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異世界人受付カウンター  作者: 唐科静玖
第三章 真相と地龍の目覚め
32/48

31.集う者達②


≪エイデアス 530/4/17(金)16:15≫

≪日本 2020/7/18(土)7:00≫


「なんじゃあこれは!?」


 三度目の異世界なんて慣れたもの。颯爽とコルヴァのギルドに現れたハピコは、その惨状にひっくり返りそうな衝撃を受ける。

 窓ガラスは粉々に砕け、倒れた棚に置かれていた小物が床のあちこちに転がっていた。

 順調に復興が進みそうだった矢先の、大きな地震があったようなその光景に、開いた口が塞がらなくなるのも無理もない。

 ハピコが狼狽えている間に他の面々も一気に来訪した。


「あれ、どうしこんなに荒れてるんだ!?」

「地震が起きたのかもしれんな。建物が崩れていれば来訪出来なかった可能性もあるし、不幸中の幸いか」

「地震……。アンナさんは大丈夫でしょうか?ハピコ先生、アンナさんの姿は見ましたか?」

「おお、皆!わしも今来たばかりじゃから、何がどうなっとるか分からんのじゃ。アンナさん、アンナさんは居るかのー!」


 ハピコが叫ぶも、返事はない。建物自体は無事なものの、何かの下敷きになっている可能性もあり、四人は急いでアンナ捜索し始めた。しかし、見ても呼んでもアンナは見つからない。ギルド内には居ないと判断して、一同は外へと出た。この時間に来ることは先週の時点でアンナに伝えてあったため、余程のことでなければそう遠くには行かないはずだ。そう思って周りを見回したのだが、そこで見たのはアンナではなく、動く黒い曲がった柱だった。コルヴァから離れるように移動しているそれは、よく見ると生き物のような形をしている。ちゃんと確認するために町の外まで出ると、前は草原だった場所には、町中にあるの物の千倍はありそうな巨大な穴が空いていた。


「どうなってんだ、この穴。デカすぎるだろ……」

「もしかして、あの大きな生き物は、この穴から出てきたのでしょうか?」


 丁度、穴と山のような生き物の間にある地面や木が、プレス機に掛けられたように圧し潰れている。皆がその推察は正解だと思った。


「そうであるなら、あの山こそが、この地から生命を根こそぎにした災厄、地龍ということか」

「地龍じゃと!?ああああそこまで巨大なのは生物として反則じゃろう!?あれほどの化け物がお散歩しとるなんぞ、この世界を舐めとったのじゃ!と、とにかくアンナさんと合流して話を聞かんと!」


 突然のファンタジーすぎる光景にビビり散らかし町へ引き返そうとするハピコを、トシシゲが制止する。


「待て。私が思うに、ギルドとその周辺に居なかった時点で、アンナさんはコルヴァの町に居ないのではないか?」

「何じゃと?じゃったら、アンナさんはどこに居ると言うのじゃ?」

「地龍と思しきアレと真反対の方向、或いは、地龍の近くだ」

「なるほど。逃げるならできるだけ距離を取るでしょうし、戦うならもっと接近しているはずですよね」

「それなら、真反対の方向に居る可能性が高いんじゃねえか?アンナさんは戦う力はあんまり無いって言ってたし、流石にアレに一人で立ち向かわねえだろ」

「じゃったら、わしらも反対方向に行けばよいのじゃな?」


 話を聞いてハピコが理解したという風に手をパンっと合わせる。が、トシシゲはそれに対して首を振った。


「いや、向かうべきは地龍の近くの方だろう」

「地龍の近く?どうして敢えて可能性の低い方に向かうのじゃ!?」

「そういうことですね。アンナさんが逃げているならば安全は確保されている。ですが万が一、地龍に近づかないといけない何らかの理由があった場合、アンナさんは今危険な状態にある可能性が高い。アンナさんを助けるなら、私たちも地龍に近づくべき。……で合ってますか?」

「流石はユウだ。理解が早い上に簡潔に纏められている」

「そういうことか!んじゃ、手遅れにならない内に全力で走っていかねえと!」

「は、走る?3キロくらい離れてそうなんじゃけど。しかも、直線上の森は大炎上中じゃし、迂回せねばならんのでは?」


 ハピコの顔に、無理、とはっきり浮かんでいた。そんなハピコの手をユウがギュッと握り込み。


「疲れたら言ってください。私が魔法で疲労を回復しますから!」

「ひょええ!?ユウが、優しさ満面に鬼のようなこと言うとる!?」


 とは言いつつ拒否することはできなかった。ハピコも他三人と一緒に全力疾走のマラソン大会に強制参加となった。もちろん全員がその手に身分証を握り込み不測の事態に備えて、森をぐるりと回り込むように走り出した。




 ユウが何十回と《時女神の抱擁》を(ほとんどハピコに対して)繰り返しながら森を迂回し、やっと地龍と平地で結ばれる位置まで来れた。見渡す限り、アンナの姿は無い。だが、別の人影は見つかった。少年と青年の間くらいの年頃の二人組。警戒するよりも前に、ハピコがその人物に見覚えがあることを伝えた。最初にこの世界に来た時に助けてくれた勇敢な男、ジル・ガーネット。アンナの事、王都に帰ったはずなのにこんなところに居る事も含めて、事情を聴くためにも合流は必須だ。

 近づくと、ジルが大怪我をしているのが分かり、ハピコがユウに《時女神の抱擁》を促した。そして、ユウは《時女神の抱擁》ではなく、その真名を唱えてしまった。七天山家の古い書物を漁った結果、見つけられたのだ。

 その効果は誰にも予想できないほど強力で、ジルを治す目的としては完全にオーバーパワーだった。結果的には周囲の消火もできて良かったのだが、せっかく名付けた《時女神の抱擁》が別の名に上書きされてしまったことにハピコが無言のショックを受ける被害が出ていた。まあそれはどうでもよく、かくしてアンナを助ける為に動く二組が合流を果たしたのだった。


「あなたたちは……。あなたたちが、異世界からの来訪者、か」


 エヴァンが油断のない、それでいて感謝の籠った視線でユウ達四人を見回す。ユナからの報告にあった、絶望的な状況のアンナを救ったという彼らには、感謝してもしきれない。絶望的な状況だったのは今のエヴァンとジルも同じであり、助けられたことでアンナが彼らのことを信用し頼ったのもよく理解できた。


「赤い髪の方はハピコが言っていたアンナの兄なのだな。では、君は誰だ?私達のことは知っているようだが」

「僕はエヴァン・ザッカリア。ジルと、後、アンナの友人だ」

「おお、お主が『エヴァン会長』なのじゃな!あのアンナさんが頼りになりすぎて依存せんよう気を付ける程の男じゃ。こんな危険な場所まで助けに来るとは、健気じゃの~」

「健気?あっ、そういうご関係で?それでは、あなたはアンナさんがどこにいるかご存じなのですか?」

「うっしょ……。おお、ここに来た時より動くぜ。すげえな、あんたの回復魔法。アンナなら、あの地龍の中だ」


 ユウの問いに答えたのはジルだった。体の調子を確かめるように立ち上がり、その状態が思った以上に良いことに驚嘆した。


「地龍の中!?それって、食われたってことか?じゃあ、アンナさんはもう……」

「いや、それがジルが言うにはどういう訳か生きているらしい」


 地龍を見上げ、あれの前ではちっぽけな人間の生存は絶望的と考えたリョウタの悲壮な顔を見て、最初は同じ感情を抱いたエヴァンが、希望の芽がまだ潰えていない事を説明し出す。


「アンナをこんな目に遭わせ、地龍を目覚めさせた魔族は、アンナのことを『火の光の巫女』と呼んだそうだ。地龍を呼び起こせたのも、そのアンナの特異性によるらしいから、兄であるジルにも特別な力が備わっているのかもしれない。だから、今はジルの感覚を信じて地龍を倒すしかない。助けて貰ったばかりで申し訳ないが、力を貸してくれないか?」

「火の光の巫女?何だか分かんねえけど、まだ間に合う、ってことだな!?だったら、力を貸すんじゃねえ、力を合わせるんだ!」


 エヴァンの話に、リョウタが即答する。


「そうだな。アンナさんを助けたい気持ちは私たちも負けていない」

「私たちがこの世界に来たのはこの時の為かもしれません!一緒にアンナさんを救いましょう!」

「……そうか。お人好し集団とは聞いていたが、ここまでとはな。だったら、一緒に地龍を倒すための作戦を考えよう」

「おお、なんか勝てそうな雰囲気なのじゃ!わしも全力で……。あっ」


 意気投合の雰囲気が出来上がったところで、ハピコが突如固まってしまう。


「ん?どうしたのだハピコ?」

「あの……。わし、魔法紙が無いと何もできないんじゃけど……」

「そういえば……。急いで町から飛び出したので、全員手ぶらでしたね」

「問題ない。魔法紙を使う者が居る事は聞いていたから、こういうこともあろうかと僕が持ってきている。本当に合流出来るとは思っていなかったが」

「!?神なのじゃ!全知全能の神じゃ!お礼に、今度お主が主人公の恋愛漫画を描いてあげるのじゃ。ヒロインはもちろん……」

「言うな。何か勘付いているようだが黙っていてくれ。特にジルの前では」

「ん?俺がどうかしたか?」


 感謝のあまりハピコが重大なリークをしそうになったが、寸前で留められた。用意周到なエヴァンは、自分のタイミングでアンナとジルには打ち明けたい、未だにそう思い描いているのだ。




 そしてその後、作戦立案の為に各々の使える魔法の情報交換を行っていたところ、空から何かが接近してきた。天竜馬とその背に乗る三人の人間だ。


「無事だったか、近衛の者ともう一人も!む?何やら人が増えているようだが、まあ多いに越したことはない!共にあの躾のなっていない蛮龍を倒そうではないか!」


 何やら大仰にそう宣ったのは、蛮龍よりも野蛮という言葉が似合いそうな男、バスタバだ。竜馬から降りてさも当然のように作戦会議に混ざろうとしているが、もちろん会議のメンバーの誰もバスタバのことを知らない。殆どが、『え、誰?』という疑問符の浮かんだ表情をしている。

 その中で辛うじてエヴァンが知っていたのは、他の二人、レックスとカトレア。レックスは有名な冒険者であり評判の良さも耳にしている。彼が加勢に来てくれたのなら非常に心強い。

 が、どうしてカトレアと一緒に居るのかが問題だ。カトレアは今回の一件を引き起こした中核の人物であり、魔族の男に連れ去られている最中だったはずだ。そんな人物を連れているのなら、如何に評判の良い冒険者であっても警戒しないわけにはいかない。レナードが調べた情報が出回るには早すぎるため、この早さでの到着は敵に内通している可能性はかなり高いと言える。

 混ざる気満々のバスタバは置いておいて、エヴァンはレックスの顔を見据えた。


「大冒険者のレックス・アスターさんですね。あなたの評判はかねてより聞いていますが、加勢に来たにしてはいくつか気になる点があります。それらについて確認させてもらっても良いですか」


 エヴァンは丁寧に接しているようで、有無を言わさぬ圧力を帯びた口調で言う。それに対しレックスは驚いた表情になるが、それは圧力を感じたからではない。


「君は……。昔よくフィリ嬢と遊んでいた子だね?フィリ嬢とは違って随分大きくなったものだな」

「?ああ、ギルド本部でのことですか。確かに、ギルド本部に出入りしていたなら僕を見かける機会もあったかもしれませんが」

「合っているなら、話は早い。僕はフィリ嬢に頼まれてカトレアを助けに来たんだ。何でも、フィリ嬢の目の前でカトレアがゴディオバーグという魔族に襲われたらしくてね。ゴディオバーグはもう倒して、流れでここに合流させてもらうことにしたんだ」

「フィリが?一体何がどうなって……。いや、辻褄は合うか」


 エヴァンは思考を巡らす。エヴァンが調査を頼んだレナードは、フィリをずっと調べていたはずだ。急ぎのため簡潔にしか調査結果を聞いていなかったものの、フィリ、カトレア、ゴディオバーグの三人が繋がっているのなら、フィリがそういう場面に出くわすのも可能性として大ありだった。

 エヴァンも、まさかレナードがフィリを暗部に引き込んで当人に調査をさせているとまでは思い至らなかった。そこが伝わっていればもっと確信的だったのだが、一先ずはレックスとその連れらしきバスタバは白と見ておくことにした。

 そして、残りの一人に関しては……。


「その……。私もその作戦立案に参加させてもらってもよろしいでしょうか?」


 元凶と呼べるその人物は、とてもしおらしく間を見計らって口を開いた。


「総帥秘書カトレア・ファスモダン……。お前は信用できないな。アンナを犠牲にしてこの地獄の状況を作り出したお前が、どうして今更こちら側につく?」


 エヴァンは沸き立つ怒りを何とか抑えながら、カトレアを睨みつける。カトレアが手引きしなければアンナは普通に学校を卒業していたはずだ。成否は分からないがエヴァンもアンナに最後のアプローチを掛けれていたし、個人的にも大きな恨みがある。信用できるはずがなかった。


「私は……、ただ、誰も自分の居場所を失わずに済む世界を作りたかったのです。私の故郷は龍災によって滅びました。地龍の恩恵に頼った国は小さな龍災を隠蔽し、私には取り残された者の果てない孤独だけが残りました。そんな私に立ち上がるための手を差し伸べてくれたのが、弑龍会だけだったのです」


 カトレアの心に今でも浮かぶ、家族の笑顔。しかし、その間には大きな断崖が広がっていて、二度と傍には帰らないのだ。割れた心に泥水を流し込まれるような苦痛だけが広がりゆく。

 その話を、皆が黙って聞いていた。続けることが許されている雰囲気に、カトレアが一つ息を吸う。


「……しかし、彼らのやり方は私の理想とはかけ離れたものでした。弑龍会は龍を殺すことのみを追求しているのだとずっと信じていましたが、違いました。地龍の暴走による人間文明の破壊、そのようなことは私は断じて受け入れられません。それは今、この大陸全てが龍災に滅ぼされる危機にあるのと同じなのですから。このまま人類の居場所を奪われるわけにはいきません」

「という訳だそうだ。カトレアの知識は役に立つと僕は思うよ。後は君たちが彼女を信じるか信じないか、だ」


 最後にレックスがフォローを入れ、日本の面々に是非を問う。

 それに対してリョウタが嫌そうに口を開いた。


「カトレアさん、あんたにも事情があるのは分かった。けど、アンナさんだけは最初から犠牲にするつもりだったのが気に食わねえな。居場所居場所っつーけど、アンナさんはあんたに居場所を奪われたんだぜ?」

「そこに関しては、一つも申し開きようがありません。犠牲無しに大事をやり遂げられるほど、私は特異な才能を持っていなかったのです」

「欲ではなく、芯を持っているのだな。リョウタ、私は信じても良いと思うぞ。こういった自分の信念を持つ手合いは目的が合致している限り裏切らない。少しでもアンナさんの救出の成功に繋がるのなら、仲間になってもらうのがいいだろう」

「そうなのか?まあ人を見る目とかは俺なんかよりトシシゲさんの方が何倍もあるだろうし、トシシゲさんがそう言うなら、今は信じてもいいけど」


 皆カトレアに対して思うところが無いわけではない。しかし、年長者(エルフであるレックスを除いてだが)であるトシシゲの言葉にはそれらを保留にさせるだけの先導力があった。


「そう言って貰えるとは、喜んでいられる立場でないと分かっていても嬉しいものです。……ところで、あなたたちは一体何者なのですか?武装しているわけでもなく、どうしてこのような危険地帯に?」


 この場に居る全員が地龍を倒すという同じ目的を持つことははっきりし、改めて各々の身分を明かし合うのだった。

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