マーサット社 本館 M709会議室 『会議中』
「アレって、もっと夢のある計画じゃなかったでしたっけ?こういう結論を導き出すとは……」
「私が投げかけた質問に対する答えです。進捗を探ろうと一つ訊いてみたんです」
「随分と短期間で出た結論のようですが、確度は如何ほどなんですかね?」
「現段階で、ジョンの評価が確度九十%以上と出ています」
「そうですか……」
大石社長は呟くように応えたきり、押し黙った。一応事態を深刻に捉えているようには見える。一笑に付したりしないところはありがたい。が、なんとも居心地が悪い。そんな時間をしばらく挟んだ後、大石社長は口を開いた。
「やはり捨て置けませんね。実証が欲しいところです。この件は優先度を上げて取り組んでいただけますか」
「サークル活動ではなく、業務として、でしょうか?」
「そうです。今年度のR&D枠に計上しておいてください。利益回収の見込みのない話ですが、そんなことを言っている場合でもないでしょう。必要なメンバーの選択はお任せします」
「分かりました」
これで話は終わったと私が席から立ち上がったら、社長が右手を挙げて私を止めた。
「こんな話の後でナンですが、一つ別件があります」
私が座り直したところで、社長は続けた。
「港北大学の村井先生が、あなたにいつもの講演をお願いしたいそうです」
「……」
「そうやって表情でイヤだと訴えるのはいかがかと思います。村井先生には色々と義理があるので、今回もお付き合いしてあげてください。人事部からもよろしくと念を押されていますし」
「私が大学で何か喋ったからって、採用活動に良い影響があるとも思えないのですが……」
「頼みましたよ」
社長はそれだけ言って立ち上がった。先を越された。