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機械制民主主義  作者: 志賀 謙
仮説 - Hypotheses
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マーサット社 本館 M501会議室 『本部長会議(定例)』

「ところで松宮さん」

「えー、せっかく会議は終わったと思ったのに。(なん)です大石さん」

「露骨にイヤそうな顔をするのはいかがかと思います。(なに)、それほど時間はかかりません。あなたのところのAIC、(なに)やら面白いことを始めたようですね」

「あなたのところって、AICのサークル代表は技術4課の佐々木さんですよ」

「AICの創設者にして初代サークル代表は、あなたでしょう」

「昔の話です。しかしAICが(なに)か始めたなんてよくご存じでしたね。ま、まさか社長のスパイがあの中に?」

 と、大げさにのけぞってみせたが、

「サークルの議事録を読んだんです」

 スルーされた。

「ヒマなんですか?」

 と、失礼な言い草を重ねてみたが、社長は動じない。

「各サークルの議事録に目を通すのは、私の趣味みたいなもんです」

(なに)かビジネスのネタになりゃしないか、と思ってのことでしょう?」

「否定はしません。それはともかく、議事録によると、(なに)やら政治をネタに遊び始めたようですね」

「あー、こないだ佐々木さんと()んだ時に、そんな話になりましてね」

(そそのか)したのはあなたですよね」

「唆したとは人聞きの悪い。次は(なに)して遊ぼうかという状況だったので、一つテーマを提案してみただけです」

「その議事録中に、気になる発言がありましてね」

「というと?」

「佐々木さんの発言にこうあります。『政治家より期待値の高い政治判断ができるのではないか?』と」

「あー、そんなこと言ってたような気がしますね」

「可能性はあると思いますか?」

「それを確かめるためにやってるんです。ただ、マジメにやろうとすると判断材料のストックが膨大になるので……」

「可能性があるからやっているのですよね?」

「まあ、そういう()き方をされてしまうと、答えは『イエス』となりますね」

(なに)やらビッグビジネスの匂いがしますよ、松宮さん」

「ビジネスとしては成立しませんよ、大石さん。製品化するにはリスクが高過ぎます。市場(マーケット)が狭すぎます。あと、我々は遊びでやってるんです」

「もう少し商売っ()を出しても()いんじゃないですかね、松宮開発本部長。いっつもビジネスより趣味を優先なんですよ、あなたは」

「いっつもビジネスのことしか考えていないあなたから見りゃ、そうでしょうね。山崎営業本部長」

「そもそも――」

「そこまで!」

 絶妙なタイミングで我々の口(げん)()の出鼻を(くじ)いたのは、(かわ)()だった。こういうのは彼女の役目みたいになっている。

「どうして本部長会議でそうやってふざけるのよ。――山崎さん、あなたもです」

 ほうら怒られたと言わんばかりの喜色を浮かべていた山崎営業本部長も、自分に(ほこ)が向けられた途端にしょんぼりと顔を伏せた。

「すみません、ルーラー……」

「こういうときにその二つ名で呼ばないでください!」

「重ね重ねすみません、経営本部長……」


 いや、ルーラー。こういうときだからこそ、つい『ルーラー』と呼んでしまうんだ。

 彼女は『社内公式』の『二つ名持ち(ネ イ ム ド)』の一人で、二つ名は『ルーラー(r u l e r)』。名付けのきっかけは、とある難儀な会議を「この場では私がルールよ!」と取り仕切ったことによる。その(うわさ)は瞬く間に広がり、『社内名登録委員会』でも公式に採録された。もちろん『ruler(ル ー ラ ー)』に『支配者』の意味があることも承知の上で。私の二つ名『教授』は、その昔、新入社員教育の現場で(たてまつ)られたものだが、『ルーラー』よりはマシだと思って甘んじている。

 ――などと思い返すぐらいの時間が空いたあとで、大石社長が言った。


「では、AICの件は松宮さんに気を付けておいていただきましょうか。本日の議題は以上ですよね?」

「はい。では本日の本部長会議は終わります」と小林常務が締め括り、この場は散会となった。


 む?大石さんはもっと突っ込んでくるかと思ったが、妙なところで退()いたな。ということは、この場で言うべきことは言ったということか。とすると、言いたかったのは最後の『気を付けろ』かな。

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