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第2話 婚約破棄

「フラウラーゼ、お前との婚約は破棄だ!」


 婚約者の突然の激昂に驚いてしまう。


「どうしたのですか、急に。わたくしが何かしてしまったのでしょうか?」


 今日は国の貴族が殆ど集まる大きなパーティだ。


 そのパーティ会場の片隅、とはいえ人がいないわけではない。


 周囲にも勿論聞かれており、驚いたような顔でフラウラーゼ達の方を見ている。


「急ではない。いつかするつもりであった。お前のその赤髪にずっと耐えられなかったのだ。燃える様なその赤色、見れば見る程虫唾が走るわ」


 緑豊かなこの国では火の魔法使いは毛嫌いされている。


 どの魔法が使えるかは髪色に由来すると言われており、赤髪の者はこの国では好かれていない。


(とはいってもわたくしは元々魔法が苦手なのですが)


 火なんてまず出ないし、草魔法も少ししか使えない。


 再三髪を染めるようにと言われてはいたが、亡くなった母と同じ色である。どうしても決心がつかなく、染めるなんてしたくなかった。


 だから自分の我儘と言われれば仕方ない。


 その後も理由を細々といわれたが、フラウラーゼには身に覚えのないものばかりだ。


(どれもこじつけにしか聞こえないけれど)


 要するにフラウラーゼの事を好きになれない、結婚は死んでもしたくないという事なのだろう。


 心の中で婚約者の駄目な部分が幾つも浮かぶが口に出すのも面倒でその内に考えるのも面倒になって思考する事を放棄した。


(どうせわたくしが何を言っても変わらないもの)


 途中から周りに飾られた花々を眺めて時間を潰す。


 ようやく話が途切れたので、神妙な顔をし、至極真面目に返した。


「わかりました、お受けします」


 そう応えれば周りがざわつく。


 詳しくは聞こえないが、婚約者の言を肯定するような雰囲気だ。


(このような場で話すのならもう気持ちは固まっているでしょうし)


 口論することなど、フラウラーゼは諦めていた。


 そもそもあまり顔を合わせていなかった相手だし、手紙も稀、贈り物なんて片手で数えるくらい。


 これで執着するわけないだろう、しがみつく必要など、どこにもない。


「ですが破棄に関してはお父様とよく話をしてください。わたくしにとって身に覚えのない事ばかりでして、納得できませんから。それでは失礼いたします」


 これ以上話をするのも、場を乱す事もしたくないフラウラーゼは会場を後にする。


(あのような方とは思わなかったわ。でもわたくしにも非はあるわよね)


 自分も積極的に彼に歩み寄ろうとはしなかったし、お互いに悪かったのだと腑に落ちてはいる。


 かと言って納得はしていないが。


 そっとフラウラーゼは大精霊から貰ったブローチに触れた。


 せめても少しでも赤髪の印象を緩和出来ないかと緑色のドレスを着て、装飾品も合わせたのだが、どうにも赤い髪の方が強調されてしまい、馴染むことは出来なかった。


(精霊から貰ったブローチだと言えば少しは見直して貰えたかしら)


 元婚約者ばかりか、周囲の視線も突き刺すように鋭かった。


 恐らくあの中でフラウラーゼを擁護するような者はいない。


「このような辛い思いをするならば、来なければ良かったわ」


 あのような針の筵の中で、傷つかないわけはない。

 伝う涙をフラウラーゼはそっと拭いて、馬車へを乗り込む。


 その様子を見ていた花々が、風もないのに揺れだし、それはどんどんと伝わっていく。


 会場にも実に様々な花が飾られており、時には生花を髪飾りにしている女性もいた。


 花々の揺れが次第に不穏なものになっていくのは気の所為だろうか。


 真っ直ぐに馬車へと向かうフラウラーゼからはその様子は見えず、その後の会場の様子も知る由もなかった。



 ◇◇◇



「久しぶりの王都ですけれど、もう帰りたいわ」


 タウンハウスはなれないものだ。早く緑豊かな自宅へと帰りたい。


「帰ってきたお父様たちに怒られるでしょうね」


 騒ぎの場に父や義母、義弟がいなくてよかった。

 居たらどんな糾弾を受けたかわからない。


 会場のどこかには居たのだろうけれど、会う事はなかった。


 出発もフラウラーゼは格の劣る馬車に一人で乗っていたから、顔を合わせる事もない。


 ドレスも祖父母が用意してくれたものを着たので、父と話す必要は全くなかった。食事も一人だけ自室に運ばれていたし。


「明日にはやはり戻りましょう」


 フラウラーゼの帰る場所はここではない。


 祖父母の待つ、あの温室のある屋敷こそが、フラウラーゼの家だ。


 誰からも顧みられず、愛情もないこの家にしがみつく必要はない。


 今日婚約破棄宣言もされたし、フラウラーゼの心も固まる。


「要らないならば、捨ててしまいましょう」

 この婚約破棄は皆が見ていた、ならば誰もフラウラーゼを娶りたいなんて思わないだろう。


 これからは自分の力で生きていけるように手に職をつけてせめて食べて行けるようにしなくては。


 祖父母にも相談し、この家とも縁を切り、新たな人生を歩むんだ。


「わたくしは自由になれたのよ、これは喜ばしい事だわ」


 そう思えば気持ちもすっきりする。


 元よりうじうじと悩むのは性に合わない。


 方向性も決まった今、フラウラーゼは心のわだかまりも消えて、ぐっすりと眠ることが出来た。


 パーティ会場では阿鼻叫喚の事が起きている事には全く気付かないままで。




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