表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人受付カウンター  作者: 唐科静玖
最終章 復興祭
48/48

47.フィリ・セアダズル⑥

大筋の最終話

 王都にあるとある酒場。フィリはその隅のテーブルに上半身を投げ出した。


「ひぃ、ひぃ、これでアンタに頼まれた仕事は全部終わり……よね?」

「お疲れ様です。いやあ、溜まっていた尾行系の仕事が一気に片付いて、暗部のメンツも保たれたというものです。お手柄ですよ、フィリ」


 対面に座るレナードが、さりげなくフィリの頭を撫でながら労いの言葉を投げ掛けた。


「もうやだあ……。楽しいこと何てないし、上司の人遣いは荒いし……。もうこの仕事辞めてやるぅ」


 最近のフィリは散々だった。カトレアの奪還の報せが舞い込んで喜んだのも束の間。卒業時の不正が祖父にバレて一ヶ月間おやつ抜きにされ、その上にレナードからの膨大な量の仕事の押し付けもあった。

 毎日魔力がカツカツになるまで《不存在》を使わされ、やることは面白くもない冒険者の素行調査ばかり。癒しが何もなく、フィリの元々0に近かった労働意欲はマイナスに振り切ってしまっていた。


「辞めても構いませんが、それだともっと嫌な仕事ばかりの落伍冒険者になってしまいますよ」

「それくらい分かってるわよぅ。だけど、もう本当に無理。何かすっごく楽しいことがないと仕事なんてできない」


 フィリはテーブルにへばりついて動かじの構えを取った。こうなったフィリはもう誰にも動かせない。

 その時、酒場の扉から入ってきた女性が、声を張り上げた。


「間もなく、コルヴァ行きの特急馬車が発車致します~。『コルヴァ鎮龍復興祭』に参加出来る最後のチャンスとなっていますので、この機会をお見逃しなく~!」

「祭り!?行くー!」


 フィリは構えを即行で解き、椅子から飛び上がった。条件反射とも言える反応速度だ。


「フィリ、ちゃんと聞いていましたか?行き先はコルヴァですよ。今はアンナ・ガーネットが取り仕切っています。彼女に会うなら、彼女に謝る気が出来てから、という話になっていましたよね。ちゃんと謝れるんですか?」


 レナードは馬車呼びの女性に当然のように付いていこうとするフィリを引き留める。

 フィリは一連の事件以降、アンナに会っていなかった。アンナはカトレアを許したため、カトレアに唆されたフィリもお咎めは無しということにはなっている。だが、実際の所アンナはフィリを許していない。今回のコルヴァ送りの件だけでなく、学校での嫌がらせも含めてフィリを嫌っているのだから当然だ。だから、フィリはアンナにまず謝るべき、それが最低限の償いである。しかし……。


「へーん、謝る気なんてないもん。人の婚約者に先にちょっかいかけたのはあの女なんだから!」


 フィリは振り返り際に、べっ、と舌を出してから、何とも憎たらしく言い放った。

 レナードはそのふざけた態度に溜息を返す。エヴァンとの婚約などという幻想をいつまで引きずるのか、と。そして、レナードはそのフィリの幻想を壊すためのある方策を思い付いた。


「……分かりました。では、私も同行するということで、フィリのコルヴァ行きを認めましょう」

「え?どうしてあんたとお祭りにいかなきゃいけないの?せっかくのお祭りが台無しになるわよ!」

「同行するだけで台無しとは酷い言われようですね。ですが、私が見張っていないと、あなたは《不存在》で悪さをするかもしれないでしょう?なんと言っても、あの祭りの主役はあなたが嫌っているアンナ・ガーネットなのですから」

「はぁ?そんなことするわけ……、なくもないかも?」


 フィリは否定しようとしながら自信を無くしていった。アンナの活躍の噂はフィリも耳にしており、悔しさで暴れたくなった事実には覚えがあったのだ。

 何にせよ、レナードの命令は絶対という契約があるため、フィリに拒否権は無い。

 フィリはレナードを引き剥がすのを諦め、共にコルヴァ行きの馬車に乗り込むこととなった。




 コルヴァの東門で馬車から降り、そこに広がっていたのは賑やかな祭りの雰囲気と人の波。


「うわ~、すっごい!楽しそう!」

「ほほう、たった二か月でここまでの活気を生み出せるとは、アンナ・ガーネットは素晴らしく有能ですね」

「そんなことどうでもいいの!早く行くわよ!」


 祭りの盛り上がりに、フィリは本気でアンナの事などどうでもよく思った。太陽を振り撒く白金の髪、キラキラの好奇心に満ち溢れた瞳を揺らし、町の中へと飛び込んだ。ふわふわの猫耳と尻尾も揺れているが、これはレナードの趣味である。もうフィリはこの趣味にも慣れ、耳尻尾があろうと何も気にしなくなっていた。


 立ち並ぶ屋台を片っ端から見て回り、面白そうなものを探すフィリ。そして、見たことない『輪投げ』の屋台に興味を惹き付けられる。


「あー!またちょっとズレた!簡単そうなのに全然入らないわ!」


 輪投げの挑戦中のフィリは、単純そうなのに全然棒に輪っかを掛けられず、ぷるぷる怒っている。


「投げる時に体がぶれ過ぎなのでは?もっと手首の捻りに集中した方が良いかと」

「そんな言うなら、アンタがやってみてよ!」

「私は身体を使うのが大の苦手なので、やりません。そういうのは普段は全部メイに任せています」

「うぇ、ダサ……。イヴ君だったら絶対に全部の棒に輪っかを掛けれるのになぁ」


 相変わらず口だけは偉そうなレナードにフィリは呆れた目をし、エヴァンと比較して貶す。本当だったらエヴァンとデートをしたかったが、どこにいるのか分からないのだから誘いようも無かった。

 とまあ刺々しく言い合いながらも、なんだかんだでフィリはレナードと祭りを楽しんでいった。ある程度周ったところで、レナードの提案で闘技場へ向かうことになった。


「闘技場かー。見てるだけで自分じゃ何もできないから面白さとしては半分くらいなのよねー」


 フィリが闘技場の高い外壁を見上げながら、そうボヤく。


「いえ、見てるだけ、ではありませんよ。フィリ、今までの屋台でもらった残念賞、ちゃんと見ましたか?」

「え、残念賞?なんか紙切れは貰ったけど……。なにこれ、チャンスチケット?」


 輪投げやくじ引きなどで景品を得られなかった時、フィリはそのチャンスチケットを貰っていた。それにはこう書かれている。『おしかったね!がんばったきみにはもういちどチャンスがあげよう!とうぎじょうへゴーだ!』と。


「闘技場では賭けが行われていますが、どうやらそのチケットを賭けて見事勝者を予想すると、倍率に応じてお菓子が手に入るそうですよ」


 レナードは入り口で配られていたパンフレットを広げながら、そう説明した。お金を賭けるにはまだ早い子供向けの催し。本来は15に満たない子供向けに配られるはずのそのチケットは、容姿がどこからどうみても子供でしかないフィリにも当たり前のように配られていた。


「お菓子!なんだ、これゴミじゃなかったのね!捨てなくてよかった~」


 甘いものが大好きなフィリは、一瞬で釣られた。そして、ニコニコ顔で意気揚々と賭博ルームへと突入した。そこでレナードが世にも恐ろしい現実を見せようとしていることには全く気付きもせずに。




《続いての対戦は、無冠の戦姫『アン・ダードッグ』対、無双の武装『バン・ドワゴン』!レイピアを思いのままに操る高速アタッカーのアン選手と、自身の装備を自ら特注品として作るこだわりのドワーフ重戦士バン選手!果たしてアン選手の素早い攻撃はその鉄壁の鎧を貫けるのか!?》


「ドワゴンだあ!闘技場界最強の戦士、負けるはずがねえ!俺はドワゴンに20万エデンを賭けるぞ!」

「いや、ダードッグさんは今日こそやってくれるはずだ!がんばれー!君の笑顔が見たいんだ!」


 賭博ルームは大熱狂だ。魔法での援護などの不正防止の為に《映写》の魔法で映し出された映像での観戦となるが、それでも会場を上回りそうなほどの盛り上がりを見せている。

 フィリもチャンスチケットを握りしめ、映像内の二人を見比べてどちらに賭けるべきかをふんすと鼻息を荒げながら考えている。


「よし、あたしは女の人の方にするわ!」


 見定めが終わったらしく、フィリは声高にそう宣言した。

 そんなフィリに、レナードがフッと笑って待ったをかける。


「止めておいた方が良いですよ。過去の戦績を見ればドワゴンの圧勝です。ダードッグは闘技大会で過去に目立った活躍無し、それなのに何故か毎回ベット金額だけは高い。容姿だけは優れていて負け続けている彼女に同情する者が一定数居るようですね。ダードッグに賭けて万一勝っても、勝率の割にあまり稼げず、逆にドワゴンが勝てば楽に大儲けできるのですよ」


 そう言いながらレナードは大金をドワゴンのベッドスペースに置いた。


「ふーん?ずいぶん自信ありげね」

「まあ、これでもギルド暗部なので、細々とした情報は自然と入ってくるものなのです。情報は命綱。あなたも暗部なのですから、運否天賦に任せるのではなくもっとスマートに……」

「しーらない!難しい事ばっかり考えてたらすぐにしわしわのおじいちゃんになっちゃうっておじいちゃんが言ってたわ!」


 レナードの忠告を無視して、フィリはそのままダードッグのベッドスペースにチャンスチケットを置いてしまった。


「しわしわのおじいちゃんって、あなたの祖父はまだそこまで老いぼれてはいないでしょう?」

「確かに!でも、あたしはあたしが一番面白いことをするだけ!絶対負けるって言われてる人が勝つ方が面白いでしょ?あんたの話を聞いたら余計にこっちね!」


 笑顔でそんな理屈の通じないことを言うフィリ。レナードは呆れる。


(これでは、この後のショック療法も効果がないかもしれませんね)


 レナードは作戦の失敗を案じ始める。フィリがここまでお花畑な脳みそだというのは計算外だった。闘技場に来た本当の理由は、フィリのお花畑頭の前には意味をなさないかもしれない。



 それから一時間程で試合は8試合行われた。そして、最初とは異なる盛り上がりが賭博ルームに立ち込めていた。


「ネコちゃんすごーい!」

「おかしの山だー!」


 子供たちがその夢のような光景に群がる。その中心には山と積まれたお菓子と、ふんぞり返るフィリの姿があった。


「ふふん!もっと褒めてくれたら、このお菓子を分けてあげてもいいわよ!」

「ほんと!?ネコちゃんてんさい!かわいい!」

「ぼくのパパなんて、さっきから外しまくりでママに怒られるって泣いてたのに、ネコちゃんはすごいよ!」

「ネコちゃんばんざい!!」


 子供たちに褒めそやされ、完全にヒーロー状態だ。

 このような状況になったのは、もちろん賭けの結果である。フィリはなんと、最初に賭けてから、驚異の8連勝を達成していた。最初のダードッグ対ドワゴンはダードッグが奇跡の勝利、それからはダブルアップシステムでネズミ算式にフィリはポイントを増幅させ、ダブルアップの上限の8連勝を成し遂げる快挙と共に、荷車一杯のお菓子を手に入れたのだ。


「あはは!愉快よ愉快!みんないい子ね!それじゃ、好きなお菓子を持って行ってもいいわ!みんなのかわいそうな負けたパパとママにも残念賞のおすそ分けね!」


 久々に祭り上げられるこの感覚に、フィリはすこぶる上機嫌でお菓子をばら撒き始めた。

 レナードはそれを少し離れた位置から呆気に取られて眺める。


「まさか、何の理屈も無いただの勘でこんな伝説を成し遂げてしまうとは……」


 レナードが規格外すぎるフィリの運に、感嘆の溜息を漏らした。ちなみに、レナードは最初の3戦は自身の持つ情報に基づいてフィリと真逆の闘士に賭けていたが、当然全敗。その後はフィリに乗っかり5連勝、無事負けを取り戻し大幅な黒字を生み出せて、安堵しながらも乾いた笑いを零していた。


「何ピーマンを噛み潰したみたいな顔してるのよ。あんたもあたしを褒めてくれたら、この綺麗な星くずのお菓子をあげても良いわよ?」


 フィリは子供たちに囲まれるのに満足したのか、レナードの方へ歩み寄ってくる。


「きっと、この後に起こる悲惨な展開に、神様もお情けをなさったのでしょうね」

「?何それ、どういうこと褒めてるの??」


 レナードが何を言っているのか全く顔に分からず、フィリは金平糖の入った袋を差し出すか差し出さまいかで手を半端に浮かせていた。

 そして、そんなやり取りをしている間に次の試合のアナウンスが流れる。アナウンスの声は先程までとは違う人物のものだった。


《えー、ご来場の皆の者。アナウンスは変わりまして、このわし、異世界の画家であるハピコが務めさせてもらうのじゃ!次に行われる試合は超超超ビッグイベントなのじゃ!皆も既に名前を知っておるであろう二人、命懸けで地龍を止めたジル・ガーネットとエヴァン・ザッカリアによる最後の決闘!勝利と愛の女神が微笑むのは果たしてどちらなのか、決っっっして見逃してはならんからの~!》

「え?イヴ君!?なんでイヴ君がここに?しかも、イヴ君が出るの!?」


 変わった口調の女性の声に紡がれたその聞き慣れた名前に、フィリは目をまん丸にして驚いた。ずっと探していた男性が、居るはずの王都ではなくコルヴァに居て、何故か闘技大会に出場するだなんて、端から端まで意味が分からなかった。

 そんなフィリの様子を察し、レナードが説明を始める。


「エヴァンはここ最近、ずっとコルヴァに居たのですよ」

「え、そうだったの?イヴ君って近衛兵になったはずなのに、どうして?」

「それはもちろん、愛しのアンナ・ガーネットを助けるためですよ」

「……は?」


 フィリの表情が一瞬で曇った。前々から訳の分からない事を言う男だと思っていたが、ここまで不快にさせられたのは初めてだ。


「あんた、どんな頭してたらそんなバカなことを言えるようになるの?イヴ君が愛してるのはこのあたしよ?あたしに構って欲しいにしても、言っていい冗談と悪い冗談があるわ」

「そう来ましたか。確かにフィリに構って欲しさはありますが、今の僕はかなり大真面目ですよ」

「何が大真面目よ。本気でイヴ君がアンナ・ガーネットを愛してるって言いたいわけ?ふんっ、そんなのあり得ないわ!イヴ君にはあたしっていう婚約者が居るんだもん!誰にそんな嘘情報を吹き込まれたか知らないけど、イヴ君本人の口から聞けない限りは信じられ」


《僕はアンナを心から愛している。必ずお前を倒し、僕がアンナに相応しいと認めさせる!》


「えごっ!?ひゅ、かひゅっ!」


 ハピコがエヴァンに向けた拡声の魔道具から、無慈悲な宣言が繰り出された。フィリは衝撃のあまり、舐めていた飴を喉へと吸い込ませ詰まらせてしまう。


「あー何をしているんですか全く」


 レナードはフィリの背中を叩いてやった。フィリの口から飴玉がコロンと吐き出され、事なきを得る。


「げぇぇ……。何?何なの?イヴ君は何の罰ゲームをやらされてるの?」

「罰ゲーム……。なるほど、そう来ましたか」

「だってそれしかないでしょ!あのおばか女に、あたしのイヴ君が、『愛してる』とか言うなんてぇ……」


 フィリは現実を受け入れなかった。想い合っているエヴァンの口から飛び出たあり得ない言葉。きっと言わされているだけに違いない。涙が出るのも飴を詰まらせて苦しかっただけだ。そう自分に言い聞かせて何とか気を保った。


 始まった決闘は、これまでの試合とは格が違う大迫力の展開となり、会場も賭博ルームも熱狂して行く末を見守った。

 そして、美しい青の閃光とともにジルが吹き飛ばされ、決闘が決着。エヴァンの下へアンナが進み出た。

 そこで更に畳み掛けるように、『君しか愛せない』『一目惚れだった』などという言葉がエヴァンの口からアンナへと紡がれ、その度にフィリは「うぼっぉえっ」と内臓を搾られたような呻き声を上げた。

 そして、止めに画面に映し出されたのは……。


《アンナ!!》


 万感の想いが込められた愛のハグ。罰ゲームだとか演技では片付けることのできないその熱量。脳の大部分がエヴァンとの恋愛感情に割かれているフィリにとって、それが甚大な負荷となったのは言うまでもない。


「いやあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」


 無事に脳が破壊されたフィリは、絶叫した後気を失った。

 レナードの心配は杞憂だった。むしろ賭けで天狗になっていたところを絶望に叩き落としたため、フィリには現実を見せる以上の影響を与えられた。

 楽しいはずの祭りの記憶は、最後に見た悪夢の光景に塗り潰され、フィリの心に大きなトラウマとして残ることとなる――。

後はアフターストーリー的な単発の話を3つほど投稿して本作品は終了となります。

投稿頻度は月一くらいになるかも?


フィリのここからの活躍が書けないのがもったいないので、もしかしたらフィリに特化した二部が生まれるかもしれません。あるとしても投稿は一年以上先にはなりますが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ