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第12話「相談」

 6月22日


 *


 ペンダントの持ち主探しに(しずり)が加わってから、3日が経過した。今日も俺達は学校が終わるとすぐさま駅へ向かい、電車に乗ってより利用者の多い四枝狩(ししかり)総合病院前駅へと移動した。


 俺達はひとまず垂の車に頼ることなく、駅周辺でペンダントのことを知る人がいないか尋ねて回る方針を立てたのだった。初対面の人と話すことを苦手としている垂だったが、思ったよりも積極的に道行く人に声を掛けて話を聞いて回ってくれている。小蜜(こみち)によれば、探し人は“少し年上”ということだったため、話し掛ける相手をおおよそ18歳前後の相手、つまりは学生に絞っている。そのため明らかに年上だとわかる相手には話し掛けなくていいということも、垂が積極的になれる要因として大きいのかもしれない。当然俺も垂と同様に学生らしき人を見つけては話を伺っている。しかし……ここ3日間駅前で調査を続けてきたが、未だにペンダントのことを知る人物を見つけ出すことはできていなかった。


「――ありがとうございました」


 立ち止まって話を聞いてくれた人にお礼を言い、ふと空を見上げる。


(……そろそろかな)


 スマホで時間を確認すると、時刻は午後7時前。そろそろ日が落ちて周囲が暗くなり始める時間帯だ。この時間になると駅は帰宅中のサラリーマンばかりで学生はほぼ見当たらなくなる。立ち止まって話を聞くのも迷惑になるし、そもそも話を聞きたい年齢層の人が少なくなるため、調査を切り上げるにはちょうどいい時間帯だ。俺はスマホで垂に連絡をして、駅前にある花壇に腰掛けて待つことにした。するとすぐに彼女は人ごみの中からやってきた。


「どうだった?」


 この時間まで連絡がなかった以上聞くまでもないことかもしれないが、一応聞いておく。


「ダメ。今日も見つからなかったわ」

「そっか……」


 予想通りといえば予想通りだが、やはり少しは期待してしまっていたため言葉が続かなかった。そろそろ探す場所を変えた方がいいのか、このまま同じ場所を念入りに潰していくべきなのか。どちらの方が手掛かりを得られる可能性が高いのか、そのまま俺は考え込む。


「……ね、ねぇ、初月(はづき)くん」


 そもそもペンダントが平日の夕方に住宅街に落ちていた以上、持ち主が学生であるなら平日の同じ時間に駅にいる可能性は低いのかもしれない。やはり持ち主を見つけられる可能性が一番高いのは、同じ曜日、同じ時間、同じ場所だろう。


「初月くん……? おーい……」


 しかし2週間近くあの住宅街は探したし、同じ曜日、同じ時間、同じ場所もペンダントを見つけた日の翌週に張り込んだが、それでも持ち主らしき人物は現れなかった。となると、もしかしたらペンダントの持ち主は一定の生活サイクルを送っていない人物なのかもしれない。


(……やっぱり、ペンダントの持ち主として一番可能性が高いのは、あのときの――)


「お、おい、陽司!」

「――っ、な、何!?」


 考え事をしていると、突然垂に名前を叫ばれたため慌てて返事をする。……いや、そういえば何度か声を掛けられていたような気がする。考え込んでいてすっかり耳を素通りしていた。彼女の方を見ると、困ったような照れるような、なんともいえない表情をしていた。


「……はぁ。ほら、そろそろ帰ろう? 真っ暗になっちゃうわよ。……あと、歩きながらでいいんだけど……ちょっと相談したいことがあるの」


(相談したいこと……?)


 いったいなんだろうか。俺は花壇から腰を上げ、垂と並んで歩き出した。


「それで、相談って?」

「うん、実はね。今月末……27日なんだけど、小米の誕生日なのよ。それでね、日頃のお礼じゃないけど……せっかくだから何かプレゼントをあげたいなと思って。……何をあげたらあの子、喜んでくれると思う?」


 なるほど、小米の誕生日か。今月の27日ということは……もうあと1週間もない。であれば、用意するのに掛けられる時間は長くはない。いまから用意できるものとなると、何があるだろうか……なんて考えるまでもなく、俺からするとそんなものは1つしか思い付かなかった。まあ、少しギリギリにはなってしまうかもしれないが。


「誕生石とかどうかな?」

「誕生石? ……ああ、そういえば初月くんって」


 垂には既に話していることだが、何を隠そう、俺は歴とした鉱石オタクだった。誕生日プレゼントといったら、そりゃ誕生石しかなかろうよ。


「初月くん、6月の誕生石ってなぁに?」


 少し興味を持ってくれたのか、垂は俺に尋ねてくる。


「6月は真珠とムーンストーンだよ。少し前にアレキサンドライトも追加されたけどね」


 将来そういう業界に行くことを目指している俺からすると、当然の知識だった。


「ア、アレキサン……? よくわかんないわ」

「アレキサンドライト。自然光下では緑色、白熱光下では赤色に見える面白い石だよ。……そうだなぁ。6月の誕生石の中だと耐久性もあるし手入れもしやすいから、ペンダントとかにすれば誕生日プレゼントとしてありだと思うよ」


 手配と値段がネックではあるのだが。まあそれはなんとかなるかもしれない。


「そ、そうなのね。でも、それって宝石なんでしょ? すごく高いんじゃ……」


 宝石に興味のない人からすれば当然の疑問だ。しかし、最近のインターネットの流通を舐めてはいけない。


「そんなことないよ。品質さえ目を瞑れば、学生でも手の届く値段で天然石を売ってるショップもあるから。……まあ今回はもし垂が望むなら、俺の父親に聞いてみるよ。……これは話してなかったっけ。俺の父さんは、個人経営のジュエリーデザイナーなんだ」


 俺の地元である山梨県甲府市は、ジュエリー産業に力を入れている街だ。俺の父もそこで小さなジュエリーショップを経営している。最悪裸石(ルース)さえ手に入れば、チェーンとペンダントトップは俺でも用意できる。裸石もネットで買えないこともないだろうが、どうせなら安くてなるべく品質のいい物を父親からせびりたい。


「へえ、そうなのね……」


 俺の話に納得したのかどうなのか、垂は頷くと少しの間俯いて考え込む。そして。


「……初月くん。いったんお家に帰って親に相談してみるわ。私のお小遣いで買うにしても、それって結局親のお金で買うみたいなものだから。学生でも手が届くと言っても、やっぱり高価な物には変わらないでしょう?」


 どうやら垂は、いったん話を保留にすることに決めたらしい。俺からすると、垂はあまりジュエリーには興味がないのかと少し残念な気持ちになる。


「……そっか、わかった。俺も一応父さんに話だけはしておくから、明日学校でどうするか教えてくれればいいよ」

「うん、わかったわ。……ごめんね、相談に乗ってもらったのに」

「いや……垂が自分で決めるのが一番だよ」


 あくまで垂から小米への誕生日プレゼントだ。相談されたとはいえ、部外者の俺が指図することではない。……少し、自分の趣味嗜好を押し出しすぎていたことを反省するべきかもしれない。


「それじゃ、暗くなってきたし少し急ごうか」

「ええ、わかったわ」


 会話が一段落ついたため、俺達は歩くペースを上げて雑踏の中を進んで行った。

読んでくれてありがとうございます!

ほとんど仄めかしているような描写はないが、陽司は鉱石や宝石オタクでした。まあ単に作者の趣味嗜好を主人公に反映しただけですが、、、笑


今後作中でいくつか登場する宝石(裸石)はツイッター(X)の方で実物を上げてますので、興味があったら覗いてみてください!


13話以降もぜひ読んでください、よろしくお願いします!

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