マーサット社 本館 M117応接室 『使用中』
C.国土を保持できない。
1.インフラを維持できず、人口分布の偏りを止められない。(B項3参照)
2.空いた土地を████に██████される。
3.██████について、████は██████████する。
4.日本政府の統治は、事実上国土の一部に限定される。
5.以上のフローが多発する。
というスライドを横に見ながら、私はオリエンテイション代わりの状況説明を終えた。説明の相手はロウテイブルの向かい側に座る港北大学の教授達、左から
小谷敦子教授(経済学)
増田孝行教授(法学)
沢田紘一教授(政治学)
村井義之教授(理工学)
の四人、かたやこちらは私と大石社長の二人。なんとなく力負けしそうな布陣であり、全員が黙りこくっているのだから雰囲気も重い。
「以上は『大半の政治関係者は政治より己が利益を優先する』というのが前提の計算結果ですので、いわば極論の類です。専門家の方々から見て『ありえない』と判断される、その根拠をご教示いただけると大変助かります、気持ち的に」
と、なんとなく言い訳じみて聞こえる言い草で水を向けてみた。
「要するに、『地方を大事にしろ』ということですかね、C項については」
とまとめた後、村井教授は身を乗り出して他の三人の顔を見渡す。『誰か何か言えよ』ということだろう。
「この前提となっているB項の少子化による経済規模の縮小ですが――」
と、小谷教授が軽く手を挙げて応じた。
「――最早我々の間では定説となっているものです。理論的な補強をいただいてありがたく思います」
それだけ?A項の『国家財政は改善しない』についてはノーコメント?言うまでもないとか?
「少なくとも、今の日本にはC項の2を網羅的に防止する法律は、存在しませんね」
と増田教授が続いた。
「類似の法律がないことはないのですが、適用範囲が非常に限定されているのです」
少しの間が空き、沢田教授が息を吐いてから口を開いた。
「今、画面に出ているC項の2から3ですが、意図的に、いや戦略的に実行される惧れはあります」
「戦略的に?」
「██学的に見て、████が██████████というのがありますからね」
「あー……」
「████の██を████れば███に████ことになり、████なら██に████られます」
「つまり、否定できない、と?」
「少なくともこの場で一笑に付せるようなものには見えません。具体的にどう実現するのかは、今後の検討ですが」
しばしの重い静寂。発言が一巡したところで、専門家達は沈黙に戻った。
「つまり、皆さんの目から見ても、この『予想』は絵空事には見えないということですか?」
沈黙を破って大石社長が問いかける。
「何と申しましょうか、『政治家がマトモな政治をしない』という前提は、我々も考えていなかった軸なのです」と沢田教授が応えた。
「『政治家は常に己が利益のために動く』ということですよね。その原理を組み込んで考え直すことになります」と小谷教授も言い添えた。
「いずれもいくつかの国で現実に起きていること、または既に始まっていることですが、なぜそれらに対して政治家が無力だったのか、という点に対して、有力な仮説をいただいたように思います」と増田教授がありがたくもなさそうな口調で言った。
そしてまた、沈黙が降りる。
「この場で即答を迫られても困りますよね。持ち帰って検討ということでいかがでしょう?」
と村井教授が助け舟を出した。この場の全員がその船に乗っかろうと頷く。
「ついては、本学でも独自のシミュレーションを組んでみたいので、その方面のサポートをよろしくお願いしたいですね」
と何やら楽しそうに付け加えた。
さすがだな、村井さん。この場のこの雰囲気であくまで自分の要求を押し通すか。