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異世界人受付カウンター  作者: 唐科静玖
第三章 真相と地龍の目覚め
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30.ギルド最強戦力

 ゴディオバーグは地龍を呼び起こした後、飛ぶように駆けながら地龍の行く先に先回りしていた。魔族の龍に対する知識は、人類が持つものよりも遥かに多い。地龍が生命の密度が高い場所を目指す特性も熟知しており、近くの町を踏み潰しながらやがて王都を火の海に変えると予想を立てている。

 一先ずは王都に居る弑龍会の仲間であるナラクと合流だ。

 ナラクは弑龍会でありながらも、龍殺しを目的としていない。今回の計画では王都での人脈を駆使し色々と手を貸してくれたが、当然見返りは要求されている。地龍を利用しての人類社会の破壊、ナラクが求めるそれが達成されるまで、龍殺しはお預けだ。400年待ったのだから、今更数日延びたところで大差ないとゴディオバーグは悠々構える。


「苦みの季節はもう終わる。魔大陸を沈めた龍を滅ぼし、憎き神に一矢報いてみせよう」


 ゴディオバーグは地獄のような過去を思い出す。

 ゴディオバーグはこの世に生まれた最初の魔族の内の一人だった。そして、魔族はこの世に生まれたその瞬間から、龍によってその居場所と命を脅かされていた。天龍の雷は成す術なく同胞の命を奪い、地龍が吠えれば大地が裂け仲間と分断され、最後には海龍の巻き起こした巨大な嵐によって魔族の大陸である魔大陸ごと海の底へと沈められた。

 しかし、魔族はしぶとく、生き残った数十名がエイデアス大陸へと逃げ延びた。その中の一人であったゴディオバーグは、龍への復讐を固く誓った。その復讐の炎は、400年間燃え尽きることはなく、フィナーレを求めて一層の盛りを見せていた。

 最早どのような犠牲も厭わない。見ず知らずの誰かの命も、仲間も、自分自身すらも。そうでもしないと災厄である竜を殺すことなど叶うはずも無いと、とうの昔に割り切っていたことだ。

 ようやくその喉元に刃が届こうとしている。後は僅かな順調さだけが求められる。

 そんな時、イレギュラーは起こるものだった。


 森へ入ろうとしたゴディオバーグの頭上に、影が出来る。何かがすぐ側に落下してきているのだと気付き、その歩みを止めた。すると、目の前に突如石レンガのような物でできた壁が現れた。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」


 叫び声、そして、ズドォン!、という凄まじい着地音を伴いながら、何かが降って来た。それと同時に崩れた壁の破片が、ゴディオバーグに向けて弾け飛ぶ。土煙で見えない中でも、ゴディオバーグは的確に触手で破片すべてを叩き落とし、最悪なタイミングで現れたイレギュラーを睨みつけた。


「何だ、貴様は?死にたいのか?」

「俺の名はバスタバ!世界一のおもちゃ職人を目指す者にして、フィリちゃんの笑顔の為に戦う男!死にたいのか、だと?笑わせるな。邪悪な魔族よ、お前こそ死にたくなければカトレア殿を返してもらおうか!」


 土煙が風で流れた中から現れたのは、バスタバだった。落下の衝撃をものともせず、堂々とゴディオバーグの前に立ち塞がり、曲剣を差し向けていた。

 バスタバは魔法で城壁を作り出し、自身へのダメージをその城に肩代わりさせることができるため、このような派手な登場をかませるのだ。そもそもどうして落下などしたかというと……。


「無駄に魔力を使うな、馬鹿」


 上方からレックスの声。彼は竜馬の中でも更に希少な翼の生えた種である『天竜馬』に跨って空を飛んでいた。二人は上空からゴディオバーグを捜索していたのだ。


「この程度の魔力、問題無い!派手さで相手をビビらせられれば儲けものだろう!」

「その相手はまるでビビっているようには見えないが。なあ、ゴディオバーグ」


 ゆっくりと降り立ったレックスは、旧知の仲のようにゴディオバーグへと話かける。


「レックス・アスターか。久しいな。その様子だと、相変わらず気ままに生きていると見える」

「まあな。この歳になれば、のんびりと生きて周囲の変化に身を任せるくらいしか楽しみがなくなる。そうは思わないか?」

「ふん、今までなら聞く耳も持たない戯れ言だが、本懐が遂げられる今なら一考の余地有りだな」

「ちょ、ちょっと待て!レックス、この魔族の男と知り合いなのか!?」


 勝手知ったる間柄と言った風の会話に、結局バスタバが一番驚かされてしまった。


「おかしいことではないだろう?お互い長寿なんだ。一度は殺したこともある」

「殺した?どういうことだ、今目の前に生きているではないか」

「こいつの能力だ。死んでも寄生相手の命と引き換えに蘇ることができる。以前はそれを知らずに殺してしまったのさ」

「俺の力に気付いていたか。ならば、手出しは出来まい。今俺を殺したところで、死ぬのはこいつだ。カトレア・ファスモダン、お前たちの目的はこいつを連れ戻すことだろう?」


 背中の触手の塊の中から、女性の顔が現れる。間違いなくカトレア本人であることは、ギルド本部を拠点にするレックスとバスタバには一目で分かった。


「!!人質を取るとは卑怯者め!」

「我々魔族にとって魔力は希少なのでな。戦わずに済むならそれに越したことはない。貴様ら冒険者とは違って、平和主義なのだよ」

「これまで何千人と罪なき人々の命を奪っておいて平和主義とは、笑わせてくれるな」

「そうして好きなだけ負け惜しんでいればいい。まあ、俺も無駄にレックスと事を構えることは望まない。相性上、どうあがいても俺ではお前に敵わないからな。全てが終わった後にこの女は返してやろう。それよりも、今は地龍がこの国を耕すのを見物してはどうだ?」


 ゴディオバーグが振り返ったのに釣られ、バスタバとレックスもその視線の先に意識を向ける。轟音を響かせながら王都方面へと進み続ける、地龍。その姿は地獄で見る悪夢のようで、止めることが出来なければ、アースウィン王国が悪夢のような地獄と化すのは確定していた。

 国が異変をすぐさま察知したのか、近衛兵の鎧を着た男を含む二人組が地龍へと竜馬で接近しているのが空から確認できたが、たった二人では足止めすら無理だろう。下手をすれば即死する相手であるため無茶はしないと信じたい。ともかく、一刻も早く加勢に向かわないと、人間の町が滅ぶのも時間の問題だ。


「あれは洒落にならんぞ……。このままでは逃げ遅れやすい子供たちの命が……。おい、ゴディオバーグとやら!弑龍会は龍を殺すのが目的なのだろう?であるなら、呼び出しておいて何故地龍を放置している?」

「貴様らに話す義理は無いな。さて、俺はそろそろ去らせてもらう。地龍を止めたいのなら、それはそれで構わん。好きにすればいい。まあ、貴様らには無理だろうがな」


 ゴディオバーグは焦るバスタバには見向きもせず、大地を強く踏み込んで飛び上がろうとする。しかし、その瞬間、辺りに金色の眩い風が吹き渡った。


「おおっ!なんだこれは!?」

「金の魔力……。聖属性の魔法か?いや、魔法にしては規模が大きすぎる。ぐあっ!?」


 突然の出来事にバスタバが驚く。ゴディオバーグも初めて動揺を露にし、そして、呻き声を上げて膝を屈する。

 気が付けばレックスが銀色の弓矢を構えていた。音も無く放たれた一射が、ゴディオバーグの脇腹と触手を穿ったらしい。


「レックス!?今撃ったらカトレアが危険なはずではないのか!?」


 ゴディオバーグの寄生の能力のために迂闊に手を出せなかったはずなのに、突然躊躇なくゴディオバーグを攻撃したレックスをバスタバは理解できなかった。しかし、レックスは、問題ない、と言う風に勝ち誇った笑みを浮かべる。


「今の魔力は、聖女の癒しの力だ。寄生は肉体への侵食だから、強力な回復効果で解除できるんだ。だから、もうカトレアへの寄生は解けている。そうだろう?カトレア」

「……そこまで見抜いているとは。流石ですね、レックス様」


 千切れて地面に転がった触手の塊の中から、カトレアがよろめきながら立ち上がる。

 全てはユウがジルを治すために癒しの魔法を使った結果だ。その桁外れの効力と範囲でここまでユウの力が及んだのだ。凄まじい判断スピードでそれにレックスが対応したことで、形勢は一気にゴディオバーグが不利となった。

 ゴディオバーグはこの土壇場で立て続けに起きたイレギュラーに、先ほどまでの余裕が消えていた。


「聖女だと?何故このようなことが起きる……?全く、今猶この世は我ら魔族に不都合にできているというのか」

「お前は悠長にし過ぎた。聖女は始まりの象徴だ。新たな聖女が現れた以上、終幕を迎えた古い役者は舞台を降りるしかない」

「ふむ?よく分からんが、俺達にとって都合の良いことが起きたのは間違いないようだな!寄生が解けたのなら、心置きなく戦えるというものだ!《築城》!」


 バスタバは蚊帳の外ながらに好機を察知し、カトレア以外の三人を分厚い石の壁で囲った。着地の時に使ったものと同じ魔法、つまり、この壁の内側での戦闘はバスタバとレックスが非常に有利に戦える。魔力をふんだんに注ぎ込んでいるため、ダメージの肩代わりも相応に強力になっている。逃げ道も塞げ、二対一。必殺の状況だ。


「今だレックス!この魔族にフィリちゃんを泣かせた罪を思い知らせてやれ!」

「ああ、よくやった。……聞きたいことがいくつかあるが、どうせ答えはしないだろう。ゴディオバーグ、お前はここで一回休みだ」

「……ふん、愚かな。今俺を殺せば、誰もあの暴龍を止められなくなるぞ?」

「それはどうかな?恐らく、この世界は急速に動き始めている。新たな聖女の誕生を皮切りにな。それに比べれば地龍の目覚めなんて、大した問題では無い」

「所詮人類が、傲慢だな。まあ、今回の所は引き下がるしかないな」


 弓矢を引き絞るレックスを前にして、ゴディオバーグは忌々しそうに目を細めるだけだった。それが放たれたが最後、回避が不能であるとゴディオバーグは知っていたのだ。

 次の瞬間、音どころか形すら無く魔力の矢が解き放たれる。ゴディオバーグは、その居た場所にキラキラと光る粒子を残し、姿形を消した。王都の冒険者も恐れる一撃必殺の矢がゴディオバーグを射殺(いころ)したのだ。


「お……。お前、殺すとは、そこまでやるか?」

「奴はどうせ死んでも滅びない。殺しても残機が減るだけだ。その辺りは僕よりも彼女の方が詳しいかもしれないな」


 レックスは、解除された城壁の外に立っているカトレアを見据える。


「助けていただきありがとうございます。……それで、どういった経緯でここに来られたのでしょうか?」


 カトレアの声は震えていた。ゴディオバーグに支配されていた恐怖によるものではない。自身の罪が暴かれ、それを裁かれるのだろうという恐怖だ。


「それは、フィリちゃんに頼まれたからだな。フィリちゃんはお前をとても心配していた。全く、友達なら友達にあんな悲しい顔をさせるんじゃないぞ!」

「えっ?フィリが?どうして?……まさか」


 フィリが事情を知っているはずがない、カトレアはそう言い返そうとするも、ある可能性に気が付く。《不存在》を使えば、カトレアに悟られることなく情報を得ることも可能だ。


「まさかギルドの上層に弑龍会の構成員が紛れ込んでいるとは、僕も予想外だった」

「ああ、やっぱり……」


 レックスの釘で打ち付けるような言葉に、カトレアは観念する。ずっと隠してきた悪事が冒険者のトップに暴かれたのだ。人生は文字通り終わり、死刑宣告も同然だ。


「あなたたちは、私を捕えに来たのですね」

「捕えに?何を言っている?今はそれどころではないだろう。あれを見ろ、このままだと世界が危ないんだぞ」

「あっ……」


 カトレアはこちらに向かってくる地龍を見て、更なる自責の念に駆られる。自らがもたらした世界の破滅の激震。罪なき人々の命を奪う地の災厄の根源。

 思わず目を覆うカトレアに、レックスは更なる追及をする。


「お前なら、魔族しか知らないような地龍の性質にも詳しいんじゃないか?とにかく、有用な情報を全て話してもらおうか」

「まさか、あれを止めるおつもりですか?……無茶だと言いたいですが、最早あなたたちに賭けるしかありません。私が知り及ぶことは全て話します」


 カトレアは、束の間目を閉じた後、レックスを真っ直ぐに見つめ返した。

 犯した過ちを取り返せる機会は、他に無い。レックスとバスタバに全てを託せば、地龍を止められるかもしれない。カトレアは覚悟を決め、地龍に関する持てる知識を全て話すのだった。

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