。うっはーアホ程複雑な造りしてんなぁ!


「おぉ?魔法陣をメモしてるのかい?言いにくいんだが、空間魔法が使えないとどうしようもないし、空間魔法があっても錬金術や魔法陣付与術、莫大な魔力があって出来る代物だよ?」


「くっくっく、分かってますももクレアさん!」


「ま、まさか君は……!」


「くぁーっはっは!その全てを手に入れる算段が、俺にはあるっ!」


「な、なにぃーっ!」


 ノリ良いなこの人。

 ノリ良すぎてつい話しすぎてしまったよ。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよおチビ!錬金術と魔法陣付与術はまだ良いとして、空間魔法はあり得ないでしょ!」


「おっと、臭さで視野が狭まってますねカーラさん」


「燃やすッ!」


「あ、すみません今のはノリで言い過ぎました素直に謝りますごめんなさい」


 目がマジだったし、ちょっと俺もテンション上がりすぎて言いすぎたわ。ごめんなさい。


「ほほう、何やら面白そうなことを考えとるようじゃのう」


「いやぁ、こいつぁ面白い少年だねぇ〜」


 男性2人は下手に踏み込んでこないあたり、なんか大人って感じだな。

 利益を追求するのも人の性だろうに、A級ともなるとやっぱ余裕があるんだろう。


「……ルイ、何者?」


「しがないD級冒険者です」


 そんなこんな言いつつ、氷塊ごとマジックバッグに詰めてギルドへと帰る。

 もうすでに宴会が始まっており、良い歳したおっさん達が楽しそうに酒を煽っていた。


「よーし、ワシも飲みに行ってくるわい」


「ボクも〜。いやぁギルマスが奢る酒が一番美味いねぇ〜!」


 テッドさん、ギルマスに恨みでもあるのか。


「ちょ、アタシも行くわよ!待ちなさーい!」


「私はギルマスに報告してからだな。ではここで解散といこうか」


「うっす。今日は色々ありがとうございました」


「なに、また機会があれば話でもしよう」


 そう微笑むクレアさんに頭を下げて見送り、宴会場となったギルド内を見回す。

 酒はさすがに10歳の肉体にはよろしくないし……というか前世でも未成年だったし。

 まぁこの世界では飲酒の年齢制限はないけど。

 というより、成年してから推奨してはいるが、禁止するほどは取り締まってない、といった感じ。水が足りない地域ではワインを飲むしかないらしいし。


 ただ、つまみとして結構な数の食べ物があるし、それを食べて回るとしよう。


「おっ、君か!お互い無事に帰れたな!」


 おぉ、D級に上がった臨時パーティだった人!


「そっちも怪我もなさそうで良かったわ。って酒飲んでるのかよ?」


「当然だ!タダ酒だし、それに俺はもう14だからな!」


 いやこの世界で成年は15だろ。まぁ別に問題はないんだけどさ。


「君は飲まないのか?」


「まぁな。あんま小さい時に飲むと成長に悪いって聞くし。俺はデカくなりたいんだよ!」


 現在、おそらくクルルさんを除いて俺より背の低い人はこのギルドにいない。なんたって最年少らしいからな。


「だっはは!そうだな、それがいい!小さいしな君!」


「あーもーうっさ。それよりそこのテーブルの飯、俺にも分けてくれ」


「拗ねるな拗ねるな!よっと、ほらよ」


 ……おぉ、なんか鶏ももの香草焼きって感じだな。さっぱり感とジューシーな味わいが!これは美味いな!


「……てか料理のレベル高くないこれ?」


「今日のはあのキャロルさんが手伝ったらしいからな!美味いに決まってる!」


 へぇ。いや何者なんだよあのおばちゃんは。


「……とまぁ、君が触れないからスルーしてたけど、その背後霊よろしくくっついてきてる子は…」


「あ、待って触れないで。気にしないようにしてたのに」


「……ひどい。いつ気付くかと思ってたら、もう気付いてたの」


 背後でムッとした表情のクルルが、俺の背中をペチペチと叩く。


 いやなんでついてきてんすかね?



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