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異世界人受付カウンター  作者: 唐科静玖
最終章 復興祭
37/48

36.復興

日本人たちの悩みの解決、そしてエヴァンとアンナの恋の行方はどうなるのか?な最終章です。

≪エイデアス 530/4/24(土)17:15≫

≪日本 2020/7/25(土)8:00≫



「おおっ!なんか賑わってんな!?」


 前回、地龍を鎮めてから一週間後の来訪。いつものコルヴァのギルドに転移したリョウタは、その変わりように驚いた。

 がらんとしていたギルド内部は、30人近い見知らぬ人々の熱気に満たされている。


「いらっしゃい、リョウタ」

「アンナさん!これ、一体どういうことだ?」


 知らない顔ばかりの中、隣のテーブルに座るアンナと、ここがちゃんとコルヴァだと理解しリョウタは、一先ず安心しつつ賑わいの説明を求めた。


「地龍討伐に動いてたギルド本部の面々と、兄さんの宣伝で他の町から来た冒険者が一気に来てくれたのよ。だから、リョウタはのんびりしててもいいわよ」

「マジか。まだまだやらなきゃいけないことがたくさんあると思って気合い入れてきたのに、一週間でここまで変わるのかよ。そういえば、他の皆は?」

「皆それぞれ人に集られてるわよ。なんと言っても、この国を救った大英雄たちだからね」


 アンナに釣られてリョウタが視線を動かすと、カウンター前では、トシシゲが女性冒険者に囲まれていた。


「大冒険者なんてカッコいいです!わ、私と握手してください!」

「あたしもー!渋おじって感じで超タイプー!一緒に冒険とかどう?」

「はははっ、私の良さが分かるとは、中々目の利くお嬢さん方だ。握手などお安いご用だとも。冒険も君たちと出来ればとても楽しいであろうなあ」

「ねぇねぇ、日本ってどんなところなの?トシシゲさんがどんな生き方をしてきたかも聞かせてよ~」

「いいだろう。日本はこの世界よりも……」


 ……何だかとてもモテていた。

 リョウタは、この世界ではああいうおじさんが人気なのか、と落胆する。それに、若い女の子に囲まれて満更でも無さそうなトシシゲもあまり見たいものではなく、見なかったことにした。

 次、ロッカー室前。そこにも人集りがあるが、比較的落ち着いた雰囲気だった。


「なんと神々しいお姿……。まさか生きている間に伝説の聖女様をお目にかかれるとは。我が家は代々神の信徒ですが、これ程あらたかな経験をした者は居ないでしょう」

「何でも、一度は灰になりかけていた草原と森を、瞬の間に再び生命力溢れる緑に戻されたとか。その力、神の使徒に相応しきもの……」

「そんなそんな。皆さん顔を上げてください。私なんて一族の恥さらしなので、皆さんが思うほど立派な人間じゃありませんよ」


 恭しく膝をついて祈るようなポーズを取る冒険者たちに、ユウが困惑気味に対応していた。


(ユウは自己肯定感低いからなあ。平和そうだし、しばらく放っとけば自信も付くんじゃねえかな)


 自分の事は棚に上げ、そんな気を遣うリョウタは、また視線を移す。

 最後の最も大きな人集りは依頼貼り出し用のボードの隣の壁際にあった。ハピコは背が高いため、人に囲まれても目立つ白髪は確認できる。が、壁際に追い込まれているようで、これは冒険者に絡まれているようにしか見えない。


「お、おい。あれ、助けなくていいのか?」

「必要ないわね」


 アンナは即答した。テーブルに立てた手に顎を乗せ、危機感は全く感じられない。

 それでも気にはなる。リョウタは人だかりの中心を確認した。

 そこには二人の冒険者が武器を構えてハピコに対面していた。戦闘能力が皆無なハピコに武器を向けるなんて、無法者に違いない。


「あんたら!ハピコから離れろ!」


 リョウタは人を掻き分けて中心へと躍り出た。武器を構えた二人がリョウタを鬼のような厳つい目で睨む。


「何だあ?ガキぃ、割り込みたあ良い度胸じゃねえか」

「へ?割り込み?」

「売られた喧嘩は買わねえとなあ!俺は鎖鎌使いのジェイス!」

「俺は鎖鎌使いのジョイス!」

「泣く子も黙る『リタの死神兄弟』、まさか知らねえで喧嘩吹っ掛けて来た訳じゃねえよなあ!」


 ジェイスとジョイスはリョウタに向けて武器、鎖に繋がった巨大な鎌を構え直す。対するリョウタは丸腰。


(無策で突っ込むとかアホか俺!地龍相手に戦えたからって調子に乗りすぎだ!)


 来て早々、颯爽とハピコの助けに入っておいて、無様に即時帰還で逃げ出したくなるとは思いもしなかった。

 そうは言っても、時には敗北を認めることも肝心。冷や汗をダラダラ流しながらポケットの身分証にそっと手を伸ばそうとする。その時、ハピコが首を傾げながらリョウタを見つめた。


「なんじゃ?リョウタもわしに似顔絵を書いてほしいのか?」

「は……?似顔絵?」


 よく見るとハピコはポカンとしていて全く焦っている様子はない。すぐにユウの背中に隠れるようなビビりなのに。そして、手には色紙のような厚紙とペン。それらが表すのは……。


「知らずに割り込んだのか?わしは今、決めポーズの引き出しを広げようとしとっての、冒険者の皆様方に付き合ってもらっとるのじゃ。各々がカッコいいと思うポーズを取ってもらって、描かせてもらう。対価として似顔絵を描いてプレゼントしとるんじゃよ。ほら、お主らのはちょうど描き終わったから、持っていけい!」

「おお!ジョイス、これは俺か!?超絶ハンサムじゃねえか!」

「兄貴、これは家宝ものだぜ!帰ったら母ちゃんにも見せてやろうぜ!」


 死神兄弟は、ハピコに厚紙を手渡されるとハイテンションになり、リョウタのことなど忘れて上機嫌でギルドから出て行った。


「次、俺を描いてくれ!」

「いや俺の方が先に並んでたんだ!顔も俺の方がイケてるし画家先生も描き甲斐があるだろ!」

「残念じゃが、仲間が集まったようじゃから一旦は終いじゃ。また後で再会するから、その時までに最高のポージングを考えておくのじゃぞ。わしがビビっとくるポーズを見せてくれた者から描いてやろう!ほれ、行くのじゃリョウタ。お主も描いてほしくばポーズを考えて……。ん?」


 ハピコはペンをしまって人だかりを解散させると、リョウタに歩み寄った。しかし、当のリョウタは顔を赤くしてプルプルと震えていた。


「すっげえ勘違いした……。恥ずかしすぎて死にそうなんだけど……」

「ふむ?さしづめ、わしがチンピラに絡まれとると思って助けに入ったのに全然違った、という感じかの?」

「なんでそこだけ洞察力が高えんだよ!クソッ、合ってんだよ!もう好きなだけ笑えよ!」

「まさかとは思ったが本当にそうだったとはのー。ちゃんと身構えておけばヒロイン気分を味わえたかもしれんのに、千載一遇のチャンスを逃してしまったのじゃ。ま、勘違いでも助けようとしてくれたのは素直に嬉しいのじゃ。ありがとの~、リョウタ」

「あーもー!ハピコにそういうまともな反応されると調子狂うんだよ!後、頭撫でんな!」


 頭に伸びたハピコの手をペイっと払いのけ、リョウタは後ろを向いてしまう。傍から見れば姉弟のじゃれ合いのような微笑ましい光景だ。



 それぞれの囲いから抜け出し、最早顔馴染みとなった5人は軽く挨拶を交わした。


「全員揃ったことであるし、今日のスケジュールを組みたいところだ」

「あら、トシシゲさんはさっきの子達と冒険に行くんじゃないの?」


 冗談めかすアンナに、トシシゲはフッと笑って返す。


「そんな訳ないだろう。さっきのはちょっとしたサービスで、私の仲間は君たちだけだ。リョウタとの約束もあるしな」

「あー、一緒に冒険して悩みの解決策を探す、だっけ」

「でしたら、早速どこかへ冒険に行きませんか?もう町の整備は他の方々に任せて良いそうですし」

「それは良いな。それならやはりダンジョンか。アンナさん、私たちが行くのにちょうど良さそうなダンジョンの情報を……」

「ちょっと待つのじゃ!」


 今日の行動方針が決まりそうになっていたところに、ハピコの待ったの声が入った。リョウタに構いながらもしっかり話を聞いていたらしい。


「どうした?ダンジョンは不満か?」

「いや、ダンジョンも大いに結構じゃ。しかし、その前にやらねばならぬことがあるじゃろう?ヒントはとぉても楽しい事じゃ!」

「やらねばならぬ楽しいこと?何でしょう?……あっ、お祝いですか!私たちの出会いを祝してパーっとやりたいと!」

「惜しいぞユウ。それは今更じゃし規模が小さいのじゃ!わしが言うとるのは復興祭じゃよ、復興祭!」


 ハピコは机をバンっと叩き、強く主張した。

 それに対して、アンナが眉を顰める。


「復興祭……?ちょっと気が早いんじゃないの?人は増えたとはいえ、まだ町の機能は回復しきっていないのよ?」

「だからこそじゃよ。祭りをやれば更に人は増える!この際祭りの名目など何でも良いから、とにかく宣伝大盛の祭を開催するのじゃ!」

「ふむ、良い案かもしれんな。人を呼べば経済も回るし、楽しい雰囲気になればこの町に残る悪い風評も改善されるであろう」

「祭りと言えば日本人、この世界の奴らに日本魂を見せつけるチャンスってわけか!」

「ちょっと!いつもはハピコを抑えるくせに、あなたたちまで乗り気になったら……」

「良いですね、お祭り。私ほとんど家に閉じ込められて居るので、お祭りって行ったことがなくて。あ、ですが、ここはこちらの世界に詳しいアンナさんの意見に従いましょう。日本を押し付けるのは良くないと思います」

「……やりましょうか、復興祭」


 決まり手、ユウ。こんな言い方をされてしまえば、アンナに抗える余地は無かった。

 アンナとて祭が嫌いなわけではない。渋ったのは、ただ復興の総責任者として軽々しい判断を避けたかっただけだ。


「す、すみません。気を遣わせてしまって」

「ははっ、アンナさんもユウには勝てんか」

「うるさいわね。あなた達が決めた事なんだから、祭の運営責任はあなた達に負ってもらうからね」

「任せとけって!アンナは客側としてのんびり楽しんでくれればいいからな!」

「ひひっ、決まりじゃのう!わし、二階のジルさんにも伝えてくるのじゃ!」


 とやかく言いつつもアンナを含めた全員が祭りを楽しみにし、ハピコはルンルンの足取りで二階へと向かうのであった。


* * * * * * *


 エヴァンは意識が浮かび上がるのを感じながら目を開ける。長い間眠っていたような気だるさ、しかし、意識を失う前の事を思えば、こうして自分が前の自分と同じ意識を保てていることの方が奇跡だ。


「おっ、意識を戻ったか!」

「ジル、か」

「俺で悪かったな。いつもはアンナがお前が目覚めるのを側で見守ってたんだけどよ、今はちょうど異世界の奴らが来てるとこだから、俺と交代してんだ」


 ジルはなんてこと無しにそう説明するが、エヴァンはおかしいと気付いた。まるでエヴァンが目覚めるのが分かっていたかのようなのだ。


「……僕はもう二度と意識が戻らないと思っていた。戻ってももう以前の自分ではないことも覚悟していた。なのに、どうしてお前は目覚めると確信していて、僕は心を保てている?」

「お前、やっぱそういう気で居やがったのかよ、耐えれるなんて嘘吐きやがって、まったくよお……。まあ、何とかなったからそれはいい。アンナが言うには、なんか地龍に取り込まれてる時に出会ったすげえ精霊が、お前の精霊の器を直してくれたらしいんだよ」

「精霊……。……確かに、精霊解崩で二度と精霊を宿せなくなったはずなのに、精霊と契約している気配を感じる。それも、前の上位精霊とは比較にならない力を持っているようだ」


 エヴァンは目を閉じ、キカイの力を感じ取る。精霊が壊れた器を直せるなど聞いたことがない話だが、こうして以前の自我と同一なのが明白な以上、信じるしかないようだ。


「んじゃ、お前はもう少し安静にしてろ。俺はアンナを、俺達の妹を呼んでくるぜ」

「ぶふっ!ゲホッゲホ!」

「だ、大丈夫か!?」


 エヴァンが唐突に咳き込んだ。まだ体調が万全ではないのかとジルが心配する。しかし、原因は体調ではない。『俺達の妹』という言葉のせいだ。

 エヴァンが最後の覚悟を決めたときに、ジルからアンナを妹扱いしていいと言われた。ここで自分は終わるのだから、妹で妥協するのも悪くないと思っていた。しかし……、こうして快復した以上、妥協は許されない。

 エヴァンはベッドの縁に座り、ジルに打ち明ける心の準備をした。


「……ジル、俺はアンナを妹にしたい訳ではない」

「は?何言ってんだ?お前、いつも俺が妹の話をしたら、羨ましそうに聞いてたじゃねえか」

「それは、妹は関係ない。アンナの傍で生きてきたこと自体が羨ましかったんだ」

「何だと?それはどういう……」

「ジル、僕はお前に決闘を申し込む。もちろん、アンナへの告白権を賭けて」

「!!」


 ジルは木から鮫が降って来たような顔で固まった。直球でそんなことを言われれば、さすがのジルでもエヴァンの気持ちに気付く。


「……お前、いつからだ?」

「去年の3月、僕がお前と初めて会話した日のことを覚えているか?あの直前、僕はアンナに一目惚れしていた。それで、兄だというお前に話を聞きに行こうとしたんだ。予想外にもお前の方から話しかけてきて、生徒会でのアンナのことを頼まれる結果になったがな」

「そんなに前からかよ。俺の目が届かない生徒会でアンナを守ってやってくれと頼んだが、まさかその時からお前がアンナを狙う男の内の一人になっていたとはな」

「僕を信用して託してくれたのに、裏切るような真似をして悪かったとは思う。だが、なんとしてでもアンナと結ばれたくて、あらゆる状況を利用させてもらった」

「かははっ!構いやしねえよ。重要なのは、俺よりアンナを守れねえ奴にアンナを任せられねえってことだ。お前は生徒会でも地龍相手でも、その条件を越えて見せた。俺はお前を認めているし、なんならこのままアンナを貰ってやってほしいくらいだ。だが……」


 ジルは愉快そうに顔を歪ませながら、両の拳を突き合せた。それは他の挑戦者と戦った時のように、光を帯びている。


「お前とはまだ一度も戦ったことがねえ。ちょうど良い機会だ。どっちがつええのか、ガチで白黒付けようじゃねえか!」

「そう来ると思っていたよ。望むところだ!」


 向かい合う両雄。エヴァンもジルも、心の奥底で親友との力比べを待ち望んでいた。交差する視線の間には激しい火花が散る。卒業式の日には実現できなかった最後の決闘が、今――。


「話は聞かせてもらったのじゃ!その決闘、わしが預かろう!」


 始まることは無く、扉がバーン!と勢いよく開け放たれたことで腰折れとなる。


「なっ、ハピコお前、今の話聞いてたのか?」

「うむ、面白そうな話をしとったから、つい盗み聞いてしもうた」

「良い趣味をしているな……。それで、決闘を預かるとは、どういうことだ?」


 雰囲気をぶち壊されたものの、ハピコがアンナの大切な友人であることは理解しており、エヴァンはちゃんと話を聞こうとする。


「実はの、さっきこの町の復興祭の開催が決定したのじゃ。それで、お主らの決闘を祭りの目玉の出し物にしたら面白そうじゃと思うてな」

「復興祭?いつの間にそんな話が進んでたんだ」

「祭りは結構だが、断らせてもらう。僕の気持ちを見世物にする気はない」

「いいのかの~?復興の総責任者はアンナさんじゃ。そしてこの祭りは復興祭を名乗りながらも、復興の一部、人呼びの意味もある。つまり、祭りが盛り上がれば盛り上がるほど、アンナさんも喜ぶというわけじゃ。復興の象徴で祭の主役になるアンナさんを賭けた熱い決闘、盛り上がるのは間違いなしじゃの~?」

「アンナが……」

「喜ぶ……」


 その言葉はアンナ至上主義のエヴァンとジル両名にクリーンヒット。天秤は大きく揺らいだ。


「うん、確かに客観的に考えて、祭りを盛り上げる燃料としては申し分無い」

「エヴァンが良いなら俺は全く構わねえな」

「ひひっ、交渉成立じゃの。祭りは一ヶ月後。演出はわしに任せておけば良い。きっとお主らも満足する舞台を作り上げようぞ!」


 こうして、秘密裏に大イベントの実施が決定した。それは、アンナにとって忘れられない1日となるだろう。


「ハピコ、遅いわよ。何やって……、って、会長!意識が戻ったんですね!良かったあ……」


 ジルに祭りのことを伝えに行ったハピコがなかなか戻って来ないため、アンナが呼びに来た。そしてエヴァンが起きているのを見て、側に寄り手をギュッと握った。


「心配をかけてしまったな」

「いえ、いいんです。こうしてまた目を開けてくれただけで……。もう私の為に無茶はしないでくださいね」

「……これ、普通に良い雰囲気過ぎる気がするんじゃけど?アンナさんからも既に好きの矢印が出とるような」

「どうだかなあ。まだ友達感覚位な気もするが。それにしても、エヴァンがまさかずっとアンナに片想いしてたなんて、分かんねえもんだな」


 ハピコとジルは小声であれこれ勘繰りながらも、そっと部屋を出て二人きりにしてあげた。


* * * * * * * *


ハピコがジルと一階に戻ると、他の来訪者3人にカトレアが加わって何やら話をしていた。


「おーい、エヴァンの意識が戻ったぜ」


 ジルのその言葉に全員の表情が明るくなる。ただ、カトレアだけは少し複雑そうにしていた。それはエヴァンの快復が望ましくない訳ではない。


「ということは、私はもう裁かれることは無くなったのですね……」


 カトレアは、地龍を呼び起こし国に危機を及ぼしただけでなく、国とギルドが崇めている地龍を殺そうとする大罪を犯した。本来なら、即刻打ち首に処されてもおかしくない所業だ。

 しかし、実際の被害はコルヴァ周辺の地形が変わる程度のもので収まった。情状酌量の余地もあり、ロウリーが半ば強引に魔族に罪を擦り付け、自分の監督不行き届きも持ち出してカトレアの罪を無きものにしようとした。

 その為に必要だったのが、最大の被害者であるアンナの同意だ。アンナは『会長の意識が戻ったら許す、戻らなかったら絶対に許さない』と、気が弱い相手なら泡を吹いて倒れそうな恐ろしい目つきで答えた。

 しかし、それはエヴァンの症状次第ではカトレアが無罪になるに等しい条件だった。カトレアは自分が裁かれるべきだと思っているため、このような結果になったのは複雑なのだ。


「アンナさんらしい選択ですよね。自分が直接受けた被害ではなく、エヴァンさんのことで怒ってる感じが」

「全くだな。それで、カトレアはこれからどうするつもりなんだ?」

「とりあえずは今まで通り、このコルヴァのギルドの復興に携わろうと思います。冒険者ばかりが溢れギルド職員が足りない現状、それが私に出来る唯一の罪滅ぼしですから」


 カトレアはロウリーが到着してからの二日間、ベテランの意地で一人でほぼ全ての業務をこなしていた。忙しい時はアンナが手伝いに入ってはいたが、それでも凄まじい奮闘っぷりだった。


「それが良いと思うぜ。今も、過去にコルヴァで行われた祭の資料を用意してくれたし、すげえ有能だよな」

「資料?ふむ、これじゃな」


 ハピコはテーブルの上に広げられた地図と紙をピラリと摘まんで見る。過去の祭の出し物と配置、注意事項等が詳細に記載されていた。見出しには『地龍感謝祭』とある。


「ダンジョンの町というだけあって、魔物の肉を使った串焼き店が多いようだな」

「他にも、この国特有の良質な土を使った焼き物店なども祭りの定番ですね。冒険者たちが腕っぷしを競い合う闘技大会も開かれていたようです」

「となると、日本の祭りとは結構違ってくるよなー。復興祭だし、町の慣習を踏襲するのが意味合い的には良いのか?」

「復興の象徴であるあなた方異世界人の存在を前面に押し出す為に、その日本の祭りの形式を採用するのも一つの手かと思われますが」

「そこの塩梅は難しいのう。ユウはどう思うのじゃ?」

「えっ、私ですか?その、私はお祭りを経験したことがないので、参考になる意見は出せないかと……」


 一歩退いて話を聞いていたユウは、申し訳無さそうに言う。

 しかし、そんなユウに皆が温かい視線を送った。


「構わんよ。ユウのお陰でアンナさんも祭りの開催に乗り気になってくれたのだから、ユウが祭りの方向性を決めてくれ」

「良いのでしょうか?でしたら、日本とコルヴァ、どっちも合わせる……、だなんて、さすがに欲張りすぎですよね」

「おお、攻めてんな!俺もどっちか一つに拘る必要はねえと思うぜ!その方が面白そうだしな!」

「ふむ、和洋折衷ならぬ和コル折衷という訳じゃな!」

「皆それで合意で良いな?その方向性で一ヶ月後となると、かなりハードなスケジュールになるな。これから忙しくなるぞ」


 忙しくなると言われても、誰も異論を呈さない。力を合わせて苦難を乗り越えた間柄だ。多少の困難も全員で頑張れば簡単に乗り越えられる、そんな気持ちが生まれていた。


 しかし……。話はそううまく進まなかった。

 この次の週から、ユウが来訪しなくなってしまった。


 

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