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015.モンスターパレード

 モンスターパレード。

 単一種族による大量の魔物の大行進の事で、その種族や数によって危険度はピンキリだが、最小規模であっても時と場合によっては小さな町くらいならあっさり滅ぶ事もあるという。


 ちなみに複数種族の大行進となるとスタンピードなんだとさ。





「D級以上は強制参加だ!!E級以下は後方で補助に回れ!」

「チンタラすんなぁ!死んだら稼ぐ場所もなくなるんだぞォ!」

「町中からポーションかき集めて来い!金は後で必ず払うと伝えろ!」


 まさに上から下への大騒ぎといったギルドにて、強そうな人から賢そうな人までもれなく誰もが声を張っていた。

 見た感じ、あの真ん中に立ってるでかくてごつい浅黒の肌のオッサンがトップなのかな?


「あ、アンタ帰ってきたのかい!えらい事になっちゃったのよ!」


 邪魔にならないよう隅っこに移動しようとした俺を見つけた受付のおばちゃんが声をかけてくれた。

 おばちゃんもいつもの勝気な顔に不安そうな色を滲ませている。


「ねぇおばちゃん、モンスターパレードはどの種族でどんくらいの数だって?」


「種族はモウルアントだよ!数は分からないけど数百は超えるんだと!」


 あー、モウルアントかぁ。

 俺も何回か倒した事ある。地面を掘って移動できる蟻の魔物だ。

 地中での移動速度は速くはないし、移動してると地面が盛り上がるので割と簡単に察知も出来る。

 ただ虫型の中でも特に群れる蟻タイプだけあって数が多い事、加えて外殻がそれなりに硬いから手間取りやすい事が厄介な点だ。


「って事は、地面の中にデカい巣でも作ってたのかな」


「だろうね。ここの町の冒険者は魔物の間引きに協力的なんだから」


 こうなる事が嫌だから皆んなきちんと間引きはしているのだ。

 いかに力と自由の象徴みたいな職だとはいえ、わざわざ分かりきった危険要素を横着して見逃す程バカではない。なんせ将来的に自分の首を絞めるのは目に見えてるし。

 だからゴブリンのモンスターパレードなんかはそうそう起きないのだ。

 けど、地中となればどうしようもない。


「まぁ俺も少しでも蟻潰しに協力してきますよ」


「す、すまないね。でも絶対無理すんじゃないよ!」


 そう言って投げ渡されたのはポーションだ。

 浅黒の肌の指揮官みたいな人の声を聞いていると、どうやら個人所有のポーションは回収されはしないらしい。

 つまりこれは俺個人にくれたポーションって事になる。


「……ありがと、おばちゃん」


 ありがたくもらっておく。

 物語の最強主人公ならあっという間に片付けてくれるんだろうけど、残念ながら俺にそこまでの力はない。

 だからもらえるもんはもらう。それで無理のない範囲で動き回ってどうにか生き延びてやるわい!


「準備が出来た者から町の北側へ集まれッ!まだ時間はある!準備がまだの者は迅速に済ませろォ!あと20分程で接敵予定だ!」


 へいへい、北側っと。

 人の流れに乗るようにして移動していると、いつぞや臨時加入したE級パーティがいた。


「あ、どーも」


「あぁ、君か。はは、D級に上がってすぐこれさ、ついてないよな」


 お、D級になれたのか。おめでとう……とは微妙に言いにくいタイミングではあるけど。


「まぁこの町にはA級パーティもいるんだろ?後ろにいれば大丈夫でしょ」


「そ、そうだよな!なんたって『魔撃の射手』がついてるんだもんな!」


 『魔撃の射手』とはこのデリンジャの町唯一のA級パーティのパーティ名。

 名前の通り、遠距離を得意とするパーティで、5人パーティらしい。

 会った事はないけど、おばちゃんが『会ったら挨拶くらいするんだよ!』と言われて色々教えられたので情報だけ知ってる。


「そうそう。ドカンとぶっ放してくれたらあとは烏合の衆を狩るだけだし、それくらいなら危険でもないだろ」


「お、おう。そうだよな!……というかお前、動揺しなさすぎじゃないか?」


「いやモンスターパレードが初めてだから実感がないだけ。いざ見たら多分びびるから、今のうちに余裕かましとこっかなって」


「は、ははは……大物なのかアホなのか。まぁお互い死なないようにしようぜ。また今度臨時でパーティでも組もう」


「あ、おう」


 いやパーティは組まないけどね。

 でも無事は祈ってるよ、新人仲間だしな。






「うっわぁ……」


 その光景に思わず嫌そうな声が口から出た。


 町の北側、塀の外で集まる100人近いであろう冒険者達。発見から30分も経ってないのにこの人数とは、さすがは冒険者の盛んな町だな。


 ただその人数をもってしても多勢に無勢といえるだろう大群が、俺の目には映っていた。


「きっしょいくらい多いな……」


 『超感覚』による視力強化で、こちらに向かって進行するモウルアントを見てしまったのだ。

 日本にもいるような蟻の一番前の足を一対だけ肥大化させたような見た目で、大きさは30センチ前後といった所。


 黒い甲殻はそれなりに固く、初心者用の防具にも使われがちだ。

 で、弱点は関節か頭の触覚。触覚を潰せば視力が弱いモウルアントは距離感が分からなくなって攻撃精度が落ちるのだ。


 ちなみに前にもチラっ言ったが俺は現在メイスを使ってる。

 出来たら刀とか剣とかでかっこよくスパスパ切り伏せたいんだけどね。あれ素人だとめちゃくちゃ難しかったんですよ。なので仕方なく力任せに殴れるメイスをチョイス。


 幸い、モウルアントくらいの甲殻なら力任せに潰せる事は実践済みだ。

 だから俺はモグラ叩きよろしくひたすら殴るのみよ。



「……君は視力強化のギフトか何かを持ってるのか?」



 とか考えてたら、いつの間にか背後に立っていた人に話しかけられた。

 振り返ると、これぞ異世界とばかりの白い髪と碧眼の美人のお姉さんがいた。

 おぉ、ちゃんと美人さんもいるのね。おばちゃんとオッサンしかいないかと思ったわ。


「まぁ似たようなギフトですね。あと匂いか音の察知も切り替え出来ます」


 さすがにこの危機的状況で隠す気にもならず、ふわっとした説明をする。

 それを聞いた美人さんはふむと頷いてから振り返り、人を呼んだ。


「もうなによクレア、集中してる時に」


 こちらも美人さんだな。赤髪赤目の勝気そうな……悪くいえば生意気そうな顔つきをしてる。

 

「すまないな、カーラ。それより面白い子を見つけたんだ」


「アンタね、面白がってる場合じゃないでしょ?」


「そう言うな。もしかしたら奇襲の要になるかも知れないんだ」


「……ふーん?」


 ふーんじゃねぇよ。俺抜きで俺込みの話進めてんじゃねぇ。てか誰だよこいつら。

 白髪がクレア、赤髪がカーラってのは分かったけど、珍しい美人さんってくらいしか分からんぞ。


「で、どうするワケ?」


「この子に方向や距離を指示してもらって、私とカーラの合わせ技で数を削る」


「……外したら無意味に魔力を失うだけなんだけど?」


「そこはこの少年次第だな。なぁ少年、場所の指示は出来るか?」


 ふむふむ、どうやら遠距離攻撃の使い手らしい。

 それなら手伝うのはやぶさかじゃない。俺だって危機を減らすのは大賛成なのだ。


「ええ、それくらいなら。ちょっと待ってくださいね……」


 視力強化と、聴覚強化を繰り返す。

 これによって隠れている蟻共も音で察知出来るし、細かい情報を目で拾えるという寸法だ。


「あー、あのでかい木が2本あるところの地面の下と、向こうの岩の裏の地表のとこ。それと……遠いっすけど、あの向こうに見えてる折れ曲がった木の横3メートルあたりの地面の下。この3箇所が多く集まってる場所っす」


「ははっ、いいね。嘘だったらこの町が食い破られるかも知れないが、二言はないね?」


「あぁ、それは大丈夫っす。ただ他にも散ってはいるんで……これはざっくりした数っすけど、今いった3箇所で全体の6割程度ですかね」


「……十分だ」


 そう言って、クレアさんはニヤリと笑う。

 カーラさんは訝しげだったが、クレアさんから魔力が吹き出すのを見て仕方なさそうに魔力を取り出し始めた。


「お、おい。まだ敵は見えてないだろ?!」


 その魔力の奔流に気付いた近くのお兄さんが慌てたように言うが、クレアさんは気にした様子も見せずに声を張り上げる。


「これより先制攻撃を行う!我ら『魔撃の射手』が敵を削るので、そこから出てきた蟻どもを潰せ!盾を持つ者は前に出て押し留めて、他の者で仕留めるんだ!魔法持ちは全体を見て取りこぼしを討て!とにかく町に入らないよう立ち回るんだ!」


 そう馬鹿でかい声で叫び、返事を待たずに魔法を発現させた。


「カーラ!」

「はいはい!」


 一拍遅れてカーラさんの魔法も発現した。

 バカみたいに巨大な炎の塊。それがカーラさんが天にかざした手の上で燃え盛る。


「『圧縮操作』」


 クレアさんの呟きと、カーラさんと同じく天にかざした手を握り込む動作の直後。

 ぎゅん、と巨大な炎が不自然なくらい縮んだ。

 

「「いけっ!」」


 ぴたりと揃った鋭い声とともに、縮んだ炎がモウルアントがいる方向の上空へと飛ぶ。


「『分裂操作』!」


 そこでカーラさんが魔法を操作したようで、圧縮された炎が3つに分裂し、俺が伝えた場所に寸分の狂いなく落下していく。


「『圧縮操作』解除」


 着弾寸前で、クレアさんポツリと呟く。

 直後、俺の視覚強化が捉えたのは、縮んでいた炎が地面に向かって炸裂した光景だった。


 聴覚強化してたら確実に意識を飛ばしていただろう轟音が鳴り響き、そこには大きなクレーターがあるだけだった。


「うっわぁ……地面ごと粉々とか…」


 周囲に吹き飛んだ土の中にモウルアントの甲殻や体液らしきものが混じっている。

 とんでもない威力の爆撃だなあれ。


「どうだ、少年?」


「……はい、マジで全部消し飛んでます。というか余波のおかげでしょうね、6割どころか7割は消し飛びましたよ」


「ははっ、それは良かった。……皆の者!蟻共はもう3分の1程度しか残ってない!無理をする必要はないぞ、確実に安全を確保しながら潰していけ!では、行くぞぉ!」


 おぉおお!!と歓声にも似た怒号を持って一斉に駆け出す冒険者達。

 俺もこっそり混じって出発し、聴覚強化と身体強化をもって地面の下にいるモウルアントを地面ごと殴りつける。


 地面の中からくぐもった鳴き声が聞こえたて、活動が停止しているのを耳で確認しながら、地表近くまで上がってきている個体を走り回っては潰していく。

 地面がボロボロのせいで移動を知らせる盛り上がりが分かりにくいし、地面からの奇襲でやられる人が減ればいいなーという判断だ。

 どうせ地表のやつらなんてあんなバケモノ姉ちゃんがいたら楽勝だろうし。


「……君、なんでそこを殴ってる?」


「あん?」


 10匹を超えたあたりで、潰した蟻が狙っていたであろう冒険者に声をかけられた。

 見れば、随分珍しい金髪金眼のお嬢さんだ。


(さっきの2人も美人だったけど、この子は群を抜いてるな……髪色や瞳からしても、もしかして貴族か?)


 なんというか、高貴というか、神聖というか、そんな触れがたい独特な威光のようなものを感じる。


「……この下の蟻に狙われてたから、上から潰しただけだ」


 そう言ってメイスで力任せに地面を払うと、潰したモウルアントの顔が見えた。

 

「……すごい。ありがとう」


「どういたしまして。じゃ、気をつけて」


 この少女の妙な感覚に慣れる気がせず、逃げるようにその場を後にする。

 と言っても、さすがは荒くれ者達の町。もうほとんどモウルアントの気配は感じなかった。


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