港北大学 西山キャンパス 1号ホール
「――以上で関係各方面から話せと言われたことは、概ね網羅しましたので、この辺りで締め括りとさせていただきます。退屈な話を我慢強く最後まで聴いてくださったことに、感謝申し上げます」
と私が壇上で述べ、一礼すると、驚くほど大きな拍手が沸き起こった。思わず少しのけぞってしまったくらいだ。何度やっても慣れないものだ。
「では、質疑応答のお時間を少々いただいておりますので、質問のある方はどうぞ」
と司会者の方が呼びかける。え?そんな時間上げたっけ?と私は思ったが、そういえば前回もそんな流れだった。
「はい、そちらの青いジャケットに赤い蝶ネクタイを締めた、大きなメガネの男性の方」
司会者が言った通りの人物が立ち上がった。指名されようと目立つ格好で来たな。そういえば去年の質疑応答の終わりに『指名されるコツ』としてそんなこと言ったような気がする。
「本日は貴重なお話をありがとうございました、松宮本部長。ところで質問なのですが、御社の『サークル』というのは、社員の参加率は如何ほどなのでしょうか?」
予想していた質問だ。私はタブレットを一瞥し、調べてきた数字を確認してから答えた。
「実際に活動しているのは、年平均にすると二十%ほどです。皆さん仕事がありますからね。各々の状況に応じて増減があります。名義上なにがしかのサークルに属している比率は……、七十五%?ホントか?これ」
会場が笑いに包まれる中、どこか感心したように頷く者も多く居た。
「あ、あと、弊社では人に呼びかけるとき、役職名は使わず、『さん付け』で呼ぶのが一般的です。例外は、何故か同期の間でのみ、お互いを呼び捨てにするケースが多いところですね。逆にあえて役職名で人を呼ぶときは、『役職にふさわしい振舞いをしろ』との皮肉が込められている場合が多いような気がします。弊社の営業本部長が、ちょくちょく私のことを『松宮開発本部長』と呼ぶので」
また笑われた。どうも余計な事を言ってしまった気がする。
「よろしいですか?では、次は、そちらの緑色の髪に角が二本の方」
「ええと、松宮さん、御社ではリモートワークが定着しているとのことですが、リモートとサークル活動は両立しているのでしょうか?」
「サークルによりますね。模型でジオラマを作っているサークルでは、皆さん社内に作業場を作って籠っていましたが、そこから派生したバーチャル3Dでジオラマを作るサークルは、会社に来ることに拘りはないようです。ただ、業務はリモートで可能なのに、サークルのために出社してくる人間は多いようですね。何のためにリモートワークの環境を整えたのか、解らなくなっています」
また笑いが起きる中、当社のリモートワークの柔軟な運用のお陰で、介護離職に陥らずに済んだ自身の過去を思い出す。まあ、そういう話はこの場には似つかわしくないかな。人事部に任せとこう。
「次は……、そちらの白い猫耳の女性の方」
「先ほど『ネームド』を認定する委員会が設置されている、というお話でしたが、何故なんでしょう?」
「社内で同じ二つ名がカブらないように管理するためです。基本的に『ネイムド』は、多くの部署で名前が取り沙汰される活動範囲の広い人達なので、取り違えることがないように、と定められたルールですね」
「はい、そちらの顔と服が迷彩の方」
「『ルール』と言えば、実例として『ルーラー』という方を挙げられていましたが、『ruler』とはルールを決める人というより、『支配者』という意味の方が一般的だと思うのですが」
「その通りです。彼女は場のルールを定めることにより、その場の雰囲気を支配してしまう名人なんです。『ルーラー』とはその辺を意味するネイミングですね。あ」
「どうされました?」と司会者。
「いや、『ルーラー』について言及したことが後で本人にバレたら、どういう目に遭うかと思っただけで……」
また会場は笑いに包まれた。楽しそうだなあ、皆さん。私は辛いばかりなんだが……。




