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013.チャレンジ錬金術

 我ながらここまで怒涛の一ヶ月だった。


 E級に上がった時に組んだ臨時パーティの冒険者達にも、たまに顔を合わせては「死に急ぐねぇ」と言われるレベルで依頼をこなしまくったからな。


 しかしこれでひと段落よ。


「さて、今日明日は読書だな」


 まずは錬金術の本を読む。


 ふむふむ。錬金術とは魔術という大括りの中の一部の技術だと。

 その内容はギフト『錬金魔法』の一部を魔術に落とし込んだもので、主な目的は魔術に類似した効果を持つ物質を作り出すというもの。

 

 んー、堅苦しい文だな。つまりあれか。


 例えば錬金術の代表ともいえる『ポーション』。

 こいつの場合は『回復魔術』に類似した効果を持つ薬草を使って液体を作り出したもの、になる訳か。


 付与術と何がちゃうねん、と思ったら書いてあった。

  付与は即効かつ短時間の魔術効果をただの物体に後付けする技法。

 錬金術は魔術に似た効果を持つ物体を組み合わせて半永久的に効果を宿す物体を作る技法。


 んむむ?じゃあ本屋のおやっさんが言ってた『魔法陣と付与術』の紹介で「半永久的に魔術を付与する」のと被るんじゃね?


 ……あぁ、はいはい。

 付与術の効果を半永久的に伸ばすのが魔法陣を用いた方法で、錬金術は物体そのものに効果を持たせる技法だと。

 だから結局何がちゃうんだ、と言いたいが、まぁ算数で同じ答えでも途中式が違うみたいなもんなのかな?


 ……いや、錬金術の技術の応用が魔法陣による付与なのか。あっちの本が上級編なのね。

 えーと、錬金素材である『魔術に似た効果を持つ物体』にとらわれず、どんな物にも自由に魔術を組み合わせられる、と。なるほど、確かに応用編っぽい。

 だから本屋のおやっさんも『錬金術の基礎』の本の後にアレを紹介してきた訳か。やるじゃんかおやっさん。


 まぁそれは後でいいや。

 で、肝心の錬金術のやり方は……。


 ほー。物体に含まれる魔力に干渉・作用して、その物体そのものを分解・再構築すると。

 その過程で異なる物体を混ぜ合わせる事で、基となった物体を掛け合わせた効果を発揮する1つの物質を生み出す、か。


 要するに物体Aと物体Bを分解して混ぜ合わせ、再構築して新たな物体Cを作る。

 その物体CはAとBの性質を併せ持ったり、または変化して新たな性質を持つようになる。


 ふーん。すごくファンタジーじゃん。


 いや待て待て、すっごく難しそうだぞこれ。

 マジか、もっと錬金の釜に物体入れて混ぜてりゃ出来るくらいの簡単なイメージだったわ。


 ほら見てよこの文。

 『物体を構築する魔力を物体と紐付けて一体化し、それを操作して分解する。それを複数同時に行って維持・操作し、それらの物体を掛け合わせた後に再度物体化する再構築を行う。これらは非常に繊細な魔力操作の技術を要する』だってさ。


 いやくそ長くてややこしい文章はスルーするとしてだ。

 最後の非常に繊細な魔力操作ってとこが問題だわ。


 ふっざけ。

 いやできる気がしねえよ。

 なーにが、『あとは何事も実践あるのみ。詠唱と魔法陣は下記の通りだ。レッツトライ!明日やろうは馬鹿野郎!』だ。……これ書いたの日本人じゃねぇだろうな。


 ……いやまぁ、実は日本人が昔来てたっぽい要素はちょいちょい見かけるんだけどね。

 まぁこれは盛大に話が逸れるし今度でいいか。


「……とりあえずアラクネのレッグポーチを使うのはまだ早いな。これ絶対先に練習しなきゃだわ」


 となると……ここに書かれている初級編の組み合わせ一覧から試してみるか。

 一番素材が楽に手に入るのが……魔石(種類問わず)と魔除け草。出来上がるのが魔除けの石。

 魔除け草ってあの魔どころか人も避ける臭いアレか。うへぇ、やだなー。

 まぁ湿地なんかで群生してるから採取には困らない。魔石も探しに行くついでにゴブリンとか狩ってりゃ集まるし……。


 ……半分くらい読んだな。

 一応この先のページにも色々と書いてあるが、これは物体に宿る性質についてのジャンル分けだったり、有効な組み合わせについてだったりといった……いわゆる掘り下げの内容に入ってきてる。


 となると、まずはやってみろというのは正しいんだろう。

 まずは試して、成功したら理解を掘り下げて色々試してみろ、って流れで書かれているし。


 明日までじっくり読もうと思ったけど、これはちょっと試しに行ってみるかぁ。


「明日やろうは馬鹿野郎ォ!」


 んじゃちょっくら行ってきまーす。






「むっっっっっっっずゥ!!」


 出来るかァこんなもん!


 詠唱して、魔力が伸びて、物体の中の魔力と絡み合い……ここまではオーケー。

 その絡まった魔力と物質を混ぜ合わせるように溶かし込んで分解……はいここ。


「硬っったァ……!」


 物体溶けねぇええ!!

 本当に合ってるのかこれ?うんともすんとも変化しないんだけど!

 もうこれ握りつぶしちゃダメ?魔力に溶かすまでもなくぐちゃぐちゃにしていい?


「くっそ……あー誰か見本とか見せてくんねぇかな」


 見本。そう、先生だ。

 そうだよ、なんで錬金術なんて高等テクの代名詞みたいな技術を独学でやってんだ俺。

 あー先生かぁ。先生といえばマリーくらいだったしなぁ。


「……ん?」


 そういやマリーが言ってたな。魔力孔が小さいだったか少ないだとか。身体強化ばっかしてて忘れてたわ。

 ……あー、待てよ?もしかして魔力が足りないから溶けなかったとか?

 

「……ふぅ」


 試してみるか。


「『万物よ、源にかえりて生まれ変われ』」


 さすがに慣れてきて恥ずかしげもなく詠唱した後、魔力が魔石と魔除け草に伸びていく。

 ここで、すぐには絡ませずに待機!からのどんどん魔力を注ぎこんで、伸ばしている錬金用の魔力を増やしていく。

 俺の透明な魔力が、詠唱によって生まれた錬金魔術の核を通じて色付きになった魔力を、手のひらの上に溜めながら増やしていく。


「……こんなもん、か?」


 維持する集中力も限界に近いし、もう決行だ!

 溜めた魔力を魔石に伸ばして、魔石の魔力と絡ませる。そしてその混ざった魔力に溶かし込むように物体を絡めとっていくイメージ……!


 すると、魔石がぶわりと粒子状にバラけた。


「おぉっ!」


 きたぁああああっ!


「あぁっ?!」


 戻ったぁあああ?!


「っはぁ、はぁ……」


 きっつ……!めっちゃ魔力と集中力使うなこれ……。


 しかし進歩はあった。

 とりあえず基礎の基礎の基礎くらいまでは足を踏み入れただろ、多分。

 

 てゆーか一度は分解したってのに元に戻るのね。そのまま粉々になるかと思ったのに。本に書いてるかな?

 ……あった。あー、なるほど?物体から錬金術、つまり俺の魔力が離れたら、物体の持つ魔力が本来の元の形に戻ろうとするのか。

 要は形状記憶みたいなもんか。


 ……いや、考えてみたら当然か。

 もし壊れたままになるなら、物質破壊魔術として成り立つしな。だとしたら皆んな覚えようとするに決まってるか。


 まぁとにかく練習あるのみだなこれは。






 それから一週間後。

 

「はいよ、D級の冒険者証だよ。なくすんじゃないよ?」


「はーい」


 ランク昇格ッ!いぇいいぇーい!


 いや別にランク上げを主目的としてる訳じゃないけど、まぁ上がったら普通に嬉しいよね。なんかこう、テンション上がる。


「これで魔物の群生地にも行けるようになるけど、アンタはソロなんだから深い所まで行ったらダメだよ?」


「分かってるよ。稼ぎも冒険もまず生きてなんぼだって、冒険者やってたおっさんも言ってたし」


「そうさ、その通りだよ。良い言葉をもらってるじゃないか」


 そう言いながら、受付のおばちゃんが一枚の地図を広げる。まぁ地図といってもものすごく簡易な代物だが。


「アンタが今活動してたのがここまで。これは分かるね?そしてほら、D級だとココとココに行けるようになる。たただゴブリンが巣を作ったり、虫型の魔物が増えるようになるから気をつけるんだよ」


「ふむふむ、虫型かぁ。気をつけるよ」


 虫型は群れる種類が多いからなぁ。大量に産んで、群れて、また産んでを繰り返すから見かけたら極力討伐するよう推奨されている。

 まぁゴブリンもそうなんだけど、繁殖力がある種は継続的に間引きしないと危険だからね。


「何度も言うけど、D級以降はパーティを組んでる事を念頭に置いてるからね、数が増えるエリアではソロは相性が悪いんだよ」


 F級はドのつく初心者で、E級は素人に毛が生えた程度。このあたりだと、パーティを組んでもらえない人も いる。

 だがD級となれば戦力になり始めるからパーティを組んでるし、一応素人は脱した扱いになるからか依頼の内容や探索可能範囲の危険度も跳ね上がる。

 事実、ソロの冒険者が死亡するのはD級が多いらしい。


「んー……いや、余程信頼できる人がいるなら俺も組みたいけどさ」


「アンタは人間不信でも患ってるのかい?全く難儀な子供だねぇ」


 いや、日本人的感覚からするとこんなもんだと思うんだけど、どうなんだろ?

 想像してみてくれって。後ろに初対面の刃物持った集団がいるんだぞ?怖いって。


「まぁそこらへんは追々ね」


「そこまで言うなら好きにしたらいいけどさ。そもそも純粋に戦力不足と戦法の幅が足りなくなるよ?」


 仰る通りで。うん、パーティの強みはそこだよなぁ。

 単純に人員分の戦力増加だけでなく、とれる戦術の幅が増えるし、連携によっては足し算ではなく掛け算で戦力増加も見込める。


 そもそもギルドはパーティを推奨しており、なんか統計だか言い始めたヤツが決めたかで4人組を目安に考えているらしい。

 そしてランクが上がるにつれて一つ下のランクの4人分の戦力という概算なのだとか。E級4人でD級1人の戦力、みたいなね。


 なのでそのランクの依頼を受けるのに、ソロなら同等のランクまでだが、4人以上のパーティなら1つ上のランクまで受けられる。

 これは現状だと雲の上の話だが、基本S級の冒険者は存在しないのにS級の依頼が張り出されているのだ。

 それは何故か。A級4人以上のパーティならS級依頼を受けられるからだ。


「うん、分かってる」


「はぁ、全く。これまで以上に慎重にやる事。いいね?」


「おう、ありがとなおばちゃん!」


 口は悪いけど、良い人なんだよなぁ。


「で、アンタが言ってた一気に稼げるようになる錬金術、上手くいったのかい?」


「聞かないでくれッ!」


 あ、くそぅ、ゲラゲラ笑いやがって!



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