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機械制民主主義  作者: 志賀 謙
仮説 - Hypotheses
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マーサット社 5号棟 開発本部長室 『在室』

 社内における私の定位置は、『開発本部長室』と呼ばれる隔離された小部屋だ。ガラス張りになっていてそれほどの閉塞感はないが、そのガラス張りもスイッチ一つで白濁して周囲の視線を遮る。連動して遮音機能も発動する。夜遅くなので周りにあまり人は残っていなかったが、念のため遮音機能だけスイッチを入れた。

 デスク上のクレイドルから取り上げた当社製品の『電子メガネ』をかける。いつも通り自動的に電源が入り、裸眼のときより視界がはっきりとする。オウトフォウカス機能のお陰であり、これが社内で『メガネ』と呼ばれてしまう所以(ゆ え ん)でもある。この製品の開発主幹だった人物もメガネとして愛用しているぐらいだが、メガネと言い切るには見た目がごつい。


「アダム」

 呼びかけると、視界がスーツを着込んだ男の映像に切り替わった。三十代半ばぐらいの金髪(へき)(がん)で、柔和な微笑みを浮かべてオフィスに居る。いつも通りだ。

『はい、松宮さん』と落ち着いた低音、相変わらず()い声だ。

「AICの佐々木さんが新しいプロジェクトを始めた件だが」

『はい』

「その担当に今コンタクトできるか?」

『可能です。ただし直接のコンタクトはできません。必ず私を通すようにしてください』

「了解した。では取り次ぎをお願いできるかい?」

『承知しました。コールサインは「アイザック」です』


 一度画面がブラックアウトし、二秒ほどで先ほどと同じようなオフィスの一室の背景が映った。が、人が居ない。と思ったら、画面の右からシャツ姿の男が映り込んできた。アダムと同じ金髪(へき)(がん)だが、腕まくりをし、ネクタイを緩め、無精ひげが目立つ。顔も上げず、机上の(なに)かを読み込んでいる様子。久しぶりに見たな、この『負荷がかかってます』な表現……。


「アイザック」

 呼びかけられた男は、(おもむろ)に顔を上げてこちらを見た。

(なん)だ?』

「どうよ?」

『何がだ?』

「技術4課の佐々木さんに頼まれた仕事」

『あれが仕事か?ウチの事業計画から考えるとそれはないな。あれは遊びだろう』

「ご明察だな。それで、進捗はどうよ?」

『こんなもんに進捗もへったくれもあるか。やればやるだけやることが増えるってもんだ』

「やはりな……」

 佐々木の楽観より、私の悲観の(ほう)が近かったようだ。さて、どうしたものか……。

「現時点で言えることは(なに)かあるか?」

『何が知りたい?』


 そうだった。『()かれたことに答える』のがこいつのスタンスだ。

 何を()いてみようか?進捗が判るような端的な質問。

 ううむ……。そもそも政治家をけなすところから始まった話だからな。いや、そんな政治家に投票する国民もけなしてたんだっけ。こんな調子でこの国はこの先一体どうなることやら……。


「この国は、このまま持続可能かな?」

『無理だな』

「え?」

『無理だな』

「……どうしてそういう結論になった?」

『メールで送っておく』

「分かった」

『他に()きたいことはあるか?』

「……とりあえず今はこれだけ」

 色々と()いて状況を探ろうと構えていたのだが、一発目で随分な答えに当たってしまった。ちょっと考えさせてほしい。


 挨拶もなく画面が切り替わり、いつものアダムがにこやかな顔を見せた。それには構わず、私は届いたメイルを読んでいた。読み終えてしばらく考え込み、最後にアダムに声をかけた。


「アダム」

『はい、松宮さん』

「社長と一対一で会うアポを取っておいてくれ。議題として今のやり取りの記録を添えて」

『すみません。アイザックとのやり取りはこちらからはアクセスできません』

「そうだったな。では、今私に届いたメイルを添えておいてくれ。宛先限定の開封制限付きで」

『承知しました』


 電子メガネを外してクレイドルに戻し、そして思わずため息を()く。

 どうやら我々は、遊び方を間違えてしまったようだ。

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