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マーサット社 本館 M501会議室前廊下
「松宮」
「ん?」
振り返ると、声の主は河合だった。基本的に相手の名前を『さん』付けするのが社風だが、同期の間の会話では呼び捨てが多い。河合と私は年度としては同期だが、十月入社の私に対して四月入社の彼女は、微妙に先輩風を吹かすことがある。
「何なのよ、さっきのは?またアヤしいこと始めちゃって……」
「科学的実験だよ。政治家の愚かさを確かめるための」
「バカなのはあなたよ。危ないことにならないでしょうね?」
「ヒトは皆、愚かな生き物さ。そのことに気付かないでいる方が、よっぽど危ないってもんだ」
河合は『しょうがねえなこいつ』と言わんばかりの一瞥を私にくれた後、肩をすくめて立ち去った。そういう無駄な論議に時間を割かないところ、さすが『ルーラー』といったところか――。